92.なに人の嫁に手を出してるんだ!! ゴルァ!!! 〔無双劇11〕〔※残酷描写有り〕
シフトとグラントがいる玉座に5人の他国の重鎮が近寄ってくる。
そのうちの2人はエルフとドワーフだ。
「お久しぶりです、グラント国王」
「グラント、息災で何よりだ」
「つまらぬ宴だ」
「・・・」
「眼鏡にかなう者はいないな」
エルフとドワーフは友好的な挨拶をするが、残りのシフトより少し大人な3人はプライドが高いのかグラントに対してまともに挨拶すらしない。
「これはこれは遠路遥々王国に足を運んでくれるとはな。 エレンミィア殿、ラッグズ殿、ズィピアス殿、チーロー殿、フーズィン殿、今日は国を挙げて最高のもてなしを用意している。 最後まで楽しんでくれ」
「まぁ、それは楽しみですわ」
「美味い酒が用意されているなら飲むしかないのう」
「余興すらないのか」
「・・・」
「華がないな」
一国の王であるグラントが挨拶しているがエルフとドワーフ以外の3人は興味がないのか早々にその場を離れた。
「ところでそちらの護衛はずいぶん若いですわね」
「とても強そうには見えないがな」
「シフトのことか? 強いぞ。 見かけで判断すると痛い目に合う」
グラントが紹介するのでシフトは会釈だけした。
「へぇ、見かけによらないと言うことかしら」
「ほうグラントがそこまで言うとは興味深い」
どうやらこのエルフとドワーフに興味を持たれてしまったらしい。
「折角の宴だもの私はもう少し楽しむわ」
「わしはグラントが用意した酒を飲みに行くとしよう」
「2人ともまたあとで」
エルフとドワーフはそれだけ言うとそれぞれ別の場所に歩いて行った。
「シフト、ずいぶんと気に入られたな」
「先ほどの2人にですか?」
「ああ、あの2種族はなかなか人に興味を持たないので有名でな。 初見であのような反応をするのは余も初めて見た」
グラントがいうに最初の友好的な2人はエルフの女長老エレンミィアとドワーフの鍛冶王ラッグズだ。
そしてすぐに場を離れた3人が帝国の皇子殿下ズィピアス、皇国の皇子殿下チーロー、公国の王子殿下フーズィンというらしい。
シフトは3人の王子殿下を見た。
つまらないと切り捨てた帝国の皇子殿下ズィピアスは会場の出入口へと向かっていくと早々に出て行った。
皇国の皇子殿下チーローは一応責務を果たすためか部屋の隅で大人しく宴が終わるまで待つらしい。
この2人の皇子はつまらぬ余興とはいえ迷惑にならないよう最低限な行動をしているから問題ない。
シフトはもう1人の公国の王子殿下フーズィンを見る。
そこには何かをチラチラ見て品定めをしている感じだ。
(? あれは何をしているんだ?)
嫌な予感がする。
シフトはそう直感した。
それはすぐに現実のものとなる。
フーズィンは有ろう事かタイミューとローザたちのところに歩き出したのだ。
「おい、そこのケモ耳女。 これから俺のために時間を作れ」
その発言はまるで自分がこの世の支配者然とした態度であった。
「スミマセン。 コレカラコノクニノオウニアイサツシナイトイケナイノデ・・・」
「そんなつまらぬ雑事など放っておけ」
タイミューが断るとフーズィンは無理矢理に彼女の手を取った。
「ハナシテクダサイ」
「いいじゃねぇか? なぁ・・・」
「申し訳ございません。 タイミュー女王陛下がお困りです。 手を放してあげてはもらえないでしょうか?」
ローザがタイミューを守るべくフーズィンに声をかけた。
せっかく見つけた獲物を口説こうとして邪魔されたのかフーズィンはイラついた眼でローザを見る。
「下郎が! この俺を公国の王子フーズィンと知っての発言か!!」
「わたしはご主人様の命によりタイミュー女王陛下をお守りしております」
ローザがそう言うとフェイとユールもタイミューを守るべく行動する。
「その首にあるのは?! 貴様、奴隷の分際で俺に指図するなど・・・よく見るとお前なかなか良い顔してるじゃないか」
それだけ言うとフーズィンは手を伸ばしてローザの胸を鷲掴みにしたのだ。
「!!」
「はっ、顔の割には胸はそんなにねぇな。 まぁ、1晩くらいは遊んでやるよ」
にやにやした顔でフーズィンはローザの胸をまさぐるように揉んでいた。
シフトはその瞬間プッツンしていた。
いつの間にかグラントのことなど放置してフーズィンのほうに歩いていた。
「放してはもらえないだろうか」
「ああん? 奴隷如きが随分なことを言うもんだな? ここで辱めを与えてもいいんだぜ」
フーズィンが文字通りローザを辱めようと動こうとしたその時、シフトが肩を全力で叩いた。
バキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
あまりの威力に鎖骨、肩峰、肩甲骨、関節窩など肩の骨が折れて、その勢いでバランスを崩して転倒する。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」
フーズィンは激痛に叫ばずにはいられなかった。
その叫び声に釣られて会場の人々がシフトを見ている。
地面では肩を抑えて転げ回るフーズィンがいた。
フーズィンの護衛たちがシフトを取り押さえようと襲い掛かる。
シフトはこの瞬間アルデーツ並みの視野で会場内のありとあらゆる情報を手に入れた。
無意識のうちに【念動力】を使用して卓上に置かれた無数のナイフやフォークをフーズィンの護衛たちの腕や脚にぶつけたのだ。
護衛たちも激痛にその場に倒れこむ。
「き、貴様!! この俺にこんなことしてただで済むと思っているのか!!!」
「ただで済まなかったらどうするつもりだ!! ああん!! てめぇこそ人の嫁に手を出してただで済むと思うなよ!!!」
シフトはフーズィンの胸ぐらを掴むと目線の高さまで持ち上げて顔面に一発拳を叩きつける。
ゴキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
拳を引っ込めるとハンサムなフーズィンの鼻が凹み血が出ていた。
「ぎ、ぎざま・・・ご、ごんなごどじで、だ、だだでずむど・・・」
「まだ言うか!!!!!」
シフトは再び顔面に一発拳を叩きつけた。
ゴキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
拳を引っ込めるとフーズィンの鼻はさらに凹んでいる。
「・・・お、おの・・・れ・・・」
「二度と手出しできないように徹底的に叩きのめしてやる!!」
シフトはフーズィンの腹に拳や膝蹴りをこれでもかと叩き込む。
1撃1撃加える度にフーズィンは内臓を損傷したのか吐血していた。
「・・・お、おまえだぢ・・・ば、ばやぐだずげろ・・・」
なんとかこの状況から逃げたい一心で命令する。
フーズィンの護衛たちもなんとか助けようとするがその度にナイフやフォークが襲ってきて、それどころではなかった。
しかし、護衛の1人が痛みを堪えてついにシフトに襲い掛かろうとするがそこにいるのがわかるように打撃を放ったのだ。
するとそれに吸い込まれるように攻撃を受けて傍観していた来賓客のところまで吹っ飛んでいく。
当然騒ぎは大きくなる。
その後もシフトの暴力は振るわれ続けた。
5分後───
地面にはボロ雑巾にされたフーズィンと助けようとした護衛の無残な姿があった。
シフトはフーズィンの目の前でしゃがむと髪の毛を引っ張りながらこちらに顔を向けさせる。
「・・・ご、ごんなごどをじで、ご、ごうごぐをでぎにまわずごどになるぞ・・・」
「ああん!! ならその権力でいますぐ僕を殺してみろよ!! ほら、殺れよ!! 殺ってみろよ!!!」
「びぃっ!!!!!」
シフトが拳を作るとフーズィンは明らかに拒絶反応をしていた。
「決めた! 公国を滅ぼしに行く! こんなバカがいる国はさっさと滅ぼすに限る!!」
「待たれよ」
シフトの発言に1人の老人が前に出てきた。
「今僕は頗る機嫌が悪い。 邪魔をするならあんたも潰すよ」
老人は自分の顔に手をかけると皮を剥いた。
その下から初老の顔が露になる。
フーズィンは目を見開いて一言いった。
「・・・ぢ、ぢぢうえ・・・」
「わしは公国を束ねる国王でレクントという。 愚息が迷惑をかけたこと、ここに謝罪する。 この通りだ」
レクントという公国の国王を名乗る人物が頭を下げてきた。
「・・・だ、だずげで・・・」
「このバカ息子が! あれほど人様の女に手を出すなと忠告したはずだ! それを破りおって! その上王国を敵に回すようなことをしおってからに! 今度という今度は許さん! 自分自身の手で尻拭いしろ!!」
「・・・ぞ、ぞんな・・・」
レクントの発言にフーズィンは絶望したような顔をしていた。
「ああ、盛り上がっているところ悪いが公国を滅ぼしに近日中に出向くことにするから」
シフトの発言にレクントは慌てて声を上げる。
「待っていただきたい。 全ては愚息が起こした騒ぎだ。 わしや公国の民は王国と事を構えるつもりはないのだ」
「そんなの知るかよ。 僕はそいつに嫁を汚されたんだぞ? なら責任をとるのは当然の義務だよな?」
「それは・・・」
レクントが言葉に詰まるとグラントが助け舟を出してきた。
「シフト、落ち着け。 余とて公国と事を構えたくない。 それに領地にしても飛び地のうえに距離がありすぎて統治が面倒なのだ」
「はぁ・・・政治はグラントに任せるけど、そのバカについてはどう責任を取らせるんだ?」
「・・・その首を献上する」
「?!」
レクントは息子フーズィンの首を差し出すと言ってきた。
「正気か?」
「無論だ。 このバカ息子の首1つで国が救われるなら安いものだ」
「ま、まっでぐだざい、ぢぢうえ。 も、もうにどどじまぜん。 だがら・・・だがらだずげでぐだざい!!」
「ダメだ! お前は両国においての戦争の火種になることをしたんだぞ! 到底許されることではない!!」
レクントは腰の剣を抜くとフーズィンに剣先をつきつける。
「ま、まっ、やだ、じにだぐない!!!!!」
「さらばだ、愚息よ」
言葉も空しく剣先はフーズィンの喉を貫いた。
口を金魚のように何度かパクパクと動かすが次第に反応がなくなり物言わぬ躯へと変えたのだった。
「これでケジメはつけた。 後日首を差し出そう」
「・・・1度だけだ。 あんたの誠意に1度だけ許そう。 だけど次同じことを繰り返すのなら・・・」
「その時は滅ぼしに来るがいい。 だが、わしらも黙って滅びるつもりはない」
それだけ言うとレクントはシフトに背中を見せるのであった。




