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3.加虐魔術師-サディスティックマジシャン-

拠点ノースアミナ。

アミナテロスを出て北側に位置する。ゲートの集落地帯に作られた小さな砦のような所だ。以前はこのようなものはなかったのだが、5年前の逆転送モンスターバックによる被害を受けてゲートの近くにはこうした拠点が作られるようになった。

ノースアミナは主にF~E級の魔領域ゲートが集中しており、冒険者歴が1年にも満たない駆け出しの冒険者が多くみられる。

俺はもう2年も冒険者をやっている。この中ではぶっちぎりのベテランだ。


見慣れた景色に到着すると拠点を守る王国騎士団の守護門番ゲートキーパーに声をかけられる。


「よう変態戦士アルフ、今日も初心者クエストか」

「二つ名みたいに呼ぶなよバルトル」

「いいじゃねーか、二つ名。Aランク以上じゃないと貰えないんだろ」


守護門番ゲートキーパーバルトル・リーマン。

何度も顔を合わせる内に妙に仲良くなってしまった王国騎士だ。おそらく歳も近い。

王国騎士団に所属しているのでそこそこエリートのはずなんだが、話しているとただのお調子者にしか見えない。


「二つ名ってのは格好いいものなんだよ、変態戦士は悪口だ」

「じゃあ、ドM戦士はどうだ!」

「もっと酷いわ、具体的になってるから」

「はは、例えば【孤高ここう蒼星そうせい】みたいな名前か?」


今何かと話題の冒険者の名前を出してくる。

パーティーを組まずソロでB級やA級のクエストをこなしてくる中々の化け物冒険者だそうだ。ランクはA。


「お前と同じソロの冒険者なのに大した奴じゃないか」

「知らねえよ。何か凄い剣でも使っているんだろ」

「武器の所為にしたらだめだぜ、アルフ君よー」


ああ消したい。ムカつく顔で煽ってくるこいつを消したい。


「それより例のセクハラブースト切れちゃうんじゃねぇのか。」

「変な名前を付けるな。半日くらいは大丈夫だ」

「無駄に効力長いのな」

「時間が勿体無いから行く」

「せいぜい死なないようにな、死相が出てるぜお前の顔」

「分かってるよ」



無限草原のゲートへ向かい、近くにいるギルド職員にクエスト用紙を見せる。


「アルフ・ランサー、無限草原のクエストに向かいます」

「了解しました。記録紋レコーダーは装備されていますか?」


記録紋レコーダーは魔物した際、素材を持ち帰れなかった場合でも討伐記録が自動的に残せるハイテクな魔道具だ。

身体の何処かに特殊な魔術で貼るため、剥がれることはない。その原理は全く分からないが。


俺は職員に記録紋レコーダーの貼ってある右手の甲を見せる。


「大丈夫そうですね。ではご武運を」


剣良し、道具袋良し、体調問題無し。

俺は軽く装備の確認をすると、無限草原のゲートに向かう。



「す、すみません。待ってください」

「はい?」


ゲートに入ろうとすると俺よりやや年下っぽい銀髪の女の子に話しかけられる。

手には杖を持ち、黒いローブを身にまとっている。

どうやらこの子も冒険者、それも魔術を使えるスキルを持っているみたいだ。

魔術はそれに関するスキルを持っていないと使えず、戦闘では貴重な遠距離攻撃や回復、味方のサポートなどをこなせることもあるため需要は高い。


いいないいな~魔術スキル~俺もこんな変態スキルより魔術スキルが良かったな~そうしたらこんなソロで冒険者なんてやってないのにな~


年下でしかも駆け出しっぽい女の子に嫉妬の炎を燃やしていると、女の子は続けて喋り出す。


「あなたは短い黒髪に、少しくたびれた顔、安物の革の鎧に無銘の剣を装備、2年経っても初心者クエストしか達成出来ないFランク冒険者アルフ・ランサー18歳」


初対面の女の子に早口で滅茶苦茶悪口を言われたんだが……

死んでいいかな……少しは人を思いやろうよ……



「あの……噂の変態さんですよね……あなたをいじめてもいいですか!」

「へ?」


なんだこいつ⁉

急に話しかけて来たと思ったら、俺の悪口をベラベラ喋って挙げ句の果てに虐めたいとか言いやがった!

俺がまさかの出来事に混乱していると魔術師は続ける。


「私Sなんです! あなたはMですよね! 相性ピッタリです! パーティーを組みませんか!」


カミングアウトから怒涛のパーティー勧誘。


「私はエリス・アメジスト19歳。スキルは『加虐サディスティック魔術師マジシャン』3年間Fランク冒険者です‼」

「お、おう」

「スリーサイズは上からきゅうじゅ……」

「ストーップ! そんな情報まで要らないから!」

物凄いことを口走ろうとしたエリスを必死で止める。


……90って言ったよな、いや95かもしれない、とりあえず90以上は確定か……

90って何カップだっけ……


「すみませーん、アルフさーん、おーい聞こえてますかー」

「バカ野郎‼ カップ数くらい知ってるわ‼ 90だろ……Eか……いやF……多く見積もってGくらい…そうGだG‼」

「……そんなにジロジロ見て……どうやら本当に変態さんなんですね……ドン引きです……」


はっ‼ ……しまった‼ 思っていたことを口にしてしまった⁉

頭を抱えている俺に向けて追い打ちをかけるようにエリスは言う。


「パーティー組んでくれますよね~、乙女の身体を舐め回すように見たんですから……責任取ってくれますよね~?」

「は、はいよろしくお願いします」

「や、や、やったー! 初のパーティー結成です!」


エリスがぴょんぴょん跳ねて喜んでいる……子供みたいだな。

というかこいつ19歳とかって言ってなかったか? え? 年上?

それにこいつのスキル『加虐サディスティック魔術師マジシャン』ってなんだ?


……カップ数などに気を取られている場合ではない気がした。

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