63.獣姫たちの結末
シフトはフェイとユールの2人と共に獣人相手に不殺の戦いをしていた。
先日の10000人のときは相手が猪突猛進による波状攻撃であったが、今回の相手はこちらの動きを見て冷静に判断して攻撃を仕掛けてくる。
数や質の違い、場所も広くないし視覚情報も少なく、敵地であり、獣人を殺せば人族との戦争もありうるのだ。
シフトたちには圧倒的不利な状態での戦闘である。
本来ならタイミュー派の獣人を味方につけて制圧するのがセオリーだろうが先の戦いでレパーリュ派の獣人が少数だが紛れていたのだ。
いくらタイミューの人気があるからとはいえ志願兵を募れば前回のように後ろから刺そうとする輩が出てくるだろう。
そういう訳で現在シフトたち6人対獣人たち数百人以上の戦いが行われている。
もっともルマ、ベル、ローザが別の場所で囮として陽動しているので数的にはルマたちのほうが大変だろうが。
シフトとフェイが前衛で近衛騎士たちを相手に格闘で応戦していた。
突き、掌底、蹴りなどで相手を後方へと吹っ飛ばしていた。
ガシャン!!
その度に獣人たちの鎧と鎧がぶつかる音が鳴り響き、後ろにいた獣人が受け止めることで行軍速度を遅らせていた。
シフトはちらっとタイミューのほうを見るとレパーリュとおもわれる女獣人と剣で交戦している。
どうやら説得には失敗したらしい。
タイミューの実力がどの程度かはわからないが場合によっては助けに入る必要が出てきた。
タイミューたちの近くには1人血を流して地面に横になっている女獣人がいる。
たしかピュルムと言っていたな。
先ほど大きな音を立てて倒れた。
あの出血量では助からないだろう。
シフトはある程度情報を収集すると目の前の近衛騎士たちに集中することにした。
だが、このとき視線を外したのは大きなミスであった。
それからしばらくしてタイミューのいるほうから大きな音がしたのでそちらに視線を向ける。
そこにはレパーリュとおもわれる女獣人が血を流して倒れており、タイミューが後ろから剣で刺されていたのだ。
そしてタイミューを刺した人物は地面に倒れている偽ピュルムとそっくりのピュルムがそこにいた。
思わず二度三度と確認してしまう。
まるで鏡を見ているような瓜二つの顔がそこにいるのだから。
タイミューを刺したピュルムは邪悪な笑みを浮かべると剣を引き抜いた。
それと同時にタイミューが吐血をして倒れる。
(あれはまずい! 早く助けないと!)
接近した近衛騎士を無造作に吹っ飛ばすとフェイに命令をする。
「フェイ! 悪いがこの場は任せる!! ユール! 僕のところに来てくれ!!」
「ふぇっ?! ちょっ! ご主人様?!」
「どうしましたの? ご主人様」
突然の命令に混乱するフェイを他所にユールもただ事ではないことを感じたのか急いでシフトのほうに近づいた。
シフトは近づいたユールの腕をとると急いでタイミューのほうを見る。
するとそこには倒れたタイミューにダメ押しで止めを刺そうとしているピュルムがいた。
シフトは【空間転移】を使ってタイミューのところまで転移するとピュルムの手を掴んだ。
「ナッ?!」
「今何が起きたんですの?!」
「えっ?! ご主人様があんなところに?!」
その光景を見ていた誰もが驚いていた。
なにしろシフトとタイミューまでの距離は少なく見積もっても30メートル以上離れていたのだ。
どんなに早く移動してもピュルムの行動を止めることはできないだろう。
「驚いているところ悪いがちょっと向こうでおとなしくしてもらうよ」
「クッ!」
シフトはピュルムに蹴りを入れて玉座のほうに吹っ飛ばす。
そして[鑑定石]でタイミューの状態を確認すると生命力がほとんどなく、裂傷に状態異常の毒と呪いにかかっていた。
(こんなことならフルポーションを用意しておくべきだった!)
「ご、ご主人様?!」
「ユール! 早くタイミュー王女殿下の治療をしろ!! 生命力回復と裂傷、それと毒と呪いにかかっているから状態異常回復もだ!!」
「え? あ? は、はい!! タイミューさん、今助けますからね!!」
ユールは気を取り直したのかタイミューを見ると急いでとりかかる。
まずは冷静に回復させる順番を頭の中で組み上げる。
(最初に呪いで生命力を回復できない可能性があるので状態異常回復、次に失われた生命力、あとは裂傷の修復と失われた血を作り出す造血)
ユールはタイミューに手をかざすと【生命力回復魔法】と【状態異常回復魔法】を同時に発動させた。
毒と呪いのせいで回復が追い付かないがそれでも解毒と解呪される度に少しずつ生命力が回復していく。
ユールが魔法に集中していると何者かが邪魔するように襲い掛かってきた。
攻撃が届く前にシフトがそれを受け止める。
ユールを襲った人物はタイミューを大人にしたような女獣人だが生気を感じられない。
気が付いたタイミューがシフトと交戦している女獣人を見てつぶやいた。
「ウ・・・カ、カア・・・サン・・・」
そこに先ほど死んだはずのレパーリュと偽ピュルムも立ち上がって襲い掛かる。
2人もやはり生気を感じられない。
ピュルムも剣を杖代わりに立ち上がる。
「サッキハヨクモヤッテクレタワネ。 オマエモワタシノオモチャニシテアゲル。 ヤレ」
タイミューの母親とレパーリュと偽ピュルムがシフトに攻撃をする。
「ちっ!!」
攻撃を回避するもシフトは【五感操作】を使って効果がないことに舌打ちをしてしまった。
【五感操作】は生者に絶大な効果を発揮するも死者には効果がない。
なぜなら死者には真面な思考があるとは思えないからだ。
シフトは壊さない程度に3人を攻撃するも当てても当てても立ち上がって襲ってくる。
正にゾンビアタックだ。
面倒になっているのはシフトだけでなくフェイとユールも同じだった。
ユールのほうも過去にない症例に梃子摺っているがそれでも回復のエキスパートで、なんとか解毒と解呪に成功すると【欠損部位治癒魔法】で裂傷を修復し、次に【活性化魔法】で造血強化する。
タイミューの傷口が塞がって、肌色がどんどん良くなっていく。
魔法の練習で苦労したかいがあるというものだ。
傷口もなくなり血液も十分確保したところで、あとは失った生命力を【生命力回復魔法】で回復させるだけだ。
「あと少しですから頑張ってください」
ユールは【生命力回復魔法】をかけ続けた。
フェイのほうも先ほどまで3人で分担していた足止めを1人で相手しないといけないということで今まで以上に動いていた。
「ちょっと、これ無理ゲーじゃないの?!」
フェイが嘆くのも当然である。
なにしろ獣人を攻撃して吹っ飛ばす→後ろにいる近衛騎士が前に出てくる→治癒師が傷を負った近衛騎士を回復する→回復したら最後尾に並ぶ、これの繰り返しである。
魔物や悪人なら全力で攻撃すればいいけど、今回は何の罪もない人で殺してはいけないところから無限ループが成立した。
「まったく、ぼくに無理させすぎだよ!!」
嘆いてはいたがシフトから全幅の信頼を受けて、任されたことに嬉しい気持ちでもあるフェイだった。
私は目を覚ます。
「ウ・・・ウウ・・・」
ほんの少しの間気絶していたようだ。
今は、身体が軽く、先ほどまでの痛みも倦怠感もなく、すこぶる調子が良い。
「気が付かれましたの? 大丈夫ですか?」
「アリガトウ、モウダイジョウブ」
どうやら黄髪の雌が助けてくれたようだ。
私は礼を言うと立ち上がった。
「ピュルムヲトメナイト」
「キグウネ、タイミューネエサマ。 ワタシモコロソウトオモッテイタトコロヨ」
ピュルムは剣をもって私のほうに歩いてくる。
私も自分の剣を拾うとピュルムのほうに歩きだす。
お互いの距離が5メートルのところまでくると先にピュルムが仕掛けてきた。
「シネ!」
ピュルムは上段切りで攻撃してくるので私はそれを受け止める。
キイィーーーーーン!!!!!
金属と金属のぶつかり合う音が木霊した。
そこからピュルムによる猛攻が始まる。
袈裟斬り、横薙ぎ、左切り上げと連続した流れの攻撃をしてきたが私はそれを剣身で受ける。
ピュルムは私に反撃を与えるつもりはないのか上段切り、袈裟斬り、横薙ぎ、切り上げをバラバラに組み合わせてそれを流麗に次々と攻撃を繰り出していく。
私は無理に反撃せずにひたすら耐え続けた。
そして反撃への機会が巡ってくる。
(ココダ!)
私は剣をピュルムの剣にぶつけると先ほどまでの流れるような攻撃が止まり、鍔迫り合いになる。
力と力のぶつかり合いだが明暗を分けたのは運動量だ。
動かずに力を溜めていた私と常に力を放出し続けたピュルムでは私に分がある。
私は剣を弾くと無防備になった胴体に袈裟斬りでピュルムを斬った。
剣はピュルムの左肩から右腰に掛けて切り裂く。
「ガハッ!!」
ピュルムは吐血し、剣を落とすと後ろに数歩下がり仰向けに倒れる。
傷口からは大量に出血し、ピュルムの顔からは生気がどんどん抜け落ちていく。
私はピュルムに近づくと話しかけられた。
「ムカシ・・・カラ・・・ソウ・・・ダッ・・・タ・・・ネエ・・・サマ・・・タチガ・・・イナ・・・ケレ・・・バッ・・・テ・・・」
「・・・」
「ワタシガ・・・ホシ・・・カッタ・・・モノハ・・・ケッ・・・キョク・・・テニ・・・ハイラ・・・ナカッ・・・タ・・・ケドネ」
私は遣る瀬無い思いでピュルムを見ていた。
「ピュルム」
「タイミュー・・・ネエ・・・サマ・・・ナン・・・テ・・・ダイッ・・・キラ・・・イ・・・」
ピュルムはそれだけ言うと目を閉じて2度と開くことはなかった。
「ウ・・・ウ・・・ウワアアアアアァ・・・」
私は剣を落とすと泣きながらその場に崩れ落ちた。




