71.悲しき再会
私、リーンはその日街中を歩いていると偶然に生き別れた妹ベルに再会した。
7年前───
私は母様と2人で父様とベルが帰ってくるのを今か今かと待ちわびている。
妹のベルは5歳の誕生日を迎えた。
そして父様に連れられて聖教会でスキル授与を受けに行っている。
私のときは金色に輝きだして【槍聖】を神から賜っていた。
その時の父様の喜びようは今も忘れられない。
それにあの時出されたあまりにも豪華な食事も。
今日もきっとそんな笑顔で帰ってくるはずだ。
「リーン、落ち着きなさい」
「母様、だって・・・」
「レディたるもの常に堂々としているものですよ」
「はーい」
母様が私を窘めるが本人もそわそわしている。
母様もベルのことが気になるのだろう。
2人で話していると急に玄関の扉が開く。
そこには父様が1人入ってくる。
「あなた、お帰りなさい」
「ベルのスキル授与はどうだったの?」
「ベル? そんな者はこのヴァルファール家にはおらん」
その言葉に私は凍りついた。
「あなた、どういうこと!!」
「五月蠅い! 当主である我に口答えするな!!」
「きゃぁっ!!」
父様はしがみついていた母様を払いのけるとどこかへと歩いていった。
私は慌てて母様のところに駆け寄る。
「か、母様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ、リーン。 だけど・・・」
父様は母様がお腹を痛めて産んだベルを捨てたのだ。
母様は父様に受けた傷よりもベルを失った悲しみに涙していた。
「ベル・・・ベル!!」
私の心にもぽっかりと穴が開いた気分だ。
ベルがヴァルファール家からいなくなって数日後───
私は父様から日課の稽古を受けていた。
「どうした! その程度ではヴァルファールの名が泣くぞ! もう1度だ!!」
「・・・はい」
父様は自分を頂点とする徹底した実力至上主義者だ。
地位や名誉、財力だけじゃない、武力も知力も権力もそして才能も持ち合わせている。
今までは楽しく励んでいた武術の稽古もベルがいなくなってからは身が入らず苦痛でしかなかった。
気づけば私は父様相手に殺す気で攻撃していた。
「ふむ、父親を相手に殺気を放って攻撃できるとは成長したな。 だが、まだ甘い!!」
「がはっ!!」
父様は容赦なく私を地面に叩き伏せる。
そして近づくと私の腹を踏んだ。
「あああああぁーーーーーっ!!」
「よいか、リーン。 お前には父親である我よりも優れた才能がある。 だが、それを使いこなせないのであれば宝の持ち腐れだ」
父様は冷酷な目で私を見ている。
「雑念は捨てろ。 そうすればお前はもっともっと強くなる。 いずれは我を超えるほどにな」
それだけ言うと父様は足を退けて去っていった。
「ベル」
1人残された私は大事な妹の名を口にしていた。
父様は捨てろと言ったが捨てられるはずがない。
「待ってて、私が強くなっていつか必ずベルを助けるから」
あれから月日が流れ現在───
その日稽古に身が入らず気晴らしに街へ出かけた。
街中を歩いていると目の前からフードを被った小柄な人が私の横を通り過ぎていく。
私はなんとなくそのフードの人物に目が奪われてしまった、
そして急に突風が街中を襲う。
フードが捲れて後姿が露わになる。
「!!」
あの・・・あの後ろ姿は!!
「ベル?」
私は妹の名を口にしていた。
その人物が振り向くとそこにはベルがいた。
「?!」
ベルも驚いた顔で私を見ていた。
私が近づこうとしたとき、
「どちら様?」
ベルはまるで初めて会いましたというような感じで質問してくる。
「ベル、私よ。 リーンよ」
「・・・それでそのリーンがベルに何の用?」
「母様が心配しているわ。 一緒に家に帰りましょう」
「・・・ベルには帰る家なんてない」
ベルはそれだけ言うとフードを被り直して歩き出そうとする。
「待って! お願い、行かないでベル!!」
私は咄嗟にベルの左手を掴んでいた。
「離して」
ベルは冷徹な声で私の手を振り払う。
その身体のどこにそんな力があるのか簡単に拘束を解いた。
なおも声をかけようとすると前方から別の人物が声をかけてくる。
「ベル、こんなところにいたのか」
それは顔に大きな傷を持ったオレンジ髪の男の子だった。
「ご主人様」
「みんなが心配している。 行こう」
ベルは『ご主人様』と言った男の子に頷くと歩いていく。
「待って。 君はベルの何なの?」
「僕? 僕はベルの主人だよ。 ベルの首を見ればわかると思うけどね」
私はベルの首を見るとそこには奴隷の証である首輪が付けられていた。
「あなた! 私の妹を奴隷扱いするなんて!!」
「ご主人様に対して無礼」
ベルはいつの間にかナイフを握り私に対峙している。
その矛先は私に向いていた。
視線は鋭く、ナイフの構え方から戦闘慣れしている動きだ。
私たちのやり取りを見ていた野次馬だがベルがナイフを取り出すと周りからざわつく声が聞こえてくる。
「よせ、ベル」
「ご主人様・・・はい」
男の子が命令するとベルはナイフを収める。
「それじゃ、行こうか」
「はい」
ベルは笑顔で男の子と一緒に歩いていく。
残された私はショックで少しの間その場から動くことができなかった。
私が屋敷に戻ると老執事のヴィルウェムが声をかけてくる。
「お帰りなさいませ、リーンお嬢様」
「爺、悪いけど今すぐ頼みたいことがあるわ。 額に大きな傷を持ったオレンジ髪の男の子が今どこにいるか探しなさい」
「畏まりました」
「あと、母様はどこ?」
「奥様なら中庭におります」
「ありがとう」
私はヴィルウェムに命令すると母様のところへと向かう。
中庭に到着するとヴィルウェムが言ったように母様が花を愛でている。
だがその顔はいつものように憔悴していた。
ベルがいなくなってから母様はいつもこんな感じだ。
「母様、朗報です」
「どうしたの、リーン」
母様は疲れ切った顔でリーンを見る。
「ベルが、ベルがこの都市に戻ってきたのです」
「えっ?! ベルが・・・ベルが戻ってきたのですか?!」
私の言葉を聞いて目に光が戻ってきた。
「ああ、神様、ベルが生きていることに感謝します! それでベルは! あの子はどこに?!」
「母様、落ち着いてください。 私が街中で直接会いました。 だけど今のベルは奴隷なのです」
「そんな・・・どうしてベルが奴隷に・・・」
「母様、すみません。 それは私が聞き忘れていました。 今、爺に男の子の所在を確認させてます。 見つけ次第会いに行きましょう」
「その男の子のところにベルがいるのですね? わかりました。 リーン、ありがとう」
久しぶりに母様が心の底から笑顔を見せてくれた。
ほどなくしてヴィルウェムから男の子の所在が報告される。
どうやらこの都市でも有名な食事処にいるそうなので早速母様と一緒に会いに行くことにした。
ヴィルウェムに案内された店は私もよく利用している。
中に入ると食事の時間には少し早いせいか人はそんなにいなかった。
中央の卓にはベルのほかに先ほど見た男の子と女の子が4人いる。
「ああ、ベル! ベル!!」
母様はベルを見るなり涙が溢れ人目も弁えず走っていく。
そして食事中のベルに抱き着いた。
「ベル! 会いたかった! この7年間ずっと会いたかった!!」
「な、何?! 離して」
ベルは母様から離れようとするが先ほどと違い椅子の上で藻掻いていた。
「え? なになに? ベルちゃんの知り合い?」
「違う」
「ベル、母のことを忘れてしまったのですか?」
「ベルちゃんのお母さん?!」
「知らない・・・離れろ」
ベルは緑髪の女の子の質問に否定しながら母様の抱擁から抜け出そうとする。
そこに助け船が入る。
「すまないが僕の奴隷に手を出さないでくれないか?」
その言葉を聞いた母様がベルから離れると男の子を見る。
「あなたがベルの主人ですか?」
「ああ、僕がベルを含めた5人の主だ。 ベルに用があるならまず僕を通してくれ」
「私はベルの母でクローシュといいます。 なぜベルは奴隷になったのですか?」
男の子はベルを見る。
するとベルは首を横に振っていた。
「申し訳ないがそれはお答えできない。 ベル本人が拒否しているからね」
母様は男の子の前に行くと土下座した。
「お願いします。 娘を、ベルを返してください。 お願いします」
けど、返答は残酷なものだった。
「それはできない。 ベルは僕たちにとってなくてはならない存在だから」
私も母様の隣に行くと土下座した。
「私からもお願いします。 妹を返してください」
「ベル本人が拒否しているのに困ったな・・・」
男の子は自分の頭を掻きながら困り顔で思案していると、
「こんなところで何をしている」
声がしたほうを見るとそこには父様がいた。




