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2話 経験豊富な短期バイトの達人

 誠と渉は並んで校門を潜り、自分達のクラスの二年二組の教室へ入る。


「あ、おはよう椥辻くん、岡崎くん」


 最初に声をかけてきたのは、明るめの茶髪を短く揃えた女子生徒ーー『一ノ瀬早苗(いちのせさなえ)』だった。


「おはよう、一ノ瀬さん」


「おぃーっす」


 基本的にこのクラスの中では、誠、渉、早苗の三人が集まることが多い。

 それと言うのも、誠と早苗は同じ中学校から入学してきた"同中"であり、その後から誠と意気投合する形で渉が混ざってきて、今現在の形に落ち着いている。


 誠と渉が各々の席に鞄を置いて、早苗と渉が誠の席に寄り集まる。


 この三人の話題は特にこだわりも定まりも無い、その日その時その人の気分次第でコロコロと変わる。


 そんな今日の三人の話題はと言うと。


「へぇー、次は岡崎くんの叔父さんの喫茶店でバイトするんだ?」


 今朝に口約束ながら内定を得た、誠の次のバイト先についてだった。

 その隣では、渉が忙しなくスマートフォンの画面をタップしている。


「叔父さんには、今俺の方から連絡入れてるとこだ。真のことは『経験豊富な短期のバイトの達人』って紹介しとくからな」


「普通に、普通に紹介してくれよ?飲食店のバイト経験はあるけど、喫茶店は初めてだから」


 接客や洗い物、清掃、簡単な調理補助は出来ても、コーヒーや紅茶の淹れ方は分からず、即戦力を期待されても困るため、誠は慌てて訂正を頼む。


「でも、前の短期バイトが終わってすぐでしょ?椥辻くん、身体とか大丈夫なの?」


 誠が一人暮らしなことは、早苗も知るところにある。

 連日勤労付けで疲れてはいないかと案ずる早苗だったが、誠は軽く笑って流す。


「あはは、さすがに無茶なことはしないって。働くこと自体にも、慣れてきたしね」


「そう?ならいいんだけど……」


 早苗の誠に対する意味ありげな心配に、渉は「こいつらとっととくっつかねぇかな」と声に出さずに呟いていた。


「っとそうだ誠。一ノ瀬さんといちゃついてるとこ悪いが、叔父さんの喫茶店のホームページ、『RINE』に送っとくぞ。俺、今日も部活あるから案内出来なくてな」


 程なくして、誠のスマートフォンにメッセージの着信音が鳴る。


「ありがとう、後で確認しとく」


 そろそろ朝のホームルームが始まる頃なので、各々ケータイをサイレントモードに切り替えてから、席に着き直す。






 昼休み。

 早苗は女子グループの方で集まるそうなので、誠と渉の二人は食堂で食事を取っていた。


 渉が学食を注文している間は、弁当持参の誠が二人分の席を確保しておく。


「っと、待たせたな誠」


 日替わり定食を乗せたトレイを手に、渉も席に着いたところで、いただきます。


「誠は今日も自前の弁当なんだな」


「まぁ、昨日の夕飯の残りと、今朝の朝食ついでに作ったものを並べただけだよ」


「いやいや、だけって簡単に言うけど、一人暮らしの高校生が日常的に出来ることじゃねぇからなそれ」


 しかもすげぇ美味そうなんだよなぁ、と渉の視線が誠の弁当の中身に向けられる。


「単に慣れの問題だと思うけどな」


 渉の視線に構わず、誠は自分の卵焼きに箸を伸ばす。

 ある程度箸も進んだところで。


「そうだ渉、例の喫茶店ってどの辺りにあるんだ?さっきもらったホームページ、まだ見てなくてさ」


 地図情報を見れば大体は分かるとはいえ、それだけで行ったことのない場所へ向かうのも不確実なので、場所を知っている渉の口頭説明も欲しいところだった。


「駅の南口から出て、すぐに入れるセンター街があるだろ?あそこの、ちょっと入り込んだところの地下にあるんだけど……あっ、アングラな店じゃねぇからな?」


「アングラな店じゃ学生は門前払いだろ」


「アングラってか、ちょっとした穴場みたいな場所なんだよ。中身はちゃんと真っ当に喫茶店やってるから、そこは信じてくれよ?」


「いや、そこまで疑ってないから……それで、センター街にあるんだっけ」


「そうそう。一応、地上にも看板があるから、多分分かると思うぜ」 


 看板がちゃんとあるなら大丈夫かな、と誠はふりかけを掛けた白米を頬張る。






 放課後。

 渉は今日はサッカー部の練習前にミーティングをしなければならないらしく、帰りのホームルームを終えるなりサッカー部の部室へ急いで行ってしまった。

 さていざ例の喫茶店へ向かおうと思い、軽く背伸びをする誠に、早苗が声をかけてきた。


挿絵(By みてみん)


「ねぇ、椥辻くん。この後すぐに、バイト先の喫茶店に行くの?」


「うん。一応、渉越しに今日に面接を受ける手筈になっているから、あんまりゆっくりはしないけど」


「そっか。大変かもだけど、頑張ってね」


「一ノ瀬さんも風紀委員の仕事、頑張ってな」


 早苗は部活こそしていないが、風紀委員会に所属しているため、放課後はそちらに向かうことも多いのだとか。


「うん、またね」


 互いに会釈し合って、誠は外へ、早苗は委員会室へ、それぞれ向かっていく。




 まずは最寄り駅に行き、そこから南下してセンター街へ。

 渉に送ってもらったホームページのマップを照らし合わせつつ、喫茶店を探す。


「えーと、『香美屋(かがみや)』、香美屋……」


 香美屋と言う三文字を目印に、看板を探すのだが……


「………………やばい、全然見つからない」


 時刻を確認すると、あと五分で面接の予定時刻だ。 

 せっかく渉に紹介してもらえたのに、時間にルーズな不真面目者とは思われたくない。


「おかしいな、確かにこの辺のはずだけど……」


「どうしたの?」


 ふと、困っている誠を見かねたか、どこか抑揚の無い女性の声が聞こえた。


「あぁ、すいません、ちょっと迷ってまして……」


 誠は何気なくその声の方へ振り向くとーー


「って、速水先輩!?」


 翠乃愛学園祭一の有名人、速水凪紗その人がいた。

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― 新着の感想 ―
アングラな店じゃ、見つけるの大変そうですね(違 そしてそんなところにはやみん先輩……こりゃあ一緒に出勤か(ォィ
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