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65.今日だけは普通の女の子でいたい

タイミューが女王即位してから1ヵ月が経過していた。

ガイアール王国でいえば国歴1853年、季節は紅葉をむかえる時期。

シフトが生を受けて13歳を迎えていた。

獣王国の王都アンニマームは今もお祭り騒ぎである。

即位して最初の2週間は王都以外の国内の町や村を回った。

タイミューと近衛騎士団、それにシフトたちも同行して王都で公表したことと同じように説明し、王に相応しいか問いかける。

大半の獣人は賛成していたが、一部のレパーリュ派とピュルム派が反対しただけであり、概ねタイミューを女王として認めていた。

あとの2週間はタイミューの母親である前女王、姉のレパーリュ、妹のピュルムの葬儀をはじめ、これからの獣王国の在り方についての会議や書類整理など国政に関わることについて議論している。

シフトたちはここで御役御免かと思ったがタイミューが護衛を希望したので念のためその依頼を引き受けた。

と言っても同じ女性であるルマたちをタイミューの護衛にしたほうが安心できるだろう。

シフトはルマたちと違い少し時間を持て余していた。

タイミューの優秀な部下を借りてシフトはある者たちを調査する。

それはガイアール王国の王都スターリインとパーナップ辺境伯領首都インフールにいた右手に紋様がある連中だ。

シフトたちの前に立ちはだかる暗躍者とも襲撃者ともいえる存在。

何が目的で行動しているのかもわからず黙秘を貫く者たちだ。

もしかするとこの獣王国にも潜伏している可能性があり、ここでも騒動を起こす可能性がある。

しかしシフトの心配は杞憂に終わる。

なぜなら()()()()()()()()だからだ。

それはピュルムの王位奪取の件に少し関わっていたがそれらを極秘裏に行い、犯行の痕跡を一切残していなかったからである。

そして事が済んだのかすでに獣王国から撤退していたのだ。

そうとは知らず警戒するシフト。

獣人たちにいろいろと調べてもらったが手掛かりは何も出ず、これ以上は無駄と調査を途中で打ち切った。

今後もなにかしらの行動が予測はされるだろうがそれがなんなのかわからない。

(いざとなったらルマたちと人里離れた場所でひっそりと暮らせばいいか)

シフトはルマたちと世捨て人として生きていくのも悪くないと考える。


数日が経ち、獣王国が落ち着いたことを確認するとシフトはガイアール王国に戻ることを決断する。

本来の目的である実母『ヨーディ』を探すべくガイアール王国の極南にあるデューゼレル辺境伯領の首都テーレを目指す予定だ。

シフトはその旨を伝えるべくタイミューを探すと以外にもすぐに見つかった。

ルマたちと談笑しながら歩いてくるタイミューがそこにいる。

「あ、ご主人様」

「警護はばっちりだよ!」

ベルとフェイが元気良く声をかけてくる。

「みんな、護衛ご苦労様。 タイミュー女王陛下、お話があります」

「ハナシデスカ?」

「はい、明日この王都を出てガイアール王国に戻ります」

シフトの発言にルマたちはいつかくる未来だと割り切っていたのでたいして驚かなかったが、唐突に知らされたタイミューは驚いていた。

「キュウデスネ」

「ここ1ヵ月護衛ということで滞在しましたが問題もないようなので明日王都を発つことにします」

「マッテクダサイ。 シュッパツハアサッテニシテモラエマセンカ?」

「明後日ですか? まぁ1日くらいは先延ばしでも構いませんが・・・」

タイミューはシフトの承諾を得るとルマたちのほうに向く。

「アス、シフトサンヲカリタイ」

タイミューの直球の申し出にルマたちは驚いて顔を見合わせる。

「それは構いませんが、いったい何を?」

代表してルマが許諾すると目的を聞いてきた。

「フタリキリデマチヲアルキタイ」

タイミューは真剣な目で答える。

あまりのど直球にシフトだけでなくルマたちも面を食らった。

タイミューさん(女王陛下)が望まれるのであればよろしいかと」

ユールが許可を出すとタイミューは喜んだ。

「アリガトウゴザイマス」

この喜びようを見ると断り辛いシフトたちだった。


翌日、太陽が地平線よりその全貌を見せたころ、シフトは王宮の広間にいた。

タイミューの希望により今日1日シフトは付き合うことになったのだ。

「オマタセシマシタ」

声をしたほうに振り向くとタイミューは爽やかな限りなく白に近いピンクのワンピースを着て歩いてくる。

「サア、イキマショウ」

似合う、似合うのだが・・・

「ちょっと待ってください。 もしかしてその恰好で行かれるのですか?」

「ジジョニタノンデエランデモライマシタ。 ナニカモンダイデモ?」

「さすがに面が割れているのでせめて顔をフードで隠したほうが・・・」

そう、タイミューはこの獣王国の新女王なのだ。

はっきり言って目立つ。

シフトは無用なトラブルを避けるためにフード付きのマントを取り出すと羽織わせる。

最後にフードで顔を隠すと完成だ。

「これでよし」

「ムウウウウウ・・・」

タイミューは折角気合を入れてきたのに早くも葛藤していた。

それは服装を選んだ意味がないのとトラブルに巻き込ませまいとする優しさの板挟みにあっているからだ。

「そう怒らないでください」

「オコッテマセン!!」

「今日のお召し物はとても似合っています。 だから機嫌を直してください」

「キョウイチニチワタシヲマンゾクサセラレタラユルシテアゲル」

タイミューはシフトに対して無茶な要求を突きつける。

それを聞いたシフトは苦笑しながらタイミューに応えた。

「はい、喜んで。 タイミュー女王陛下」

2人は王都に繰り出すのだった。


商店街は相変わらず賑わっていた。

新鮮な肉や野菜だけでなく魚も売られている市場。

それらの食材を使って調理された出店。

獣の生地から作られる衣類を販売している衣料品店。

アクセサリーなどの小物を扱っている露店などなど。

ガイアール王国の王都スターリインには劣るがそれでも見応えがある商店街だ。

子供は燥ぎ走っていて、大人はより良い商品を求めて店をはしごする。

シフトはまずはアクセサリーを販売している露店にタイミューを連れていく。

「イラッシャイ、ヒトゾクノオニイサンミテイッテヨ」

露店の男性がシフトを引き込もうと声をかける。

シフトも店先のアクセサリーを見ていく。

指輪に腕輪、耳飾りにピアス、ネックレスなど細かい銀細工がずらっと並んでいた。

その中でも天使をモチーフにしたネックレスが目に留まる。

「すいません。 ここって人族の硬貨って使えますか?」

「ツカエルヨ」

「なら、この天使のネックレスが欲しいんだけど」

「コレカイ? ソレナラギンカ50マイデドウダ?」

「買った」

シフトは革袋から金貨1枚を店主に渡した。

「お釣りはいらないから」

「マイドアリ」

シフトはタイミューに天使のネックレスを渡した。

「はい、これ」

「アリガトウ」

タイミューはフードで顔があまりわからないが気に入ってくれたのか声を出して喜んだ。

「ア!」

その声とフードの下の顔が見えた店主が思わず声をあげてしまう。

シフトは自分の口に指を当てると店主に対して黙るようにとジェスチャーする。

それを察した店主がすぐに営業スマイルに戻った。

「アリガトウネ。 ()()()()ニヨロシクネ」

シフトたちは礼をすると次の店へと歩くのだった。

いろいろな店を歩くと小腹が空いてくるものだ。

そんな中タイミューがシフトの腕を引っ張る。

何事かとタイミューを見ると1つの出店を見ていた。

そこには鉄板の上にピンポン玉くらいの大きさの食べ物がずらっと並んでいて店主が鉄串でくるくるひっくり返していた。

「シフトサン、アレタベタイ」

「いいよ。 それじゃ、買ってくるよ」

シフトは鉄板焼きの店主に声をかける。

「すみません。 2つ貰えますか?」

「ハイヨ。 2ツデドウカ16マイダヨ」

シフトは革袋から銅貨16枚を店主に渡すと10個の詰めた木箱を2つ渡されたのでそれを受け取る。

「それじゃこれで」

「アイヨ。 マタキテクレヨナ」

タイミューのところに戻ると待ちきれないのか口を開けて涎が垂れそうになっていた。

とりあえず1つ渡すとタイミューは早速1個木串で刺すと口に入れる。

「ウ~~~ン、アイカワラズオイシイ~♪」

「タイミュー女王陛下はこれ好きなの?」

「ウン、コノタコヤキハチイサイトキカラスキダッタ」

2個目を口に入れようとした手がそこで止まる。

そしてたこ焼き屋の両隣の肉の串焼き屋とお好み焼き屋を見る。

「ネエサンハクシヤキヲイモウトハオコノミヤキガスキダッタ」

母に連れられて姉と妹とよくたこ焼き、串焼き、お好み焼きのどれが美味しいかで店の前で口論していた。

だけど今は論議をする相手(姉と妹)や止めてくれる(母親)はもうこの世にはいない。

タイミューは寂しい気持ちになりながら2個目のたこ焼きを口にする。

この後シフトの分まで食べてしまったので追加で2つ購入した。

そして今度は落ち着いて食べようと歩いていると広場で劇を上演するらしい。

シフトたちも劇を観ることにする。

料金として2人で銀貨4枚なので支払うと有名なのか客が結構入っていた。

空いてる席に座って上演開始まで待つ。

しばらくすると演目が始まる。

話の内容としては1人の姫が身分の違う青年を恋し、様々な困難を乗り越えて最終的には結ばれるハッピーエンドな劇だった。

演目も終わりシフトとしてはありふれた劇だと思ったがタイミューを見るといつもより真剣な表情をしている。

「「・・・」」

なんとなく街を歩く2人。

空を見上げれば太陽は西のほうへと傾いていた。

「そろそろ戻りましょうか」

「ハイ」

シフトとタイミューを連れて城へ戻ることにした。


夕焼けの王城内、火が灯る前の誰もいない廊下を2人で並んで歩いている。

「シフトサン」

シフトは名を呼ばれたのでタイミューのほうを向くと唇に柔らかいものが触れる。

シフトの目の前にはタイミューの顔があり、そこでようやくキスされたことを認識した。

タイミューは唇をはなすと少し離れて照れ笑いを見せる。

「キョウハアリガトウ。 タノシカッタワ」

そう言うとタイミューはシフトを置き去りにして自室に戻っていった。


早朝準備を整えたシフトたちは王都入口に歩くとそこには1人の獣人がいる。

それは護衛もつけず自らが見送りにきたタイミューだった。

「タイミュー女王陛下」

「ミオクリニキマシタ」

「ありがとうございます」

タイミューに対してシフトたちは皆一礼をする。

「イカレルノデスネ」

「僕にはやらなければならないことがありますので」

「マタコノクニニキテクレマスカ?」

「確約はできませんが全てが終わったらまた訪れたいと思います」

「ソノトキヲタノシミニシテイマス」

タイミューが笑顔で応じる。

「それでは失礼します」

「オゲンキデ」

シフトは歩き出すとルマたちもその後を歩いていく。






タイミューは去っていくシフトの背中を只々見つめている。

『ワタシモツレテッテ』

その一言が言えなかった。

シフトたちの背中を追いかけることもできなかった。

本当は女王の地位など捨ててシフトたちに付いていきたかった。

だけど安定してきた祖国(獣王国)を捨てることなどタイミューにはできなかった。

なにより自分(タイミュー)を慕ってくれる国民を捨てることなどできなかった。

獣王国が内部崩壊することをタイミュー自身は望んではいなかったのだ。

(サヨウナラ、シフトサン。 ワタシノハツコイノヒト)

シフトたちが見えなくなるとタイミューはその場で泣き崩れた。


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