93.国際会議
「よう、随分と派手にやったな、シフト」
「ナンゴー辺境伯」
周りが騒然としている中、気さくに声をかけてきた人物、それはナンゴーだった。
「いやまさか公国のフーズィン王子殿下を公開処刑とか正直すげぇなと感心したぞ」
「・・・まさかこんなことになるとは思ってもみなかったけどな」
シフトとしてはフーズィンに反省してもらい、二度とローザやルマたちにちょっかいをかけなければそれでいいと思っていた。
公国を滅ぼすというのも単なる脅しで使ったはずだったのだ。
ところが変装した公国の国王レクントが突然現れて有ろう事か息子フーズィンの首を差し出すと言い出して止めるに止めれない状況に追い込んでしまった。
結局その場の雰囲気でフーズィンの首で手打ちになってしまったのだ。
シフトとしては内心やりすぎたと反省しているが、ルマたちに何かするなら容赦しなかっただろう。
「仕方ないだろ? もう過ぎたことなんだから。 それにあれは女癖が悪いので有名なんだ。 親が頭を抱えていると聞いたことがあるぜ」
「そうなのか?」
「ああ、だから丁度いいと思ったのだろう。 この機会に処分できて内心悩みの種が1つ減っただろうな。 だけどお前という新たな問題ができたけどな」
「国を背負うものも大変なんだな。 ところで女癖ならナンゴー辺境伯様も負けてないだろ?」
「ああん? 俺よりもお前のほうが女癖悪いだろ? あの嬢ちゃんたちを侍らかすだけじゃとどまらずタイミュー女王陛下もお前に気があるような素振りしてたぞ?」
シフトは獣王国を離れる前日にタイミューから口づけされたことを思い出す。
まぁ、そういう意味だろうなとはうすうす感づいていたけど。
正直に話すと面倒になるのでしらばくれることにした。
「タイミュー女王陛下が? それは光栄だな」
「ちっ! 良い女はみんなお前の所に行くとか世の中不平等だよな」
「まぁまぁ、そう凹まないで」
「それはまぁいいとして・・・シフト、別れてからたしかデューゼレルに行ったんだよな?」
「ああ、あれから砂漠を越えてデューゼレルに行ってからここに来た・・・っていうかあの砂漠にサンドワームがいるなら早く言えよ! 越えるの大変だったんだからな!!」
シフトはナンゴーに文句をいったが、呆れた口調で返される。
「まさかあの砂漠に突っ込むバカがいるとは思わなくてよ・・・正直死にに行くようなものだなって・・・」
「死にはしなかったけど1000匹以上相手にさせられてうんざりしたよ」
「1000匹ってお前よく生きていたな」
「襲ってきた奴ら全部返り討ちしたからね」
ナンゴーはそれだけ聞くと額に汗をかいていた。
「大変だったんだな。 それでデューゼレル行ってここに来たんだよな?」
シフトに対してナンゴーはなぜか確認するように聞いてくる。
「ああ、その通りだよ」
「シフト君、いくらなんでもこの短期間にパーナップからデューゼレル、そしてスターリインを行き来できる訳がない。 どのような手品を使ったんだ? 白状しろ」
ナンゴーの言葉を聞いて、失言したことを内心で舌打ちする。
「いや、そこは根性で・・・」
「できる訳ないだろ!! いくらお前が規格外だからって明らかに可笑しいだろ!!!」
「実は馬・・・そう、早馬を乗り継いできたんだよ」
「無理するな。 お前のことだ、どうせ馬よりも便利な物を作ったんだろう?」
確信めいた発言にシフトはお手上げのポーズをとる。
「はぁ、グラントといい、ナンゴーといい、そういう方面には鼻が利くんだな」
「ふん、あまり貴族を舐めないほうがいいぞ。 利便性があるなら俺にも1つ作ってくれよ」
「ダメだ。 グラントにも言ったが過ぎた技術が広がれば身を亡ぼすことになる」
「相変わらず頭の固いことだ。 まぁ今回の件で国内外ともにお前の脅威は認知されたけどな」
シフトは周りを見ると大半の貴族たちが遠巻きにこちらを伺っている。
「やっかいなことになりそうだな」
「気を付けたほうがいいぞ? 俺よりもしつこくて粘着がある奴もいるからな」
ナンゴーは脅すようなことを言うと背を向けた。
「ああ、そうだもう1ついいことを教えておくか。 公国の国王は変装好きだ。 近づく者に気を付けることだな」
それだけ言うとナンゴーは貴族たちの輪に戻っていく。
シフトも警備を再開すべくグラントのところに戻っていった。
トラブルはあったがその後の晩餐会はつつがなく終了する。
宴が終わるとグラントからの小言と部屋を用意した旨を聞かされる。
シフトは礼を言うと用意された部屋へと向かう。
広い王城の中、1人で歩いていると前から騎士が歩いてくる。
その騎士はシフトの前まで来ると気さくに声をかけてきた。
「お疲れ、今日は大変だったな」
「ああ、それで僕に何の用だ? 公国の王様」
「私は一介の騎士で・・・」
「血の匂いが残っているぞ」
「ふ、ふははははは・・・まさかこうも簡単にわしの変装を見破るとはな」
騎士は徐に自分の顔に手をかけると皮を剥く。
そこには晩餐会の席で見かけた公国の国王レクントがいた。
「それにしてもよくわかったな」
「姿形だけでなく匂いも変えておくんだな」
シフトはああ言ったが実はブラフである。
先ほどのナンゴーとのやり取りを思い出して咄嗟に口にしたのだ。
「忠告感謝する」
「それで僕に何の用だ?」
「単刀直入に言う。 わしと一緒に公国に来ないか?」
「断る。 僕が公国に行く理由はない」
「ふ、そうか。 なら仕方ないな」
シフトの回答を予知していたのかレクントは簡単に諦めると踵を返す。
「まぁ、目的も達成したし、わしは自分の部屋に戻るよ」
それだけ言うとさっさとシフトの前から去っていった。
「なるほどね。 目的は勧誘ではなく視察だったわけか。 しかし、あの変装は厄介だな」
シフトはレクントの脅威を一段階上げたのだった。
翌日───
シフトはなぜか国際会議の場に護衛として参加していた。
政に参加しないと明言したのだがグラントがふざけたことを言ってきたのだ。
「ルマ嬢たちがタイミュー女王陛下の護衛を務めているのに主がサボるのか?」
グラントはルマたちを盾にシフトを引き摺り出したのだ。
会議の場には案の定ルマたちが護衛についている。
ルマたちやタイミューは緊張していたがシフトを見るとその糸が少し緩んだ。
だが、シフトに注目したのは何もルマたちやタイミューだけではない。
それは円卓に座っているエルフの女長老エレンミィア、ドワーフの鍛冶王ラッグズ、今は変装せずに素の顔で参加している公国の国王レクント、それに昨日の晩餐会をつまらなそうにしていた皇国の皇子殿下チーローだ。
成り行きを知らない帝国の皇子殿下ズィピアス以外のすべての首脳たちがシフトに一目置いている。
その視線を一身に受けたシフト。
(おいおい、何なんだ? このねっとり絡みつく好奇な視線の数々は?)
まるで客寄せパンダの気分だ。
「皆揃ったようなので会議を始めるとしよう」
「待て。 会議の前にわしから話がある」
グラントの発言にレクントが声を上げると立ち上がりタイミューに向いて頭を下げた。
「タイミュー女王陛下、昨日の晩餐会で愚息が大変失礼なことをした」
「ア、アタマヲアゲテクダサイ。 ワタシハキニシテナイノデ」
「そうか、済まない。 それとグラント王、これは昨日の迷惑料だ。 受け取ってほしい」
レクントの後ろに控えている者が縦横高さが30センチほどの木箱を有ろう事かシフトに渡した。
「たしかに受け取った」
シフトは近くの机に木箱を置くと周りに気づかれないように[鑑定石]で調べるとそこには公国の王子殿下の首と表示された。
(うげ・・・あの男、本気であれの首を送ってきやがった)
見なかったことにして気持ちを切り替える。
「それでは改めて会議を始めることをここに宣言する」
開催国の王であるグラントが司会進行を兼ねるようだ。
それからは国同士の話がこれでもかと議論されていく。
食料問題、水問題、資源問題、環境問題、生態系問題などいろいろな問題を議論していく。
そして人権問題について話を始めたとき、今まで碌に参加していなかったズィピアスが唐突に声を上げる。
「そんなことは議論しなくてもいい。 なぜなら、お前たち全員が俺に従えばすべては丸く収まることだ」
その言葉は新たな火種を生み出した。




