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54.興味本位

「呆気ないものだったな」

「・・・」

シフトは躯になったヤーグから腕を引き抜くとナイフを拭い鞘に納める。

ヤーグを軽く突き飛ばすと重力に則って地面に倒れこんだ。

ダアアアアアァーーーーーン!!!!!

激しい音が辺りに響くもヤーグが痛みを訴えることはなかった。

シフトはついに実父であるヤーグをこの手で殺したのだ。

「それにしても・・・」

ヤーグの腹を見るとザールにそっくりだった。

「金持ちになったからって体型まで真似ることないのにな・・・」

シフトは一瞥してからその場を去った。






アルデーツは領主の執務室をノックして部屋に入るとそこではナンゴー辺境伯が書類整理をしていた。

「ん? どうしたんだアルデーツ?」

「先日警告した人物がこの都市に来ているのでご報告を」

「警告? ああ、お前が1000本もの矢で攻撃をした額に傷がある男だっけ?」

「そうです。 なかなかに面白い少年です」

「自由に空を飛んでる小鳥さえも仕留める『必中』の矢を全て躱したっていうのが未だに信じられないけどな」

「私の弓とて万能ではありません」

ナンゴー辺境伯はアルデーツの腕を誰よりも知っている。

その腕を見込んで筆頭護衛にしているのだ。

「で、ここに来るのか?」

「多分来ないでしょう」

「? じゃあ何が目的だ?」

「そこまではわかりません」

実際アルデーツはその【鷹の目】の異名に相応しく都市内の出来事を見ることができる。

しかし建物の中、遮蔽物、裏路地などの暗いところなどは見ることができない。

それと消費魔力が多く長時間の使用はあまり適していない。

シフトと(一方的に)対峙したときは魔力残量を考慮せずに使っていた。

普段は出かけるときに少し使う時くらいだ。

「そうか・・・で、お前としてはその少年をどうするつもりだ?」

「放置するのが一番ですね」

「放置? 百戦錬磨のお前がか?」

ナンゴー辺境伯は笑おうとしたがアルデーツの目を見て止めた。

「・・・『火龍の逆鱗に触れて灰燼に帰す』ってことか?」

「奴隷である女性たちならともかくあの少年にちょっかいをかければ火の粉がこちらにも降りかかるでしょう」

「・・・ちょっと待て。 アルデーツ、お前なんで女のことを言わなかったんだ?」

アルデーツは『しまった』と心の中で呟いた。

そう、ナンゴー辺境伯は自他ともに認める女好きだ。

「それは関係ないからです」

「あるある大ありだ。 それで女は何人だ? 可愛いか? 綺麗か?」

「ご自分の目で確かめてみては?」

「うーーーん、そうするか」

アルデーツは驚愕した顔でナンゴー辺境伯を見た。

「本気ですか?」

「本気も本気!! 女に会うのは俺の中では常識だ!!」

「はぁ・・・わかりました。 それではいつごろ・・・」

アルデーツは諦めてナンゴー辺境伯の都合を聞こうとしたとき、コンコンと執務室をノックしたあと執事が入室してきた。

「旦那様、失礼いたします。 火急の報告がございます」

「どうした?」

「はい、『金の種馬 ヤーグ』が殺害されました」

執事の言葉にナンゴー辺境伯とアルデーツは驚いていた。

「?!」

「ヤーグが殺された? それは本当か?」

「はい、現場では紅い般若の仮面をかぶった謎の人物が目撃されております」

「そうか、その仮面はどうした?」

「ヤーグの護衛の証言ではただいま逃走中でございます。 都市内部を厳重警戒していますが捕まっておりません」

「わかった。 下がっていいぞ」

執事は一礼をすると退室した。

「まさかこんなにも早く行動に移すとは・・・」

「お前が話した少年がやったと?」

「十中八九間違いないかと」

「ふん、面白いじゃないか。 お前が言ったその少年に会ってみたくなった」

ナンゴー辺境伯が男に興味を持つなど今日は槍が降ってきそうだとアルデーツは思った。

「珍しいですね。 男性に興味を持つなど」

「珍獣扱いするな。 俺だって人並みに興味があるがそれ以上に女の尻がいいんだよ」

「それでいつごろ会いに行きますか」

「今すぐだ」

面倒くさがりのナンゴー辺境伯が今すぐなどこの世界が終わりそうだとアルデーツは思った。

「何嫌そうな顔してるんだよ」

「別に何でもありません」

「なんでもある顔だろうが!! まぁ、お前の考えなどどうでもいい、ほら行くぞ」

ナンゴー辺境伯は席を立つとアルデーツの背中を押して部屋を出るのだった。






シフトはヤーグを殺したあと、すぐにいつもの恰好に戻ると雑踏に紛れて歩き出す。

上空を見上げれば太陽はまだ燦々と降り注いでいた。

ルマたちは自由行動させているのでシフトも適当に時間を潰そうと歩いていると前のほうから2人の男がこちらに歩いてくる。

1人は先ほどのオープンカフェで出会ったアルデーツ。

そしてもう1人はアルデーツほどではないが体格がよく服装から身分の高い男・・・貴族だとわかる。

シフトはそのまままっすぐ歩くとすれ違う2メートルほどで男が声をかけてきた。

「よぉ、坊主。 お前がシフトって名前のガキか?」

シフトは足を止めずに男をスルーして横を通り過ぎようとした。

「おいおい、スルーするとか悲しいことしないでくれよ。 お前の連れがどうなってもいいのか?」

シフトは足を止めると男に殺気を向けていた。

「どこの誰がか知らないけど、僕の大事なもの(ルマたち)に手を出すなら命がないと思え!」

アルデーツは先ほど見た少年と今の少年では雰囲気も何もかも180度変わってまるで別人のようだった。

それは声をかけた男も感じている。

さっきまでのが子犬だとすると今はドラゴンがいると錯覚してしまう。

それも牙を隠すこともなくその気になれば場所も弁えず襲い掛かってくる。

「ああ、悪い悪い脅すつもりはなかったんだ。 ちょっとそこで話しないか?」

男は近くのカフェを親指でさす。

「断ると言ったら?」

「別に。 もしかするとお前が囲っている女たちとは二度と会えないかもな」

シフトはアルデーツを見る。

弓矢は持っていないがその気になればここからルマたちを攻撃する手段をいくつか持っているに違いない。

仮にアルデーツが行動する前に殺せてもこの男が何かしらの策を弄しているだろう。

「・・・ふぅ、いいだろう。 話を聞こう」

男はアルデーツとシフトを引き連れて近くのカフェに入っていく。

「いらっしゃいませ・・・って、ナンゴー様? 今は仕事中ですからお誘いはまた今度に・・・」

「ああ、悪いモーナちゃん。 本当は口説きたいけど今日はちょっと用事があってな。 あ、珈琲3つね」

「はい、畏まりました」

ウェイトレスと話した男は店内の適当な席に座る。

続いてアルデーツも座り、最後にシフトが座った。

「さて、まず自己紹介と行こうか。 俺の名前はナンゴー。 この辺境の地の領主をやっている。 で、こいつは知っているかもしれないがアルデーツだ」

「僕のことは知っているみたいなので自己紹介は不要ですね」

「おいおい、そう寂しいこと言うなよ。 俺だけ疎外感受けるだろ?」

「・・・はぁ、シフトだ」

呆れながら自己紹介するシフト。

「それでシフト、お前が『金の種馬 ヤーグ』を殺したんだって?」

「さぁ? 何のことでしょう?」

「惚けなくてもわかるぜ。 性格は違うがなんとなくお前はヤーグに似ているからな。 それに裁くつもりもない」

ナンゴーは全てを知った上でシフトと話をするつもりだ。

「言ってることも解からないし何が目的かも解からないのですが?」

「男相手に長々と話すのもなんだから単刀直入に言うと俺の部下にならないか?」

「断る」

あまりの早い回答にナンゴーは面食らう。

「即答かよ。 悪い話じゃないと思うけどな」

「僕にはやらなければならないことがあるのでね」

「なんなら手伝ってやろうか?」

「いらない」

ナンゴーの申し出を一刀両断した。

「おいおい、いくら俺が心広くても泣くぞ」

「ご自由に」

「お前、結構容赦ないな」

「こういうやりとりに慣れてるだけだ。 話はそれだけか? なら失礼する」

シフトは席を立ちあがった。

「まだ珈琲も来てないんだ。 席を立つのは飲んでからでもいいだろ?」

「先ほどあなたは『男相手に長々と話すのもなんだから単刀直入に言う』って言ったじゃないですか?」

「う゛・・・確かに言ったがそれは言葉の綾だぜ」

「何と言われようとも僕はあなたに付く気も助けを乞う気もない」

シフトはそのまま出口へと歩いていくが途中止まると肩越しにナンゴーたちを見る。

「国王にも言ったことだが邪魔をするなら殺す」

その言と共に殺気をナンゴーたちにぶつける。

アルデーツは額から汗が流れていたがナンゴーは平然としていた。

シフトは前を向くと今度こそ店を出ていく。






シフトが店を出た直後、

「ぷはーーーーー、なんなんだ? あいつは? 化け物すぎるだろ?」

ナンゴーは背凭れに身体を預けながら額だけでなく身体全体から汗が止め処なく流れていた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫な訳ないだろ? まさかあんな化け物がこの世にいるとは思ってもみなかった・・・」

「だから警告したじゃないですか」

「確かにしたけどガキだと舐めてかかっていた。 あれは無理だわ」

ナンゴーが愚痴っているとウェイトレスが珈琲を持ってきた。

「お待たせしました。 珈琲です。 ごゆっくりどうぞ」

珈琲を3つ置くとスマイルしてウェイトレスが去っていく。

あとに残されたのは温かい珈琲3つとナンゴーとアルデーツだけだ。

「それでこれからどうするんですか?」

「・・・手を引く」

その言葉にアルデーツは驚く。

なぜならナンゴーはザールに似て欲しいものは手に入れたがるタイプだからだ。

その彼が手を引くのだから驚くのは当然だろう。

「大したことなければあれの連れを人質に無理矢理俺の配下にしてもいいんだが」

「・・・」

「俺だけで済めばいいが領民いや国民にまで被害が及んだら本末転倒だ」

ナンゴーは1つ珈琲をとると、

「手を出せば火傷じゃ済まないからな・・・あちぃーーー!!」

啜った珈琲は熱かった。


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