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66.え? 報告しないとダメなの?

獣王国の王都アンニマームを出発して1ヵ月後───

シフトたちは獣王国の国境を越えてガイアール王国のパーナップ辺境伯領に戻ってきた。

行きと違いトラブルに見舞われることもなく無事に帰ることができた。

このまま東に進むと首都インフールが見えてくるはずだ。

太陽も未だ真上まで昇っていないので今から向かえば2~3日後には着くだろう。

ところがシフトは突然足を止めたのだ。

「・・・」

「「「「「?」」」」」

ルマたちはシフトが急に止まったので不思議に思っていた。

「ご主人様、どうかされましたか?」

代表してルマが質問する。

「いやね、首都インフールに行く理由ってあったっけ?」

「? 疲れを癒すために宿をとる・・・とか?」

ルマはとりあえずそれらしい答えを導き出して言ってみる。

シフトは考えてみると首都インフールには実父『ヤーグ』を殺すためにやってきていた。

その目的はすでに成就しているし、首都インフールからデューゼレル辺境伯領に向かう乗合馬車は無かったはずだから今更行く理由はない。

「うーーーん、僕としてはもうあの首都に行く意味がないと思っているんだよね。 次の目的地は一応デューゼレル辺境伯領だし」

「どうしますか?」

しばらくして出した結論は、

「よし、首都インフールへは行かずに南東を目指す。 みんなもそれでいいかな?」

シフトは首都インフールから右45度の方角を指す。

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

ルマたちは全員首を縦に振り、シフトの意見を受け入れる。

そして進路を首都インフールから南東へと変更して歩き出した。

()()()()()()()()()()()()()()()・・・






シフトたちが進路を東から南東に変えた頃、アルデーツのところに国境警備隊から伝書鳩が届いた。

アルデーツは送られてきた情報に目を通す。

内容は『獣王国に向かった少年1人と少女5人が我が領内に戻ってきた』とのこと。

「ふむ、シフトたちが戻ってきたのか。 主に報告しておきますか」

アルデーツは領主の執務室へ向かうとノックする。

『誰だ?』

「アルデーツです。 先ほど国境警備隊から伝文が届いたので報告に参りました」

アルデーツは部屋に入るとそこではナンゴー辺境伯が書類整理が落ち着いてお茶をしていた。

「それで内容は?」

「シフトが獣王国から戻ってまいりました」

「戻ってきたのか? それじゃ、問題が解決したってことか?」

「おそらくは」

「戻ってきたら首根っこ押さえて獣王国で何があったのか白状させないとな」

「ええ、場合によってはガイアール王国と獣王国の戦争になりかねませんからね」

しかし、ナンゴーとアルデーツは知らない。

シフトたちが進路を変えてデューゼレル辺境伯領に向かっていることを・・・


3日後───

アルデーツは西門の見張り台にいた。

早ければ昨日シフトたちがインフールに着いているはずだがその気配がなかった。

アルデーツは能力を十全に使い、昨日から西の方角を確認しているが範囲内にシフトたちがいないからだ。

そうこうしている内に太陽は真上を通り、西のほうへと傾き、やがて地平線に消えていく。

(おかしい・・・いくらなんでも戻ってこないのは変だ)

アルデーツは国境からインフールまでの道程を思い出す。

平原で特に障害になるようなものは一切ないはずだ。

アルデーツは馬舎に向かうと衛兵が声をかけてくる。

「アルデーツ様、どうされましたか?」

「馬を1頭借りるぞ」

アルデーツはそれだけ言うと手頃な馬を選び乗ると西の国境へと走らせた。

50分後、国境とインフールの中間地点にくる。

ここなら取りこぼしがないだろうとアルデーツは確認するがそれでも見つけることができなかった。

「馬鹿なっ! どこへ行ったんだ?!」

アルデーツは国境まで馬を走らせた。

更に50分後、国境に到着すると突然やってきたアルデーツに警備兵がびっくりしていた。

「アルデーツ様、どうされたんですか?!」

「急ぎで確認したいことがある。 3日前に連絡を受けたときのことだ。 ここを通った少年少女だが少年の顔に大きな傷はなかったか?」

「あ、ありました」

アルデーツのあまりの剣幕に上ずって答える警備兵。

「それで少年たちはどちらに向かった?」

「首都インフールのほうに向かいました」

アルデーツはその日担当していたほかの警備兵にも聞くが同じ回答しか返ってこなかった。

(どういうことだ?! 忽然と消えただと??)

シフトがいなくなった? どこへ行った? アルデーツは頭の中にある過去の情報を思い出していく。

(たしか極北ヘルザード辺境伯領でザール辺境伯を殺害、王都スターリインからヤーグを殺しにここ極西パーナップ辺境伯領へ来た・・・)

そしてアルデーツは目を見開き1つの結論を出した。

(まさか極南デューゼレル辺境伯領に直接向かった?!)

兵たちが緊張して見守っているとアルデーツが言葉を発する。

「伝令!! ナンゴー辺境伯に伝書鳩で南に早馬を出せと伝えろ!! 私がこれから南東に向かうこともだ!!」

「はっ!! 畏まりました!!」

アルデーツはそれだけ言うと早々に馬に駆けより南東を目指して走らせた。

幸いパーナップ辺境伯領は草原豊かな場所であり、夜馬を走らせても問題なかった。

それからアルデーツは2時間ほど馬を走らせると前方に煙が立ち上っているのが見えた。






パチパチパチ・・・

火と薪から音が聞こえてくる。

シフトたちは夜の静寂の中、火の回りで談笑していた。

「?!」

フェイが急に立ち上がり北西を見た。

「どうした? フェイ?」

「しっ!!」

フェイは自分の口に指を当てて声を立てるなとジェスチャーした。

シフトたちの視線がフェイに集まる。

「・・・馬の蹄の音がする。 ご主人様、どうやらこちらに向かってきているようです」

フェイは真剣な表情でシフトに報告する。

ルマたちも緊急事態と認識した。

「数は?」

「1頭です」

「1頭?」

フェイの答えに疑問を抱く。

盗賊や野盗であればこの見渡す限り広い草原に1人で攻めてくるなどありえないことだ。

ならこの先の町か村に早馬を出したのだろうと推測する。

「・・・とりあえずみんな警戒だけはしておいてくれ」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

しばらくするとフェイの言ったように馬の蹄の音がしてこちらに近づいてくる。

そして馬に誰かが搭乗している。

シフトたちはその人物が誰か注意深く見た。

「あ! あれって弓矢の達人のおっさん!!」

最初に気づいたのはやはりフェイだった。

「弓矢の達人のおっさん? ・・・アルデーツか!!」

アルデーツがここにくる? 何の用だ?

シフトは考えたが思いつかなかった。

そうこうしているうちに馬に乗ったアルデーツがシフトたちの前に現れた。

アルデーツは馬から降りるとシフトに近寄った。

「やっと見つけたぞ、シフト!!」

「アルデーツ、久しぶり。 どうしたんだ?」

「『どうしたんだ?』じゃない! どうしてインフールに来ないんだ!!」

アルデーツは激怒していた。

あれ? なんで怒ってるの?

「まぁまぁ落ち着け、アルデーツ。 話が見えてこない」

「これが落ち着いてなどいられるか!! まったくなぜ報告しに来ないんだ!!!」

「報告? 何を?」

「獣王国についてに決まっているだろうが!!!!!」

ああ、獣王国の件についての報告か・・・ん? どうして報告しないといけないんだ?

「いや、ナンゴー辺境伯から獣王国の揉め事を解決するような依頼を受けてないし、正直義理もなければ義務もない」

「はぁ・・・」

それを聞いたアルデーツは額に手を当て天を仰いだ。

「シフト、普通国家間の問題ならその国の機関に報告するのが義務だと思うのだが・・・」

「いや、僕軍人じゃないし、愛国心もないし、大事なのはルマ、ベル、ローザ、フェイ、ユールの5人だけだし」

タイミューみたいな国や民を大事にしてくれる良き治世者ならわかるが・・・

愛情をまったくといっていいほど受けずに育ったシフトに愛国心を求められても困る。

ルマたちは身体をくねくねさせてシフトの言葉に喜んでいた。

「とにかくインフールに来てくれ」

「え? これから行くの? やだよ、断る、拒否する」

「主に今回の件を報告してほしいのだ」

「要件があるならアルデーツ、あんたのように自分から来て直接聞けと伝えておけ。 それと楽するんじゃないとついでに言っておけ」

シフトの対応に絶句するアルデーツ。

仕方がないので緊急用の信号弾(花火)を2つ取り出すとその場で打ち上げる。

アルデーツの信号弾(花火)は遥か上空で爆発し黄色と緑色の大輪を咲かせた。

「うわ~~~~~♪」

「綺麗」

ベルとフェイはうっとりと信号弾(花火)を見ていたが残りの面々はそうではなかった。

「ご主人様、ここにいたら軍隊が攻めてきますよ!」

「どうするんだい、ご主人様?」

「わたくしたち、国家反逆罪で牢屋行きですの?」

シフトは冷静に信号弾(花火)の色を確認する。

黄色と緑色から推測するに『緊急事態、ナンゴー辺境伯は直ちに来られよ』といったところだろう。

シフトはアルデーツを見て思った。

(義理堅い人だ)

そしておよそ2時間後、日も変わろうとする時間にナンゴーと部下十数名は馬に乗ってシフトたちのところに到着するのであった。


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