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自然派令嬢フィリア・マグシフォン

どうぞよろしくお願い致します!

「フィリア!今日という今日は覚悟なさい!」

 今日の天気は、青々として気持ちのいい晴れ。どれだけいっぱいに手を伸ばしても届かないその天上に、大して肉付きの良くない両腕をこれでもかと伸ばした。

 最高の気分で芝生に寝転がっていた私は、母リリベルの金切り声を聞くなり、ガバッと飛び起きる。部屋に籠って刺繍をしている振りをしていたのに、一時間も経たない内にバレた。

「もう十分でしょう」

「いいえ、マリッサ!私今日は、日が暮れるまでお昼寝がしたかったのよ!なんなら、夜になっても構わなかったわ!」

「それはもう普通の睡眠では?」

 私の専属侍女マリッサが、いつの間にか真横に立っている。彼女は今日も落ち着いていて、ぼさぼさ髪の私とは雲泥の差だった。

「だあって!刺繍なんて楽しくないわ。私はいつだって、風と遊んでいたいのよ」

「またそんな子供みたいなことを」

「これは豊かな感性を育てる為に、大切なことなのよ。私の頭の中にある溢れんばかりのアイディアは、今こうしている間にもどんどん磨かれているんだから!」

 はしたなく脚をぱたぱたさせて、髪の毛を手櫛で整えることすらしない。ものぐさな私にとっては、淑女らしさも見た目の美しさもさして重要ではないのだ。

「はぁ、そうですか」

「あ、その顔。真剣に聞く気がないわね、マリッサったら!」

「いえ。私は別に構いませんが、フィリア様はよろしいのですか?」

 淡々とそう口にする彼女には、まるで焦りなど感じられない。

「よろしいって、何が?」

「奥様がすぐ後ろに」

「ええ!もっと早く教えてよぉ!」

 そんな恨み言と一緒に、私は素早く駆け出す。が、それは叶わずまんまと母に首根っこを掴まれた。

「フィーリーアー?貴女、また嘘を吐いたわね?」

「あ、あらお母様ごきげんよう!今日もとっても綺麗だわ!それはもう美しすぎて目が潰れてしまいそうなくらいよ!」

「今ここで本当に潰してあげてもよろしくてよ?」

「ひ、ひいぃ‼︎助けてマリッサ‼︎」

 母のすらりとした指は、確実に私の眼球を獲物として捉えている。それが怖くて怖くて、なぜか余計にかっ!と目を見開いてしまった。

「どうせやられるのなら、いっそひと突きがいいわ!」

「……我が娘ながら、貴女っておばかさんだわ」

「そこが憎めないでしょ?」

 うふっとウィンクしてみせると、母の指にますます力が入る。今にもぶっ刺さりそうな爪を回避すべく、私は高速瞬きという秘技をこの一瞬で編み出した。

 やっぱり、ひと突きは嫌だ!優しくゆっくりも嫌だし、結局どんな方法でも嫌だった!

「マリッサ。このおばかを連れてきてちょうだい」

「かしこまりました、奥様」

 鶴の一声にて、私はあっさり捕縛された。マリッサは私よりも小柄なのに、馬鹿力で私を引きずる。

「うわあん!マリッサの裏切り者!」

「仕方ありません。お給金の支払い元は奥様ですので」

「結局は金か、金なのか!」

「もちろんです」

 暴れても喚いても、彼女には敵わない。せっかくのびのびと過ごしていたのに、私は泣く泣く屋敷へと連れ戻されたのだった。

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