53.ヤーグ 〔※残酷描写有り〕
ヤーグ邸最上階寝室───
そこは昼間だというのに窓は閉められ、濁った空気で部屋が淀んでいた。
そんな部屋に1人の太った男と複数の女がいた。
皆全裸で女たちは床や椅子やベッドで仰向けなりうつ伏せなりで横たわっていたが男だけが疲労知らずに動いていた。
「ふぅ、こいつもまぁまぁだな」
男は事が終わると女から離れて服を着る。
女は疲労で動けないでいた。
「そういえば、そろそろガキが生まれるのと5歳になったガキをスキル鑑定しに行かないとな」
男は子供の面倒を見るのはまだしもスキル鑑定については他の人間に任せる訳にはいかない。
「さぁ、お前たち頑張ってくれ。 そして俺に金の卵を与えてくれよ」
男はそれだけ言うと部屋から出て行った。
男の名はヤーグ、シフトの実父にしてこの邸宅の主だ。
ヤーグは1階に降りると子供のいる部屋へとやってくる。
部屋を開けて入るなりヤーグは大声で叫ぶ。
「おい、今月5歳になったガキ共! 俺の前に出てこい!!」
その部屋には今年5歳になる男女が16人いた。
どの子供も必要最低限の食糧しか与えていないのかほっそりしていた。
ヤーグの怒鳴り声に3人が前に出てきた。
「「「・・・」」」
「ちっ! お前らだけか・・・これから聖教会に行くからついてこい!!」
「「「は、はい」」」
ヤーグはさっさと歩きだす。
子供たちは怯えながらもヤーグの後ろをついていく。
玄関まで来るとヤーグはまたも大声で叫ぶ。
「おい、出かけるぞ!!」
近くの部屋が開くと護衛兵が5人慌ててやってくる。
「おせえぞ!! コラッ!! ちんたらしてるなら給料減らすぞっ!!!」
「も、申し訳ございません、ヤーグ様」
ヤーグは不機嫌そうに護衛兵を罵倒する。
「ふん、まあいい。 聖教会まで行くから護衛しろ!」
「「「「「はっ!!」」」」」
護衛の1人が玄関を開けるとヤーグを先頭に歩き出す。
本来護衛が先頭を歩いて守るのだがヤーグはなんでも自分が1番でなくては気がすまないのだ。
聖教会までの道を歩いていると周りではひそひそと声が聞こえてくる。
『ねぇ、あれ・・・』
『ああ、『金の種馬』だぜ』
『じゃあ、あの子供たちが金の卵?』
(ふん、『金の種馬』だあ? 『種馬』にすらなれないてめえらとは格が違うんだよ!!)
世の中は金・・・そう、金がなければ何もできないのだ。
衣服を作って着るのも、食べ物を育てて食べるのも、家を建てて住むのも昔のこと。
今は有り余る財で衣服を買い、食べ物を買い、家を買えるほど裕福になったのだ。
何と言われようとも金がモノをいう時代なのだ。
(そういや・・・あの虹色は後にも先もあいつしかいなかったな)
ヤーグは13年前を思い出す。
たしか北の寒い領地の過疎化した村だっけ?
ヨーディとかいうダッサイ女しか抱けなかったんだよな。
で、とりあえずガキを出産できたけど俺たちの財力じゃ3人の食い扶持が限界だった。
そこからは長い禁欲生活が続いたよな・・・その上、ヨーディは神経質でガキはいつも泣いてるから精神的に参っちまうぜ。
我慢して8年前に俺のガキがようやく5歳になったからスキル授与を受けさせたら金銀銅ではなく虹色だぜ?
神父もシスターも驚いていたから間違いなくレアケースなんだろう。
その後現れたデブな貴族がまたケチな奴でたったの金貨800枚しか出さなかった。
虹色だぜ? 虹色。
金貨800枚じゃなくて白金貨800枚の間違いじゃないか?
俺とヨーディが抗議すると侮辱罪で牢にぶち込むとかぬかしやがるしよ。
なめてんのかあのデブ貴族!!
当時の俺は権力を持ってなかったから俺は仕方なくガキを金貨800枚で売った。
デブ貴族もガキを手に入れたし俺も大金が手に入ったしとりあえずだがお互いWIN-WINってことだ。
金があるんだ、もうこんな辺鄙な場所に用はねぇ。
「おい、明日この村を出るぞ」
「ええ、ここにいたらいつ誰かに狙われるかかもしれないからね」
俺とヨーディは翌朝金貨を持って村を出て行った。
目指すはガイアール王国王都スターリインだ。
それにしても金貨800枚って重くねえか?
1週間かけて首都ベルートに到着。
そのあと相乗り馬車を経由して2ヵ月後に念願の王都スターリインに到着する。
道中は盗賊共に襲われずに済んだのが幸いだな。
俺の住処は王城の近く、いずれは王城に住むのが当たり前になるだろう。
だがここで問題が起こりやがった。
貴族街と平民街を分ける門で俺を通せないとかいう馬鹿な門兵がいやがったんだ。
あいつが騒ぐから憲兵がきて俺の主張が正しいのに俺とヨーディを国外追放しやがった。
これをきっかけにヨーディとも口論になった。
「あんたのせいで王都を追放されたじゃない!!」
「俺のせいか?! おまえだってあの門兵を罵倒してたじゃないか!!」
「あたしのせいにしないでよね!! あんたはいつも余計なことしか言わないからこんなことになったっていう自覚を持ちなさいよ!!」
「ふざけるな!! 自分のことを棚に上げといてよくもいけしゃあしゃあと言えたもんだな!!」
俺は怒ってヨーディの左頬をぶん殴ると1メートルほど吹っ飛んだ。
ヨーディはよろよろと立ち上がると俺に殺意を向けてきた。
「・・・ぐぅ、よくもやったわね!!」
怒りに任せたヨーディはどこにそんな力があるのか金貨の入った袋をおもいっきり振り回した。
それは油断していた俺の右頬にクリティカルヒットした。
「ぐはぁっ!!」
俺は情けないことに放物線を描いて3メートルも吹っ飛ばされて当たり所が悪かったのか意識が薄れていく。
「あんたとはここでお別れよ!! この金貨は全部あたしの物だから!!!」
「・・・ぐぅ・・・ま、待て・・・」
「・・・じゃ・・・ね・・・この・・・ズ・・・ろう・・・」
ヨーディが何か言っているが俺は意識を失った。
俺が目を覚ましたのはヨーディが金をもって立ち去ってから1時間後だ。
「・・・う・・・くぅ・・・あのアマ・・・? ・・・ない・・・ないないない!! 俺の金がない!!!」
金貨が入った袋がどこにもない!!
「!! あのアマァーーーーーッ!!!!!」
どこだ! どこに行った!!
俺は360度見渡したがヨーディの姿はどこにもなかった。
「・・・くそっ!!!!! くそっ!! くそっ!! くそっ!! くそっ!!!!!」
俺は地団太を踏んだ。
「早くあいつを探して金を取り返さねえとな!! とりあえずどっちに行った?! ・・・あっちか?」
俺はとりあえず西に歩くことにした。
飲まず食わずで1日中西を目指して歩いていく。
「・・・はぁはぁはぁ・・・腹減ったなぁ・・・」
森の中を歩いていると前のほうで何か音が聞こえた。
「? なんの音だ?」
俺は音をたてないようにして前を歩く。
するとそこには商人の荷馬車を襲っている盗賊たちがいた。
が、すでに大半の人間が死んでいる。
生き残っているのは歳いった商人とその護衛、盗賊の親分だと思われる男だ。
護衛と盗賊は何度も剣を交えているのかお互い息が乱れている。
「・・・はぁはぁはぁ・・・」
「・・・ぜぇぜぇぜぇ・・・くそっ! くたばりやがれ!!」
盗賊が剣で攻撃するが護衛は辛うじてその剣を受け止めると渾身の力を籠めて弾いた。
「はぁっ!!」
護衛は最後の力を籠めて剣を切りつけると盗賊の肩から腹にかけて致命的な傷を与えた。
「ぐはぁっ!!」
カランカラン・・・ドサッ!!
盗賊が剣を落としてから数秒後、前のめりに倒れた。
「・・・はぁはぁはぁ・・・だ、大丈夫ですか?」
「ええ、守ってもらったのでなんとか・・・」
「・・・と、とりあえず、ここから離れましょう。 いつだれが来るかわからないですから・・・」
「そ、そうですね。 急いでここを離れましょう」
俺はここであることを閃いた。
あいつら殺して金品全部俺のものにすればいいんじゃねえか。
おあつらえ向きに武器は至る所に転がっているしよぉ。
そうと決まったら早速行動開始だ。
ガサガサガサ・・・
「! だ、誰だ!!」
「へっへっへ、お前らには悪いがここで死んでもらうぜ」
「・・・く、まだ力が戻ってこない」
俺は近くにある剣を拾うと護衛に切りかかった。
護衛はなんとか攻撃を受け止めようと腕を動かそうとするが1ミリも動かすことができなかった。
「あばよ!!」
俺は剣を刺すと護衛の喉に突き刺さった。
「ぐふぅ・・・」
護衛はくぐもった声を出すとそのまま動かなくなった。
「ひ、ひいいいいいぃ・・・」
その光景を見ていた商人はその場で腰を抜かしてしまった。
俺は護衛から剣を引き抜くと商人を見た。
「あとはお前だけだな」
「た、助けてくれ! た、頼む!! 金なら望む額をやるから命だけは・・・」
「おいおい、お前を生かしといたら俺がいずれ捕まるだろ? ここでお前がいなくなってくれたほうが好都合なんだよ」
「そ、そんな・・・」
商人は這いつくばって逃げようとするが亀のように遅いので簡単に追いついた。
「それじゃ、てめえも死ね!!」
俺は商人の背中に剣を突き立てた。
「がはぁっ!!」
商人はなんとか逃げようと足掻くがやがて力尽き無駄に終わった。
「くふふふふ、はっはっは、これでこの荷馬車の物は全部俺の物だ!!」
荷馬車を漁ると金と食料、物資が大量に積まれていた。
「ラッキーだぜ! これだけあれば遊んで暮らせるぜ!!」
俺は食料を頬張りながら死んでいる奴らが持っている金品も漁っていく。
「・・・ちっ! 大したもん持ってねえなぁ・・・」
銀貨や銅貨、鈍らの剣とろくな物がなかった。
とりあえず金目の物は全て荷馬車に詰め込んだ。
「よし、行くか」
俺は荷台に乗ると馬を走らせるように動かした。
馬は想定よりも動きが遅かった。
「・・・はぁ・・・使えねぇな・・・ま、歩くよりはマシだから別にいっか・・・」
それから1ヵ月後、俺は荷馬車で西を目指したがヨーディの姿を見つけることはなく極西にあるパーナップ辺境伯領の首都インフールに着いた。
「ちっ! あいつは結局見かけなかったか。 運の良い奴だ」
荷物だが来る途中の町で馬と荷馬車と護身用の剣3本と食料以外の物資は全部売った。
その額およそ金貨20000枚、白金貨にすると200枚になる。
この金で豪遊三昧だ。
ということでまずはこの都市で暮らすための家を手に入れないとな。
俺は不動産を扱う店に行くと店員が話しかけてくる。
「いらっしゃいませ。 家をお求めで?」
「金ならある! 俺に相応しい家を見繕え!!」
店員はドン引きしていたが物件をいくつか提示しながら実際の家を見て回った。
「この家なんかどうでしょう?」
「てめえ、こんな平屋に俺を住まわせる気か!!」
「で、でしたらここなんかは・・・」
「ふざけるな! 俺に相応しくないだろうが!!」
「そ、それならここは・・・」
「高すぎだな! てめえ俺をなめてんのか!!」
この店員使えねえと思ったとき、不意に1つの物件が目に留まった。
「おい、あの赤い屋敷もおまえのところの物件か?」
「赤い屋敷? ああ、そちらは事故物件でして、一般のお客様にはあまり進めていないモノでして・・・」
「ふーーーん、3階建てに庭付きでしかも安いな・・・これにするぜ!」
「え、こちらですか?」
「ああ、気に入った! ここは俺にこそ相応しい家だ!!」
「さ、左様ですか・・・とりあえず契約のために店に戻りましょう」
店に戻ると俺はさっさと契約書に軽く目を通すと、
「これで問題ねえ」
俺は提示された購入金額金貨500枚を支払った。
店員は書類に必要事項を書いていく。
3分後、俺に購入書と購入証を渡した。
「こちらが購入書類でこちらが購入証でございます」
「ほう、これであの家は俺の物か」
俺は上機嫌で購入書類と購入証を受け取ると店を後にした。
早速赤い屋敷に行って中に入る。
「なかなかに良い家だ。 俺の目に狂いはなかったぜ」
家は購入できたがこれからのことを考える。
「まずはこの家に住むに辺り家事と護衛だな。 よし奴隷を買いに行くか」
俺は金貨18000枚を隠してからこの都市の奴隷商に足を運んだ。
「ここが奴隷商か・・・おい、邪魔するぜ」
「いらっしゃいませ、今日はどのようなご入用で?」
「奴隷を買いに来たに決まってるだろ。 馬鹿かてめえは」
「し、失礼しました。 それでどの奴隷をご所望で?」
「ああ、まず性処理可能な見た目が良い女をとりあえず30・・・いや50人かな。 あと家事できる奴を1人か2人と警備用の護衛をそうだな10人ほどかな」
「し、失礼ですがお客様。 それだけの奴隷を購入されるのに資金はあるのですか?」
俺は金貨1000枚以上入った袋を突き出す。
「気にするな。 金ならある」
「さ、左様ですか。 それではこちらにどうぞ」
商人に案内されてまずは女の奴隷を見ていく。
牢屋につくなり俺は商人に問い合わせる。
「おい、ここにいるのは全員性処理は可能なのか?」
「はい、彼女たちは明日を生きるのに身体を売っていた者たちばかりです。 お客様の要望に沿った形であると」
「ふーーーん、とりあえずは・・・1人、2人、3人、4人、・・・、23人。 おいおい全然足りねえぞ」
俺は商人にクレームをつける。
「仕方ありません。 お客様の要望を満たしているのは彼女たちだけですから」
「おい、他の女も紹介しろ」
「なっ?! いくらなんでもそれは・・・」
「ここにいる時点で全員奴隷なんだろ? 人権なんて関係ないだろが。 お前だってそう扱ってきたはずだ。 だったらおぼこだろうがガキだろうが関係ねえ」
「う゛・・・むぅ、わかりました。 こちらです」
そして俺は無理矢理50人もの女と料理人や護衛を13人ほど買って帰った。
その後は俺は金に物を言わせて欲望のままに今まで生きてきたわけだ。
唯一の誤算は俺のガキたちだ。
この国ではガキを殺すのは禁忌とされている。
生まれてきたガキは神の御使いと言われて5歳まで大事に育てないといけないらしい。
面倒臭いことだ。
だがここでも天は俺に味方してくれる。
スキル授与でガキたち判定は全員が金色だった。
その後はその場にいたナンゴー辺境伯を始めとした貴族たちに1人金貨100枚くらいで売り付けてやったがな。
そして、今日も俺のガキたちはスキル授与で金色判定を受けていた。
どこぞの貴族たちが俺のガキたちを求めて話しかけてくる。
俺はいつも通りの対応でガキたちを売っ払うとそのまま家に帰ろうとするが、今日はいつもと違っていた。
教会を出るとそこには紅い般若の仮面を被った人物がいる。
あいつは俺をじっと見ていた。
「なんだてめえは? 俺になんか用でもあるのか」
般若は無造作にナイフを取り出した。
「おい! おまえらこいつを殺れ!!」
だが護衛たちは立ち向かわない。
「ヤ、ヤーグ様。 ここでそんなことしたら・・・」
「ああん!! 俺の言うことが聞けねえのか!!!」
「わ、わかりました」
護衛たちは剣を抜くと般若に襲い掛かるがそれらを全て避けてから1人1人に腹へ拳を入れていく。
腹への衝撃が強いせいで声を出すこともできずにその場に倒れこむと芋虫みたいにゴロゴロと転がっていた。
「お、お前、な、何者だ!!」
般若は答えずに俺のほうに向かってくる。
「ひ、ひいいいいいぃーーーーーっ!!!!!」
俺はたまらず逃げ出した。
あいつはヤバい! ヤバすぎる!! 俺は全力で走って逃げる。
だが、
(な、なんだ?! 全然前に進まないぞ!!)
いや、進んではいるがその流れはゆっくり過ぎる。
俺は以前のように走れないでいた。
(こ、このままでは殺される?)
俺は走った。
この都市のどこを走っているのかわからないほどに。
後ろを振り返ると般若はそこにいなかった。
(ふ、振り切った)
そう思った瞬間心臓に激痛が走った。
「がはぁ!!」
身体を見るとナイフが刺さっている。
「! そ、そん・・・な・・・」
その先を追うと般若が俺を見ている。
「死ね。 僕の安寧のために」
般若はナイフを力任せに押し込んだ。
「あ・・・ぐぅ・・・」
俺の身体から力が抜けていく。
(あの声・・・どこかで聞いたことがある・・・)
思い出すよりも早く視界が暗くなり俺の意識は闇へと落ちていった。




