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不攻不落の凪紗先輩はクールドジかわいい  作者: こすもすさんど


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42/60

42話 不攻不落の速水城塞、陥落

「あーーーーー……確、かに」


 それは、誠にも理解できた。


 何せ少し前に、凪紗が誠に対して「お礼がしたい」と言っただけで、学園中が大炎上したのだ。

 そんな矢先に『"不攻不落の速水城塞”の陥落 (ガチ)』を聞こうものなら、火薬庫で花火大会、あるいはガソリンスタンドでファイヤーダンスだ。


「俺達のことは、誰にも知られないようにしますか?」


「それは無理。私が椥辻くんのことを好きだって言うのは、もう梨央に読まれてるから」


「梨央?えぇと、柿原先輩か」


 誠は脳裏に、赤茶けたショートヘアの三年生を思い浮かべた。


「まぁ、梨央は口が固いから、あの娘から言い触らすことは無いよ」


 100%完全にバレないとは思わないけど、と付け足す凪紗。人の噂など、どこからどうなるか分かったものではないからだ。


「よかった。……それで、とりあえずは隠し続けるとして、もし訊かれたらどう答えますか?」


「嘘ついちゃおっか」


「嘘ついちゃうんですか」


「嘘ついて身を守るか、正直に言って身を危険に曝すか、どっちがいい?」


「大袈裟だって笑えないのが笑えないですね……仕方無い、今しばらくはそうするしかないか」


 不本意、全くもって不本意ではあるが、致し方無し。

 誠も具体的な解決策が無いため、とりあえず先延ばしだ。




 二人して他愛もない話をしている内に日も暮れ始め、校庭の中央に木材が積み立てられ、赤々とした炎を灯す。


「キャンプファイヤー、始まりましたね」


「始まったね」


挿絵(By みてみん)


 火の粉が夜空へ舞い上がる様を、三年三組の教室の窓からぼんやりと眺める二人。


「ねぇ、椥辻くん」


「はい?」


「さっき、付き合い始めた男女が、最初にすることって何?って話をしてて、お互いのご家族とか友達に挨拶するって案が挙がって、それはしない方向になったけど」


「あ、でも、香美屋のマスターとか、新條さんには話しておいた方がいいと思います。後々で余計な詮索とかされても困りますし」


 香美屋のマスターや結依なら、付き合っていることを黙っていてほしいと口止めしておけば、勝手に言い触らしたりはしないだろう。


「そうだね。それなら……明後日の振替休日って、椥辻くんはバイト入ってる?」


 今日が文化祭、明日が文化祭の後片付けとなっており、明後日はその振替休日になっている。


「その日は入ってなくて、その翌日の放課後から入れてます」


「ふむふむ」


 そう言いつつも、凪紗は自分のスマートフォンを取り出し、予定を確認している。

 そこで誠は一度固唾を飲み込み、


「その、振替休日なんですけど……その日、俺とデートしませんか?」


 ――恋人(なぎさ)をデートに誘った。


「デート?デート……デエト!?」


 訊き返し、考え込み……驚愕した。


「よ、よくよく考えたら、お互いの家族や友達に挨拶は、『しなければならないこと』であって、俺と速水先輩が『したいこと』はなんなんだろうって思いまして」


「デ、デ、デートって、あの、休日に、男女が、二人きりで、お出かけするって言う、あのデート?」


「そうです、そのデートです。いや、どのデートかは分かりませんけど、多分それで合ってると思います」


「……誰と、誰が?」


「俺と、速水先輩が」


「な、なるほど」


 しばし、沈黙。


 ややあって、凪紗はおそるおそる挙手した。


「な、椥辻くん先生」


「何故先生呼ばわり?」


「デートって、何したらいいんでしょうか?」


「……そこからですか」


 そう、そこからである。

 誠なら、早苗と言う親しい女友達と、その周りとの付き合いもあるため、延長線上ではあるものの、"男女のお付き合い“に関する知識とイメージはある。


 が、問題は凪紗の方である。


 自分に言い寄ってくる男なんて大抵ロクでもない、と公言しているくらいなので、同年代の男子とどうこうするなど考えたこともない。


 そんな彼女に、この日いきなり恋人が出来たのだ、故に「デートって、何したらいいんでしょうか?」と言う質問が出たのだが。


「(もっと俺の方からエスコートするべき……でも先輩の心情を考えると、ぐいぐい引っ張るのも良くないだろうな)」


 エスコートはしつつも、凪紗のペースにも合わせる。難しい匙加減だ。


「えーーーーー、と。速水先輩、明後日の予定が既に入ってたり?」


 まずは、凪紗の予定確認から。


「入ってないね」


 予定はない、つまりはフリーだ。


「よ、よし。じゃぁ、明後日は俺とデートしませんか?」


 次に、デートをするか否かの確認。


「デ、デートするのはいいけど……何をするかって話をしてたわけで」


「俺とデートすること自体は、大丈夫なんですね?」


「う、うん、大丈夫、頑張る」


 デートすること自体に問題は無し。

 ならば。


「今晩の内に、俺がデートプランを考案します。明日、それを先輩も確認して、問題無いならそのまま明後日デートへ。これでどうでしょう?」


「椥辻くんが考えてくれるの?」


「先輩がどこか行きたい場所とかあるなら、そこをベースにして考えますよ」


「や、リクエストとかは特に無いから。えぇと……椥辻くんにおまかせ、と言うことで」


「おまかせですね。分かりました、ベストを尽くします」


 100%満足させられるのは難しいが、それでも可能な限り楽しませてあげたい、と言う誠の心からの善意だ。


 ――やがて本格的に辺りも暗くなり、キャンプファイヤーの周りでフォークダンスを踊る男女の姿も見られるようになる。

 その様子を眺めながら。


「速水先輩」


「ふぁっ、ふぁいっ!」


 誠に急に話し掛けられて、凪紗は背筋をピンと伸ばしながら反応する。


「そ、そんなに驚かなくても」


 いきなり凪紗に驚かれて、誠も驚く。


「ご、ごめん、急に話し掛けられたから、びっくりしちゃった。それで、なんて?」


 お互い落ち着き直してから。


「これから、よろしくお願いします」


「あ……こ、こちら、こそ、よろしくお願いしま、す……」


 互いに、深く頭を下げ合った。


 ――今ここに、"不攻不落の速水城塞“が陥落した。

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― 新着の感想 ―
いやぁ、これはこれは……補助輪つけといた方がいいんじゃないかってくらい初々しいですねぇ。 ついでにプロテクターもつけておきますか( ゜д゜)ウム
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