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58.面倒事

太陽が地平線から顔を出したころ、シフトたちはタイミューと襲撃者4名を連れてナンゴー辺境伯の館へ向かった。

昨日と同じく門にはすでにアルデーツと衛兵たちが10人いる。

「シフト、昨日は助かった。 そちらがタイミュー王女殿下ですか・・・初めまして、私はガイアール王国パーナップ辺境伯領を統治するナンゴー辺境伯様の筆頭護衛でアルデーツと申します」

アルデーツと衛兵たちはタイミューに対して最敬礼する。

「ジュウオウコクノニバンメノヒメデタイミュートイイマス」

タイミューもアルデーツたちに対して礼をする。

「このような場所で立ち話もなんです。 こちらにどうぞ」

アルデーツが門兵に目配せすると開門させた。

「ところでそちらの右手に紋様がある連中は?」

「土産だ。 深夜未明にタイミュー王女殿下を暗殺しに来た者たちだ。 自害しないように猿轡をしているがな」

「・・・こいつらを牢へ入れておけ」

「はっ!!」

衛兵たちが襲撃者たちを連れていく。

「それではいきましょう」

アルデーツが歩きだすとシフトたちも後ろについていく。

昨日ナンゴーがいた部屋の前まで来るとアルデーツは扉をノックする。

「アルデーツです。 獣王国タイミュー王女殿下をお連れしました」

『な、なんだって?!』

室内でナンゴーは慌てていたのか盛大に何かをやらかした。

『お、応接室! 応接室に通してくれ!!』

「畏まりました」

アルデーツは1つ溜息をつくとタイミューに向き直る。

「主が失礼をいたしました。 応接室に案内いたします」

アルデーツは再び歩き出すとシフトたちも後ろについて歩くのだった。


応接室に通されたシフトたちだが席についているのはタイミューだけだった。

1人だけ座らされて落ち着かないタイミュー、そこにナンゴーが扉を開けて入ってくる。

「遅くなってすまない、私がガイアール王国の極西パーナップ辺境伯領を治めるナンゴーです」

ナンゴーはタイミューに対して挨拶する。

「ジュウオウコクノニバンメノヒメデタイミュートイイマス」

タイミューも席を立つと挨拶する。

「立ち話もなんだし座って話しましょう」

ナンゴーはタイミューを座らせると自分も座る。

そこから話が始まるかと思ったがナンゴーはなぜかシフトを見ていた。

「シフト、お前も座れよ」

「え? なんで? 僕は遠慮するよ。 というか僕たちは席を外すよ」

「てめえ、なにバックレようとしてるんだ! タイミュー王女殿下の護衛だろうが!!」

「いや、ここにはアルデーツもいるから問題ないかなぁっと・・・」

シフトがアルデーツを見ると難色を示していた。

「そもそもおまえにも聞きたいことがあるんだからいなくなるな!」

「え? あとは全部ナンゴー辺境伯様がやってくれるんじゃないの?」

「そんなわけあるか! 俺に全部押し付けるな!!」

ナンゴーは眉間に手を当てると疲れたように溜息をついた。

「わかったよ。 とりあえず話を進めて」

「ふぅ、まずはタイミュー王女殿下の今後の方針について聞きたいのですが」

「ワタシ、イノチネラワレテクニカラニゲテキタ。 クニモドッタラコロサレル。 カクマッテホシイ」

タイミューの言葉を聞いてナンゴーは天を向いた。

「・・・なるほど、それで亡命すると?」

ナンゴーの言葉にタイミューは首を縦に振る。

「ああ・・・これ匿った場合、獣王国からタイミュー王女殿下が誘拐されたと難癖付けられて王国に戦争吹っ掛けてくるかもな・・・」

ナンゴーはありうる未来に対して困っていたのでシフトを見る。

「おい、何か良い妙案はないか?」

「なぜ僕に振る?」

「いや、おまえがこんな面倒事を持ってきたんじゃないか。 少しは知恵を貸せよ」

「なら、今捕縛しているタイミュー王女殿下派の獣人に合わせて話を聞いてもらえばいいのでは?」

シフトの言葉を吟味してからナンゴーは答える。

「そうだな、それがいいな。 昨日の時点でアルデーツが反タイミュー王女殿下派の獣人は隔離している。 タイミュー王女殿下派の者たちに聞いてもらおう」

ナンゴーとタイミューは立ち上がるとシフトたちも連れて捕虜となったタイミュー派の獣人のところに向かうのだった。


昨日戦場になった西門。

そこには多くの負傷した獣人が座っていた。

周りには衛兵たちが見張りをしている。

シフトたちは獣人たちのところに行くとざわざわと騒ぎ出した。

そう、シフトとタイミューを見て獣人たちは喜びと同時に危険視していたのだ。

「タイミューサマ、ゴブジデ」

「ダイジョウブデゴザイマスカ?」

「ヒメサマ、ソノオトコキケン。 ハナレル」

タイミューは前に出ると話し始める。

「ミンナ、シンパイカケタ。 スマナイ。 ジュウオウコクデワタシイノチネラワレタ。 ダレガミカタデダレガテキナノカワカラナイ。 ダカラクニカラニゲタ」

タイミューの言葉に獣人たちは驚いていた。

「ダレガヒメサマヲネラッタンダ? ソイツタオス」

「オレ、ヒメサママモル」

「「「「「「「「「「オレモ」」」」」」」」」」

多くの獣人たちがタイミューを守り助けると声を上げる。

タイミューは嬉しくていつの間にか泣いていた。

「タイミューサマ、ミンナトイッショニモドロウ」

「ミンナ、アリガトウ。 デモイマモドッタラタミドウシノイクサニナル」

獣王国の人口は約10万人、そのうち今回の襲撃に1万人弱、母国にいる戦力は非戦闘員(女、子供、老人、その他負傷者など)を除くと5~6万人はいるだろう。

その中にはタイミューを慕う国民も大勢いる。

タイミュー派と反タイミュー派が分別されているなら問題ないが国にはタイミュー派の獣人が多くいるのだ。

タイミューが戻らない理由の1つには自分を慕う者同士が刃を向けあうのを恐れている。

「さて、どうする?」

ナンゴーがシフトを見て問いかける。

「今考えられる案は4つかな」

シフトが考えた案とは、


1.ガイアール王国で匿う

2.ガイアール王国とは違う国に亡命させる

3.獣王国に帰還させる

4.タイミューを狙った輩を倒す


1は王国の一部にタイミューたちが住める環境を提供する。

グラントのことだから賛成はするだろうが、その見返りにシフトを配下にするとか魔法武器の製造方法を伝授しろとかベルとマーリィアの仲を取り持てとか言われるだろう。

他にもナンゴーが危惧したように獣王国からタイミューが誘拐されたと難癖付けて戦争になる可能性もある。

そうなると国境線が近いここパーナップ辺境伯領が一番の被害を受けるだろう。

ナンゴーとしては涙目である。

2は王国以外の国へ亡命を薦める。

これはグラントとしては望ましくないと思うだろう。

なぜなら王国は獣王国に対する外交カードを1枚失い、他国にそのカードをあげてしまうのだ。

場合によっては獣王国と他国が手を取り王国を攻めてくる可能性もある。

グラントとしてはできればそれは避けたいだろう。

3は獣王国で内戦が勃発するだろう。

タイミュー派1万対獣王国5万という不利すぎる戦いが始まる。

これによりタイミューが恐れていたことが現実となり自分を慕う者同士が戦い、多くの死傷者が獣王国を埋め尽くし、最後にはタイミュー自身の死が待っているからだ。

4はタイミューを狙う首謀者を捕まえて穏便に済ませる。

これが一番確実だろうが問題は誰が何の目的でタイミューの暗殺を企てたのかだ。

そこが解からなければ行動しても意味がない。


シフトが思いつくことをナンゴーに説明すると唸ってしまった。

「一番は首謀者を捕まえることだが今の獣王国に入国できるかが問題だな」

シフトとしても手伝ってやるのも吝かではないが実母『ヨーディ』を探すべくガイアール王国の極南にあるデューゼレル辺境伯領へ行きたいのも事実だ。

どうしたものかと考えているとフェイが声をかけてくる。

「ご主人様、タイミューちゃん(王女殿下)のことどうするの?」

口ではどうすると言っているがその目は助けてあげてほしいと訴えていた。

それはフェイだけでなくルマたちも同じ気持ちなのだろう。

「みんな、聞いてほしい。 次の目的地はデューゼレル辺境伯領を予定している・・・が、たまには寄り道してもいいかなと思っている」

シフトがそう告げるとルマたちが笑顔になった。

「もう、さすごしゅ♪」

そして、フェイが意味不明な言葉を発する。

「なんだ? その『さすごしゅ』って?」

「ご主人様鈍感すぎ。 『さすが、ご主人様♪』の略だよ~」

「いや、普通に話せ」

シフトはフェイの脳天に軽くチョップを入れるのだった。


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