75.金のなんちゃら再び
シフトたちはガイアール王国の極南デューゼレル辺境伯領を目指して歩いていた。
旅そのものは順調で長閑な景色を見ながら進んでいく。
「~♪ ~♪ ~~~♪」
ルマは【合成魔法】の1件以来とても機嫌が良い。
今まで劣等感を抱いていた分、待望のスキルを身に着けて上機嫌だ。
夜の空いている時間にどの属性魔法を組み合わせればどんな魔法になるか毎日研究している。
ルマが教えてくれたが今のところ組み合わせて発現した魔法は【木魔法】と【氷魔法】、それと【気温魔法】の3つだ。
【木魔法】は【水魔法】と【土魔法】を合成することで植物を促進する魔法。
ルマが【合成魔法】を覚えるきっかけになった魔法だ。
うまくイメージできれば新鮮な野菜や果物がその場で手に入り、とても便利な魔法である。
魔力を与えすぎるとその分成長しすぎるので、今は魔力の量と比率を研究している。
【氷魔法】は【水魔法】と【風魔法】を合成することで氷を生成する魔法。
これは極寒のヘルザード辺境伯領にいたときに木から垂れ下がるようにできていた氷柱を思い出してイメージしたら生成に成功したそうだ。
ほかにも吹雪をイメージしたらそこら中に雪の塊が降ってその場が極寒へと変わっている。
ルマが面白がって雹をイメージしたときは大変だった。
拳大の大きさの氷が1個空から目の前に降ってきたのだ。
シフトは慌てて【次元遮断】で結界を張るとその直後に膨大な量の氷が上空から降ってくる。
しばらくは降り続き、止むとそこら中に拳大の大きさの氷がこれでもかと転がっていた。
もしこれが直撃していたら命の保証はなかっただろう。
さすがにやりすぎたと思ったルマは反省していた。
今は毎日就寝前に縦横1メートル高さ2メートルの氷を作れるだけ作って、それをシフトの【空間収納】に納めている。
この世界で氷は貴重だからルマが【氷魔法】を覚えてくれて正直助かっている。
とくにベルとフェイは氷菓子が食べられると喜んでいた。
【気温魔法】は【火魔法】と【水魔法】を合成することで空気中にある水分の温度を操る魔法。
これは調理中の鍋の湯気を見て試したら成功した。
また早朝の靄や霧を見て、同じ原理で再現しこともある。
ルマの実験結果では蒸気や霧などを発生させることができる。
フェイの【闇魔法】やユールの【光魔法】の視界を奪う魔法に類似している。
使いどころは難しいが何かの役に立つと信じている。
残りの【火魔法】と【風魔法】、【火魔法】と【土魔法】、【風魔法】と【土魔法】は調査中である。
これらもいずれはルマが自力で解明してくれるだろう。
ルマの【合成魔法】によりシフトたちの旅の生活水準が一段以上上がったのは間違いない。
ヴァルファール伯爵領の首都ルヴァイを出発して2ヵ月───
国歴1854年、植物が芽吹き花が咲き乱れる時期。
シフトたちは極南デューゼレル辺境伯領の最北端の小さな町にようやく到着する。
普段とは違い年末は砂漠を越え、ベルの故郷であるヴァルファールを経由する過酷な道であった。
もし迂回ルートを選んでいたら王都スターリインを経由してもっと時間がかかっていただろう。
極西パーナップ辺境伯領から王都スターリインまで4~5ヵ月。
そこから極南デューゼレル辺境伯領までは4~5ヵ月。
最低でも8ヵ月はかかる日数を4ヵ月ほどで着いたのは早いほうである。
ただ、実母『ヨーディ』が極南デューゼレル辺境伯領のどこにいるのかはわからない。
実父『ヤーグ』がパーナップ辺境伯領の首都インフールにいたように、ヨーディもデューゼレル辺境伯領の首都テーレにいるのではないかと目星をつけている。
シフトたちは宿をとるとルマたちに自由行動を与えてからこの町の酒場へと向かう。
扉を開けると昼ということもあり店は閑散としていた。
シフトが入店してカウンターまで行くとバーテンダーに話しかける。
「いらっしゃい。 坊主、何のようだい?」
「情報屋を探している」
「あそこの四角いテーブル席で1人で飲んでいる彼女だよ」
バーテンダーは指でテーブル席を指すと丁寧に教えてくれた。
「ありがとう」
バーテンダーに銀貨1枚渡すと無言で受け取った。
そこには1人で酒を飲んでいる中年女性がいた。
「失礼、情報が欲しい」
「あら? 可愛いお客さんだこと。 何の情報が欲しいのかしら?」
女は酒を置くとシフトを見つめる。
「『ヨーディ』という女を探してる」
「『ヨーディ』? ああ、あの『金の雌鳥 ヨーディ』ね」
「『金の雌鳥』?」
金の雌鳥・・・きんのめんどり? なにそれ? 実母はそんな二つ名を持っているの?
と言うかこの流れどこかで見たような・・・
「情報料は銀貨20枚ね」
「あ、ああ・・・」
シフトは革袋から銀貨20枚を取り出して女に渡す。
「ありがとね。 それで『金の雌鳥 ヨーディ』だけど7年以上前にここデューゼレル辺境伯領に来て首都テーレに豪邸と店を買ったらしいのよ」
「豪邸と店ね・・・」
シフトはデジャヴュを感じていた。
「ところで『金の雌鳥』って何?」
「ここだけの話だけど『ヨーディ』は金に物を言わせて美容整形やら豊胸術を追及してさ、イケメンの男と結婚してたしか5人子供を産んだのよ」
「・・・金・・・ね・・・」
シフトは『実母よ、お前もか』と呆れていた。
「それだけならただの『雌鳥』ね。 彼女の凄いところはその子供なのよ」
「子供・・・」
きっとこの後の展開は・・・
「産んだ子供たちだけど、聖教会で行われるスキル授与で全員金色だったのよ」
「・・・金色・・・」
「そうよ、それもここ3年でスキル授与を受けた子供たちは全員金色なんだって。 それから『金の雌鳥』と言われるようになったの」
(やっぱりな・・・)
その嫌な予感が的中した。
こちらの異父兄弟姉妹にあたる者たちも全員優秀なスキルを授与されたらしい。
「ところが、ここで話は終わらないのよね」
(ええ・・・そこまで真似なくてもいいんじゃない?)
それはきっと・・・
「なんとその子供たちの顔が気に入らないって理由だけで領主に売ったのよ」
うん、わかってた。
「・・・う、売ったんですか?」
「ええ、1人あたり金貨100枚前後って法外な値段を吹っ掛けてね」
「・・・」
ヤーグの異母兄弟姉妹もだがヨーディの異父兄弟姉妹も売られるのか・・・。
「ただ、それがきっかけで離婚してね。 今は違うイケメンたちを取っ替え引っ替えして遊んでいるらしいわ」
「・・・面食いなんですね」
おお、ヤーグと違いヨーディには続きがあるのか?
「あと、経営している店のほうもブラックでね。 金、金、金の一点張り。 従業員には最悪だけど客受けは良いから始末に負えないらしいわ」
「・・・金の亡者なんですね」
「ええ、経営手腕は抜群なのに金に目が眩みすぎてね。 商売人として言わせてもらえば正直勿体無いわ」
まあ、仕方ないと思うよ? だって昔から金しか言わない実母なのだから。
「これで『金の雌鳥』については以上ね。 どう? 凄いでしょう?」
「・・・ええ、とても凄いですね・・・情報ありがとうございます」
「ええ、何か情報が欲しいならまた利用してね」
シフトは女に礼を言うと酒場を出た。
その帰り道に先ほどの実母『ヨーディ』の話を思い出す。
シフトは実母のあまりの節操もない行動に頭を抱える。
(『金の雌鳥』か・・・実父の『金の種馬』よりはまだマシだけど、もう少し節度をわきまえてほしいものだ)
何はともあれ実母の情報を手に入れたのは事実だ。
幸せ(?)のところ悪いが実母も見つけ次第殺そうと思うシフトだった。




