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57.夜襲

空に星々が輝くなか、シフトたちは犬も転ぶ亭へ向けて歩く。

都市内部は獣人たちの侵入を許していなかったので無事であった。

途中夕食用にパンと干し肉と水を7人分購入する。

宿に着き部屋に戻るとベル、フェイ、ユール、タイミューが雑談をしていた。

「ただいま」

「あ、お帰りなさい、ご主人様」

「お疲れ様ですわ」

「フェイたちは・・・何事もなかったようだな」

「特に敵が攻めてこなかったから問題なし」

「詳しいことは食事をしながらにしよう」

机の上にパンと干し肉と水を置くとシフトたちはそれぞれ食べ始める。

食事をしながら都市の状況を聞くとシフトはタイミューに話しかける。

「タイミュー王女殿下。 明日だけどこの地方を統括する領主に会ってもらいたいのだが問題ないか?」

「ニンゲンノケンリョクシャニデスカ? ワカリマシタ」

タイミューは素直に応じてくれた。

「了承してくれて助かる。 みんな、今日の夜だけど3交代で夜番するから。 最初はベルとフェイ、深夜未明に僕とユール、明け方をルマとローザだ」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

「ソンナコトシナクテモ・・・」

タイミューが困惑していると、

「タイミュー王女殿下にもしものことがあるとそれこそ外交問題に発展する可能性がある」

「・・・ワカリマシタ、アリガトウゴザイマス」

いろいろ考えた末にタイミューは納得してくれたのか頭を下げる。

食事を終えるとシフトは早々に眠ってしまった。


月が夜空の中心に差し掛かるころ、シフトは目を覚ます。

「あ、ご主人様、おはよう」

「んん、おはよう、フェイ、ベルも」

「ん、おはよう」

「なにか変わったことはあった?」

「特になし」

シフトが現状を訪ねるとベルが簡潔に答える。

とはいえタイミューを匿っている以上狙われていても不思議じゃない。

「とりあえずユールを起こしてもらえるかな? そしたら2人共睡眠をとるように」

「わかりました」

「ユール、起きる」

ベルがユールの身体を揺する。

「うーーーん、もう食べられませんわ・・・」

ユールは幸せそうな顔で寝言を言う。

どうやら食べ物の夢でも見ているようだ。

ベルはユールの耳元で言葉を口に(爆弾を投下)する。

「それ以上食べると豚のように太る」

「誰も太っていませんわ!!!!!」

ユールはクワッと目を覚ましガバッと上体を起こす。

「ユール、しーーーーー」

ベルが自分の口に人差し指を1本立てると静かにするようにジェスチャーする。

ユールは慌てて両手で口を塞ぐ。

熟睡しているのか他の就寝者たちは起きなかったようだ。

ホッとしたユールが頬を膨らませてベルに文句を言う。

「ベルさん、酷いです」

「何度も起こそうとしたけど起きないユールが悪い」

「う゛・・・」

ユールが図星を突かれちょっと凹む。

このままでは埒が明かないとシフトは2人に声をかける。

「ほら、2人共その辺にして・・・」

言葉の先を言おうとしたが妙な気配を感じてそこで止めた。

「ご主人様?」

「3人共戦闘態勢だ」

シフトの言葉にすぐに対応したベルとフェイ、素っ裸になって慌てていつもの冒険服に着替えるユール。

「ご主人様、外に3・・・いや4人います」

「数はこちらと同じか・・・獣人の別働部隊の可能性もあるからなるべく生け捕りにしたいな」

ベルとフェイが頷き、着替え終わったユールも慌てて頷く。

そこからは扉越しに睨み合いである。

2分経ち、3分経ち、いつ扉を開けて攻めてくるかをひたすら待ち続ける。

もうすぐ5分になろうとしたとき、痺れを切らしたのか扉を開けて4人のフードを被った者たちが攻め込んできた。

手にはナイフや剣を持ってシフトたちに襲い掛かる。

「「「「・・・」」」」

ガキイイイイイィィィィィーーーーーン!!!!!

ベル、フェイはそれぞれナイフで攻撃を受け止め、ユールは回避し、シフトは【五感操作】で平衡感覚を狂わせてから腕を掴んで容赦なく手→足の順番に骨を折った。

「!!」

骨を折ったのにも関わらず叫ぶことはなかった。

ここでターゲット(タイミュー)に起きて逃げられるのは避けたいのだろう。

シフトも襲撃者を逃がすつもりはないので【次元遮断】で外界と隔離する。

襲撃者たちは何度か攻めるもシフトたちを侮っていたのか倒せないでいる。

すでに仲間を1人倒されて数や実力で不利と悟ったのか部屋から出ようとするが、

「「「!!」」」

不可視の壁に遮られ逃げることができなかった。

振り向いた襲撃者たちにユールは【光魔法】で白光による目眩ましをすると目を閉じて手で顔を隠す。

その隙をついてシフトたちは残りの3人を攻撃して相手を戦闘不能にした。

拘束しようとシフトが襲撃者たちを見ると全員の右手に紋様が刻まれていた。

「フェイ、念のため4人の両手両足の腱をナイフで切っておいてくれ」

「了解」

シフトはロープで腱を切られて逃げられなくした襲撃者たちの両手両足を拘束し、念のため自害できないように猿轡をする。

3分後、金属音やユールの【光魔法】で目を覚ましてしまったルマとローザ、それと本当に襲撃されて蒼褪め震えているタイミューも含めて話し合うことにした。

「やってくるかなとは思ったが思い切りがいいね」

「笑い事じゃないよ、ローザちゃん。 まさかぼくたちのところに攻めてくるとはね」

「ああ、わかっている。 それにこの腕の紋様・・・」

ローザは先ほどまでの笑いから一変真面目な顔で襲撃者たちの右手を見る。

「狙いはタイミューちゃん(王女殿下)で間違いなさそうだね」

「とりあえず朝一にこの襲撃者たちをナンゴー辺境伯に突き出す」

「それが宜しいかと」

「コレカラドウスルノデスカ?」

「タイミュー王女殿下、それとベルとフェイは睡眠をとっておく、ユールと悪いがルマとローザは起きてこの連中が逃げないように見張りを頼む」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

「ワ、ワカリマシタ」

ベルとフェイは寝間着に、ルマとローザはいつもの冒険服に着替え始める。

羞恥心もなく服を脱いで着替える彼女たちを見てタイミューはシフトに苦言を呈する。

「ア、アノ、オ、オンナノコノキガエヲミルノハダメデス」

「ん? あ、ああいつものことだからつい・・・」

ルマたちとはもう1年6ヵ月ほど一緒にいるので着替えに関してはいつも通りだと割り切っていた。

その気になれば襲ってもいいと思ってさえいる・・・らしい。

自己主張が強いのが若干1名いるが・・・

「フェイ、さっさとする」

ベルは今も裸の恰好をしてシフトに挑発的な視線とポーズをとっているフェイを叩く。

「痛いよ、ベルちゃん・・・」

「さっさと着替える」

そこで見てしまうベルとフェイの胸を。

シフトは違和感を覚える。

(ん? あれ? もしかして・・・)

気になってしまいまじまじと見てしまう。

「?」

「ん? あれあれ? もしかしてぼくの魅惑なボディに見惚れちゃったかな?」

ベルは不思議そうに、フェイは揶揄うようにシフトを見る。

「ダカラオンナノコノカラダヲミテハイケマセン」

タイミューは顔を真っ赤にしながらシフトに抗議する。

「あ、いや、そのすまない。 ベル、もしかして胸が少し大きくなった?」

シフトの発言にベルは自分の胸を見る。

釣られてフェイもベルの胸を見た。

「? 確かに少し膨らんだ」

フェイは自分の胸とベルの胸を交互に見る。

「そ、そんな・・・ベルちゃんだけには勝っていたのに・・・」

フェイはいつの間にかベルが同じくらいの大きさになっていたことにorzしていた。

そして自然に悔し涙を流していた。


着替え終わったベルとフェイ、それにタイミューは眠りについた。

シフトたちは朝になるまで1時間に1回結界を解いては外部に刺客がいないか確認する。

夜中の連中だけなのかその後は1人も襲ってこない。

夜が明けるとベルたちを起こして支度を整えてからナンゴーの館に向かうのだった。


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