第一王子に婚約破棄された令嬢と結婚することになったので会うことになりました
「トーラス様、大旦那様からお手紙です」
執事であるバルターからの手紙をトーラスは受け取る。大旦那、それはトーラスの父のことであった。
「今度は一体どんなやらかしをしたのかねぇ」
トーラスは少し辟易とした様子を見せる。その発言にバルターは小さくうなずいてしまう。バルターはそれは良くないことだとわかっていてもつい反射的にしてしまったのだ。
トーラスの父、アルドルは簡潔に言ってしまえばトラブルメーカーであった。普段はのほほんとできる限りのことをやるのに、唐突に謎のやる気を発揮し自分では到底不可能な事業に手を出し失敗する。領地運営のやる気もなく、ほぼ誰かに任せていた。根本的に働くことが嫌いで、楽して稼げると思うことにどんどんと吸い寄せられていく。また目上の人物の言うことは絶対だと判断し、何も考えずにそれに従ってしまう。金の問題で大きなトラブルを起こす常習犯というべき存在だった。領地運営でも失敗の多い人物であった。
そんなアルドルはトーラスが成人した瞬間、家督を譲り領地から離れて、王都にて暮らしていた。アルドルが家督を譲ったのはトーラスが優秀だったこともあり、周りからの要望も大きかったが結局本人が自分には向かないし、元々領地運営をやりたくないことが要因であった。
そんなアルドルのトラブルの火の粉はトーラスに数年経っても降りかかっていた。王都での付き合いで困ったことがあり、金を工面してほしいとか。新しく雇った使用人にお金を盗まれたとか。他にも他にもしょうもない問題から大きな問題までトーラスのもとに手紙で報告が来るのはもはや日常茶飯事とかしていた。
トーラスは実の父親の問題であり、放っておけば自分の家の被害にもなるため真摯に対応した。最初は怒ることもあったが、最近はもう怒りを通り越し、呆れてしまってただ粛々と対応していた。まあそのアルドルの問題で領地の財政が傾きかけた時は、王都の父親のもとに向かい、ほぼ丸一日説教したことすらあった。
そんな父親からの手紙であったために、トーラスとバルターは少し嫌な予感をしていた。
手紙を読み終えたトーラスは、バルターに「お前も読んでみろ」と言って手紙を渡す。バルターは嫌な予感を最大限に感じながら、これからの仕事をどう調整するべきかと即座に頭の中で考えながら、「拝見します」と言って手紙を読む。手紙を完全に読み終わったバルターは「大旦那様はやはりすごいですね」と呆れながら言う。アルドルに対しての不敬にもとれる発言だが、この場で気にするものはいない。
「俺の結婚相手を勝手に決めるとはなぁ。しかもどんな相手を見繕ってんだあの馬鹿親父」
ついトーラスはアルドルを罵倒する言葉を混ぜてしまう。だがまあそれだけの相手だし、勝手すぎることに呆れよりも怒りが少しましていた。
トーラスは今年で23歳になるがまだ結婚していない。いや結婚できなかったに近い。アルドルの評判は貴族の間で悪い意味で高かった。そのためトーラスとの結婚、そもそも婚約すら結ぼうとしてくれるところがなかったのだ。アルドルとトーラスともに関係がある、とある貴族の発言は次の通りだ。「トーラス君に悪いところはほぼない。むしろ私の娘の婚約者としてはかなり良い人物に近い。だがどうしても看過できない悪いところがある、それはアルドルの息子という点だ」との発言であった。夜会の場でそれを目の前で言われたトーラスは苦笑したのを覚えている。
そんなわけで結婚できずにいたのだトーラスはほぼ父親のアルドルのせいで。
そんなアルドルから届いた手紙の内容を抜粋すると以下のようなものであった。
『トーラスの結婚相手ができた。バリトス侯爵家の長女アリーナだ。歳はお前より三つ下で、第一王子の元婚約者だ。相手にとっては十分どころか優良だろう。王家とバリトス侯爵家にぜひ結婚してやってくれと頼まれた。侯爵家とのつながりもできるし、相手がおらず困っていたであろうお前にとって朗報だと思う。アリーナ嬢にぜひ会ってみるようにお話しし、向かってもらうことにした。この手紙が先には届くはずだ。ぜひ歓迎してやってくれ』
バリトス侯爵家はこの国の四大侯爵家の一つである。トーラスは一応伯爵家ではあるが、もはやぎりぎりというべきものである。そんなバリトス侯爵家のご令嬢がトーラスと結婚してくれることになった、明らかに訳アリであった。しかも第一王子の元婚約者、そう元婚約者。絶対にそこに要因があった。
トーラスは王都での貴族の付き合いに疎かった。ゆえにそこの訳アリの事情が全くわからなかった。事情次第では自分に降りかかる火の粉は今までに比べるほどもおこがましいほどのものになるかもしれない。そう思うと、トーラスは呆れではなく怒りがあったのだ。
しかもアリーナ嬢はこちらに向かっている。いくら訳アリの令嬢でも、歓迎しないわけにはいかない。その訳次第では追い返すことにもなるかもしれないが、追い返してもトーラスへの外聞は悪い。トーラスは頭を抱えたい衝動にかられるほどであった。
だが、トーラスはそんなことをしていても状況が悪化するだけと今までの経験から学んでいた。ゆえにバルターに即座に指示を出す。
「全使用人にアリーナ嬢、俺の結婚相手の候補が来ることを伝達しすぐに準備に移るように通達。それとアリーナ嬢について調べる。商人や王都からの旅人、移住者からの聞き込みを行え」
「かしこまりました」
バルターは返事をしてすぐに、トーラスの部屋を出ていく。トーラスはどうしても今やるべき業務を優先し、業務を終わらせるべく行動するのであった。
翌日の夕方、トーラスはバルターが集めてくれたアリーナ嬢に関する情報を確認していた。といってもあまり情報も多くなく、古い情報がほとんどであったが。
だがそれでもある程度アリーナ嬢の訳ありに関する推測ができた。
「まじでなんで結婚相手にしたんだよ、あほ親父」
トーラスはその訳アリの事情が推測できると、そんな発言がつい口を出てしまう。
トーラスが得た情報で訳アリにつながりそうなもの。それはアリーナと第一王子の仲が良くなかった。特に第一王子側がアリーナを嫌っているのではないかというものであった。
「王家からの一方的な婚約解消、いや最悪婚約破棄か?そのどっちかが事実なら俺にとっては最悪だぞ」
王家から婚約解消された、もしくは婚約破棄された令嬢と結婚。あきらかにまずい、やばい。面倒ごとが降りかかる未来しか見えない。
四大侯爵家とのつながりによるメリットなど吹き飛ぶ。いやそもそもつながりなどできないかもしれない。それだけの相手である可能性がある。
「くそ、もう少し時間があればなぁ」
トーラスは舌打ちして言う。先ほど、アリーナ嬢が三日後には到着してしまうとの連絡があった。それでは王都で集めた情報を確認することができない。
トーラスは「最悪だ」と頭を抱えてしまう。そもそもアリーナ嬢が到着するまでに歓迎の準備が整うかは不明。そもそもそれに関する出費も考えると頭痛がしてくる。四大侯爵家のご令嬢、しかも第一王子の元婚約者を歓迎するのだ。下手な歓迎はできない。たとえ、王家から一方的な婚約解消、もしくは婚約破棄された人物であろうと。
「あの馬鹿あほ親父はやっぱり王都から領地に連れ戻そうかな」
トーラスはつい今の事態から目をそらしてしまう。それだけの面倒ごとだ。
といってもそんなことをしていたら状況はもっと悪化するだけ。トーラスは辟易としながらも、アリーナ嬢の歓迎準備、アリーナ嬢に関する情報収集、領地運営に関する業務、その三つを同時並行して行うのであった。
三日後、アリーナ嬢の歓迎準備はなんとか完遂した。使用人たちの素晴らしい働きのおかげだった。トーラスはいつか絶対給金を上げるし、今回の仕事の謝礼を渡して見せると使用人たちに言った。使用人たちの多くはお気になさらないでくださいと疲れ切った顔でありながらもトーラスに言ってくれていた。トーラスはそれに大きく感謝する。
使用人たちの多くは自分たちも大変だが、それ以上にトーラスが大変なのを知っていたので、、その発言がでたのだった。
トーラスはわずか三日ほどでかなり疲労していたのが目に見えるほどであった。精神的にも体力的にも、どちらも疲れ切っているのがわかり、使用人たちはむしろトーラスを心配してしまったのだ。
「トーラス様。アリーナ嬢について一点だけご報告を」
トーラスと同じく疲れ切った様子であるバルターがアリーナ嬢を出迎えるために外で待っていたトーラスのもとにそう言って駆け寄ってきた。トーラスは「なんだ?」と返す。バルターは声を押さえて、トーラスにだけ伝わるようにする
「アリーナ嬢は第一王子に婚約破棄されたそうです」
それを聞いて、トーラスは目を見開く。自分が考えうる限りで最悪の情報であった。
「ですが、第一王子がアリーナ嬢の妹にご執心だったようでして。実質的には婚約破棄ではありますが、婚約解消であると発表されたと」
「なんだそりゃ」
トーラスはついそう言ってしまう。全くもって、思っていたものと違う。詳しく聞こうとするが、アリーナ嬢が乗った馬車がもう近くまで来ていますとの報告に遮られる。トーラスは話しを聞く時間はないことがわかり舌打ちする。
「バルター、その件に関してまとめておけ、後で聞く」
「かしこまりました」
バルターはそう言って、屋敷へと戻っていく。バルターが屋敷に入って少ししてアリーナを乗せる馬車が到着した。馬車の扉が開き、護衛の騎士の手をとりアリーナが降りてきた。
トーラスは「ここまで来ていただきありがとうございます」と笑顔で言う。ひきつってないよなと自分で少し不安に思いながらも。
「いえ、こちらこそ突然のご訪問で申し訳ございません」
アリーナはそう言って、軽く頭を下げる。トーラスは少し驚きを覚える。自分より格下の家の人物に頭を下げるとは思えなかったのだ。
「その、お疲れですか?」
アリーナはそう言って、心配した表情を見せる。トーラスはさらに驚きを覚える。そんな風に心配の声をかけてくると思わなかったのだ。
「いえ、お構いなく。少し大変な業務があったもので」
「大変な中、本当に申し訳ないです」
アリーナのさらなる謝罪の言葉。トーラスはさらなる衝撃をうける。こんな人物が第一王子に婚約破棄されたのかと思うと、何があったのかと思ってしまう。だが、トーラスはすぐにその思考を取り払う。
「申し訳ない。立ち話になってしまった。ぜひ、中へ」
トーラスは屋敷に入るよう促す。アリーナはありがとうございます、と笑顔で言う。その笑顔はとてもきれいだとトーラスは少し思った。
屋敷に入り、トーラスとアリーナは客間にて向き合っていた。客間の扉は開け放たれていた。
「重ね重ね申し訳ありません。お忙しいところに訪問してしまって」
「いえ、お気になさらず。そちらの事情もあるでしょうし」
アリーナの更なる謝罪に対して、トーラスはつい嫌味のように言ってしまった。トーラスはまずったなと思うが、少しぐらいいいだろうと思ってしまう。トーラスにとって怒って帰ってしまうならそれでも問題なかった。
「本当に申し訳ありません」
アリーナは頭を下げる。トーラスは慌てて、「顔をあげてください」と言ってしまう。そんな反応をされるとは思わなかった。
「いえ、本当にこちらの勝手な事情で押しかけているようなものですし。ぜひ謝らせてください」
アリーナのその発言はトーラスの想像のつかないものであった。トーラスは目の前の人物のことがわからなくなっていた。
「私がふがいないせいで、トーラス様にご迷惑をおかけしているのですから。結婚はぜひ断ってください。私も微力ながらご協力します。本当に微力ですが、、、」
アリーナはその発言にトーラスは大きく驚く。そんな風に結婚を断ってくれと言われるとは思わなかった。まるで自分のことではなく、相手のために断ってくれと言われるとは思わなかった。トーラスがあまりの衝撃に何も言えずに固まっている中、アリーナは続ける。
「私と結婚するメリットはないです。父は私を勘当同然に扱っていますし、それに私は何もできない、ダメな人ですから」
アリーナはそう言って、寂しげに笑う。トーラスはなんとも悲しい笑顔だと思ってしまう。
「なぜ婚約破棄されてしまったのですか?」
トーラスは気づいたらそう尋ねていた。トーラスはつい口から出てきてしまった発言に大きく驚き、また即座に「申し訳ない」とアリーナに謝る。アリーナは一瞬傷ついた表情をしていた。それに気づいたからこそ、トーラスは本当に申し訳なく思っていた。
「いえ、謝らないでください。もしトーラス様さえよろしければお話しさせていただけませんか?」
アリーナは寂しげな笑顔で問うてくる。トーラスはなんだかわからないが、ついうなずいてしまう。
そして、アリーナはぽつりぽつりと話し始める。
アリーナは子どもの頃から要領が悪かった。勉強もマナーもその他あれこれ令嬢として、必要なものがなかなか身につかなかった。二つ下の妹のほうが覚えるのが速く、親からも家庭教師からも厳しい目を向けられ、厳しいことを言われた。
だが、いくら努力しようと身につかないものはなかなか身につかなかった。どれだけ、どれだけ努力しても。結局妹のほうが優秀であった。
そんなある日、アリーナは第一王子との婚約が決まった。バリトス侯爵家が最大限持てる限りの力とコネを使って成し遂げたものであった。実際は妹を婚約者にしたかったそうだが、他の家からの妨害があったのだった。他の家にとっては無能な王妃のほうがよかったのだ。バリトス侯爵家の力が強くなりすぎないように。またあわよくば王家側が婚約解消するのではと思ったからだ。
そこからアリーナはさらに努力することになった。経緯はどうあれ、せっかくつかんだ家のために役に立てる機会、また自分を認めてもらう機会だから。
だが、現実は非情であった。第一王子はアリーナの妹にどんどんと惹かれていった。無能な姉と優秀な妹、第一王子は王家の今後を思っていたこともあったのだ。
そして、気が付けば、アリーナは第一王子の婚約者という立場を失っていた。妹に奪われる形で。
アリーナは絶望した。唯一の機会を失ったに近いのだ。自分を認めてもらえる機会を。
絶望したアリーナに父親から言われたことは、「お前を嫁がせることにした、その家の人間となり、二度とうちの人間だと思うな」と。「ちょうどいい相手もできた。馬鹿なやつが私の提案に簡単に乗ったのでな」とも。その馬鹿なやつがアルドルで、ちょうどいい相手がトーラスであった
「以上です。つまらない話ですよね。すみません、長くなってしまいました」
アリーナは寂しげな笑顔でそう言った。少し目が潤んでいるように見えた。トーラスは黙って話が終わるまで聞いていた。話を聞く中、トーラスの想いは固まっていった。
「アリーナ嬢」
「はい、なんでしょうか?」
トーラスから名前を呼ばれ、アリーナは椅子から立ち上がろうとする。もうお別れになると思ったのだ。
「結婚の話、あなたさえよければ前向きに進ませて欲しい」
アリーナはえっ?と言ってしまう。トーラスの発言は思ってもいないものであったからだ。
その発言はトーラスがアリーナの話を聞く中で固まっていた想いによるものであった。トーラスはアリーナに笑ってほしいと思った。この子を幸せにしたいと思えたのだった。この出会いは自分がアリーナを幸せにするための、彼女の奇跡のようなものだと思えたからだった。
「ご冗談ですよね?」
アリーナの問いにトーラスはゆっくりと首を振り、「本気だ」と答える。
「なぜですか?私と結婚しても良いことはありません」
アリーナは悲痛な叫びを上げるように声を荒げる。令嬢としてあるまじきことだと思うかもしれないが、それでも言ってしまう。
「これから良いことはできる」
トーラスは落ち着いた声で真っ直ぐアリーナを見つめて言い放つ。その表情、その視線は真剣なものだった。アリーナはトーラスの本気度を察する。
「なぜです?私は何もできません、あなたのためになれない」
アリーナは理解している。自分が何もできないことを。トーラスは首を振って答える。
「その優しさで十分、私のためになれます」
アリーナは何を言っているのだろうと思う。この人は何を言ってくれているのかがわからないと思っていた。
「あなたは私と会ってすぐ疲れを心配してくれた、本気で。それに今もずっとあなたは私のために話してくれている。自分のためのことを二の次にしている」
「私なんてどうでもいいから。ただそれだけです」
アリーナは「そんな大層な人物ではありません」と続ける。トーラスは「やはりあなたは優しい人だ」と言う。アリーナは「違います」という。アリーナはもはや意固地になっていた。嬉しいことを言われている。本気で言ってくれている。それはわかるのだ。だけど、それでも信じきれない。
「私は、私は何もできません」
アリーナは自分に言い聞かせるように言う。少しでも希望を見ると、よりつらくなる。それが第一王子に婚約破棄されて一番学んだことだとアリーナは思っていた。
「失礼」
トーラスはそう言って、アリーナに近づき、手をとる。アリーナはびっくりしてトーラスの顔を見る。
「それは違う。あなたの優しさで私は暖かな気持ちになれました」
トーラスはアリーナを真っ直ぐ見つめてそういった。真剣な表情、真剣な視線。本気の思い、本気の言葉。
「本当ですか?」
トーラスはうなずく。
「本当の本当ですか?」
トーラスはうなずく。
「私はあなたの役に立てますか?」
トーラスは「ええ」と真っ直ぐ見つめて伝える。
その真剣な思いをアリーナは感じ取る。ゆえに、空いたほうの手でトーラスの手をとる。
「本当に結婚してくれますか?」
「ええ」
アリーナは涙ぐむ。こんなことになるとは思わなかった。だけど、どこかこうなることを望んでいたところがあった。だからこそ、こうなったことに嬉しさを覚えていた。
「アリーナ嬢、一点だけお伝え忘れました」
アリーナはそのトーラスの一言を聞いて、夢から現実に引き戻されるような感じがした。何か悪いことでも言われるのかと思ったからだった。だが、それは杞憂だった。
「私はあなたを幸せにできるとは確証できない。それでもよろしいでしょうか?」
アリーナはそれを聞いて、一瞬目を丸くする。トーラスは内心情けないなと思っていた。あんだけかっこつけて最後はこれだ。だが、それでもトーラスの本心だった。幸せにするためにできる限りのことはしたい。だけどそれでもどうにもならないこともあるとトーラスは思っていたのだった。自分は万能じゃないし、所詮貧乏伯爵家だ。
「トーラス様」
アリーナはトーラスの名を呼ぶ。そして、
「あなたと結婚できることが私の最初の幸せになります」
と、言った。
「幸せを二人で増やしましょう、少しでも」
とも続ける。トーラスはアリーナが続けた言葉は自分が言えればかっこよかったなと思いながらアリーナに向かって問う。大事な問いを。
「私と結婚してくれますか?」
そのトーラスの問いにアリーナは答えた。
「はい」と明るい良い声で、涙ぐみながらもきれいな笑顔を見せながら、、、
トーラスとアリーナの結婚話はとんとん拍子に進んでいった。元々アリーナの両親がどうでも良く思っており、実質的はトーラスの方だけで進めるものであったからだ。そして、二人は結婚すると小さな幸せでもかみしめながら、最後まで幸せそうに暮らすのだった。
(以下トーラスがアリーナとの結婚をアルドルに報告した日のこと、もしよければお読みください)
「いやあよかったよかった。無事結婚することになって」
アルドルはトーラスからの話を聞いて上機嫌にしていた。だが、その上機嫌な様子はこれから消え去っていく。
「しかし、あれだなぁ。お前に本当に結婚相手ができ、肩の荷が降りたようだよ。私のせいで迷惑をかけてすまんな」
トーラスは黙ったままである。
「というか今回私のおかげではないか?強引にアリーナ嬢にお前に会いに行かせるように進めたのだよ」
アルドルはそう言って、ガハハハッと笑う。トーラスは黙ったままである。
「でよおトーラス。孫の顔はいつ頃みれそうだ?できるなら早くしてくれな。いっぱいつくってくれていいからな。あの美人の子だ、きっと美人な子が生まれるだろう」
トーラスは黙ったままである。
「なあトーラス。いい加減何か言わんか?なんか怒ってるのか?」
アルドルはトーラスが何も言わなくなったのを心配する。トーラスはその瞬間、堰を切ったように話し始める。
「怒ってるに決まってんだろ。勝手に結婚相手決めて、勝手に訪問させて、あまつさえ自分のおかげだぁ?寝言言うな。馬鹿あほ親父」
アルドルはトーラスのあまりの剣幕に怯える。実の息子に馬鹿あほ親父と言われたことに怒れずにいる。
そして、トーラスは感情のまま、アルドルに説教を始める。アルドルはしおれた花のようになりながら説教を情けなく聞いていた。
「というわけで、親父には仕事をしてもらう」
トーラスは説教をひと段落すると、そういった。アルドルはえっ?という。
「待て待て、お前にもう家督を譲っただろう。だから仕事はさぁ、ないよな、な?」
トーラスからの冷たい視線をアルドルは感じ取る。
「本気か?」
「本気に決まってんだろ。てなわけで一か月後には領地に戻ってもらう。離れの屋敷で仕事をしてもらう」
「待て待て待て、せっかくのお前らの結婚生活に私邪魔じゃないかなぁ?」
トーラスは「結婚生活のためです」と返す。アルドルはどういうこと?と思っていると、トーラスは続ける。
「結婚の準備で私忙しくなるので、息子の結婚生活のために頑張ってくれますよねぇ?」
トーラスは悪魔のような笑顔を見せる。アルドルは「待て待て待て」と往生際悪く言う。
「大丈夫です。書類にサインするだけの簡単な仕事です」
「じゃあそれ私じゃなくてもいいよな?というか意外とそれ大変なんだぞわかってるだろ」
アルドルはなんとしても回避しようとする。だが、トーラスはそれを許さない。
「大事な書類なので俺と親父以外はサインできません。別に書類をチェックしろとはいってないでしょ」
アルドルは逃げられないことを悟る。
「嫌だあああああああああああああああああああああああ」
まるで子どものようにアルドルは叫ぶのだった、、、




