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60.直進

シフトたち一行は歩きで獣王国の王都を目指していた。

なるべく秘密裏に移動したいので街道や林道は通らずに森路や獣道を進むことにした。

顔が割れているタイミューにはパーナップ辺境伯領の露店で購入したマスカレイドとヘアウィッグを念のため身に着けた上にフードを被ってもらっている。

暑く厳しい時期にこの恰好は正直堪えるだろうが命を狙われているので我慢してもらいたい。

タイミューへの襲撃は獣王国に出発してからパタリといなくなった。

単に人員が不足しているのか、ターゲット(タイミュー)を見失ったのか、あるいは相手の計画通りに物事が進んでいるのかはシフトたちにはわからない。

幸い邪魔が入らないので森路をひたすらに進んでいた。


獣王国の領域に入ってから1週間後───

タイミューの地理情報を頼りに王都目指して進んでいると微かに水の流れる音がする。

水のほうへは一足先にフェイが偵察へと向かっている。

シフトたちはフェイの後を追うように歩いている。

しばらくするとフェイが戻ってきた。

「ご主人様、向こうに川が流れています。 そこで休憩しませんか?」

「ありがとう、フェイ。 タイミュー王女殿下、いかがいたしましょうか?」

「マダオウトマデキョリガアリマス。 ソコデスコシヤスミマショウ」

タイミューの提案にシフトたちは頷いた。

フェイの案内で進むと森を抜けて目の前に川が流れている。

ベルはさっそく川の水を鑑定する。

「ご主人様、この川の水綺麗で飲料水として飲める」

「それなら水の補給と折角だしここで食事と水浴びでもしよう」

「さすがご主人様ですわ。 こう暑いと身体がベタベタして困っていたところですわ」

ユールが体臭を気にしてたのかシフトの案に大喜びであった。

いつもならみんなで用意して食事をとり、お風呂に入るのが定番であったが今はタイミューがいるので最低でも護衛に2人つくようにする。

食事をベルとシフトが行っている間にフェイ、ユールが水浴びをしてルマ、ローザがタイミューの護衛をする。

フェイ、ユールが終わるとルマ、ローザと交代して水浴びした。

そのあとはみんなで食事をしたあとにベル、タイミューが水浴びしてルマたちが護衛につく。

ついでにシフトも下流の離れたところで水浴びをしていた。

「ふぅ・・・さっぱりするな」

シフトは1人身体を洗っていると上流から何か流れてきた。

何気にそれを拾ってみると布のようなので広げようとすると・・・

「キャアアアアアァーーーーーッ!!!!! ミチャダメデス!!!!!」

「ぶうううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!!!!!!!」

上流から凄い勢いでやってくるのは全裸のタイミューだった。

タイミューはシフトのところまで来ると持っている布を目にもとまらぬ速さで引っ手繰る。

自分の身体を隠すことも忘れるほどに見られたくないらしい。

「ミ、ミマシタ?」

「い、いえ、見ていません」

シフトはさりげなく目を逸らす。

「ウウウウウ・・・」

タイミューは恥ずかしいのか顔を真っ赤にして下を向く。

するとシフトの下半身を凝視して固まってしまった。

「エ? ア? エ? コレガオトコノヒトノ??」

「えっと・・・タイミュー王女殿下?」

「ア、ゴ、ゴメンナサイ!!」

タイミューは来た時と同様に凄い速さで上流に逃げて行った。

(初心な反応だな。 まるで箱入り娘みたいだ・・・)

シフトは川からあがると着替えてルマたちのところに戻った。


休憩も終えて再び歩き出すシフトたち。

先頭を歩いているシフトをタイミューはチラチラと見ていた。

タイミューちゃん(王女殿下)、どうしたの? ご主人様と何かあったの?」

「ナ、ナンデモアリマセン」

顔を真っ赤にして対応するタイミュー。

これがユールだと追撃をかけるところだがさすがに王女相手にそんなことはしない。

そんな微笑ましいやり取りをしていると森の奥のほうから人の気配を感じる。

シフトはフェイを見ると頷いて気配がしたほうに音をたてずに走っていった。

しばらくするとフェイが戻ってくる。

「ご主人様、報告します。 獣人が30名ほどこの付近をうろついています。 身なりからしておそらくは」

フェイはタイミューをチラッと見る。

狙いがタイミューであると即座に判断する。

「なるべくなら戦闘は避けたいところだがほかに道はあるかな?」

「ココカラダトヤマヲコエルシカアリマセン」

「山越えか・・・」

この状況でとれる選択肢は4つ。


1.山を越える

2.強行突破

3.夜になるまで待ってから行動する

4.来た道を戻り迂回して進む


1は獣人に察知されずに進むことができるが、誘い込まれて襲われる可能性もある。

2は獣人を倒すことはできても、これから先は戦闘の連続になるだろう。

3は闇に姿を暗ませて行動はできるが、日中の移動に制限がかかる。

4はそもそも一直線に行く必要はないので、多少時間がかかるが安全なルートで王都を目指せばいい。

どれもメリットデメリットが明確にあるので選び辛い選択肢だ。

「みんなの意見を聞きたい。 山を越えるか強行突破か夜まで待つか迂回するか」

「私はいずればれることを想定して強行突破です」

「ベルも強行突破」

「安全策をとって迂回だな」

「ぼくも迂回を選ぶよ」

「わたくしはルマさんとベルさんの意見を支持しますわ」

「タミヲキズツケタクナイカラウカイヲエラビマス」

結果は強行突破3に迂回3と見事に別れた。

こうなるとまだ結論を出してないシフトの答えによって方針が決まる。

「強行突破する。 これからは時間との勝負だと僕は思う。 獣王国の命運がかかっているのだから急ぐべきだ」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

「ソウデスヨネ。 ネエサンヲハヤクトメナイトイケマセンヨネ」

シフトの決断にタイミューは悲しそうな顔をしたが今は(レパーリュ)を止めるのが先だと気持ちを切り替える。

「タイミュー王女殿下、失礼します」

「ヒャッ」

「それじゃ行くよ。 みんなちゃんと僕に付いてきて」

シフトはタイミューをお姫様抱っこすると獣人がいるほうへ走り出す。

ルマたちもシフトの後に続いて走り出した。

そしてこの行動は当然獣人たちも感知する。






レパーリュ派の獣人たちはタイミュー王女殿下を捕まえるべく国中を探し回っていた。

この誰も通らなそうな森路もその1つだ。

獣人たちは森をくまなく捜索していると複数の人が自分たちに向かってくる。

先頭を走る額に傷がある人間の雄は何かを抱えて走ってくるのだ。

「トマレ! サモナイトコウゲキスル!!」

この部隊の隊長が警告するがそれを無視して突っ込んでくる。

「カカレ!」

獣人たちは襲い掛かったが人間の雄はその攻撃を避けまくる。

その隙に人間の雌たちが横を通り過ぎていく。

「ナニヲシテイル! オエ!!」

獣人たちもすぐに体勢を立て直して人間たちを追うと殿を務める雌が獣人の1人を蹴り飛ばし、すかさず【闇魔法】で視界を奪った。

「クッ、メガ」

「オエ! オウンダ!!」

人間を捕まえるべく獣人たちも走って追いかけた。

脚力に自信がある獣人たちだったが人間たちは更に速く走っていく。

走れば走るほど差が開いていた。

そしてまんまと逃げられた。

「クソッ! タイミューカモシレナイノニニガストハ。 オイ、キンキュウヨウノノロシヲアゲロ」

連絡係に命令するも動こうとはしなかった。

「キサマ! メイレイヲムシスルノカ!!」

隊長が連絡係の胸倉を掴もうとするよりも早く隊長の腹に剣が突き刺さる。

「ナ?! キサマ・・・」

「タイミューサマヲコロサレルワケニハイカナイ」

「タイミューヨリノモノカ・・・オ、オマエタチ、コ、コイツヲシマツシロ」

隊長は命令するもいつの間にかタイミュー派の獣人がレパーリュ派の獣人を倒していた。

「アトハオマエダケダ」

「オ、オノレ」

「シネ」

隊長は袈裟斬りを受けると切られた場所から血飛沫が舞い、膝から崩れ落ち二度と起き上がることはなかった。

「アノニンゲンタチ、タイミューサマヲマモレルカ?」

「ワカラナイ。 ダケドシンジテミヨウ」

タイミュー派の獣人は人間であるシフトたちを信じることにした。


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