76.デューゼレル都市外戦 〔無双劇8〕〔※残酷描写有り〕
3日後───
実母『ヨーディ』の情報を手に入れたシフトたちは首都テーレを目指して歩いている。
突然フェイが前方を指さしてシフトに報告する。
「ご主人様、デューゼレル辺境伯領の首都テーレが見えてきましたよ」
距離的にはまだ5キロメートル以上離れているが、目の良さかそれとも斥候のスキルのおかげなのかわからない。
シフトはフェイに礼を言う。
「ありがとう、フェイ」
「えっへん、ぼくにまかせて・・・?」
だが、フェイは額に手を当てると先ほどまでと違い真面目に見始める。
「・・・」
「どうした? フェイ?」
「燃えてる」
フェイはいつもの口調ではなく真面目な声色で答える。
「燃えてる?」
「都市が燃えてる。 1ヵ所だけでなく都市のあちこちから煙が立ち上っています」
少し先に森が遮蔽物になってるので都市の状況はわからないが何しろ異常事態だというのは伝わった。
「どうします? ご主人様」
「さすがにそれだけじゃわからないな。 現状はこの速度を維持しつつ都市を目指そう。 念のため警戒だけはしておこう」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
引き続き歩いていくと首都テーレに続く森の中へと進む。
気のせいか静まりかえっていた。
本来なら動物たちの喧騒で賑わっているはずの森だが今は不気味だ。
こんなときモンスターが出てきてもおかしくないのだがそれすらない。
「これはおかしいかな」
「うん、ぼくも同感だよ」
経験が豊富なローザとフェイが異常と判断する。
「なら早めに森を抜けるか」
「賛成」
シフトたちは急いで森を抜けると都市テーレが目の前に見えるがなんか様子が変だ。
まずフェイの報告の通り都市のあちこちから煙が立ち上がっている。
それとは別に平原にはテーレを守護していると思われる騎士、魔法士、衛兵や冒険者たちとモンスターの大群が乱戦で壮絶な殺し合いをしていた。
現状を把握していると何かがシフトたちのほうに向かってくる。
「ちょっ?! なんでモンスターが大量に攻めてくるの?!」
「みんな戦闘態勢だ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
ゴブリン、オーク、オーガ、トロール、コボルト、ケットシー、リザードマンなど色々な種族のモンスターがシフトたちのほうに攻めてきた。
迫りくるモンスターに対してシフト、ローザ、フェイが前衛、ベルが中衛、ルマとユールが後衛で対応する。
シフトは【五感操作】で襲いかかるモンスターの距離感や平衡感覚を狂わせてすりぬけざまにナイフでつぎつぎと斬りつけて倒していく。
ローザとフェイも武器を構えるとそれぞれモンスターを斬りふせる。
ルマとユールは側面から襲いかかるモンスターに魔法を放ち、ベルは後衛の2人を狙うモンスターを攻撃した。
如何に数で押しても個の強さで優っているシフトたちには敵わなかった。
襲ってきたモンスターを全滅させるとモンスターの群れ第二陣がやってくる。
「ご主人様、また来ます!」
「みんな聞いてくれ。 2手に別れてモンスターの大軍を撃破する。 僕とルマとベルは左側、ローザとフェイとユールは右側だ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
「それじゃ行動開始!」
シフトとルマとベルは左側、ローザとフェイとユールは右側に別れてそれぞれモンスター討伐を開始する。
「ルマは後衛で攻撃と支援、ベルは中衛でゴブリンやオークを中心に対応してくれ」
「「畏まりました、ご主人様」」
シフトはモンスターの出鼻を挫くためにトロールに接近すると思い切り蹴りを入れた。
あまりの威力にトロールは後方に吹っ飛ばされる。
ついでに線上にいたモンスターも巻き添えを食らう。
シフトは改めてナイフを構える。
ゴブリンやオークは先ほどの攻撃を目の当たりにして怖気づくがオーガやトロールなどは怯まず突っ込んできた。
近くにあるモンスターの死体を【念動力】でぶつけることで襲ってくるモンスターを吹き飛ばす。
足を止めたり怯んだモンスターをシフトはナイフの斬撃や刺突で殺していく。
【念動力】による攻撃を掻い潜りモンスター3匹がかりの攻撃をシフトは【五感操作】でやり過ごすと首や心臓を刺して1匹1匹確実に葬った。
なるべくルマとベルに負担がかからないようにここで数を減らすべくシフトは前線でモンスターを相手にする。
それでも取りこぼしが出るがルマとベルが対応してモンスターを攻撃していく。
ローザたちを見ても大量のモンスター相手に一歩も引くことなく次々と斬り殺している。
(みんな強くなったな・・・)
ルマたちの成長をしみじみと感じている。
シフト本人は自覚してないがスパルタ教育は伊達ではない。
シフトたちとモンスターたちの闘いだが、最初モンスターは数で圧倒していたが徐々に数を減らしていき最後には第二陣の駆逐に成功する。
あらかた片付くとローザたちも討伐が終わったのかシフトたちのほうにやってくる。
「お疲れ、みんな怪我はないか?」
「ご主人様が守ってくれましたから」
「問題なし」
「この程度なら怪我はしないさ」
「ぼくなら平気だよ」
「大丈夫ですわ」
ルマたちの無事を確認したシフトは次に戦況を確認する。
視界内の至る所で戦闘が行われていた。
実力が互角に近い者同士が戦っていたり、多勢に無勢と人海戦術で殲滅させようとしたり、人間もモンスターもお互いが必死に攻めている。
しばらく見ているが攻めてくるモンスターはいないようだ。
「ルマ、僕たちと戦場の境目に高さ3メートルくらいの壁を作ってくれ。 できれば幅と厚さがあると助かる」
「任せてください、ご主人様」
ルマはシフトからの直接の命令を受けて張りきった。
いや、張り切りすぎた。
【土魔法】で壁を作るが縦2メートル横30メートル高さ3メートルの巨大な壁を作ってしまった。
額に浮かんだ汗を手で拭うとルマはシフトに向いて報告する。
「ふぅ、できました、ご主人様♪」
「が、頑張ったな、ルマ」
「はい♪」
【合成魔法】の件がよほど嬉しかったのだろう、力の入れようが半端ない。
今のルマは絶好調である。
「さて、みんなここで交互に10分間休憩するよ。 最初の5分はルマ、ローザ、フェイ。 後の5分は僕とベルとユールだ。 余裕があればモンスターから魔石の回収もお願い」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
なるべく体格のいいオーガやトロールの魔石を回収しつつ、水を飲んだり桃とか齧ってシフトたちは失った体力を回復させる。
10分後、休憩を終えたシフトは壁に近づくと跳躍し、天辺に着地すると辺りを見回して戦場がどうなっているのか確認した。
戦況は人間、モンスター共に死傷者が増大したためより悪化している。
「これは酷いことになってるな・・・」
「ほんとだね」
シフトと同じようにやってきたフェイが隣に並ぶと同意している。
「ご主人様、どんな感じですか?」
「あ、ちょっと待ってね」
シフトはルマに手を貸すと壁に登らせる。
「ありがとうございます、えっと、すごいことになってますね」
ルマは戦場を見ると未だに続く争いに目を向ける。
そこに戦場で戦っている騎士や冒険者が声を上げる。
「おい、そこの君たち! 手が空いているなら手伝ってくれ!!」
「ちょっと待ってよ、あんな子供たちが役に立つわけないでしょう!!」
「そうだそうだ!!」
自分たちのことで手一杯なのか先ほどのシフトたちの戦いを見ていないのだろう。
その中の1人がシフトに対して暴言を吐いたのだ。
「あんな女を侍らかしたガキが1人2人加わったところで役に立つかよ!!」
その言葉に怒りを露わにしたのはルマだった。
「ご主人様になんて口の利き方を!!」
「ちょっ?! ルマ!! まっ・・・」
シフトは制止しようとしたがそれよりも早くルマは無意識に【氷魔法】を使ってしまった。
上空が雲に覆われて辺りは急に暗くなる。
その範囲は首都テーレを含めて広範囲にわたる。
シフトは空を見上げると遥か上空に氷の塊が見えた。
それはかつてルマが調子に乗って降らした拳大の雹だった。
シフトは慌てて【次元遮断】で結界を張るとその直後に膨大な量の氷が上空からシフトたちを含む戦場へ降ってきたのだ。
外界と隔離しているから静寂でわからないが、外では大勢の人間とモンスターが雹に直撃して悲鳴を上げている。
『──────────!!』
『───! ───!!』
『───!! ───!! ───!!』
ルマが放った拳大の雹は人間やモンスターを問わず次々と襲いかかっている。
彼らは戦いを止めて悲鳴を上げて逃げ惑う。
その光景は正に阿鼻叫喚の地獄絵図そのものだ。
しばらくは降り続き、止むとそこら中に拳大の大きさの氷と人間やモンスターが死屍累々のように倒れていた。
ほとんどの者は雹に直撃して大きなダメージを受けている。
中には打ち所が悪くて帰らぬ者も大勢いたが・・・
シフトは結界を解くとそこら中から声が聞こえてくる。
それはまるで怨嗟の声の如くシフトたちを襲う。
「う゛・・・」
ルマは今更ながらやりすぎたと頭を抱えて座り込んだ。
「ルマちゃん、どんまい」
「ルマ、しっかり」
ベルとフェイが励ますがその言葉がよりルマの心を抉る。
「う゛う゛う゛・・・ご主人様・・・」
「気にするな、ルマ。 あれは心許無いことを言った者が悪いんだ。 そう彼らの自業自得だ」
本当は全然違うが自分の心の安寧のためにそういうことにした。
嘘も方便である。
首都テーレを見ると未だに火の手が上がっていて戦いは続いているようだ。
「まだ戦いは終わってない。 みんな行くぞ!」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
シフトたちは首都テーレ内に入るのであった。




