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64.新たなる獣の王

シフトはタイミューの母親とレパーリュと偽ピュルムを同時に相手にしていた。

壊さない限りは無限に襲い掛かってくる人形とかしている。

どうしたものかと考え始めた途端に3人の動きが止まった。

そして糸が切れたようにその場に倒れる。

周りを見るとタイミューがピュルムを倒して亡骸の前で泣いていた。

操者(ピュルム)を失い、傀儡として操られていた3人が解放されたのだ。

タイミューの近くにはユールがいるから問題ないだろう。

フェイを見ると状況が伝わってないのかそちらでは近衛騎士たちとの戦闘がまだ続いていた。

シフトは慌ててフェイのところまで転移する。

「フェイ、足止めご苦労さん」

「わっ! びっくりした」

突然現れたシフトに驚くフェイと近衛騎士たち。

「サッキノヤツガモドッテキタゾ」

「キヲツケロ」

「ソイツハソコノヒトゾクノメスヨリツヨイゾ」

「戦いはもう終わりだ。 あれを見ろ」

シフトがタイミューのほうを指さす。

そこでは今もなおタイミューが泣いている。

「タイミューサマガナイテイル?」

「ミロ、ジョウオウヘイカトレパーリュサマ、ピュルムサマガタオレテイルゾ」

「ナニガアッタンダ?」

「タイミュー王女殿下が今回の騒動の主犯であるピュルム王女殿下を止めたのだ」

シフトが簡潔に説明すると獣人たちがざわついた。

「僕たちがきみたちと戦う理由はない。 後のことはタイミュー王女殿下に聞くがいい」

シフトの言葉を聞くと一時休戦みたいな流れになり代表して近衛騎士団団長がタイミュー王女殿下のところまで足を運び説明を求めた。

「ヒメサマ、ゴヒタンノトコロキョウシュクデスガセツメイヲオネガイイタシマス」

「・・・ワタシガネエサントイモウトヲコロシマシタ。 ワタシハツミビトデス。 モウアナタタチノヒメデハナイ」

タイミューは首を横に振り、今起こった出来事を簡潔に説明する。

「マッテクダサイ。 ワレワレニハヒメサマガ・・・タイミューサマガヒツヨウナノデス」

「コンナチヌラレタワタシデモ?」

「タイミューサマダカラツイテイクノデス」

近衛騎士団団長はその場で膝をつき、最敬礼する。

それを見た獣人たちがタイミューのところまで行き近衛騎士団団長と同じように膝をつき、最敬礼した。

「「「「「「「「「「ワレワレハタイミューサマニイツマデモツイテイキマス!!」」」」」」」」」」

困惑するタイミューにシフトたちもやってきて提案をする。

「タイミュー王女殿下、そんなに不安であれば明日国民の前で今回の事態を説明して裁きを受ければいいのでは?」

「ご、ご主人様?!」

「なんてことを言うんですの?!」

フェイとユールがあまりの内容に驚いていた。

いやフェイたちだけでなくタイミューやこの場にいる獣人全員が驚いている。

それはそうだろう、今回の騒動を白日の下に晒し決断を国民に委ねるのだから。

下手をすれば国外追放やその場で死刑もありえる。

シフトもそれは十分承知しているので続きを話す。

「獣王国の国民がタイミュー王女殿下に付いていくなら問題ないが、もし処罰を求めるなら僕がその場で王女を攫うことにするよ」

その発言にフェイとユールが額に手を当てて俯き、タイミューが自身の口を手で覆い、近衛騎士団団長を筆頭とする獣人たちは殺気だった。

「ご主人様、それは大問題だよ」

「国際問題に発展しますわ」

「仕方ないだろ? この場にいる獣人はタイミュー王女殿下に付いていくと言うが国民1人1人はどういう考え方かわからないんだから」

シフトが至極真っ当なことを言うとフェイもユールもぐうの音も出ない。

「頭ごなしに押さえつければ国民は不満を爆発させて国内で内戦(クーデター)が勃発する可能性だってあるんだ」

「タシカニソウダガ」

「クニガニブンスルノハヨクナイ」

内戦が起きるのは獣人にとっても嫌な問題である。

「だからもしタイミュー王女殿下の処遇が悪いほうに傾くなら僕個人が勝手に行動するよ」

グラント、ギルバート、サリア、ナンゴーら王国の上位者がこの場にいたら間違いなく全力で止めるだろう。

だが、この場には独裁者(シフト)を止められるものなど誰もいなかった。

「国王とナンゴー辺境伯には悪いが、これもタイミュー王女殿下のためだ。 きっと受け入れてくれるだろう」

シフトは自己満足に頷いていた。

(うわあ・・・)

(悪魔の発想ですわ)

(ソレハドウカトオモイマス)

フェイ、ユール、タイミューら女性陣は顔を引きつらせて内心呆れていた。

話し合っていると城の中庭から剣と剣のぶつかる金属音が聞こえてくる。

それは戦闘が終結したことを知らないルマ、ベル、ローザと城内を守護する獣人たちだ。

「イケナイ、ハヤクトメナイト」

正気に戻ったタイミューが中庭へ走っていく。

それに続くように近衛騎士たちもタイミューの後ろを付いていく。

シフトたちもルマたちのことが心配で中庭へと向かった。


中庭へ着くとルマたちは後退しながら戦っていた。

「なかなかやる。 だけどベルの敵ではない」

「どうした? お前たちの実力はその程度か?」

「ちょっと2人共、煽らないの」

押しているのは獣人たちだが圧倒しているのはルマたちだった。

その光景を見てタイミューたちが呆れている。

仕方なくシフトが声をかけることにした。

「おい、戦いは終わった!! みんな武器を下ろせ!!!」

何事かと声のしたほうを見るとタイミューがいて獣人たちは驚き、そして敬意を表すようにその場で膝つき、最敬礼する。

ルマたちもシフトたちのほうに駆け寄ると無事であることに安堵した。

「あ、ご主人様」

「やあ、そっちは終わったのかい?」

「ご主人様、よくぞご無事で」

「とりあえずは収まったよ?」

シフトは歯切れの悪い言葉を発する。

「いや、収まってないから」

「大問題が発生しましたわ」

「「「???」」」

シフトの発言にフェイとユールが突っこんだ。

2人はすぐに状況をルマたちに話すと全員が疑いの目でシフトを見る。

「ご主人様・・・それはちょっと・・・」

「無駄にトラブルが増えてる」

「何を考えているのやら・・・」

「仕方ないだろ? この方法が一番手っ取り早いと思ったんだから」

ルマたちだけでなく獣人たちからも痛い視線を浴びてシフトは頭を掻きながら文句を言うのだった。


翌朝、太陽がまだ地平線から顔を出したころにタイミューは王令を発動し王都にいる国民を王都中央の広場に集めさせた。

獣人たちは朝一から何事かとひそひそと話している。

そこにタイミューが現れると先ほどまで喧騒だったのが皆黙り辺りは静寂に包まれた。

「ミナサン、キョウアツマッテモラッタノハワタシノハナシヲキイテホシイカラデス」

タイミューはここ1ヵ月以上前に起きた出来事を国民の前に包み隠さず説明した。

タイミューの母親である女王陛下がすでに死亡していたこと。

姉であるレパーリュと妹であるピュルムに命を狙われたこと。

そしてそれを止めるべく自らの手でレパーリュとピュルムを手にかけたこと。

全てを聞き終わったあと、国民の一人が声を上げる。

「オレハタイミューサマニツイテイクゾ!!」

それを皮切りに次々とタイミューを推す声が聞こえてくる。

「ボクモタイミューサマガイイ!!」

「オレモ!」

「ワタシモコノクニヲセオッテイクノハタイミューサマシカイナイワ!!」

獣人たちは皆『タイミューが王族だから』ではなく、『タイミューこそが相応しい』と心から思っているのだ。

「ミンナ」

「ヒメサマ、イヤ、ジョウオウヘイカ!!」

「タイミュージョウオウヘイカ! バンザイ!!」

「「「「「「「「「「バンザイ!! バンザイ!! バンザイ!!」」」」」」」」」」

獣人たちからはもはやタイミューを称賛する声しか聞こえてこなかった。

タイミューは獣人たちの歓声に自然と涙を流していた。

「ミナサン、アリガトウ。 ワタシハコノジュウオウコクヲヨリヨイクニヘトハッテンサセマス。 ソレガワタシジシンヘノショクザイダカラ」

タイミューはこの日新たなる決意を胸に抱き、宣言した。

「コンナワタシダケド、ミナサン、ドウカササエテクダサイ。 ソシテ、イッショニジュウオウコクノハッテントミライヲキリヒラキマショウ!!」

獣人たちから更なる歓声がタイミューに向けられる。

そしてここに新たなる獣王国の女王タイミューが誕生したのだった。


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