猛取り物語
《世界迷惑劇場》
今は昔、猛取りの翁という漢ありけり。
ジムに入りて指導をしつつ、よろづの大会に出場させけり。
名をば『生え抜きのフィジカリスト』となむいひける。
そのジムの中に、マッスル光る一人ありける。
あやしがりて、寄りてみるに、大胸筋光りたり。
それを見れば、三寸ばかりなる手首から二の腕へのラインは、いとたくましくいたり。
翁言うに……
「われ朝ごと夕ごとに見る筋肉の中におはするにて知りぬ。弟子になりたまふべき人なめり」
とて、口説き入れ、派閥へ持ち来まん。
妻の嫗に預けて養はす。
隆起うつくしきこと、限りなし。
いと黒光りければ、籠に入れたプロテインにて養ふ。
猛取りの翁、大会に送り込むに、その児を見つけてのちは幾つもの賞を取るに、回を経るごとに黄金ある賞を得ること重なりぬ。
かくて、翁やうやう豊かになりゆく。
この児、養ふほどに、すくすくと大きになりまさる。
三月ばかりになるほどに、よきほどなる体型になりぬれば、艶上げなどさうして、髪上げさせ、ポージングに邁進す。
帳の内よりも出ださず、いつき養ふ。
この児のかたち、けうらなること世になく、屋の内は暗き所なく光満ちたり。
翁心地あしく、苦しきときも、この児を見れば、苦しきこともやみぬ。
腹立たしきことも慰みけり。
翁、賞を取ること久しくなりぬ。
厳選せし大会にて、勢い猛の者になりにけり。
この児いと大きになりぬれば、名を、衆和流通の寧賀を呼びてつけさす。
寧賀、モストマスキュラーの輝ける飛竜、輝飛竜とつけつ。
このほど三日うちあげ追い込む。
よろづの遊びをぞしける。
男はうけきらはず呼び集へて、いとかしこく皆で遊ぶ。
世界の男の子、貴なるもいやしきも、いかでこの輝飛竜を得てしがな、見てしがなと、音に聞き、めでて惑ふ。
いと黒光りける隆起うつくしきこと、限りなしや示され、民草に轟きたる。
世界は、平和になった。
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