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89.2つの戦い 〔無双劇10〕

王都スターリイン北側───

「誰?」

「さあ? 名無しの騎士様だろう」

マーリィア王女殿下の護衛の1人だろうが名は知らない。

「お前たちみたいな下賤の者に名を言うのも汚らわしいが名乗ろう。 マーリィア王女殿下直属騎士団団長シルファザードだ。 覚えなくていいぞ、お前たちはすぐにこの世からいなくなるのだからな」

「それはご丁寧にどうも。 だけどわたしたちはあなたに恨みを買うようなことをした覚えはないけどな」

わたしの言葉にベルは頷いていた。

「簡単だ。 お前たちはマーリィア王女殿下の慈悲を無下にした。 これは万死に値する」

「極論過ぎる」

「ああ、その通りだ。 だいたい護衛であるあなたがしっかりしていないからマーリィア王女殿下が狙われたのにな」

わたしとベルの言葉にシルファザードが怒りから能面のような顔へと切り替わった。

それに伴いシルファザードの気配が怒気から殺気へと変わっていく。

「黙れ」

「自分の失敗を他人のせいにしない」

「心配であるなら常にマーリィア王女殿下に同行していれば問題は起きなくて済むはずだ」

シルファザードの額には怒りで血管が浮き出ている。

「黙れと言ったはずだ。 お前たちは今日ここであの日の罪を死で償ってもらう」

シルファザードはそれだけ言うと腰にぶら下げている剣に手を伸ばすと柄を掴み鞘から引き抜いた。

周りでそれを見ていた一般人がシルファザードの行動に目を剥いた。

こんな人通りが多いところで王国の、マーリィア王女殿下直属騎士団団長が剣を抜く。

その意味をシルファザードは理解しているのか? いやしていないだろう。

あの時はマーリィア王女殿下というストッパーがいたから暴走しなかった。

今は違う。

この暴走機関車を止めるものなどここには誰もいない。

(仕方ない。 ベルと一緒に戦ってこの騎士を無力化するか・・・)

わたしがベルに声をかけようとしたが、

「ローザ、ここはベル1人でいい」

ベルが前に出て腰から2つのナイフを取り出すと構える。

「ベル! 正気か?!」

「もちろん。 あの分からず屋を懲らしめる」

ベルを見ると怒っていた。

ご主人様から褒められたり食べ物で美味しいときなどには感情を出すが、それ以外の時はあまり感情を表に出すことがないベルが怒りを露わにしている。

「・・・ふぅ、なら任せた」

わたしの言葉にベルが頷く。

「まずは貴様か。 マーリィア王女殿下の顔に泥を塗ったことを後悔しながら死ね」

言うが早いかシルファザードがベルに突進する。

「「!!」」

シルファザードは一瞬にしてベルの間合いまで移動すると袈裟斬りしてきた。

速い!! なんて速さだ!!

キイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!

周りには金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。

シルファザードの一撃をベルは冷静に両手のナイフを交差して受け止めたのだ。

が、シルファザードはそこから力を籠めて押し込むようにしてベルを斬ろうとする。

「大人しく斬られて死ね!!」

「・・・」

ベルは力を受け流すように左に身体の軸を移動させる。

力の勢いが強すぎたのかシルファザードは1歩前に出てしまい、右半身ががら空きになった。

ベルがその隙を狙ってナイフで攻撃しようとするがすぐに体勢を立て直して剣身で受け止める。

不利と感じたシルファザードは押し返す力でベルのナイフを弾くと自ら距離をとる。

ベルとシルファザードは構え直すとお互いの隙を窺う。

そして示し合わせたかのようにお互いが突進して距離を詰める。

キイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!

再び金属音が鳴り響く。

ベルとシルファザードの武器が接触したのだ。

だが、その後の展開は先ほどとは違った。

シルファザードは力押しでベルに攻撃せずに引くと次の攻撃に移っていた。

ベルも深追いせずに相手の次の攻撃に備えてナイフを構える。

そこからはシルファザードの猛攻が続く。

王女直属騎士団団長を名乗るだけありその力、技術ともに卓越している。

しかし、ベルも負けていない。

右手のナイフは防御に徹し、左手のナイフで攻撃を繰り出す。

ベルはわたしたちがご主人様との旅で鍛え上げた自分の能力をフルに活用している。

金属がぶつかる音が次々と辺りに響く。

両者一歩も譲らない。

互角。

まさにその一言に尽きる。

以前ご主人様とギルバートが戦った時もこのような熾烈な攻防を繰り返していた。

このまま平行線を辿るかに見えたが次第に実力差が現れ始める。

温室育ちのシルファザードに対してベルは常に最前線で戦っていた。

それが如実に現れたのだ。

シルファザードは肩で息をしているがベルは未だに余裕を見せている。

その上であの輝く目(鑑定)だ。

戦闘になってから発動させて常にシルファザードを鑑定しながら戦っている。

相手の生命力、魔力、体力を把握しながら自分のペースに持ち込む。

そしてついに戦いに終止符が打たれる。

シルファザードの突進攻撃を躱すとベルがその隙をついて背中に蹴りを入れたのだ。

「ぐはっ!!」

シルファザードは無様にもその場に倒れてしまう。

「ベルの勝ち」

シルファザードは悔しそうにベルを見上げていた。






王都スターリイン東側───

「なんだ、この前僕に無様に敗北したあんたか・・・」

「随分と生意気な口を叩くな! 小僧!!」

「事実だしな」

シフトはギャンザーに対して覆らない事実を突きつける。

「あの時は油断したが今日はそうはいかんぞ!」

「はぁ・・・まだやるの?」

「安心しろ、お前は今日ここで我の手により死ぬんだからな」

言うが早いか腰の剣を抜く。

「やれやれ・・・ユール、離れてろ」

「畏まりました、ご主人様」

ユールは素直にシフトから離れて十分な距離をとる。

「今生の別れは済んだか? なら死ぬがいい!!」

ギャンザーはシフトに剣を横薙ぎするが当たらない。

それもそのはず、シフトの【五感操作】でギャンザーの距離感、平衡感覚はすでにずれているのだ。

目に頼って攻撃する時点でギャンザーに勝ち目はほぼない。

そうとは知らないギャンザーは次々とシフトに攻撃する。

【五感操作】を使われた時点で勝ち目がないのにだ。

周りの人たちもギャンザーの空回りの攻撃に指をさして笑っている。

ユールはというと額に手を当てて『ご主人様、やりすぎですわ』って態度に出ていた。

ギャンザーは怒りを露わにして更なる連続攻撃を繰り出す。

「おのれ!! 小僧!!!」

攻撃が当たらないことに憤怒したギャンザーはあろうことか【火魔法】を放ったのだ。

シフトの直線状にはユールやほかの関係ない人たち、それに屋台などが立ち並んでいる。

(何を考えているんだ! あのバカ(ギャンザー)!!)

シフトは素早く胸当てに埋め込まれた魔石に魔力を流す。

すると水と土の壁が出現してギャンザーの放った火球が壁に衝突し霧散する。

しばらくすると壁は音もなく崩れた。

「なんだと?! おのれ!!!」

ギャンザーは周りのことなど気にしないで【火魔法】を放ち続ける。

その度にシフトの前に水と土の壁が展開して直撃を防いでいた。

「はぁはぁはぁ・・・ぐぬぬぬぬぬ・・・」

度重なる魔力を消費した攻撃も当たらなければ意味がない。

「さすがにやりすぎだ! このバカ(ギャンザー)!!」

シフトはギャンザーに近づくと腹パンを食らわした。

「ぐふっ!!」

ギャンザーは吹っ飛ばされて道のど真ん中に仰向けに倒れた。

「・・・ぐ、ぐぅ・・・お、おのれ・・・よ、よくもやってくれたな!! 小僧!!!」

気合でなんとか立ち上がるギャンザーだが、ここまでの実力差を見せてもまだ戦うつもりだ。

「止めとけ。 今のあんたじゃ逆立ちしても僕には勝てないよ」

シフトの一言が逆にギャンザーのプライドを刺激し、火に油を注ぐことになった。

「我を誰だと思っている!! いずれはグラントに代わりこの国を支配するギャンザー伯爵だぞ!! その我に対してこの仕打ちは万死に値する!!!」

あまりの激怒に『国に謀反あり』といった内容をギャンザーは口走ってしまった。

(おいおい、往来の場でその発言は不味いだろ!!)

ユールもシフトと同じらしく『何考えてるのよ?!』といった顔をしていた。

だが、周りの人たちは違う。

「あいつ、何を言ってるんだ?」

「この国の王になる? 寝言は寝て言え!!」

「あんな野蛮で独り善がりな人はこっちから願い下げよ!!」

ギャンザーの一言が瞬く間に人々の耳に入る。

それはもう鼠算の如く人から人へと伝わっていくのだ。

これが『力こそが正義』と明言している帝国ならともかく王国でその発言は禁忌だろう。

周りからはギャンザーに向けられて罵倒する声が次々と聞こえてくる。

「おのれ!! 力さえ・・・力さえあれば!!!」

「ならあんたがいう力をやるよ。 それで僕に勝ってみな」

シフトは有ろう事かギャンザーに対して【限界突破】を使ったのだ。

するとギャンザーの人としての枷が外れ全身に力が漲ってくる。

「ふ、ふふふふふ・・・貴様バカか? 我に力を与えるなど・・・」

「力があれば僕に勝てるんだろ? ならその力でさっさと僕を倒してみろよ」

「生意気な!! 死ね!!!」

ギャンザーは先ほどとは桁違いのスピードでシフトを攻撃する。

だけどシフトは【五感操作】を使わずに余裕で躱した。

ギャンザーは執拗にシフトを狙うがそれでもシフトに当たらない。

それもそのはず、いくら【限界突破】で本来の力を100%以上引き出せてもシフトには届かないのだから。

使う前が天と地の差があったのだから縮んだところで大差ないのだ。

シフトの力の底を知らないギャンザーは攻撃の手を緩めない。

上段斬り、袈裟斬り、横薙ぎ、切り上げ、刺突とあらゆる角度から攻撃するもすべて避けられる。

「く、なぜだ! なぜ当たらない!!」

「簡単だ。 あんたと僕では実力差がありすぎるからだ」

「認めん! 認めんぞ!! 今の我こそが最強なのだ!!!!!」

「なら、最強の夢を抱きつつ地面に這いつくばるんだな」

シフトは一瞬にしてギャンザーの後ろをとると腕をとり一本投げの要領で地面に叩きつけた。

「がはっ!!!」

俯せに倒れるギャンザーにシフトは言葉で追い打ちをかける。

「夢は見れたか? なら代償を受け取るがいい」

シフトはギャンザーにかけた【限界突破】を解除した。

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」

ギャンザーはあまりの激痛に叫ばずにはいられなかった。

身体中に痛みが伴いまるで陸に上げられた魚のように跳ねていた。

戦いを見ていた周りの人々は指をさして笑っている。

ただユールだけが蒼い顔をして『あ、あれはご主人様の・・・』と呟いていた。

「これに懲りたら二度と分不相応の夢は見ないことだな」

シフトは激痛で苦しんでいるギャンザーを放置してユールのところに戻るのだった。


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