88.それぞれの再会
ご主人様が国王と話しているときにベルはマーリィアを相手に押しつけられた。
「ベルは王都を出てからどこに行ってたんですか?」
「西」
「西ってナンゴー辺境伯が治めるパーナップ辺境伯領まで行ったんですか?」
マーリィアの質問にベルは首を横に振る。
「もっと西」
「? もっと西って確か獣人が住む獣王国?」
「そう」
ベルは首を縦に振るとマーリィアは驚いた。
「獣王国ってどういうところですの?」
「ここと変わらない」
「それだけではわかりませんわ」
ベルは考えると口にする。
「うーん、普通の人間と違って耳と尻尾がある」
「それも知ってます。 それ以外にないんですか?」
「身体能力が人間と違う」
「それも知っています」
マーリィアは博識なのかなんでも知っていてベルは正直困っている。
「うーん、わからない」
「そうですの・・・獣王国に行ってここに戻ってきたのですか?」
ベルは首を横に振ると行き先を答える。
「デューゼレル辺境伯領に行った」
「そう、デューゼレル辺境伯領に・・・って、デューゼレル辺境伯領ですって?!」
「何を驚いている?」
「だって獣王国からデューゼレル辺境伯領に向かったってことですわよね?」
マーリィアの問いにベルは首を縦に振る。
「極西から極南ってあの場所には砂漠があるはず」
「マーリィア、よく知っている。 その通り砂漠がある。 越えるのが大変だった」
「お父様や家庭教師に教わりました。 あの砂漠には危険なモンスターが生息していると」
ベルはマーリィアの内容に答える。
「サンドワーム」
「サンドワーム? サンドワームとはどんなモンスターですか?」
「ミミズを大きくしたもの。 先端が口で人間の口と違って上下左右斜め全てに鋭い歯がついている」
マーリィアは想像して顔を蒼褪める。
「そ、そんなモンスターとた、戦ったのですか?」
「戦って倒した。 だけどご主人様はベルが倒した倍以上の大きいサンドワームを1人で倒してた」
そう言うとベルはご主人様を見るとマーリィアもベルの視線を追っていく。
「ベルのご主人様は凄いんですね・・・」
「自慢のご主人様」
マーリィアはベルの顔を見ると嬉しそうな悔しそうなどちらともわからない顔をしていた。
「マーリィア?」
「ベルはあの男性が好きなんですか?」
「好き。 ベルの旦那様」
「なっ?!」
マーリィアは驚いているけどそんなに変なことなのかな?
「変?」
「い、いえ、変ではありません・・・」
「そう」
「ほかには何があったのかしら?」
「デューゼレル辺境伯領の首都テーレで戦った」
ベルの言葉を聞いたマーリィアはまた驚いている。
「え?! 首都テーレってこの前モンスターの襲撃を受けていましたよね?」
「都市の外も内もモンスターがたくさんいた」
「そんな中よく生きてましたね」
「ルマがいたから楽に勝てた」
そう言うとベルはルマを指さすとマーリィアは指されたほうを見る。
「あの赤い髪の女性ですか?」
「怒らすととても怖い」
「そうなんですね」
マーリィアはベルの言葉にビクッとした。
「戦い終わってここにまた来た」
「そうだったんですか・・・ベルは色々なところに行ってるんですね」
「ご主人様が行くところにベルも付いていく。 それは当たり前のことだから」
感慨に耽っているマーリィアを放って置いてベルはご主人様を見る。
(ベルはいつまでもご主人様の後ろを付いていきます)
ベルは誰にでもなく自分に言い聞かせたのだった。
わたしたちが王都スターリインに到着した翌日───
わたしとベルは王都内の硝子職人の工房を見て回っていた。
ご主人様が魔動車の風除け対策に硝子を使うことを提案していたのでここにいる間に硝子の購入かできれば自分で作成したい。
「購入はできるが大きい硝子はなかなか売ってないな」
「普段の用途ではあれで十分。 だけど魔動車に取り付けるには不十分」
「まぁ、そうなんだけどね」
「あれなんて取り付けたらかっこいい」
「どれどれ」
ベルが指さしたガラスを見る。
継ぎ接ぎだらけのステンドグラスだった。
「いや、かっこいいけどあれはダメだろ?」
「かっこいい」
わたしは前面にステンドグラスをはめた魔動車を想像する。
うん、運転が難しすぎるな・・・
「やっぱり却下かな。 できれば工房で硝子体験したかった・・・」
「それなら問題ない。 ベルの鑑定で材料と分量と作成工程を覚えたから」
「さすがだな。 なら材料だけでも購入していくか」
わたしとベルは王都の大通りにある商店街にやってくると雑貨店を見て回る。
何件か回るとベルがお目当ての材料を見つけることに成功した。
「ローザ、ここの店に硝子を作るのに必要な材料が全部揃ってる」
「本当か? それは助かる」
「これとこれとこれ」
ベルが指した物は大きい袋に入った粉物だった。
持って帰るのが大変そうだ。
「すみません。 これとこれとこれをください」
「はいよ。 えっと、石英、ソーダ灰、石灰・・・なんだいあんたたち硝子でも作るのかい?」
「ええ、店頭で売っている硝子だとサイズが合わないので自作しようと思いまして」
「へえ、物好きもいるもんだね。 手で持っていくのは大変だろうから台車も必要になるかな。 全部で銀貨15枚になるよ」
わたしは革袋から銀貨15枚を渡すと店員が台車を持ってきて、石英、ソーダ灰、石灰の入った袋を乗っけていく。
「ありがとうね。 また来ておくれ」
わたしとベルは雑貨屋から出ると台車を引きながら街中を歩く。
「意外と嵩張る買い物になってしまったな」
「粉ばかり」
「ははは・・・そうだけど。 そういえば昨日はマーリィア王女殿下とずいぶん仲良く話してたけど」
マーリィアという単語を聞いてベルは顔を顰めた。
「あれは仕方なく。 ローザ、助けてくれてもよかったのに」
「はは、ごめんごめん。 だけどベルもこの機会にマーリィア王女殿下と仲を良くしたほうがいいよ」
「ベルには仲良くなる必要はない」
わたしは内心やれやれと思った。
2人で他愛もない会話をしていると、
「見つけたぞ無礼者! いや、卑怯者!!」
後方から突然大きな声が聞こえたので後ろを振り返る。
そこには1人の女騎士がわたしとベルを見ていた。
その覇気には覚えがある。
前回王都に来た当日にあったあの女騎士だ。
「今度は逃がさない!! 覚悟しろ!!!」
女騎士の名はシルファザード。
マーリィア王女殿下の王女直属騎士団団長その人だった。
ヤッホ~♪ みんな元気? ご主人様から一番の寵愛を受けているフェイちゃんだよ~♪
今、ぼくはルマちゃんと一緒に王都スターリインを散策している最中です。
前回は巨大モンスターのせいで散々だったけど今回はそんなことが発生しないことを祈っているよ。
『あ、それフラグだよ』とか言わないで、現実になっちゃうから。
「フェイ? 明後日の方向を見てどうしたんですか?」
「決まってるじゃないか、読者のみんなに挨拶していたんだよ」
「? よくわからないけどそうなんですね」
なぜかルマちゃんが視線を逸らして距離をとった。
え? ちょっとノリが悪くない? 挨拶は大事だよ? そんな訳で今回もよろしくね。
さてさて今回訪れているのは王都スターリイン。
王都に来たのは人生2回目ですよ。
2回もくればぼくだって立派な都会っ子でしょう。
え? 都会に住んでないのにそんなこと言うな? いいじゃないか気分だけでも浸ったって。
はぁ、現実は厳しいなぁ・・・いつかぼくだって(以下略)。
そんなことを考えていると西門側の観光名所である聖教会や大聖堂が見えてくる。
前回は建物に被害があって全容は見えなかったけど、修復された建物はそれはそれは立派だった。
「すごいね。 あの時は修理中で外観が見られなかったのに」
「そうですね。 たった1年で完全に戻っているとは私も驚いています」
「やっぱり宗教ってすごいね。 いや金の力ってすごいね」
「言わんとしていることはわかりますが・・・」
だって宗教って金がかかるんだよ? だけどそれ以上に金が入ってくるんだよ? 金の流れってすごいよ。
ぼくも宗教立ち上げて教祖やってみようかな・・・
え? お前じゃ無理だ? 出直してこい? そんなのぼくだってわかってるよ。
こういうのはぼくじゃなくてベルちゃんあたりが最適かな。
あの不思議オーラでみんなを虜にしてそう。
あ、想像したらベルちゃんが本当に教祖になってそうで怖い。
うん、今のは考えなかったことにしよう。
そんな1人ボケツッコミをしていると西門から複数の豪華な馬車がこちらに向かってゆっくりと走ってくる。
その馬車の前方と後方では旗が違っていた。
前方のはたしか獣王国の旗だ。
ってことはあれはもしかしてタイミューちゃんが乗ってるの?
「ねぇねぇ、ルマちゃん。 あれって・・・」
「ええ、きっとタイミュー女王陛下だと思います」
「だよね。 じゃあ後方のは?」
後方の旗を見るとどこかで見たことがあるんだけど思い出せない。
いや思い出したくないと脳が訴えている。
「うーーーーん、ぼくの脳が思い出すなって警告してる」
「奇遇ですね。 私の脳もフェイと同じです」
そんなやり取りをしていると獣王国の馬車が僕たちのところで止まった。
窓が開くとそこにはタイミューちゃんがいた。
振り返ると6ヵ月ぶりになる。
懐かしい記憶だな・・・ちょっと年寄り臭い。
「ルマ、フェイ、ヒサシブリデス」
「お久しぶりです、タイミュー女王陛下」
「久しぶり、タイミューちゃん。 元気にしてた?」
「ハイ、ダケドクニヲマトメルノニクロウシテイマス」
「そうなんだ、体には気を付けないといけないよ?」
「ハイ」
それからぼくたちはしばらくタイミューちゃんと話していると後方から怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、お前ら!! 俺にも挨拶しろ!!」
後方の馬車から聞き覚えのある人物が叫んでいるが無視をする。
だって関わると面倒だから。
わたくしは今ご主人様と東門のほうに歩いています。
ベルさんとローザさんは硝子を求めて北通りの商店街を散策。
ルマさんとフェイさんは教会巡りに西門へ。
故意なのか偶然なのかはさて置きご主人様と2人きりで、デ、デ、デートですわ。
「ユールと2人きりなんて久しぶりだね」
「は、はい」
「もしかして僕とではつまらないかな?」
「そんなことはございませんわ。 むしろルマさんたちに感謝すらしていますわ」
「なら楽しい時間にしよう」
「はい♡」
わたくしはご主人様の左隣に並ぶと思い切って左腕を掴んでみる。
普段はルマさんの目があるのでできませんが、こういう時だからこそ自分をアピールしないといけません。
恐る恐る顔を見ると優しそうな笑顔でわたくしを見てくれます。
わたくしとて1人の女の子。
好きな殿方といつまでも一緒にいたい気持ちがありますわ。
それからわたくしはご主人様と一緒に屋台を巡って歩いていました。
観光名所である滝と庭園が近くにあるのか観光客目当ての露店が多く並んでいるのも特徴的ですわ。
焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、肉の串焼き、おでん、杏飴、りんご飴、かき氷、ソフトクリーム、鯛焼き、大判焼き、・・・
ちょっと寄ってはペロリと食べてしまいます。
あ、このままだと太ってしまいますわ。
自制しないと・・・
食べ物以外にも射的、輪投げ、お面、くじ引きなどがあってわたくし個人はとても楽しいですわ。
ご主人様も笑顔を見せることが多くこのまま続かないかなと柄にもなく思ってしまいました。
ですが夢というのは唐突に終わるもの。
東門から1両の馬車がこちらに向かってきた。
とても豪華な馬車で一目で高貴な貴族が乗っていると判断できる。
わたくしたちの目の前まで来ると急に止まった。
『小僧、まさかこんなにも早く会えるとは思っても見なかったぞ』
馬車から聞こえてきた声には聞き覚えがある。
わたくしは慌てて馬車の旗を見ると、
(あれはヴァルファール伯爵の御旗?! まさか!!)
馬車の扉が開きそこから出てきた人物がそれはベルの父親でありヴァルファール伯爵領領主であるギャンザー伯爵だった。




