001:地球の終わりと3万年姫王
世界が終わろうとしていた。
正確に言えば。
?「<ヴィーヴィー!!>直ちに各国に連絡を! 戦術核でも何でもいい!!」
?「『あれ』を何としても墜とすんだ!!」
地球が終わろうとしていた。
よくある愚かな人類が、とかいう小規模なものじゃない。 全部が滅ぶ……消える。
人も動物も、海も空もなにもかも。
!「……ソル・エンジン、エンゲージ。 レベル1クラス、モノポール反応順調。
ウラン並び、プルトニウムの変換。 基地魔導エネルギーの変換順調。
<ズゥン……>うわっ、振動するなんて……船体異常なし」
何一つ残らないだろう。 残ったとしても、意味が無いことだ。
たとえそれが、誰かの思い出の品だったとしても。
持ち主がいなくなれば、宇宙を漂うゴミの1つでしかないのだから。
みんな死んでしまうから、記憶も歴史も。思い出も残らない。
何一つ残らないんだ。
?「姉様……」
?「大丈夫じゃ……<ぎゅっ……>大丈夫」
思えば……こういう事は、何度もあった。 正確には13回。
はっきり覚えている。 何度も見たんだ。 その瞬間を。
?「オービタルリングの魔導シールドを多重展開する<カコカコ……>。
斜めに展開してあれの軌道を逸らせば、せめてコアへの直撃を避ければ……!」
?「パパ……」
?「あなた……」
?「…………っ! …………大丈夫だ。 大丈夫」
ある時は、友人がいた。
ある時は、家族がいた。
ある時は、仲間が居た。
!「急ごしらえですが、問題なく動きそうです。
各部チェック開始……完了。 兵装……準備完了」
ある時は、夫が居た。
ある時は、妻が居た。
ある時は………………
?「クソ……あんなのがぶつかってきたら、地球はお仕舞いじゃねぇか。
防ぎようが……」
?「まだですよ」
どんなに頑張っても。 どんなに用意を重ねても。
どんなに絶望に抗っても。 どんなに笑顔の結末がすぐそこにあっても。
?「姫様?」
いつもいつも、帳尻を合わせるように、終わりが訪れる。 笑顔は絶望……にもならない。
死人は人形のように無表情だ。 抱きかかえた時見たのは、いつも無表情だった。
叫んでも、顔を叩いても、何も変わらない。 いつもどおり。
死体さえ見れない事もあった。 珍しくもなかった。
13回。 同じ結末を見てきたんだ。
?「まだ私達は生きています。 死の瞬間まで、諦めてはいけません」
?「しかし……<ヒュイン!!>?! 警告表示?!」
ずっとずっと。 沢山の人達の死を見てきたんだ。 拒否さえ許されなかった。
?「何だ?! 何が起きた?」
どんなに頑張っても、みんな死んでしまった。 その瞬間を覚えている。
長い時を生きても、沢山の出来事があっても忘れなどしない。
ただ一人として、何も出来なかった自分を責めず。
無理に作った笑顔で、感謝を告げて死んでいった人達の事を。
?「待ってください……この表示はこの基地のものでも……
そもそも、私達の技術じゃない! もっと高度な……」
だから、何とかしよう。
世界の為とか。地球の為とか、大きいもののためではなく。
ほんの数人の、知っている人達の為に。
今度こそ。
!「発進準備完了。 ご指示を」
だから、何とかしよう。
ほんの数人が、これまで見てきた最後を迎えないように。
さしあたってしている、ほんの小さな約束を叶える為に。
今度こそは。
ストラ「……発進」
もうこれ以上は御免だ。 もう嫌だ。 二度と。
……あたしは。
ストラ「さあ、地球を救うとしよう」
あたし、姫王ストラ・ツァラトゥストラは。
持てる力のすべてを持って。
世界を救わせていただく事にした。