95.会議は踊る?
国際会議中に帝国の皇子殿下ズィピアスの暴走により会議どころではなくなってしまった。
急遽帝国について以下のことを話し合いが行われることになった。
・皇子の魅了について
・皇子の今後の動向について
・帝国の処遇について
まずはズィピアスの魅了について、魔法やスキルに詳しいエルフの女長老エレンミィアを主体にして話を進める。
ズィピアスが暴走したとはいえ人を魅了する能力は脅威だ。
その脅威についてわかる範囲で問題点を洗い出す。
・魅了方法について
・魅了の上限について
・魅了の期間について
最初に相手を魅了する方法についてだが、条件次第では危険視している。
目を見ると魅了するのか、声を聞くと魅了するのか、あるいは何もしなくても魅了するのか。
見たり聞いたりするなら目や喉を潰せば済むが魔法やスキルを発動するだけなら最悪ズィピアスを殺害しないといけない。
次に魅了できる上限はどのくらいか。
先ほどの会議中で部屋にいる全員を一瞬にして魅了したのだ。
1人1人ではなく複数人同時に魅了したのは脅威である。
あとは魅了できる人数が有限なのか、無限なのかがわからないところだが。
最後に魅了による時間制限の有無について。
一度魅了されると永続的に続くのか、もしくは一定時間になると解除されて再度魅了する必要があるのかだ。
もし、前者の永続的であれば術者が死ぬか状態異常回復で回復させない限り解く方法はないらしい。
魅了については現時点の情報は以上だ。
続いてズィピアスの今後について、グラントが主体にして話を始めた。
ズィピアスの性格からすると恐らくどこかで騒動を起こす可能性が極めて高いと判断している。
それがガイアール王国なのか皇国なのかエルフの隠れ里なのかドワーフの国なのかは定かではない。
いずれにせよズィピアスを警戒しないといけないのは事実である。
そして、帝国の処遇についてだが、これは状況により大きく変わるそうだ。
現在の帝国の皇帝が息子であるズィピアスに魅了されているなら情状酌量の余地があるが、わかっていて放置ならその限りではない。
場合によっては帝国との戦争に発展するだろう。
以上で帝国の話は終わりになるのだが、ここでグラントがシフトを見て質問してきた。
「それでそなたはなぜ魅了しなかったのだ?」
シフトは自分のスキルを馬鹿正直に話すつもりはない。
言ったところで頭がおかしいと言われるだけだからだ。
「それは簡単です。 魅了に対する耐性を持つ道具をたまたま身に着けていたので僕は助かったのです」
「では魅了を解いたのはどう説明する?」
「状態異常回復のポーションを1本持っていたのでそれをユールに飲ませたのです。 彼女は回復のエキスパートなので魅了が解ければ皆さんの魅了も解くことができると信じていましたから」
実際ユールの魅了を解いて、グラントを始めとしたこの部屋の人たちの魅了を解いたのはユールの【治癒術】である。
辻褄が合ってるだけにグラントは強く言えなかった。
「そうか・・・シフト、ユール嬢、感謝する」
グラントが頭を下げると各国の首脳たちや騎士たちもそれにならって頭を下げてきた。
「ああ、僕は大したことやってないんで礼ならユールにしてくれ」
「わ、わたくしですか?! わたくしもご主人様に助けられたので何とも言えないのですが・・・」
シフトは逃げるようにユールを差し出すと本人は驚いてしどろもどろになる。
「どちらにせよ助けられたのは事実。 後で褒賞を与える故期待するがいい」
「いや、別にいらないです」
グラントはこの機にシフトを懐柔して自分に取り込もうとしているのだろう。
「まぁ、そう遠慮するな」
「グラント国王、私からも彼にお礼を送りたいわ」
「グラント、わしも礼をするぞ」
「グラント王、わしからも礼をしたい」
「グラント殿、朕も彼に直接謝辞を述べたい」
エルフの女長老エレンミィア、ドワーフの鍛冶王ラッグズ、公国の国王レクント、皇国の皇子殿下チーローが次々とシフトに礼をすると言ってきた。
グラントがシフトを懐柔できていないと判断してアピールしてきたのだ。
そこにはシフトを自分の国に招きたいという思惑が犇々と伝わってくる。
「ダ、ダメデス。 シフトサンハワタシマセン」
各国の首脳たちの言葉に慌てたタイミューがシフトをとられまいと庇うように前に出て口にする。
その言動にルマたちは冷たい目で、グラントたちは冷やかすような目でシフトを見た。
「あら、タイミュー女王陛下、独り占めはいけないわ」
エレンミィアがシフトに近づいて腕を掴んだ。
長老とは言っているが見た目はどう見ても20代にしか見えず、その美しい顔と豊満な胸でシフトを虜にしようと色仕掛けをしてきたのだ。
これによりルマたちとタイミューから非難の眼差しを受けることになる。
そして、男性陣はグラントたち首脳陣は興味深い目で、騎士たち(特に独り身の男性)は嫉妬深い目で見ていた。
(なぜ僕がこんな仕打ちを受けないといけないんだ?)
シフトは腕に伝わる胸の感触を堪能するよりもこの場の状況に内心頭を抱えていた。
とりあえず事態を収束しないといけないので口にしようとするがそれよりも早く声がかかる。
「ご主人様、何をしているのですか?」
ルマが笑顔でシフトを見ている。
例の如くその目は笑っていない。
「ルマ、どう見ても僕は被害者なのだが・・・」
「ええ、そうですね。 ですが払いのけることはできるはずですよね?」
「いや、そうだけど・・・」
「あら、お嬢さん嫉妬してるの? 可愛いわね。 だけど醜くもあるわ」
エレンミィアは有ろう事かルマを挑発してきたのだ。
「そんなんじゃ彼に嫌われちゃうわよ?」
「ぐっ・・・ご、ご主人様~」
エレンミィアの言葉にルマが珍しく負かされて泣きついてきた。
さすがにやりすぎだと感じたシフトはエレンミィアの掴んでいる腕を払いのける。
「あら?」
「悪いが僕の仲間を虐めるなら例え女でも容赦しないよ」
「うふふ・・・可愛い。 ますます気に入ったわ」
それだけ言うとエレンミィアはシフトに投げキッスをした。
「はっはっは、なかなか面白いものを見せてもらったぞ」
「嫁がいるのも大変だな、シフトよ」
「・・・笑い事じゃない」
グラントたちの揶揄いにシフトは口を尖らせる。
それを見ている皆から愉快そうに笑い声が聞こえてくる。
シフトが不機嫌にしていると会議室の扉が勢いよく開けられた。
1人の騎士が室内に慌てて入ってくると緊急事態を伝える。
「会議中のところ失礼します! 東の森から正体不明の軍団がここに向かっています!!」
一報を受けたグラントたち首脳陣は先ほどまでの朗らかさがなくなり治世者の顔になる。
「状況は?」
「はっ! 行軍速度は徒歩でここに向かっており、到着までおよそ1時間とみています」
「正体不明というがどういうことだ?」
「その軍団なのですが人間だけでなく、エルフやドワーフ、獣人などの人間種やゴブリンなどの亜人種、そして一般的な有名な魔物たちで混成されております」
「エルフですって?!」
「ドワーフだと?!」
「ジュウジンガイルノデスカ?!」
騎士から出た単語にタイミューとエレンミィア、ラッグズがそれぞれ驚いていた。
「それは真か?」
「警備部隊全員で確認しているので間違いございません」
「亜人種はゴブリンやオーク、オーガ辺りだとして、ほかの魔物はどういうのがいるのだ?」
「熊や狼、巨大蛇に翼竜など多種多様なモンスターを見かけました」
「そうか・・・わかった」
グラントはしばしその場で考えると騎士に命令する。
「伝令!! 第一騎士団、第一魔法兵団は至急王都東門に集合し陣形を整えよ! 第二・第三騎士団、第二・第三魔法兵団は王都の見回りを強化しろ!!」
「はっ!!」
伝令を受け取った騎士は足早に部屋を後にする。
グラントはシフトを見ると声をかけた。
「シフト、すまぬがそなたの手を借りたい。 この通りだ」
第一騎士団、第一魔法兵団だけでは手に負えないと判断したのだろう。
グラントはそれだけ言うと恥を忍んで頭を下げた。
「別に構わないがいいのか? 今回の襲撃者たちにはエルフやドワーフや獣人たちが混ざっているけど、生きたまま捕えろと言われても保証できないぞ?」
シフトの発言にタイミュー、エレンミィア、ラッグズが答える。
「コノクニニメイワクヲカケルノデアレバ、ヒトオモイニヤッテクダサイ」
「致し方ありません」
「戦場では必ず死傷者が出るもの。 わしらの同胞だけでもとはいかないからな」
それぞれ承諾するとシフトは頷いた。
「グラント、手を貸そう」
「ありがたい、助かるぞ」
「ルマたちを連れていきたいがここの守りはどうする?」
「そこは余の国王直属聖騎士団と王宮魔導師団で対処する」
「わかった。 ルマ、ベル、ローザ、フェイ、ユール、行くぞ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
シフトはルマたちを引き連れて王都東門へ向かうのだった。




