67.砂漠越え
「よう、シフト」
ナンゴーはこんな夜中に呼び出されて頗る機嫌が悪い。
「大丈夫か? 疲れてないか?」
「お前が言うな!! まったく、俺は暇じゃないんだぞ。 それより獣王国について聞きたい」
シフトの何気ない一言でナンゴーは憤りを感じたがすぐに本題に入る。
「それについてだけど、まず最初に獣王国での問題はあらかた片付いた。 今はタイミュー女王陛下が頑張っているよ」
「そうか・・・タイミュー女王陛下が・・・? ん? タイミュー女王陛下??」
ナンゴーはシフトの発言に違和感を覚える。
アルデーツやナンゴーの部下たちも皆驚いていた。
「シフト、すまないが最初から事の顛末を聞かせてくれないか?」
「ええ、面倒だなぁ・・・仕方ない、それじゃ話すけど、始まりはルマたちが・・・」
「待て! ここで起こったことはもう知っているから、獣王国で起きた出来事を頼む」
シフトは顰め面になるがナンゴーは苛々としていた。
「注文が多いな、わかったよ。 獣王国の王都アンニマームのところから話すよ」
シフトは王都についたその夜に王城へ侵入したこと。
黒幕は姉のレパーリュと思われたが実は妹のピュルムだったこと。
タイミューの母親、レパーリュ、ピュルムが死亡したこと。
国民の強い要望でタイミューが女王になったこと。
タイミューの護衛のために1ヵ月獣王国に滞在したこと。
話を聞き終えたナンゴーは今得た情報を頭の中で整理していた。
「なるほどな・・・ピュルム王女殿下が王位奪取するためにね・・・」
「レパーリュにしろ、ピュルムにしろ、タイミュー女王陛下に嫉妬していたのだろう。 本人はいつまでも3人で一緒の時間を過ごすと思っていたからな」
「それは仕方ないさ。 下の者はいつまでも上にいけないなんてままあることだ。 俺とて兄弟姉妹がいれば今頃は権力競争をしていただろうからな」
ナンゴーが真面なことを言うとシフトたちだけでなくアルデーツやナンゴーの部下たちも驚いた顔で見ていた。
「なんだ、お前ら! 俺がこんなこと言うのがそんなに珍しいか!!」
「いや、あんたのことだから兄弟姉妹全員をあの手この手で手段を択ばず卑劣な罠に何重にも嵌めて確実にあの世へ送ったのかと思ってた」
シフトが言うとアルデーツとナンゴーの部下たちは大きく頷いた。
「おい!! お前ら!! それじゃ俺が血も涙もない冷血漢じゃないか!!!」
「いや、だって・・・」
「日頃の行いを見ていると・・・なぁ?」
ナンゴーの部下たちは非難めいた目で見ている。
「お前ら! 終いには本当に泣くぞ・・・」
「まあ、あんたが嘆こうが喚こうがどうでもいいが、僕が知っているのは以上だ。 もっと詳しく知りたいならタイミュー女王陛下に直接聞くんだな」
「・・・何はともあれ王国と獣王国の戦争は回避できたんだ。 それに関してはありがとよ」
ナンゴーはシフトたちに対して礼をする。
アルデーツやナンゴーの部下たちも頭を下げる。
「このことは俺のほうからグラント国王陛下に伝えておく」
「勝手にしろ」
シフトは興味がないのかナンゴーに丸投げした。
「それはそうとシフトよ。 俺の部下にならないか? お前ほどの実力を持っているのはそうはいない。 目的なんてほっといて俺のところに来いよ」
ナンゴーの部下たちは驚いていた。
気難しい上司が雇用を持ち掛けるのだから。
「それは断ったはずだ」
「考えるだけでも構わないぜ」
「悪いけどそれは受けられないな。 タイミュー女王陛下にも言ったが全てが終わったら遊びに行くくらいなら構わないよ」
シフトは部下になることはキッパリと断ったがナンゴーの人としての全ては否定しなかった。
「はぁ、頑固で変わり者だな」
「それはナンゴー辺境伯様の頭がおかしいだけだから気にすることはないよ」
「さりげなく毒を吐きながらディスるのはやめてくれないか?」
ナンゴーは溜息をつきながらシフトを見る。
「用はもう済んだだろう? ならさっさと帰ってくれ」
「わかったよ。 夜分に失礼したな。 俺たちは帰るがお前らも気をつけろよ」
「ああ、そちらも夜道には・・・って、アルデーツがいるから問題ないか」
「そういうことだ。 それじゃあな」
ナンゴーたちは馬に乗ると首都インフールに戻っていった。
翌日、シフトたちはいつもよりも遅めの出発となる。
シフトはルマたちにしっかりと睡眠をとるように促した。
途中で体調を崩されても困るのとアルデーツにも言ったように大事な仲間だからだ。
シフトとしてはルマたちに無理はさせたくないと気遣っているのだがルマたちからはたまにオーバーワークじゃないかと思うときがある。
だが、ルマたちは文句は言わない。
なぜならシフトのことを好きで愛しているからだ。
旅は順調で天候にも恵まれている。
途中、ホーンラビットやジャイアント・アントが襲ってきたがルマたちが率先してサクサク倒す。
食料と素材と魔石が手に入り、シフトたちはほくほくしていた。
ナンゴーたちと別れて4日が経とうとしている。
やがて草原が徐々に緑を失い、砂が少しずつ混じり、そしていつしか砂漠が目の前に広がっていた。
そこから見える風景は砂しか見えない。
「砂漠か・・・」
「ご主人様、いかがなさいますか?」
シフト1人であれば【空間転移】を使ってさっさと砂漠越えをしてしまうが、ルマたちを引き連れて砂漠越えは厳しいだろう。
さすがに個人で決める内容ではないのでルマたちの意見も聞くことにした。
「個人的には最短ルートで行きたいから砂漠越えしたいが・・・みんなの意見を聞きたい。 砂漠越えか迂回するか」
「「「「砂漠越え(です・だな・だね・ですわ)」」」」
「迂回」
珍しくベル以外が砂漠越えを選んだのだ。
本来なら迂回してデューゼレル辺境伯領を目指すのが正しいだろう。
しかし今回はベル以外が砂漠越えを選んだ。
それはなぜか? 答えは簡単で季節と治安が関わっているからだ。
これから年末にかけて多くの人が王都や首都に足を運ぶ。
家族に会うため、友と会うため、大口の商いを行うためなど人により理由はいろいろあるだろう。
中には王侯貴族のパーティーに使われる高価な品が運ばれる。
それらを狙うのが盗賊、野盗、山賊、海賊などの窃盗団だ。
彼らはこの時期に通行人をあるいは行商人が率いる商隊を襲い金品を略奪する。
本来安全な道でも狙われる可能性は十分あるからだ。
ルマたちはそれを知っているからこそ無理な砂漠越えを選ぶ。
唯1人ベルだけが迂回を選んだ。
「みんなの意見を取り入れて砂漠越えをする」
「「「「畏まりました、ご主人様」」」」
「・・・」
ベルは暗い顔をして俯いた。
「ベル? どうしたんだ? 何か問題でも?」
「なんでもありません」
「「「「「?」」」」」
ベルは元貴族の令嬢だから年末に賊が現れることは知っているはず。
不思議に思ったが理由を説明しないところを見ると触れられたくない何かがあるのだろう。
シフトはベルに問おうとしたが途中で止める。
誰でも聞かれたくないことの1つや2つは必ずあるからだ。
シフトは【空間収納】からスノウ・ベアーの毛皮から作ったコートとスノウ・ウルフの毛皮で作った靴を人数分取り出すとみんなに渡した。
これは以前ヘルザード辺境伯領で倒したスノウ・ベアーとスノウ・ウルフの毛皮をベルが時間があるときに【錬金術】で加工したものだ。
毛皮自体が冷たくまた頑丈でもあるため防具としても十分役に立つだろう。
シフトたちは身に着けると身体がひんやりするのがわかる。
あと人数分の水袋を取り出しルマたちに渡して準備完了だ。
「それじゃ、みんな行くよ」
砂漠へ歩き出すシフトにルマたちもそれに付いていく。
シフトたちは知らなかった。
この砂漠について。
そして、なぜパーナップ辺境伯領とデューゼレル辺境伯領との間を直行できる乗合馬車がないのかを。
それは目の前にある極めて危険な砂漠地帯があるからだ。




