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77.デューゼレル都市内戦 〔無双劇9〕〔※残酷描写有り〕

「これはまた・・・凄まじい惨状だな」

「ルマ、すごい」

「ルマちゃん、これはちょっと・・・」

「ルマさん、やりすぎですわ」

ローザを皮切りにベル、フェイ、ユールがそれぞれ都市内を見てルマの【氷魔法】の威力に驚愕していた。

地面は氷の塊がこれでもかと敷き詰められ、建物は至る所に穴が開いている。

そして雹の直撃を受けて倒れている人間やモンスターが其処彼処にいた。

「う゛う゛う゛・・・」

ベルたちの言葉を聞いて凹むルマ。

「まぁまぁ、みんなルマをいじめないで」

「ご主人様~」

シフトが甘やかすとルマは心傷からか抱きついてきた。

豊満な胸の感触に思わずドキッとしてしまう。

「ちょっと、ルマさん! なにどさくさに紛れてご主人様に抱きついているんですの!!」

「ルマ、ずるい」

「ルマちゃん、なにしてるんだよ」

「ルマ、いくらなんでも今はダメだぞ」

今度はユールが噛みつくとベルたちも追随する。

シフトとしても名残惜しいが今はこの都市の騒ぎを鎮めるのが先だ。

「はぁ・・・ルマ、とりあえず離れてくれ」

「・・・はい」

ルマは渋々シフトから離れる。

改めて都市内を見ると雹の直撃を免れた人間やモンスターたちは対峙し戦闘を続行していた。

オーガやトロールなど体力に自慢があるモンスターたちが多い。

「よし、2手に別れてモンスターを各個撃破する。 チーム分けはさっきと同じで僕たちは左側、ローザたちは右側から都市内を移動してくれ」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

シフトたちはそれぞれ別れるとモンスター討伐を開始する。


シフトとベルは暴れているモンスターを見つけてはナイフによる斬撃や刺突で次々と倒していく。

ルマも遠距離から【風魔法】でモンスターを切り刻む。

(それにしてもルマもベルも強くなったものだ)

いくらダメージを受けているとはいえ、一般冒険者では苦戦必至のモンスターを簡単に倒せるまでに成長していた。

それはここにいないローザ達にも当てはまる。

「あっ」

順当にモンスターを倒していたそのとき、ベルの素っ頓狂な声が聞こえた。

何事かとベルを見ると持っているナイフの鍔辺りから剣身が折れてしまったのだ。

ベルは距離をとると刃が刺さって怒り狂ったモンスターがその場で大暴れする。

危険と判断したシフトは近づくとモンスターの腹を思い切り殴った。

痙攣しながら地面にうつ伏せになって倒れたところを首元にナイフを刺して止めを刺す。

「ベル、大丈夫か?」

「大丈夫、怪我はない。 だけど・・・」

剣身を失った柄を見せる。

戦闘で最もナイフの使用率が高いのはベルだ。

時間が空くときはいつもローザに頼んで武器の整備をしてもらっている。

だが使用すればするほど耐久力は落ちていく。

今回は相手の頑強さと目に見えない疲労が蓄積した結果、剣身が折れたのだ。

「ベル、私の使って」

ルマが自分のナイフをベルに渡す。

「ありがとう、ルマ」

シフトは先ほど倒したモンスターから魔石がはめ込まれた剣身を回収する。

これを見た鍛冶師や錬金術師に模倣されて魔法武器が世に出回ると大変なことになるからだ。

(この武器ではそろそろ限界が出てきたな。 今度ローザに1ランク上(ミスリル)の武器を作ってもらうか・・・)

シフトは自分が持つ鋼のナイフを見ながら考えていた。

「ご主人様?」

「なんでもない。 引き続きモンスターを討伐していく」

シフトたちは先に進むのだった。


30分後、シフトたちとローザたちは示し合わせたように合流する。

「ローザ、そっちはどうだ?」

「ご主人様、こっちは問題なく敵を殲滅してきたよ」

「ルマちゃんのおかげで楽勝すぎたけどね」

「弱っているところを狙い撃ちですから簡単なお仕事でしたわ」

ローザ、フェイ、ユールは手負い相手に快勝だったようだ。

「あ゛あ゛あ゛・・・穴があったら入りたい」

「ルマ、気にすることない。 もう過ぎたことだから」

報告を受けたルマがまた凹み、ベルが慰めという言葉のナイフでルマの心をぐさぐさと刺していた。

「ちょっと、ベルちゃん! ルマちゃんを追い込んじゃダメ!!」

「やめろ、ベル! ルマの精神力はもう0だ!!」

「ベルさん! それ以上はルマさんが壊れるから!!」

ローザ、フェイ、ユールが慌ててベルを止める。

「?」

ベルは不思議そうな顔をしていたが、ローザたちの説得によりそれ以上は喋るのを止めた。

ルマを見ると燃え尽きている。

「ああぁ・・・みんな、これ以上ここ(首都テーレ)での被害について口にするのは今後禁止にする。 これは命令だ」

「「「「畏まりました、ご主人様」」」」

ベルたち(ルマを除く)は了承した。

ルマはというとベルの精神攻撃で未だ現実に帰ってきていない。

シフトはルマの肩を揺さぶりながら声をかける。

「ルマ、戻ってこい。 ルマ!」

「はっ!! ご、ご主人様! 私は・・・」

「気にするな。 それよりも都市の半分くらいしか終わってないから残りの半分も終わらせるよ」

「は、はい」

ルマは顔を真っ赤にして俯いた。

気を取り直して進もうとしたそのとき、今までいなかったところに突然巨大な生物たちが現れた。

視界には巨人と化したゴブリンやオークだけでなく、ただでさえ大きいオーガやトロールが巨大化していたのだ。

高さにして4~5メートル、中には10メートル近くのモノまでいる。

王都スターリインのときは猪みたいな見た目の巨大モンスターとドラゴンが襲っていたが、今回は人を巨大化させたらしい。

「みんな、あの巨大化したモンスターを倒しに行くよ」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

シフトたちは巨大化したモンスターのところまで急いで駆けつける。

途中襲ってきたモンスターは脳や心臓を突いたり、首をはねたりして倒していく。

現場に到着するとそこは広場になっていて多くの人間とモンスターの死体が散乱していた。

遺体は老若男女問わず、爪や牙などの裂傷や圧力により握り潰されて内臓が破裂したり飛び出ている者などがいて、死体が山積みになっていたり足の踏み場もない酷い惨状だ。

普通の人間が見ればあまりの光景に吐き出しそうになるだろう。

この都市を守護する騎士や魔法士たちの8割以上がやられていて残った戦力で巨大化したモンスターと必死に戦っている。

「ここからじゃ向こうに行けそうにないから回り道するしかないかな・・・」

「ご主人様、この前のように瞬間移動で行けばいいのでは?」

ユールがシフトの【空間転移】を提示するが首を横に振った。

「それもありだが何処で誰が見ているかわからない。 だからここでは使えない、いや使わない」

あの時はタイミューが殺されそうになっていたから使った。

王都スターリインのときは1人で行動し、フードを被って認識されないようにしていたから多くの人に見られたとしてもシフトだと気づく者がそもそもいなかった。

だが今回は顔を多くの人間に見られているし、なによりルマたちがいるので特定されると厄介なのだ。

それに自分のスキルを多くの人に見られるわけにはいかない。

「失礼いたしましたわ」

「気にしなくていいよ。 理解してくれればそれでいい。 それじゃ迂回して向こうに行くよ」

「「「「「はい、ご主人様」」」」」

迂回して巨大モンスターの群れに突っ込むシフトたち。

先行してシフトが巨大モンスターを殴る蹴るの攻撃を加えると後から来たルマたちが止めを刺していく。

シフトが遠方を見ると逃げる1人の女性に対して目の前の巨大トロールが地面に巨大な棍棒を振り下ろしていた。

女性は直撃こそ免れたがその風圧の威力に吹っ飛ばされた。

シフトは巨大トロールの腹を思いっきり蹴っ飛ばすと凄い勢いで吹っ飛ばされていく。

すぐに地面に倒れている女性に近づきシフトは抱きかかえる。

顔を見るとどこかでみたことがある雰囲気だ。

「た、助けて・・・助けて・・・」

声を聞くとシフトは目を見開いた。

実母(ヨーディ)!!)

そう、偶然助けた目の前にいる女性こそシフトが探していた実母であるヨーディその人である。

見た目は別れた時よりも若々しく、ほっそりだったのが健康的な良い肉付きの身体になっていた。

「ね、ねぇ、助けてよ・・・お金、お金ならあるから助けてよ・・・」

シフトは【偽装】を解き、久しぶりに自分の素顔をヨーディに見せる。

だが、顔を見てもヨーディは反応をせず『誰?』といった感じでシフトを見ていた。

実の息子の顔すら覚えていない、それがヨーディである。

知らぬならそれでもいいとシフトはナイフを取り出すとヨーディの心臓に突き立てた。

突然の出来事にヨーディは目を見開く。

「どう・・・し・・・て・・・」

シフトの行動にヨーディはそれだけしか言えなかった。


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