59.襲撃
シフトは獣人たちと話しているタイミューに近づいて声をかける。
「タイミュー王女殿下、ちょっといいかな?」
すると獣人たちはすぐさまシフトを囲む。
「ヒメサマヲマモル」
「コンドハマケナイ」
「タイミューサマ、コチラヘ」
獣人たちは自分の怪我を顧みずタイミューを守ろうとする。
「オマチナサイ。 ハナシヲキキマス」
タイミューは獣人たちの制止を振り切ってシフトの前まで来ると話し合いに応じる。
「獣王国について聞きたい。 獣王国には人間族はいるのか? それと簡単に入国できるのか?」
「ショウスウダケデスガイマス。 ニンゲンゾクダケデナクエルフヤドワーフナドノシュゾクモイマス。 ニュウコクモセイゲンヲカケテナイデス」
「次の質問だがここからタイミュー王女殿下が住んでいた獣王国の王都まではどれくらいかかるんだ?」
「ワタシノアシデアルクトヒトツキ。 ダケドココマデハシッテキタカラダイタイハンツキクライデス」
「最後にタイミュー王女殿下に敵意を持つ人物に心当たりはないか?」
「・・・フタリイマス。 ヒトリハワタシノアネ。 モウヒトリハイモウト。 ドチラカガワタシヲコロソウトシタ」
タイミューは悲しそうな顔で答える。
「質問に答えてくれてありがとう」
シフトはそれだけ言うとナンゴーのほうに歩いていく。
そこではナンゴーがルマたちに話しかけていた。
「なぁ、あいつと旅するよりも俺と一緒にここで暮らさないか?」
「申し訳ございませんが、お断りします」
「興味ない」
「残念だがわたしの趣味じゃないかな」
「ごめん、魅力ない」
「もう心に決めた方がおりますので」
そして撃沈していた。
「あんまりじゃねぇか・・・」
「どうしました? ナンゴー辺境伯様」
「てめえ、わかってて声かけるな!!」
「僕の仲間たちに声をかけるのが悪い。 そんなに可愛い娘が欲しいなら奴隷商で好みの娘を買えばいいじゃないか。 どうせお金はあるんだから」
「あのな、俺だっておまえみたいに可愛い娘を侍らかせたいがこの身分だと世継ぎとかの問題で決められた女としか結婚できないんだよ! はぁ・・・羨ましい・・・」
ナンゴーはシフトを羨望の眼差しで見た。
「いや、それは可哀想だが・・・まぁ、それは置いといて、獣王国に行くことになったんだがナンゴー辺境伯にお願いがあるんだ。 アルデーツを貸してくれないか?」
「はぁ?! ダメに決まってるだろ!! アルデーツがいなくなったらここの守りはどうするんだよ!!」
「いや、他に優秀な部下が多いから問題ないかと・・・」
「そんなわけあるか! アルデーツほど優秀な部下がほいほいいるわけないだろ?! 寝言は寝てから言え!」
シフトはナンゴーの回答について予想していた通りなので気にしなかった。
「わかったよ。 それよりもタイミュー王女殿下から聞いたのだがどうやら姉か妹に狙われているらしい」
「! なるほどな、どちらかわからないが尻尾を掴めばこの騒動も沈静化するか・・・ところでいつ頃出発するつもりだ?」
「日も昇ってないから今から出発しても問題ないかな」
「まぁ、待て。 おまえが提供した右手に紋様をした連中から情報を聞き出すから出発は明日にしろ」
ナンゴーが至極真っ当なことを言ったのでシフトも肯いて了承する。
話も終わって帰ろうとするとタイミューがこちらに駆けてきた。
「マ、マッテクダサイ。 ワタシモイキマス」
「タイミュー王女殿下、ナンゴー辺境伯様のところにいれば安全ですよ?」
シフトは説得を試みたがタイミューは首を横に振る。
「アナタタチツヨイ。 ソレニコノママワカレルノイヤ」
どうしたものかとナンゴーを見ると頼れないと言われたショックで凹んでいるのと厄介事にまきこまれないのと複雑な顔をしていた。
「それなら一緒に行きましょう」
シフトたちはタイミューを引き連れて朝の都市を散策することにした。
ルマたちは食事処に足を運んでいた。
本来はシフトも同行するのだが用があるといって別行動をしていた。
ルマたちは7人で適当な店を選ぶと入っていく。
注文をして料理がくるまで雑談する。
食事が運ばれてきてルマたちは料理に舌鼓を打つ。
食べ終わり席を立つとフードを被って右手に紋様が刻んである者たちが一斉にルマたちへと走りだす。
フードを被ったタイミューたち2人を守ろうとルマたち5人は円陣を組んでいた。
襲撃者たちは逃がさないように10人以上で囲っていた。
「また、思い切りがいい連中だな」
「感心している場合じゃないよ、ローザちゃん」
ローザとフェイは軽口を叩きながら襲撃者たちと交戦していた。
数では圧倒的に相手が有利である。
ルマたちが戦っていると襲撃者の1人が円陣の中にいる2人を襲った。
そのうちの1人が襲撃者の攻撃を躱そうとしたがフードを切られて素顔を大衆に晒す。
「あ、タイミュー」
「危ないですわ」
「タイミューちゃん、逃げて!!」
素顔を晒されたタイミューは慌てて円陣から抜け出すと顔も隠さずに店外に逃げ出した。
襲撃者たちもルマたちに目もくれずタイミューを追うのだった。
残されたルマたちはもう1人に話しかける。
「大丈夫ですか? タイミュー様」
そこには先ほど店外に逃げ出した者ではなく本物のタイミューがいた。
店外に逃げ出したタイミューは裏路地を走っていた。
追いかけてくる襲撃者たちのほうが足が速くすぐに追いつかれてしまった。
「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
襲撃者の1人がナイフを取り出すとタイミューに襲い掛かった。
その刃はタイミューを刺す・・・ことはなかった。
タイミューはナイフを躱すと腕を掴みへし折ったあとに地面に頭を勢いよく押し付けた。
襲撃者たちは驚きはしたが次々と畳みかけるように襲い掛かるが躱して返り討ちにしている。
1人また1人と襲撃者たちは地面に沈んでいく。
最後の襲撃者を倒すとタイミューは一息つく。
「ふぅ・・・まさかこんなに襲ってくるとはねぇ・・・」
【偽装】を使ってタイミューの容姿に化けたシフトがうんざりしたような声で呟きながら襲撃者たちを1人1人拘束する。
「お前たちにとってタイミュー王女殿下は存在してほしくない人物なんだな」
そこにルマとベルがやってくる。
「ご主人様、そちらはどんな感じですか?」
「たいしたことはなかったよ」
「これはすごい」
「ルマ、頼む」
「任せてください」
ルマは上空に向けて【火魔法】を放つ。
5分後───
不審に思ったアルデーツが部下数名を連れてやってきた。
そこにはルマとベルとフードを被ったシフトの他に襲撃者10名以上が拘束されて地面に寝ころんでいた。
「これは・・・そこにいるのはたしかシフトの連れのお嬢さん」
「はい、実は不審な人物に襲われまして」
「全員倒した」
ルマとベルはアルデーツに結論を伝える。
「なるほど。 おい、この者たちを牢に連れていけ。 先に捕まえた奴らと一緒に目的を自白させろ」
「「「「「「「はっ!!」」」」」」」
アルデーツの部下たちは襲撃者を連れて行った。
「それでそちらは・・・タイミュー様ですか? これは失礼をしました。 お怪我はありませんか?」
シフトは首を縦に振る。
「すみません、ショックが大きかったものですから声が今出ないのです」
「そうですか。 それでは私はこれにて失礼をいたします」
アルデーツは一礼するとその場を去っていった。
「もう行ったみたい」
「ふぅ、大丈夫そうだな。 とりあえずローザたちと合流するか」
その後も1日中、シフトは偽タイミューとして過ごしていたが朝の1件以来襲ってはこなかった。
念のため昨日のように襲撃者を警戒したが特に変わったことはなく無事朝を迎える。
翌朝、昨日と同じ時間にナンゴー辺境伯の館へ向かうと門にはすでにアルデーツがいる。
アルデーツの案内で応接室に移動するとすでにナンゴーが疲れた顔で座って待っていた。
「よう、来たか・・・」
「お疲れのようだな・・・」
「ああ、右手に紋様を刻んでる奴らを片っ端から拷問したからな・・・大変だったぜ」
ナンゴーの目の下には薄っすらと隈ができているのでろくに寝ていないのだろう。
「自白剤使わなかったの?」
「最終手段として使ったけどな。 とりあえずタイミュー王女殿下を狙った人物がわかった」
「ホントウデスカ?」
タイミューが身を乗り出して聞いてくる。
「ええ、レパーリュ王女殿下です」
「ネ、ネエサンガ? ウソデスヨネ?」
「事実です」
「ソンナ・・・」
ナンゴーの言葉にタイミューはショックを受けていた。
「すまない、レパーリュ王女殿下って誰?」
シフトはわからないので質問するとタイミューの代わりにナンゴーが答える。
「レパーリュ王女殿下はタイミュー王女殿下の姉君で王位継承権は第1位だ。 つまり次期女王になるお方だ」
「? なぜ次期女王がタイミュー王女殿下を殺そうとするんだ?」
「国民の人気はレパーリュ王女殿下よりもタイミュー王女殿下のほうが圧倒的に人気があったからな。 それに黒い噂も絶えなかった。 その点ではタイミュー王女殿下に期待がいったんだろう」
「妬みからきてるわけか」
姉よりも人気がある妹を殺すことで獣王国を支配したいのだろう。
「とりあえず首謀者が解かったからこれから獣王国に向けて出発するよ」
「おお、頼んだぞ」
シフトが背を向けて部屋を退室しようとすると、
「マッテクダサイ。 ワタシモツレテッテ」
正気に戻ったタイミューが行動を共にしたいと志願する。
「正直、タイミュー王女殿下を連れて行くとかえって混乱を招くことになりかねないのだが」
「ソレデモワタシハアネヲトメタイ」
ナンゴーを見ると厄介事をここに置いていくなと視線で語っていた。
「はぁ、わかった、わかりました。 タイミュー王女殿下を連れていきます。 ただ無理はさせませんよ」
「アリガトウゴザイマス」
「おお、決まったようだな」
シフトがタイミューを連れていくことが決まるとナンゴーは上機嫌になった。
「・・・それじゃ時間ももったいないし早速獣王国に行きますか」
「ハイ、イキマショウ」
シフトはルマたちとタイミューを連れて獣王国を目指すのだった。




