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69.ヴァルファール伯爵領

砂漠を越えたシフトたちはとりあえず草原で一息つく。

当分はサンドワームとは戦いたくないと誰もが思っているだろう。

だが、悪いことばかりではない。

サンドワームから得られる経験値はゴブリンやオークなどとは桁が違う。

そんなサンドワームを少なくとも1000匹以上は殺したことでルマたちも膨大な経験値を得て大量のレベルアップの恩恵を受けた。

この頃ルマたちも強くなる機会が少なくなってきたからこれは嬉しい誤算である。

もしこれがVirtual(仮想) Reality(現実) Massively(大規模) Multi(多人数)player(同時参加型) Online(オンライン) Role(ロール) Playing(プレイング) Game(ゲーム)なら倒すのは大変だけど莫大な経験値を持つモンスターがいるが、誰も来ない絶好の狩場スポットとして時間が許す限り永遠と狩り続けるだろう。


ガイアール王国の極南デューゼレル辺境伯領を目指してはいるが現在ここがどこなのかが皆目見当もつかない。

なにか町や村が近くにあれば今どの辺りか聞けるが、今のところはそれらしい建造物は無かった。

太陽は真上に差し掛かっていたが急ぐ旅でもないのでとりあえず今日はここで1泊することにする。

「みんな、今日はここで1泊するから野宿の準備をするよ」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

もう外での野宿には慣れたものだ。

シフトは空間から調理道具と薪と食器一式を取り出す。

フェイは【風魔法】で雑草を刈って調理と露天風呂用のスペースを作る。

ベルは受け取った食材を一口サイズに切り分けていく。

ローザは鍋を設置して【火魔法】で薪に火を付ける。

ルマは設置された鍋に【水魔法】で水を9割ほど注ぎ、それが終わると露天風呂用のスペースに移動して【土魔法】で土を掘り起こしたあと、凹んだ部分の土を固めると【水魔法】を発動して、水を浴槽に注いだ。

ユールは【光魔法】を発動して水を温めてお湯にする。

しばらくするとベルの料理が出来上がり、それをシフトたちが美味しく頂く。

そのあとはみんなで一緒に露天風呂入る。

シフトはルマたちの裸体を見ながら過去を振り返る。

(そうか・・・もうすぐ2年になるのか)

最初に会った時のルマたちはこの世を憎んでいたり、諦めていたり、自我を失っていたりと暗い表情だった。

だけど今はそんなことはなく年相応の明るい笑顔を見せている。

選んだ理由こそ個人が持つ稀有な能力だが、ルマたちを買って良かったと今は心底思っていた。

実母(ヨーディ)勇者(ライサンダー)たちへの復讐が終わったら、その時はどこか住み良い場所でみんなと一緒に暮らしたいものだ)

ミルバークの町でギルバートやサリア、ヘルザード辺境伯領で助けた女性たちと一緒に狩りや採取をしながら過ごすのもいい。

王都スターリインでベルとマーリィアが仲良くなって街中を歩く光景を見るのも捨てがたい。

首都テーレでナンゴーをからかいながらもたまに獣王国に足を運んでタイミューに会うのも良いだろう。

色んなことを考えていると裸体を隠さずにルマがやってきてシフトに声をかける。

「ご主人様、どうされましたか?」

「ちょっとね、僕たちが出会ってからもうすぐ2年になるものだからつい感傷に浸っちゃってね」

「そうですか・・・ご主人様に買われてからもう2年になるのですね」

ルマも過去を振り返るような、そんな顔をしている。

「私はご主人様に出会えて本当に良かったと思います」

「出会えてよかったのはルマちゃんだけじゃないよ」

「ベルも」

「そうだな、わたしもそう思うよ」

「わたくしもですわ」

フェイを筆頭にいつの間にかシフトの周りに集まっていた。

「みんな・・・ありがとう」

シフトは改めてルマたちに感謝を口にするのであった。

風呂から上がるとシフトたちは出発までの時間をのんびりと過ごした。


翌日、太陽が地平線から顔を出したころ、シフトたちは改めて南東にあるデューゼレル辺境伯領を目指して旅を再開した。

今の時期にしては気持ちいい気候である。

なぜなら今は国歴1854年、季節は雪が降る時期。

本来なら雪が降り積もってもおかしくないのだが、ここは王都スターリインよりも南にあり冬というよりはむしろ夏のイメージが強いのだ。

もしこれが極北ヘルザード辺境伯領なら今頃は猛吹雪の真っ只中だろう。

下手をすれば数日の間足止めを受けていてもおかしくないからだ。

極北の悪天候とは無縁な穏やかな気候に癒されながらシフトたちは南東へ歩いていく。

モンスターも定番のホーンラビットくらいなもので進路を妨害するほどの脅威はなかった。


砂漠を越えてから4日後───

今日も今日とて平原を南東に歩いていると遠方に何かが見える。

「あれは・・・」

「森のようですね」

いち早く気づいたのはフェイだった。

「ご主人様、いかがいたしましょうか?」

「そうだな・・・このまま森を目指して突っ切ろうと思う」

「畏まりました、ご主人様」

歩き続けるシフトたち、太陽は西の地平線に触れるころ、やがて前方に森が見えてくる。

「今日はここで野宿をして明日森の中を抜けていく。 何か問題はあるか?」

「特に問題はありません」

シフトたちは明日に備えて英気を養うことにする。


翌日、森の中へと入っていくシフトたち。

今まで森路や獣道などの悪路は歩きなれているのでサクサクと進もうとする。

だが、手付かずなのか自然の恵みが豊富にあるので急遽材料補充することにした。

ベルが鑑定を使ってシフトたちに指示して飲食可能な果物やキノコなどを採取する。

また薪に使える枯れ木も拾っていく。

手に入れた食料や枯れ木などはシフトの【空間収納】に次々と放り込む。

これで当面の食料費を抑えられるだろう。

森を歩いているといくつかの魔物と遭遇するがその中でも高確率でいるのが熊と狼だ。

そして今回もフォレスト・ベアーとフォレスト・ウルフがいた。

普通は熊と狼は危険なので対峙した際は細心の注意を払う必要があるが、シフトからしてみれば食料という認識が極めて高い。

フォレスト・ベアーとフォレスト・ウルフの群れを見たシフトは特攻し追い掛け回し捕まえて瞬殺している。

ルマたちはシフトに狙われた熊と狼が可哀想とすら感じていた。

生き生きとしたシフトがフォレスト・ベアーとフォレスト・ウルフの解体を鼻歌交じりで行っている姿を見るとたまに怖く感じるくらいだ。

シフトとしても何の罪もない(?)熊や狼を可哀想だとは思っている。

だけど、肉の誘惑には勝てない。

どんな人間でも何かしらの犠牲のもとに生きているのだから。


1週間後───

やっとのことで森を抜けるとそこには大きな町があった。

よく見ると派手で立派な建物が1つあることからどうやらどこかの領主がある都市らしい。

「みんな、あの都市で・・・ベル? 大丈夫か?」

シフトはベルの顔色が悪いことにいち早く気付く。

「あ・・・ご主人様・・・大丈夫です」

「大丈夫じゃないだろ? そんなに顔色が悪いんだから。 あの都市によるのはやめようか?」

「でも・・・」

ベルは主人であるシフトに迷惑をかけたくないのか言い淀んだ。

そうこうしているうちに都市のほうから男性が歩いてくる。

「おや、珍しい。 旅のかたですか?」

「ええ、そうです。 デューゼレル辺境伯領を目指しているのですが・・・」

シフトの問いに男性は親切に教えてくれる。

「デューゼレル辺境伯領? ここからだと更に南東に位置するところですね」

「そうなんですか? ありがとうございます。 ついでにここの領地とあの都市はどこの貴族のかたが治めているのですか?」

「ここはヴァルファール伯爵領だよ。 ギャンザー伯爵様がここを治めているのさ」

そう、ここはベルの父親であるギャンザー伯爵が治めている領地だった。


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