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不攻不落の凪紗先輩はクールドジかわいい  作者: こすもすさんど


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32/60

32話 祭の一番の盛り上がりは前日準備にある

 自宅に帰宅した誠は、明日の朝食の下準備を済ませてから入浴し、それも済んだら一度鞄の中を整理して、


「そう言えば、台本もらったんだっけ」


 返すつもりだったが何故かもらってしまった、三年三組の演劇台本。


 表紙には【追放聖女、隣国皇子に溺愛される ~その聖女の加護、無限じゃありませんよ?~】と言うタイトル。


 ネット小説を元にした脚本と言っていたが、昨今流行りの"婚約破棄”や"溺愛”、"ざまぁ”、"もう遅い”を題材にしたものだろう。


 誠自身はこう言った"女性向け”の創作物はあまり読んだことはないが、人気ジャンルのキーワードくらいは知っていた。


 何の気なしに、興味本位でその台本を開いてみた。


 読みやすいように広めに改行され、演者のセリフ部分である「」の前にキャラの名前が書かれており、とても分かりやすい。


 所々にダイジェスト的なナレーションが入っているのは、公演時間の都合か。原作小説ならもっと事細かく描写されているだろう。


 とりあえず一通り読んでみよう、と軽い気持ちで読み始めると。


「…………………………」


 いつの間にか、その世界に没入していた。

 流行りやテンプレに則ったX番煎じだろう、と思い込みと先入観はあったが、一度読み始めれば決してそれらだけではないことに気付かされる。


 そして、


「ふー……けっこう面白かった」


 あっという間に読み終えてしまった。

 演劇と言う形に収めるために短略化している部分はあるだろうが、それでもひとつのストーリーとしての完成度は高いだろう。


「文化祭では、これに役者と声が加わるのか」


 そうして思い出すのは、今日の昼休みに見た、聖女役の凪紗の演技。

 凪紗だけではない、他の登場人物にも役者と声が加わる。


 ストーリーそのものは先取りしたため、ネタバレにはなってしまったが、


「楽しみだな……」


 むしろ、本番が楽しみになった。


 そうしてもう一度最初から読み直し、気が付いた頃には日付が変わろうとしていたので、急いで眠りについた。






 文化祭まで残すところ、あと一日を迎えたこの日の放課後は、多くのクラスが放課後になって、文化祭の催し物のための最後の調整などギリギリまで準備を行う。


 誠達二年二組のお化け屋敷だが、実行委員たる渉の監督の下、もう既に最終チェックも済んでおり、あとは当日に必要な大道具と小道具、人員を所定の位置に配置するだけで良い状態に持ち込んでいた。


「よーし、これで全部準備完了!みんなお疲れさん!」


 すっかり様変わりした二年二組の教室で、渉はクラスメート達の前で声を張り上げた。


「明日が本番、この学園に来た奴らを、一人残らず恐怖のズンドコに叩き込んでやろうぜ!」


 恐怖のどん底だろー、と笑い声のツッコミも入ったところで、解散。


 文化祭の前後は、香美屋でのバイトを外しているので、今から誠の予定はフリーだ。


 さて今日はどうするかと今からの予定を決めようとしたところで。


「椥辻くん」


 クラスメート達がガヤガヤと教室を後にしていく中、早苗が声をかけてきた。


「一ノ瀬さん、どうかした?」


「あのね、今日は一緒に帰らない?」


「ん?いいけど」


「やった♪じゃぁ、帰ろっか」


 早苗に誘われるままに、誠は鞄を手に取った。




 廊下の窓から見下ろす学園の光景は、至るところが飾り付けられ、屋台が立ち並び、その中を多くの生徒が忙しなく動き回っている。


「去年の文化祭もすごかったけど、今年は去年よりすごいね」


 隣を歩く早苗は、祭りの前の光景を見下ろしながらそう呟いた。


「去年か。去年の俺達のクラスは、焼きトウモロコシ屋さんだったなぁ」


「あぁー、あれ大変だったねぇ。大きいトウモロコシを運んだり、半分に切って、鉄板で焼いて……」


 トウモロコシがそもそも分厚く重いためそれを運ぶのも、それを包丁で切り分けるのも一苦労だったものだ、と誠は去年の文化祭を懐かしんでいた。


「それで、さ……」


 昇降口まで来て、靴を履き替えたところで、早苗は意を決したように。


挿絵(By みてみん)


「あ、明日の文化祭、わたしと……一緒に回らない?」


「ん?いいよ」


 特に断る理由もないため、頷く誠。


「ほ、ほんと?実は先約が入ってて忘れてるとか、ないよね?……ない、よね?」


 どことなく切迫感のある、早苗の食い入るような確認に、誠はちょっと腰が引けつつも。


「そんなに心配しなくても、ドタキャンする予定も入ってないから大丈夫だって」


 ドタキャンをすると最初から予定していると言うのは、それは土壇場キャンセルではなく、計画的キャンセルだろう。


「な、ならば、よし!じゃぁ、明日は、一緒に回ろ?」


「分かった分かった」


 とは言う誠だが、その心中では。


「(もし時間があれば、速水先輩と回ろうとか思ってたけど……まぁ、いいか)」


 恐らく凪紗のことだ、明日も"城塞攻略者”を蹴散らすのに忙しくなるだろう。

 高校生活最後の文化祭も、好きでもない男子複数に付きまとわれる凪紗。

 大変だろうし、あまり良い思い出にならないかもしれないが、かといって学園内で誠が下手に凪紗に接すれば、それはそれでまた別の問題が発生しかねない。


 ともかく、明日の文化祭の自由時間は、早苗と一緒に回ることになった。

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― 新着の感想 ―
こいつぁ……レースが過熱してきたぜ(`・ω・´) だがしかし、レースと言うのは最後の最後までペースを落とさず、さらには誰かの背後を走り続ける事でスリップストリームを利用して体力を温存し、そして最後の直…
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