56.無力化 〔無双劇6〕
執務室を出たシフトとアルデーツは廊下を歩いていた。
「手伝ってくれるのはありがたいが本当にいいのか?」
「構わない。 ここで止めなければガイアール王国と獣王国での戦争になるのは火を見るより明らかだ」
「なら前衛は任せたい」
「ああ、後方は任せた。 あなたの技量は僕も知っているから。 ただ、僕には当てないでくれよ?」
2人は淡々と役割分担を話し合う。
「それでは先に行ってる」
「僕も仲間を引き連れてすぐに行く」
館を出ると2人は別々の方向に歩いて行った。
犬も転ぶ亭へ戻ると部屋ではルマたちとタイミューが雑談していた。
「あ、お帰りなさいませ、ご主人様」
ルマはシフトが戻ってくると慌てて出迎えるが、シフトは手で制した。
「みんな聞いてくれ。 今この都市に獣人が10000人ほど攻めてきている」
「「「「「「10000人 (ニン)?!」」」」」」
ルマたちとタイミューはあまりの人数に驚いていた。
「これから僕は獣人の無力化に行ってくる。 ルマ、ローザ、フェイは僕と一緒に、ベルとユールはこの部屋でタイミュー王女殿下を頼む」
「わかりました・・・って、タイミューちゃん、王女殿下だったの?!」
フェイがあまりにも素っ頓狂な声を出す。
ルマたちも驚いた顔でタイミューを見た。
「良い所のお嬢様だとは思ったがまさか王女殿下とはねぇ・・・」
ローザがちょっと呆れた感じで言うとタイミューは申し訳なさそうに頭を下げる。
「ゴメンナサイ。 ミブンシッタラタイドガカワルカモシレナイトオモッテ・・・」
タイミューはルマたちに謝罪した。
「別にいいよ。 それよりタイミューちゃんを狙う輩がいた場合、ベルちゃんとユールちゃんだけでは戦力が心細いような気がするんだけど」
「たしかにそうだな。 ローザかフェイのどちらを残すか・・・」
フェイの言葉はもっともなことでシフトが考えているとその発言者であるフェイが手を挙げる。
「それならぼくだね。 室内なら【武闘術】と【闇魔法】を持っているぼくのほうが圧倒的に有利だからね」
「なるほど・・・わかった、それでいこう。 ここを襲撃するようなことがあれば対処はまかせる。 ただし、獣人が攻めてきた場合は殺さずに無力化してくれ」
「殺さずに無力化か・・・了解」
「わかった」
「任されましたわ」
シフトの命令にベル、フェイ、ユールは首を縦に振った。
ルマ、ローザはそれぞれ武器を身に着ける。
「ルマ、ローザ、準備はいいか? 行くぞ」
「「畏まりました、ご主人様」」
宿を出るとシフトたちはこの都市の西を目指した。
10分後───
パーナップ辺境伯領の西門に到着するとまだ獣人たちはここまで攻めてきていなかった。
そこではアルデーツが衛兵に指示を出している。
「待たせたな」
「いや、始まる前に到着して助かった」
「作戦は?」
「基本はシフトが前衛で、私が後衛から弓矢で獣人を無力化する。 他の者たちにも頑張ってもらうが最悪の場合は足止めに徹してもらうように指示した」
館で別れる前に話した内容通りに進めるらしい。
「そのほうがいいだろう。 下手に攻撃して殺しましたじゃ洒落にならないからな」
「私も鏃を非殺傷能力の物に変えて相手の手足を攻撃する予定だ」
「了解だ。 ルマ、ローザも無力化できるならお願いしたいが無理なら足止めに徹してくれ」
「「畏まりました、ご主人様」」
西門外のほうから地響きが聞こえてくる。
どうやら獣人がここまで攻めてきたらしい。
「それじゃ、打って出る。 ルマ、ローザ、いくぞ」
「「はい!!」」
シフトは2人に声をかけると西門を出る。
遠目に獣人がこちらに走ってきているのがわかる。
先ほどの伝令の情報が正しければおよそ10000人の獣人が攻めてきたことになるだろう。
普通であれば脅威以外の何物でもないだろう。
だが、突出した力の持ち主がいなければこの程度ならどうということはない。
これがギルバートやアルデーツ級の実力者ばかりなら別であるが。
「ルマ、ローザはここで待機。 僕の横を通り過ぎて都市に向かった獣人を無力化してくれ」
「ご主人様、わたしたちも一緒に・・・」
「援護射撃に被弾するといけないからここで食い止めてほしい」
「わかりました」
ローザは無理を言わずに引き下がる。
シフトは獣人の群れに突っ込むのだった。
シフトがナイフを構えると獣人たちは一斉に襲い掛かる。
いくら身体能力で人間を上回っていてもギルバートやダーク・ウルフ並みのスピードではないなら大したことはない。
いつものように【五感操作】で距離感や平衡感覚を狂わせては手や足をナイフで切りつけたり刺したりして獣人たちを次から次へと無力化していく。
「コノニンゲンツヨイ」
「アイテハヒトリダ」
「ゼンインデカカレ」
獣人たちは圧倒的な数でシフトを潰そうとする。
躱す、切る、躱す、突く、切る、躱す、突く、躱す、切る、・・・
シフトの攻撃で受けた痛みに耐えられないのか獣人たちはその場で蹲るしかできなかった。
シフトが対応できなくて横を通り過ぎる獣人たちはアルデーツが弓矢で対応している。
その腕は見事なもので正確に手や足を狙って矢を放っていた。
『必中』の矢は伊達ではない。(ナンゴー辺境伯談)
それでも獣人の全てを足止めはできず攻めてきた者たちはルマ、ローザや騎士、魔法士、衛兵たちが対応する。
ルマや魔法士たちは【火魔法】で牽制したり、【水魔法】の水球で足止めしたり、【風魔法】で手足を狙ったり、【土魔法】で壁を作って隔離したり、【光魔法】や【闇魔法】で視界を奪ったりしていた。
ローザや騎士、衛兵たちは獣人たちの手足を狙って攻撃している。
特に実戦経験がない者たちは2~3人で1人の獣人を相手にしていた。
しかし獣人たちも黙ってはいない。
弱そうな者を狙い次々倒していく。
人間を模倣して1対多で攻撃する者もいる。
多対多の乱戦になっている場所も何ヵ所かあった。
戦況は今はどちらに傾くかわからない状態である。
それから1時間経過し、2時間経過し、未だに獣人たちは尽きることなく攻めてくる。
シフトは疲れを一切見せず、スキルを最大限に生かして流れ作業のように急所を外す攻撃を次々と繰り出す。
「モウズイブントタタカッテイルノニイマダニタオセナイダト」
「アレダケコウゲキシテイルノニイチゲキモアタエラレナイトハ」
「バケモノカ」
「そろそろか・・・」
獣人たちを見てシフトは一言つぶやいた。
アルデーツも途中矢が無くなってしまったが補充が完了して今は攻撃を再開して援護している。
ルマやローザはシフトのスパルタ教育を受けただけあって問題なさそうだ。
騎士や魔法士、衛兵たちは疲労からか2交代制で対応していた。
このままいつまでも続くと思っていたがここにきて急に獣人たちの数が減っていく。
戦況がシフトやアルデーツに傾いていたのだ。
アルデーツは大声で騎士や魔法士、衛兵たちに現状を報告する。
「みんな!! もうすぐ獣人たちの攻めが終わるからもう少し耐えてくれ!!」
「「「「「「「「「「おおーーーーーっ!!!!!」」」」」」」」」」
アルデーツの一言に皆気合を入れ直す。
そしてついにその時が来た。
3時間後───
太陽は西の地平線に沈むころ。
戦場の最前線にはシフトだけが立っていた。
あとの獣人たちはそこら中でうめき声をあげている。
「ヒメサマ・・・タスケラレナカッタ」
「ワタシタチデハムリデシタ」
「タイミューサマ、モウシワケゴザイマセン」
多くの獣人たちが姫であるタイミューを助けたいがために危険を冒してまでここに攻めてきた。
そして中には違う考えの者も少数いる。
「ク・・・ヒメヲコロスゼッコウノキカイヲ・・・」
「コノママデハサクセンガシッパイスル」
「ナントカシナケレバ・・・」
「ほう、姫っていうのはタイミュー王女殿下のことか?」
「「「!!」」」
不穏な言葉を発していた獣人たちはいつの間にか近くにいたシフトに聞かれていた。
「! オマエハサッキノ!!」
「キカレタカラニハココデシンデモラウ!!」
「クタバレ!!」
先ほど無力化されて動けなくしていたが痛みに耐えて無理矢理攻撃してくる。
「無理はするな」
シフトは先ほど攻撃した部位をもう一度攻撃する。
痛みが倍増したのか獣人たちは芋虫のように転げ回っている。
そこに息も絶え絶えにアルデーツと十何名かの部下がやってくる。
「お疲れ、大丈夫か?」
「なんとかな・・・全然疲れてないようだが・・・」
「この程度なら問題ない」
「・・・化け物め」
アルデーツが呆れているとシフトが親指をさす。
「あいつらはタイミュー王女殿下の暗殺部隊らしい」
「なるほど、重要参考人か・・・それはこちらで厳重に護送する」
アルデーツは部下に捕縛し厳重に都市まで護送するよう命じた。
そのあとシフトとアルデーツは戦場を歩き回り反タイミュー派の獣人探しを行った。




