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旦那様、それは勘違いです!ー白い結婚を求められたはずですがー  作者: 清澄 セイ


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おもしろ部屋がありました

 私の部屋は、三階のど真ん中。てっきり端だと思っていたから、少しがっかりした。もちろん旦那様とは別々で、彼の自室は同階の端っこ。そこまでは、問題なし。

 けれど、いかんせん造りがとても変だ。二人の部屋が内廊下で繋がっているのだけれど、真ん中と端ではそれが長すぎる。誰だ、こんな設計をしたのは。

「だったら、廊下を通っても同じじゃないの」

 早速ベルベットのカウチソファに身を沈ませながら、ぶつぶつと文句を垂れる。マリッサは聞いているのかいないのか、黙々と荷造りに勤しんでいた。

 大方の荷物はすでに到着して、この屋敷のメイドが整頓してくれている。だから私は、堂々と寛いで――。

「この後は食堂にて夕食です。その前に湯浴みとお支度をしなければなりませんので、ごろごろする暇はありません」

「けち!少しくらいいいじゃない!」

「けちで結構」

「マリッサぁ〜」

 十八歳らしからぬ駄々の捏ね方だと分かっていても、さすがに二週間越えの旅は疲れた。まぁ、それは彼女も同じだし私ばかり甘えてはいられない。

「よし、やるわよ。今すぐに準備するわ」

「言動と行動が反比例しておりますが」

「あれ、おかしいな?体が勝手にソファに沈んじゃう」

 ずるずると横になろうとする私に向かって、マリッサがおもむろに先の尖った櫛を取り出す。それを握り締めたまま無言で見つめられたら、飛び起きるより他はない。

「ありがとうございます、フィリア様」

「だ、大丈夫よマリッサ」

 彼女は、怒ったら母と同じくらい怖い。わがままも大概にしておこうと、私はしゃっきり身を正したのだった。

 その後マリッサの手によって変貌を遂げた私は、爽やかなミントグリーンのドレスに身を包み、ゆっくりと螺旋階段を降りた。丁寧に施された化粧で武装した今の私には、怖いものなど何もない。

「あ、だめ。これ絶対迷子になる」

 屋敷が広過ぎて、食堂へ行くにも一苦労。メイドや執事達は皆親切で礼儀正しくて、こちらが恐縮してしまうくらいだった。

「手を繋ぎましょうか?」

「えっ、本当?」

「嘘に決まっておりますが」

 マリッサにからかわれて、ぷくっと頬を膨らませる。今ならどんな表情をしても、きっと可愛いに違いないから無駄に表情豊かになる。

 普段はほとんど素顔のままなので、こうして綺麗に着飾れることは素直に嬉しい。あくまでたまになら、というところが重要ポイント。

「それにしても、このドレスは本当に素敵。さっきのメイドは旦那様がお選びになったって言っていたけど、本当かしら」

 廊下の真ん中で、バレリーナのようにくるりと一回転してみせる。着地を失敗してよろけてしまったのが、ちょっと恥ずかしい。

「さぁ。私には分かりかねます」

「あんな手紙を寄越す人が、わざわざ?」

「手配をするよう命じた、とか」

「ああ、きっとそれね」

 どうであれ、これをチョイスした方は良いセンスの持ち主だ。配色は年相応だけれど、膨らみ過ぎないデザインが大人らしく、花びらのようにあしらわれたレースもエレガントで可愛らしい。

「買い取らせていただけるかな」

「フィリア様は奥様なのですから、金銭のやり取りは必要ないのでは?」

「そうねぇ。白い結婚だと、体でご奉仕というわけにもいかないし」

 そもそも、対価になるようなナイスなバディは持ち合わせていない。

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