80.キマイラ 〔※残酷描写有り〕
領主の館付近にやってきたシフトたちは大量の巨大モンスターと戦っている騎士たちを見かける。
シフトはルマたちに命令すると大鎌を持った1人の女性が巨大トロールと戦っているので援護しに行った。
横から一撃を与えるとそれを見据えた攻撃をする。
シフトが攻撃すればそれに合わせて絶妙なタイミングで攻撃を続ける、阿吽の呼吸のように連携してくるのだ。
(この女性、かなりの使い手だ)
巨大トロールの額にナイフを刺して抜くと同時に魔石に魔力を流して火をつける。
身体に纏わりついた火を消そうと転がりまわるが全体に移りやがて息絶えた。
女性の安否を確認するが疲れているのだろう、疲労が顔に出ている。
「ユール、こっちに来てくれ」
シフトはユールを呼ぶとすぐにやってきた。
「ご主人様、どうされましたの?」
「この女性の回復を頼む」
「畏まりましたわ」
ユールが女性の治療をしようとすると、
「待って、わたしはまだ戦える。 それより部下を・・・」
女性が口を開くよりも早く周りがざわざわとどよめく。
ルマ、ベル、ローザ、フェイが加わったことで今までの不利な状況が一気に逆転したのだ。
ルマは【火魔法】や【風魔法】で巨大モンスターの顔面を的確に攻撃する。
ベルたちは相手の攻撃を避けたり、受け流しながら隙ができたところを武器で一撃を与えていく。
「あの少女たち、強い」
「彼女たちなら大丈夫だ。 なにしろ僕の自慢の仲間だからな」
女性が落ち着くとユールは【生命力回復魔法】をかける。
すると女性の顔から疲労が抜けていく。
「すまない、助かった。 えっと・・・」
「シフトだ」
「ユールですわ」
「シフトさ・・・んん、シフトか、わたしはここデューゼレル辺境伯領を治めているモター辺境伯の筆頭護衛メーズサンだ」
メーズサンは顔を赤らめながらシフトに自己紹介をする。
この雰囲気にいち早く気づいたのは同じ女性であるユールだ。
「ん、んん・・・」
「あ、ユールも回復魔法ありがとう」
「どういたしましてですわ」
今のユールはルマと同じというわけではないが女性の言動に敏感に反応していた、プチルマ状態である。
気を取り直したメーズサンは余裕ができたのか戦況を改めて分析する。
「相手が押しているが、シフトたちの助勢で戦局はこちらに傾きつつあるか・・・シフト、ユール。 すまないがここが落ち着くまで手を貸してほしい」
「わかった」
「ご主人様の判断に従いますわ」
シフト、メーズサンは苦戦しているところに、ユールは【光魔法】で牽制しつつ重症者のところまでいって回復や治療を開始する。
踏ん張っていた騎士たちもメーズサンが助太刀に来てくれたことで活気を取り戻し反撃に転じた。
シフトたちも負けじと巨大モンスターを相手にしていく。
優勢だった巨大モンスターたちは次々と撃破されていった。
「止め」
最後の巨大モンスターに一撃を加えたベルが呟く。
これにより領主の館前の巨大モンスターの大群は全滅することに成功した。
騎士たちはもう動けないという感じでその場に座り込んだり大の字に寝転がったりしている。
メーズサンは動ける部下たちに命令をしてからシフトのところまでやってきた。
「シフトさ・・・んん、シフト、この度の助力感謝する」
「気にすることはないよ。 えっと、メーズ?」
「? ああ、すまない。 わたしの名だがメーズサンまでが名前なんだ。 周りからはよくメーズ、メーズと呼ばれているので気にはしてないがな」
「失礼した。 メーズサン」
シフトが謝罪するとメーズサンは挙動不審な動きをする。
「あ、あ、あ、謝らないでください。 わたしも気にしていませんから」
「ご主人様、メーズサン様も言ってますので気にすることはありません」
「ひぃっ!!」
シフトへの感情に敏感なルマがメーズサンに向けて負のオーラを放っていた。
それは先ほどのユールの比ではない。
メーズサンはルマのあまりの豹変に変な声を出していた。
「ルマ! やめろ!! すまない、メーズサン。 僕の仲間が迷惑をかけた」
シフトが再びメーズサンに謝罪する。
「大丈夫、気にしていない。 それよりもこの都市にいる残りのモンスターも討伐したい。 できればこの騒動が落ち着くまで力を貸してほしい」
「わかりました。 先ほどの非礼も兼ねてここにいる間ですが力になりましょう」
「ありがとう、助かる」
メーズサンはシフトの助力に感謝し、笑顔で応える。
ルマが不機嫌そうになるが、先ほどの失態からか傍から見ても我慢しているのがわかる。
「それでこれからの方針は?」
「ああ、残党を・・・」
そこに騎士の一人が割って入ってきた。
「メーズ様!! 大変です!! 今までに見たことがない巨大モンスターがこちらに向かってきます!!!」
「なんだと?!」
それを聞いたフェイが集中して周りを見回すとある一点を凝視する。
「ご主人様、あちらの方角から1匹のモンスターがこちらに駆けてきます」
フェイが指さすほうを見ると遠目からでもわかるように四足歩行でやってくる巨大モンスターがいた。
不可解な点が1つある。
それは身体中が継ぎ接ぎだらけなのだ。
胴体は狼や虎などの地を駆ける獣のような身体、背中には鷲や鷹などの空を飛ぶ羽、尻尾は蛇をそのままくっつけている。
そして肝心の顔だがそこにはさまざまな動物の顔が見られた。
どう見ても誰かが実験で作った感満載の巨大モンスターである。
名付けるならキメラあるいはキマイラといったところか。
「みんな気をつけろ! 炎が飛んでくるぞ」
メーズサンは大声で叫ぶ。
その場にいる魔法士たちがすぐに水の壁を生成する。
シフトたちはメーズサンの意味を理解していなかった。
数秒後、キマイラの首の一つが口を開き火の玉を生成して飛ばしてきたのだ。
予め展開していた水の壁にぶつかり対消滅する。
「「「「「「!!」」」」」」
シフトたちは驚いてメーズサンを見てしまう。
(もしかして予知か?! また、厄介な能力だな・・・)
ザールの部下といい、アルデーツといい、そしてメーズサンといい、この世界には厄介な能力者が多いものだ。
だけど今対処しないといけないのはメーズサンではなく目の前にやってくるキマイラだろう。
シフトはルマたちに命令を下す。
「みんな聞いてくれ。 これからあのモンスターを倒す。 後ろ左足をベルとフェイ、後ろ右足をローザ、右側面をルマ、僕は正面から攻撃する。 悪いがユールはここで負傷者の手当てをしてくれ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
「それじゃ、行動開始!!」
シフトたちは弾けるようにキマイラに立ち向かっていく。
「あ?! シフト!! あいつは危険だ!!!」
止めようとするメーズサンだが、それをユールが止める。
「心配しなくても大丈夫ですわ。 ご主人様はすごく強いのですから」
「それは先ほどの戦いを見てわかっている。 わかっているのだがあれは今までのモンスターとは違う。 このままじゃシフト様が・・・」
「! うふふふふふ・・・大丈夫です。 見ていてくださいまし」
ユールはメーズサンに見守るようにというと負傷者の手当てを開始する。
シフトはキマイラの前左足に接近するとナイフで斬りつけた。
正面に移動すると自分に注目させるように挑発する。
「弱い、お前弱すぎるよ」
キマイラにその言葉が通じたのかわからないが怒りを露わにしてシフトに襲い掛かる。
傷ついた前左足で叩きつけるのと同時に顔の一つが火の玉を生成してシフトに向かって放つ。
シフトはサイドステップで躱すと傷を与えた前左足が見る見るうちに回復していくのがわかる。
(自己回復能力が高いな。 それならこれでどうかな?)
シフトは再度左前足を攻撃する。
ただし今度は皮膚を切り裂くのではなく骨をも断つ一撃だ。
「はっ!!」
鋼のナイフが頑強なキマイラの骨を見事に断ち切った。
ズウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーン!!!!!!!
己の自重を支えきれずキマイラは前に倒れこむ。
さらに今のがきっかけで左前足が完全に切断された。
自己修復能力がない限りはこの足を治す手段はないだろう。
シフトは左側面に回ると跳躍して背中に乗る。
そして瓦割りの要領でキマイラの背中を思いっきり殴った。
キマイラは首1つ1つが苦痛からか絶叫する。
シフトは間髪入れず2度3度とキマイラを殴り続けた。
あまりの激痛にキマイラは叫ぶのを止めて痙攣している。
この瞬間が好機と感じたシフトたちは火を放つ。
火は瞬く間に燃え広がりキマイラを包み込む。
シフトたちは離れるとキマイラは盛大に暴れた。
暴れて、暴れて、暴れまくる。
いつしか動かなくなりそのまま息絶えた。
ルマとローザが、ベルとフェイがそれぞれ手を叩き合う。
シフトも終わったと思い背を向け歩き始めたそのとき、後方から炎が襲ってきた。




