94.半覚醒 〔無双劇12〕
「それはどういうことかな?」
「理解もできないのか? 言葉の意味そのままだ。 俺がすべてを統治すれば良いだけのこと」
「力で支配するつもりか?」
「この俺に勝てると思っているのか? だとしたら滑稽だな。 俺はお前たちを上回っているのだから」
自意識過剰な帝国の皇子殿下ズィピアスが堂々と宣言するが、帝国関係者以外の視線はなぜかシフトを見ていた。
(何この流れ? 僕に戦えと? 面倒事を全部僕に押し付けようとしてない?)
などとシフトが考えていると注目されてないことが気に入らないズィピアスが怒りを露わにする。
「おい! お前ら聞いているのか! 今日から俺に全員従え!!」
ズィピアスが右手にはめていた手袋をとる。
そこにはあの奇妙な紋様が浮かんでいた。
(またあの紋様か・・・いったい何が・・・)
シフトは考えようとするが頭の中は靄がかかっていく感じを受ける。
(おかしい・・・まともな思考ができない・・・)
それはシフトだけでなくルマたちもグラントやタイミューたちもこの場にいる全員が同じ状態になる。
「ふははははは・・・この力があれば俺が世界の支配者になれるのだ!!」
ズィピアスが高らかに宣言する。
「お前たち、俺の前に跪け! そして、新たな王を祝福しろ!!」
シフト以外の皆がズィピアスのほうを見て跪く。
シフトもそれが当たり前なんだと膝をつこうとしたとき、世界がセピア色に染まり不思議な声が聞こえた。
『おいおい、この程度の魅了に屈するなよ。 お前の力はこんなモノじゃないんだぜ』
その瞬間、シフトの魅了が解けて思考が元に戻る。
「・・・これは・・・靄が晴れた?」
『やっと正気に戻ったか』
「誰だ?」
シフトは周りを見るが誰も動いていない。
[神禎石]の時と同じ現象が発生していることに気づいた。
『僕か? 僕はお前だ。 正確に言えば僕はスキルそのものだ』
シフトは目を見開いた。
その声はどこからでもなく自分自身の中から聞こえてきたのだ。
「なっ?! スキルが僕に話しかけてきたというのか?」
『その通り。 理解が早くて助かる。 それにしてもあの程度の攻撃で屈するとはまだまだだな』
「それは悪かったな」
スキルに悪態をつかれて思わず不機嫌になるシフト。
『癪ではあるがあいつのおかげで僕が出てこれたのも事実だからな。 それはそうとお前は僕を十全に使いこなせていない。 本当情けない』
「今の状態が最高ではないのか?」
『ん? そんな訳ないだろう。 お前はまだ限界を超えてないんだからな』
「なんだと?!」
驚愕な事実にシフトは驚いていた。
『限界は限界でも僕の【限界突破】で超えようとしても意味がないよ。 お前自身が限界という壁を壊して進むしかないんだ』
「・・・壁を壊す・・・」
『それが何なのかは僕にもわからない。 だけどこれがきっかけになればいいけどな。 おっとそろそろか。 今回のは貸1つにしておくよ。 じゃあな』
早口に言うとセピア色が段々と色鮮やかな世界に戻っていく。
その直後、頭の中に声が響く。
≪確認しました。 魅了耐性解放 魅了耐性(弱)を取得しました≫
今ので魅了耐性を手に入れたようだ。
そして、外界からの声が聞こえてきた。
「おい、そこの貴様! 貴様も跪け!!」
「断る」
拒絶の言葉にズィピアスが目を見開く。
「なっ?! 貴様、俺の洗脳が効いてないだと?!」
「残念だがそのようだな」
「ふざけるなよ! これでもくらえ!!」
ズィピアスは再び魅了してきた。
それも先ほどとは比べ物にならないくらい強力な魅了をしかけてきたのである。
シフトは冷静になり、自分のスキルと向き合う。
すると【次元干渉】がシフトに訴えかけていた。
(なるほど、先ほどのはお前だったのか)
シフトは【次元干渉】を発動し、干渉してくるズィピアスの魅了を拒絶したのだ。
「どうした? この程度か?」
「なぜだ?! なぜ効かない!!」
「さあな? 相性が悪いだけだろ?」
シフトは余裕を見せるとズィピアスは諦めたのか次の1手を出してきた。
「従えないのなら仕方ない。 お前たち殺れ」
それだけ言うとルマたちやタイミュー、グラントたちがシフトに襲い掛かってきた。
前衛にはベル、ローザ、フェイを始め護衛の騎士たちが武器を持って特攻し、後衛にはルマ、ユールなどの魔法が使える者たちが攻撃を仕掛けてくる。
【五感操作】を発動するも操られているためか効いていない。
ローザの斬撃を躱すとベルが二刀流でフェイは徒手空拳で攻撃するもそれぞれいなす、そこにルマとユールがベルたちを巻き込むように魔法を放つ。
シフトは【次元遮断】でルマとベルたちの間に一瞬だけ結界を張り魔法が霧散すると即解除した。
「ほう、あの女たちは使えるな。 良い物を手に入れた」
シフトはルマたちを物扱いしたズィピアスに怒りを覚えた。
今すぐ本人をぶちのめしたいがルマたちがそうはさせないと立ちはだかる。
正気を失っているせいかルマたちの攻撃がどんどんエスカレートしていく。
「はっはっは、どうした? 手も足も出ないか?」
ズィピアスは逃げているシフトに対して挑発してくる。
シフトが攻撃しないのは大事な仲間を傷つけたくないからだ。
ほかの者たちもただ洗脳されているだけで本当に敵対している訳ではない。
このままでは負けないにしろジリ貧である。
シフトは先ほどの【次元干渉】がルマたちにも効くか試すことにした。
丁度フェイが突進してくるので拳を受け止めると【次元干渉】で魅了を解いてみる。
「ぐぐぐ・・・あれ、ぼくは・・・って、ご主人様?! 一体何が起きたの?!」
「元に戻ったか? フェイ?」
「元にってどういう意味?」
フェイが疑問に思っているとベルたちがシフトに対して攻撃する。
「ちょっ?! ベルちゃんにローザちゃん?! なんでご主人様を攻撃してるの?!」
「無駄だ、フェイ! 今のルマたちは魅了により洗脳されている! さっきまでのフェイもそうだった!!」
「そうなの?」
フェイは自分が洗脳されていたことに驚いていた。
「洗脳が解けただと?! ならこれならどうだ!!」
ズィピアスはフェイに対して魅了を発動する。
フェイは逆らうことができず再びズィピアスの傀儡になってしまった。
その証拠にフェイはシフトに攻撃を再開したのだ。
「ちっ! 再洗脳が可能なのか!」
「はっはっは、どうだ? 俺の能力は凄いんだぞ! お前にはなぜか効かないようだがそんなことは些細な事だ」
ズィピアスはシフトの態度を見て上機嫌になり高笑いする。
(洗脳を解いても再洗脳されては意味がない。 なら答えは1つ)
シフトはなるべくベルたちを自分に引き付ける。
少しずつ後退して壁際まで追い込まれるように演技した。
「はっはっは、バカめ! 後ろは壁だぞ? もう逃げ場はないな! はっはっはっはっは・・・」
ズィピアスの言葉通りシフトは壁に背をぶつけた。
シフトは計算通りに事が進んだことに満足するとその場でジャンプする。
ローザたちよりも高い位置からズィピアスを目視すると【空間転移】を即座に発動してズィピアスの目の前に移動した。
「なっ?!」
シフトはそのままズィピアスの顔の側面に拳を一発殴った。
「ぐへぇっ!!」
ズィピアスは見事に窓のほうに吹っ飛ばされる。
「うぐぅ・・・おのれ!! よくも俺の顔を殴ったな!!」
シフトは悪態をつくズィピアスのところまで行くと蹴った。
「がはっ!!」
「よくもやってくれたな! 覚悟しろよ!!」
止めを刺そうとシフトが近づくとズィピアスが最後の悪足掻きをする。
「お、お前たち! その緑の髪の女を殺せ!!」
その言葉を聞いた瞬間、シフトはフェイを見る。
するとベルとローザ、ほかにも多くの騎士がフェイを攻撃しようとしたのだ。
どれかを止めてもほかの攻撃は確実に受けてしまう。
(ダメだ! 間に合わない!!)
すると先ほどと同じように世界がセピア色に染まり呆れた声が聞こえてくる。
『まったく、世話が焼けるな。 ほら、早くフェイを助けろ』
「ありがたい」
シフトはスキルに感謝するとフェイの身体を掴んで自分の胸に抱き寄せる。
『もう1つ貸だからな』
それだけ言うとセピア色が段々と色鮮やかな世界へと戻った。
ベルやローザ、騎士たちの攻撃は空振りに終わり、シフトの中ではフェイが暴れていた。
シフトは先ほどと同じように【次元干渉】でフェイの魅了を解く。
「・・・あれ、ここは・・・って、ご主人様?!」
フェイは洗脳が解けて自分がシフトに抱かれているのに気が付いた。
「えっと・・・ご主人様。 ぼ、ぼくも・・・」
「余韻に浸っているところ悪いが今はそんなことをしている場合ではない」
シフトはフェイを抱えながらベルたちの攻撃を回避する。
急いでズィピアスを見るとそこにはすでにいなかった。
部屋にはおらず窓が開いているのを見ると、そこから外へ逃げたのだろう。
「逃げたか・・・今はルマたちを元に戻すほうが先決だな」
シフトは【次元干渉】を使ってルマたちの魅了を解いていった。
一方、会議室から逃走したズィピアスは部下を引き連れて東の森に逃げていた。
「くそ!! 上手くいけばこの国もほかの国も俺のものになったのに!! あのオレンジ頭、許せない!!!」
逃げた森の奥には意識がない多くの人間種や亜人種や魔物たちが座っている。
その数およそ30000。
人間を始め、エルフやドワーフ、獣人などの人間種。
ゴブリンやオーク、オーガなどの魔物に分類される亜人種。
そして、フォレスト・ベアーやフォレスト・ウルフ、ビッグスネークにワイバーンなどの魔物たち。
手にしている武器も着込んでいる防具も様々で統一性が一切感じない。
皆ズィピアスの能力で魅了されて洗脳されていた。
「こうなったら力尽くでこの国を俺のものにしてやる!! 見てろよ! 後悔させてやるからな!!」
ズィピアスの高笑いが森中に木霊した。




