78.ヨーディ
ガイアール王国の極南デューゼレル辺境伯領にある首都テーレ。
街中を歩く1人の女と大勢の男奴隷兼護衛がいた。
「ふふふ、今日も儲かったわね」
あたしは店の売り上げを持って自宅に帰る途中だった。
裏路地から突然むさ苦しい男たちがあたしを狙ってくる。
こいつらの狙いはあたしだろう。
大金を持っていれば自ずと狙われるのは当たり前な世界だ。
武器を持って襲ってくる男たちを護衛たちも武器を持って応戦する。
キィーーーーーン!! キィーーーーーン!! キィーーーーーン!! ・・・
剣と剣がぶつかり合う音が其処彼処で鳴り響く。
一見互角に戦っているように見えるのだが、あたしの護衛たちはそんじょそこらの中途半端な実力者とは訳が違う。
相手の実力が解かるや否や、その圧倒的な力で叩きのめし返り討ちにしていく。
勝てないと判断したのか大半の男たちは逃げていくが何人かは倒れていた。
そのうちやりすぎてまったく動かないのが3人、もしかすると死んでるかもね。
そこに憲兵が10人ほどやってくる。
「おい、これは何の騒ぎだ!! ・・・って、またあんたか・・・」
「あら、つれない返事ね。 それにいつも言ってるけどあたしは悪くないわ。 あいつらが先に仕掛けてきたからこれは正当防衛よ」
「はぁ、わかっている・・・おい、そこに倒れている奴らをひっ捕らえて牢屋にぶち込んでおけ。 それとモター辺境伯に報告しろ」
「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」
憲兵が連れていく前に女は制止する。
「あ、ちょっと待って。 ねぇ、誰に雇われてあたしを狙ったの?」
「・・・名前は知らねぇが、金髪ウェーブ野郎だ」
「ああ、あのブサメンね。 わかったわ」
女は手をひらひらと振った。
それを合図に憲兵たちは男たちを連れていく。
女は護衛を連れて再び歩き出す。
周りで騒動を見ていた連中が女を見る。
『おい、見ろよ・・・』
『あれって、『金の雌鳥』じゃない?』
『ああ、スキル授与で金色の子供ばかり輩出しているあの・・・』
(ふん、なにが『金の雌鳥』よ? 金を産み出すことすらできないあんたたちとは格が違うのよ!!)
世の中は金・・・そう、金がなければ何もできないのよ。
衣服も、食べ物も、家も全て金で買うもの。
昔のような何もなくて全部自分でやることはないわ。
何と言われようとも金がモノをいう時代なのよ。
この金第一主義者である女の名はヨーディ、シフトの実母である。
5人の子供を持っている。(※そのうち5歳以上になった2人は貴族に売却済み)
今はイケメンな男を取っ替え引っ替えしながら第三の人生を謳歌している。
(そういえば・・・あの虹色は後にも先もあれしかいなかったわね)
ヨーディは13年前を思い出す。
たしか北の寒い領地の過疎化した村だよね?
ヤーグとかいう脳筋バカ男しかいなかったのよ。
で、とりあえず子供を出産したけどあたしたちの財力では3人が限界だったわ。
そこからは長い生活が始まったわ・・・その上、ヤーグは神経質で子供はいつも泣いてるから精神的に参っちゃうのよね。
我慢して8年前にあたしの子供がようやく5歳になったからスキル授与を受けさせたら金銀銅ではなく虹色よ?
神父もシスターも驚いていたから間違いなくレアケースだわ。
その後現れたデブ貴族がまたケチでね・・・たった金貨800枚しか出さないの。
虹色よ? 虹色。
金貨800枚ではなく白金貨800枚の間違いじゃないの?
あたしとヤーグが抗議すると侮辱罪で牢にぶち込むというのよ。
横暴過ぎない? あのデブ貴族!!
当時のあたしは権力を持ってなかったから仕方なく子供を金貨800枚で売ったわ。
デブ貴族も子供を手に入れたしあたしも大金が手に入ったしとりあえずだけどお互いWIN-WINかしら?
金も手に入ったし、もうこんな辺鄙な場所とはおさらばね。
「おい、明日この村を出るぞ」
「ええ、ここにいたらいつ誰かに狙われるかかもしれないからね」
ヤーグの意見に賛成して翌朝金貨を持って村を出たわ。
目指すはガイアール王国王都スターリインよ。
それにしても金貨800枚って重いわね?
あたしたちは1週間かけて首都ベルートに到着したわ。
王都までの相乗り馬車に乗って2ヵ月後に王都スターリインに到着したの。
大金を持っていたのに道中は盗賊共に襲われずに済んだのは幸運でしかないわね。
あたしの住処は王城の近く、いずれは王城に住むのが夢だわ。
だけどここで問題が発生したの。
貴族街と平民街を分ける門でヤーグが馬鹿な門兵と口論になって騒ぎを起こしたのよ。
その結果、あたしとヤーグは国外追放されたの。
本当余計なことをしてくれたわ。
これをきっかけにヤーグとも口論になったの。
「あんたのせいで王都を追放されたじゃない!!」
「俺のせいか?! おまえだってあの門兵を罵倒してたじゃないか!!」
「あたしのせいにしないでよね!! あんたはいつも余計なことしか言わないからこんなことになったっていう自覚を持ちなさいよ!!」
「ふざけるな!! 自分のことを棚に上げといてよくもいけしゃあしゃあと言えたもんだな!!」
ヤーグは怒り殴ってきてあたしの左頬に命中するとその勢いで吹っ飛ばされたわ。
い、痛い・・・あたしの左頬が痛いわ・・・
あたしはよろよろと立ち上がるとヤーグに殺意を向けていた。
「・・・ぐぅ、よくもやったわね!!」
あたしは金貨の入った袋を掴むとヤーグに対して思い切り振り回した。
その一撃はヤーグの右頬に見事に当たったわ。
「ぐはぁっ!!」
ヤーグは面白いように放物線を描いて吹っ飛ばされていたわ。
「あんたとはここでお別れよ!! この金貨は全部あたしの物だから!!!」
「・・・ぐぅ・・・ま、待て・・・」
「それじゃあね、このクズ野郎」
気絶したヤーグに一言いうとあたしはヤーグの分の金貨も持ってとりあえず南に向かうことにしたの。
目指すはガイアール王国の極南デューゼレル辺境伯領にある首都テーレ。
そこまで行けばヤーグが追ってくることもないでしょう。
ただ、問題なのはこの大量の金貨。
重いは嵩張るはこれを1人で持ってデューゼレルまでは大変ね。
南へ少し行くと小さな村があった。
仕方ないので乗合馬車がないか寄ることにする。
村を歩いていると馬を育てている馬舎があるのであたしはダメ元で馬の購入したいことを告げたの。
すると金貨5枚なら譲ると言われたが、そんな高額払える訳ないと言おうとして止めた。
なぜなら持っている大量の金貨を何時誰に狙われるかわからないから。
ここは背に腹を変えられないとあたしは金貨5枚で馬1頭を購入した。
ついでに保存食も買うとデューゼレルを目指して再出発する。
馬は初めて乗るがなんとか乗りこなして南を目指す。
これなら最低でも2ヵ月もあればデューゼレルに着くだろうと進めたのがまずかった。
20日後、あたしは崖の近くに来てしまったの。
ここを下ればデューゼレルまではあと10~15日で着くと思われるが、この急勾配の坂を下るのは自殺行為だろう。
東のほうも崖だったので、あたしは諦めて西のほうへと馬を走らせた。
走らせること3日後、ようやく南へ行けそうな通路が見えてくると同時に目の前に大きな都市が見える。
あれがデューゼレルの首都?
あたしはその都市に立ち寄ることに決めた。
都市の近くまで行くと馬から降りて手綱を握りしめて門まで歩く。
2人の衛兵のうちの1人に聞いてみる。
「ちょっと聞きたいんだけどここはデューゼレルかしら?」
「デューゼレル? ここはヴァルファール伯爵領の首都ルヴァイだよ。 デューゼレルならここから南東に行ったところにあるぜ」
なんだ伯爵領か・・・? 伯爵? 辺境伯には劣るけどそれでも大きな権力者が住んでいるってことよね。
あたしは考えてしまった。
無理してデューゼレル辺境伯領に行くかそれともヴァルファール伯爵領に根を張るか。
「ねぇ、ここって治安はどうなの?」
「大きな都市ならどこも同じくらいの治安だぞ? まぁ、王都は別だがな」
ここでもいいかなと思ったが一番の問題はヤーグだ。
あたしが持っている金貨を取り戻しに必ずやってくるに違いない。
そう考えるとここにいるのはまずいだろう。
今の状況を振り返る。
・長旅による馬の疲労
・手元にある保存食の残り
・1人旅による危険と限界
(ここは無理しないほうがいいわね)
あたしはヴァルファール伯爵領で1泊することにしたわ。
宿に馬を預け、必要最低限の金を持ち、残りを部屋のベッドの下に金を隠すと街へ繰り出した。
その間に奴隷商で女1人を購入し、デューゼレルまでの間の2人分の食料を確保、それと馬1頭と食料も購入する。
翌日、金貨700枚以上と食料を持ってデューゼレル辺境伯領へ向けて出発した。
購入した女奴隷は道中盗賊とかに狙われた際に囮となってもらう予定だ。
だけどあたしの懸念は杞憂に終わる。
それから15日後に無事デューゼレル辺境伯領の首都テーレに到着した。
まずは豪邸を買う・・・と言いたいところだけど、王都の二の舞は御免だわ。
あたしは奴隷と馬たちを引き連れて商店街を見て回ることにした。
活気がありいかにも大都市といった雰囲気がある。
(住むにしてもお金が必要ね)
歩いているとこの街一番の好立地なところの店がなぜか閉まっている。
店の扉には紙が貼られていた。
『空き店舗 商売されたい方は商業ギルドまで』
(これよ!!)
あたしはここで商売をして金儲けをする!!
問題は何を商売にするかだ・・・
女奴隷を見るとあたしは声をかけた
「ねぇ、あなたは何ができるのかしら?」
「は、はい、ご主人様。 わたしは───」
それを聞いたあたしはある商売を思いつく。
商店街の店を思い出し、この都市にない商い。
(これなら間違いなく儲かる)
確信したあたしは商業ギルドで早速手続きする。
その際に店を所有するのとあたしがここに住むための永住権の手続きなど、金貨600枚払わされた。
正直ぼったくりだと声を大きくして言いたいがそこは我慢する。
内装を整え、必要な機材を購入や発注して開店準備を整える。
そして1ヵ月後、あたしは店を開いた。
最初こそ閑古鳥だったが、噂が噂を呼び開店1ヵ月後には店は大繁盛していた。
奴隷だから役立たずだと思っていたがまさかこんなところに金の卵を産む鶏がいるとはあたしもついている。
あたしは奴隷を増やし、店をさらに大きくさせた。
3ヵ月後には購入時に支払った額まで巻き返し、以降倍々と増えていき、6ヵ月後には念願の豪邸を手に入れることに成功したわ。
ついでにイケメンの彼氏ができてそのまま結婚、妊娠して子供も授かる。
全てが順調、世界はまるで自分を中心に回っているみたい。
だけどある時問題が発生する。
あたしがここに来て6年目のこと、1人目の子供が5歳になったので聖教会にスキル鑑定の儀を受けに行く。
そこであたしの子供が[鑑定石]に触れると金色に輝きだした。
「ふ、ふふふ・・・ははははは・・・やった、やったわ」
その後はその場にいたモター辺境伯に金貨100枚くらいで売ったけどね。
この行為が後に揉め事になった。
「あの子はどうした?」
「ん? ああ、あの子なら売ったわよ」
「売った?!」
「そうよ、なにせ金色のスキルだもの。 金になるじゃない」
あたしと夫の喧嘩が始まる。
どうして売ったのかと問い詰めてくるのだ。
(はぁ? こいつ馬鹿か? 金になるからに決まってるじゃないの)
口論は続き、終には嫌気を差したのか離婚を切り出してきた。
あたしは了承すると顎をしゃくる。
すると近くにいた奴隷たちが元夫をずたずたのぼろぼろに痛めつけてから両手に抱えて家から追い出した。
この家も子供もそして金も全てあたしが手に入れたものだ。
何もせずにのうのうとヒモ男している奴とは違うんだよ。
夫がいなくなった以外は変わらない生活が続いていく。
そうしてこれからも続くと思っていた、あの日までは・・・
それはいつものように護衛に守られながら街を歩いていた時のこと。
突然、悲鳴が聞こえてくる。
何事かと声をしたほうを見るとそこにはモンスターがいた。
それも1匹だけじゃない、少なくとも30匹以上はいるだろう。
危険ではあるが護衛もいるし、この街の衛兵もいる。
それにいざとなれば領主様が騎士や魔法士を向かわせるだろうし。
あたしは楽観的な考えでいた。
ところがほかの場所からも悲鳴が聞こえてくる。
それも1ヵ所だけではなく、少なくとも10ヵ所以上から聞こえてくるのだ。
更に銅鑼の音が鳴り響く。
「敵襲!! モンスターが大軍を率いて攻めてきたぞぉ!!!」
その一言にあたしは凍り付いた。
都市の内側だけでなく、外側にもモンスターがいる。
そしてここデューゼレルにモンスターの大軍団が攻めてきた。
モンスターが次々と襲ってくる。
あたしを守るはずの奴隷たちが1人また1人と倒されていく。
(やだ・・・このままじゃ殺される!!)
あたしは逃げ出した。
奴隷をその場に放置して安全な場所を求めてとにかく走って逃げた。
裏路地に入るとあたしは落ち着こうと息を整える。
(大丈夫!! あたしは生きる・・・生きるんだから!!)
自分を鼓舞すると突然空が暗くなったと思ったら空から何かが降ってくる。
それは氷の塊だ。
いくつか降ってきた物の1つがあたしの肩に当たる。
「いたーーーーーいっ!!!!!」
思わず叫んでしまう。
それで痛みが治まるかといえばそんなことはなかった。
そして氷は次々と降ってくる。
あたしは頭を抱えてた。
氷の塊はあたしの身体を何度も何度も傷つける。
「痛い!! 痛い!!! やめてえええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!!!」
その願いは聞き届けてもらえず、それ以降も何個かぶつけられる。
少ししてやっと氷が降ってこなくなった。
「ううう・・・いたいよぉ・・・」
あたしはその場に座り込み痛みに耐えていた。
しばらくそうしていると不意に裏路地の奥から物が壊れて何かがこちらに近づいてくる。
あたしは顔を上げて音のほうを見る。
そこには巨大なモンスターがこっちに向かってくるのだ。
あたしは立ち上がると裏路地から逃げ出した。
(あんなのに捕まったら殺される!)
必死に走っているが先ほどの氷のせいで思うように走れない。
そこに巨大な棍棒を振り下ろされた。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」
あたしは直撃こそ免れたけどその風圧の威力に身体が吹っ飛ばされていた。
もうダメだと思った次の瞬間、モンスターが吹っ飛ばされていく。
あたしを抱きかかえている。
「た、助けて・・・助けて・・・」
あたしは誰とも知らない顔に傷があるオレンジ髪の子供に助けを求めた。
「ね、ねぇ、助けてよ・・・お金、お金ならあるから助けてよ・・・」
少年の顔が急に変わる。
顔だけではなく髪の毛の色もオレンジから藍色に変わっていた。
(誰?)
どこかで見たような気がする。
だけど誰だかわからない。
そんなことを考えるといつの間にか胸が痛かった。
見るとそこにはナイフが刺さっていた。
突然の出来事にあたしは目を見開いている。
「どう・・・し・・・て・・・」
あたしは少年にそれだけしか言えなかった。




