79.メーズサン 〔※残酷描写有り〕
「・・・」
シフトはヨーディの亡骸を抱えていた。
そして開いている瞼と口を閉ざす。
「・・・」
シフトは【偽装】でいつもの大きな裂傷の顔とオレンジ髪の色に戻す。
しばらくそのままでいるとユールがシフトに気づいて近づいてくる。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「・・・ああ」
そこでシフトに抱きかかえられた女性に気づく。
どことなく素顔のシフトに似ていると。
その女性の胸には真っ赤な血が広がっている。
傷の大きさからもう助からないのは明らかだった。
「そちらの女性は?」
「・・・」
シフトが無言を貫くとユールも誰なのか察したようだ。
「成就されたのですね」
「僕としては『目的』の1つを達成できたと思ってる」
ユールはシフトの背中を見るといつもと違って泣いているように見えた。
シフトが複雑な思いの中、先ほどの巨大トロールが起き上がって襲ってきた。
シフトはそのまま動かないでいると、
「フェイちゃんキッーーーーーク!!」
フェイがやってきて巨大トロールの顔面にドロップキックをお見舞いした。
後ろに踏鞴を踏んで耐えるが続け様に攻撃する。
「アーーーーーンド! パーーーーーンチ!!」
腹を正拳で突くとこの攻撃も耐えて見せた。
倒れないことに不服かフェイは文句を言う。
「もう、そこは大人しくやーらーれーたーって言って倒れるところだよ?」
フェイはナイフを取り出して魔石に魔力を流して火を纏わせる。
巨大トロールはフェイの武器を警戒してか攻撃を仕掛けてこない。
「ご主人様の前でかっこ悪いところは見せられないからね」
再度接近してナイフで左足を斬り裂き、そのあと火が身体を焼く。
背後をとると間髪入れずに今度は背中、右足の順番に斬りつけた。
四つん這いに倒れたところで右手、顔と刺突する。
攻撃された個所から全体に火が燃え移り、その身を焦がしていく。
身体を転がして火を消そうとするも燃え続け、ついに巨大トロールは絶命した。
「ふー、しぶとかった」
フェイが巨大トロールを倒して汗もかいてないのにわざと顔を拭う動作をしていた。
シフトはヨーディの亡骸を地面に置き、両手を組ませてから立ち上がる。
そのまま見ることもなくフェイのほうに歩いて行った。
「お疲れ、フェイ」
「あ、ご主人様。 どうでした? すごかったでしょう」
「ああ、見事だった」
シフトはフェイを手放しに褒める。
巨大トロールを見ると何故か身体が縮んでいく。
ある程度縮むとそれ以上は変化がなかった。
どうやら巨大化が解けて本来の大きさに戻ったようだ。
誰かがモンスターに巨大化する魔法をかけたのだろう。
都市内にモンスターを誘引した者と巨大化させる者がまだいるかもしれない。
シフトがそんなことを考えているとルマ、ベル、ローザも他の巨大モンスターを倒してやってくる。
「ご主人様、遅くなりました」
「しぶとかった」
「手間取ってしまったかな」
「みんなお疲れ、だけどまだモンスターがいるからそれを倒しに行こう」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
シフトが歩き出すとルマたちも続いていく。
が、ベルだけはそこに横たわるヨーディの亡骸を見て、何気なく鑑定をした。
その名を見て王都スターリインでシフトとグラントとのやりとりを思い出す。
(そっか・・・この人が・・・)
ベルは小走りにシフトのところまで行くと、
「ご主人様、しゃがんで」
「? ベル?」
「いいから、しゃがむ」
シフトやルマたちは不思議に思ったが、とりあえずベルの言うようにしゃがむ。
するとベルは手でシフトの頭を撫で始めた。
「よしよし」
「・・・ぷ、あははははは・・・ありがとう、ベル」
ベルが何をしたかったのかわかるとシフトは笑ってしまった。
ルマたちも何となく察していたがこの空気をどうしようか迷っていたのだ。
一通り笑うとシフトはいつもの調子に戻る。
ベルもそれに気づくと手を離した。
「よし、行こう」
シフトたちはほかの被害がでているところに向かうのだった。
首都テーレがモンスターの襲撃を受けて半日以上が経過した。
都市は燃え続け、巨大モンスターが暴れている。
領主の館前では未だに戦闘の真っ只中だ。
わたしはモター辺境伯の筆頭護衛メーズサンは巨大モンスターたちを相手に苦戦していた。
「くっ! こいつ、いい加減にしろ!!」
巨大オーガの振り下ろした斧を避けると持っている大鎌で反撃する。
その軌道はまるで巨大オーガがそこに避けると前提とした攻撃だった。
事実、大鎌は巨大オーガの身体の表面を切り裂いた。
追撃で大鎌の先端にある刃先で巨大オーガの腹を2度3度と突く。
巨大オーガはその場で苦しみながら暴れまわるとやがて力尽きてうつ伏せに倒れた。
息を整えようとしていたがわたしはすぐにその場を離れる。
直後、巨大トロールの棍棒が先ほどまでいた位置に振り下ろされたのだ。
「今度はトロールか!」
わたしは部下たちを見る。
彼らは3~4人組で1匹の巨大モンスターを相手にしていた。
普段のモンスターと違って部下たちに余裕などない。
その分の皺寄せが全てわたしに向けられていた。
どう見ても戦況はわたしたちが不利であることを物語っている。
部下たちの疲弊、次々と現れる巨大モンスター、終わることのない戦い。
肉体よりも精神のダメージが大きすぎてわたしも参っていた。
だがここで自分が折れたら戦場は崩壊する。
わたしは自分に鼓舞しながら大鎌を構えた。
すると不思議な光景を見る。
それは少年少女が現れて戦況が一気にひっくり返るものだった。
(ふ・・・まさかね・・・)
わたしは自身のスキルに絶対の自信があるが、いくらなんでもこれは都合良すぎる。
ついに自分の頭がイカれたかと笑う。
数秒後、わたしが見た内容が現実となる。
現れた少年少女が見たこともない武器で巨大モンスターを次々と倒していくのだ。
我々が苦労してようやく倒すまでに至るのに彼らは平然とそれを成していく。
すると少年が少女たちに命令する。
「ベル、ローザ、フェイは騎士たちにそれぞれ加勢。 ルマとユールは魔法で巨大モンスターたちを威嚇しろ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
指示を終えた少年は対峙している巨大トロールに一撃を与え怯ませる。
(え? いや、いくらなんでもそれはないだろ・・・)
自分自身にボケツッコミしていると3秒後に少年が巨大トロールの顔左側面を殴っていた。
(うそ・・・本当に? あの子どこにそんな力があるのよ)
巨大トロールの視線が少年に向いた。
視界から外れた今が絶好のチャンスだ。
わたしは巨大トロールの死角に移動すると大鎌で斬りつけた。
何事か振り返ると今度は少年が死角から巨大トロールをナイフで刺す。
ただ刺したわけではなくそこから火が現れて巨大トロールを焼いていく。
(あのナイフ、まさか! 魔法武器?!)
怒った巨大トロールが少年を棍棒で殴った。
自身のスキルが見せた未来に思わず目を瞑る。
肝心な部分を見逃してしまい、そのあと恐る恐る目を開けるとありえない光景が目に入ってくる。
なんと少年が巨大トロールの棍棒を受け止めていたのだ。
それもその重量と威力など気にもせず余裕で棍棒を掴んでいた。
(なん・・・だと・・・? 普通、あんなの食らったら即死でしょ?)
わたしはあまりの疲労から現実逃避して都合の良い夢でも見ている気分だ。
少年が棍棒を持ち上げると巨大トロールも一緒に持ち上がる。
「?!?!?!?!?!?!?!」
巨大トロールも自身に起きたことを理解していない。
そのまま棍棒を地面に叩きつけると巨大トロールも同じく叩きつけられた。
地響きが起き足元が揺らぐ中、少年は倒れた巨大トロールの額にナイフを刺す。
引き抜くと同時に額から火が噴き出た。
巨大トロールが額を押さえて痛みから逃れるために転げまわる。
引火した火は身体を徐々に蝕みやがて全身を覆った。
しばらくすると巨大トロールは動くのを止めて大人しくなった。
少年はわたしのほうに向く。
その顔には大きな傷があり痛々しそうだ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
わたしは胸がドキッとして思わず顔を赤らめていた。




