007:正常な異常事態
ちょっと長くなりました。
上手くいっていたんだ。
そも、データー転送でエラーが起きるなど今時ありえない。
加えて今回は普通とは違うプログラムだからと、念には念を入れて対策は打った。
予想出来る事態には、手は打っていた。
一切の抜かりはない。 そのはずだった。
真逆、想像もしていない状況の発生は想定できなかった。
想定外のことが起こったなど、真逆自身に降りかかるとは……
それは転送開始の数分前という時に起こった。
アナウンス「<ヴィーヴィー>緊急事態発生。 艦内各所に異常発生。
第一級緊急事態を宣言します。 直ちに対処を。 直ちに対処を」
虎龍「んがっ……警報? 何事や?!」
ストラ「確認する……船体にダメージ? 何かが衝突……違う、ひとりでに?」
前触れのない、船の損傷警報。 原因は不明。
それどころか、事態は加速度的に悪化を始める。
虎龍「エンジンに異常確認! 動力が不安定になってる!
出力が上下にブンブン言うとるで?! 全部のエンジン? マジか?!」
ストラ「そんな馬鹿な話が?!<ズゥン!!>うわっ?!」
虎龍「振動……爆発?!」
ストラ「……違う! 姿勢制御が不安定に……真逆ゲームシステムの異常なのか?」
言ってから、正直信じられないと思った。
これまで3万年以上の時間、驚くほど安定していたのに。
マシンの不調が確認されて以降も、プログラムはエラーを出していなかったのに。
これでは、いざという時の為の超加速も使用できるか……いや、使わない方がよいだろう。
不調の中使用したら、本当に何が起きるかわからない。
しかし、だ。
ストラ「幸運だ。 ついているぞ」
正に、自分の策が役に立つときが来たのだ。
しかも、今際の際ではなくまだ余裕があるこの時に。
対策をする準備をしていて、それを行う時間に余裕がある。
残りは2分を切っている……十分だ。
十分時間がある。 やる事も簡単だ。
虎龍「<ズゥン……>なるほど……プログラムを止めるんやね」
1番簡単な方法だ。
プログラムの不調なら、エンドレスファンタジアそのものを止めれば良い。
何度かマシンのメンテのために止める事があったし、再起動しても問題は無かった。
今回も同じだ。 転送を止めて、プログラムを停止。
その後、プログラムやマシンを念入りにチェックすれば良いだけだ。
今回は残念だが、無理をする意味など有り得ない。
大切な世界を天秤になどかけられないし、馬鹿げている。
虎龍に残された時間も、まだ……そう、まだあるのだから。
虎龍「なんか残念やね……ちょっとワクワクしてたのに」
ストラ「またやればいい。 こういう事もあるさ。
……さあ、まずは転送を止めよう。 もうすぐ1分を切る」
揺れる中、それでも一切のミスをすること無く操作を続ける。
転送を停止、その後プログラムの停止。 同時にログアウトだ。
もしかすると、ここに来てマシンの不調が悪化したのかも知れない。
出費はかかるが、必要経費だ。 交換パーツは、まだ売っているはず。
娘が帰ってくるまでに片付けば良いが、駄目なら手伝ってもらおう。
心配されるだろうな……
そうだ……折角だから今度は一緒に…………一緒に…………
ストラ「……そんな馬鹿な……」
虎龍「どないしたん? …………え? 何これ」
コンソールを操作をしていた手が、思わず止まる。
モニターに打ち出された結果はこうだ。
・エンドレスファンタジア、マシンは両方とも正常。
・転送も正常。 まもなく最終段階。
・船の異常事態の原因は不明。
・転送、プログラムの停止命令を一切受け付けない。
振動で揺れるモニターの表示に、背筋に冷たい物が流れる。
メンソールよりも冷たい何かが肺に流れ込み、氷が体を突き破る感覚。
呼吸する度に冷たい何かを吐きそうな嫌な嘔吐感……心臓が嫌な高鳴りを上げる感じが……
アナウンス「緊急事態発生。 緊急事態発生」
ストラ「…………<ブゥン>……っ」
船の電気が、赤い非常灯に……
不味い……不味い不味い!! 何かが変だ……これは……!
ストラ「虎龍! ログアウトだ!」
虎龍「え?! う、うん!」
急いで逃げなければならない。 答えは出ないが、そんな気がする……
このままでは、何かが起きると。
内心舌打ちしていた。 長い間の時間を過ごして平和ボケしたのか。
プログラムを、自分は制御出来てると驕り高ぶったか。
かつて自分が、どんな目に遭ったか忘れていたのか?
一般のゲームプログラムで出来ない事が出来るのではなかったか?
忘れていたのか?
このエンドレスファンタジアが、解明不能の技術の塊である事を。
アナウンス「最終段階へ移行。 全プログラム起動開始……異常なし。
最終シークエンス……テスト終了。 シークエンス実起動まで……」
虎龍「よし、ログアウト開始……えっ?! あの子がアクセスしてる! ログインしようと……」
ストラ「そんっ……このタイミングで?! <キュイィィィィ>何だ?!」
ログアウト処理が始まるのに合わせたのか。
モーター音のような甲高い音が聞こえると……船の中に、光が差し込み始めた。
まるで朝日のような、夕日のような強い輝き……
正面から差し込んでくる……手で遮っても突き抜けてくる!!
ストラ「外には何も無いはずなのに!」
虎龍「眩しい! 遮れない……何も見えな……何がどうなって…<ゴアッ!!>…ああっ!!」
光が文字通り溢れて流れ込む。
全部の景色を塗りつぶす。 隣にいる虎龍の姿も……
ストラ「茜!!」
見えなくなった妻の手を……いや腕でも何でも良い!
何でも良いから……!!
思わず伸ばした手が、何かを掴んだ瞬間。
アナウンス「起動します」
光は一転、闇へと転じ。
五感も、意識も。
何が? と考える暇もなく……
消えた。