51.西へ
王都滞在15日目───。
現在も被害が大きいところは復旧作業中である。
そんななかシフトたちは王都を離れることになった。
「いろいろあったなぁ・・・」
復旧に関わらず片っ端から観光した。
例えば復旧中の西の教会では・・・
「ここが大聖堂か・・・」
「懐かしいですが見る影もありませんわね」
「ぼろぼろ」
ベルの言う通り聖教会も大聖堂もその他多くの教会も被害を受けていた。
「ユールはここに来たことがあったんだっけ?」
「ありますわ。 ここに巡礼にきて1時期ですが暮らしていましたわ。 だけど途中から記憶がなくて・・・」
「なるほど、ここにいるときに誰かに違法薬物を投与されて薬物中毒者になり、聖職者に相応しくないから奴隷として売られたわけか・・・」
「そのようですわね。 その誰かまでは記憶が曖昧でわかりませんが」
ユールは自分の記憶を辿るが思い出せないでいた。
「もし犯人がわかったらどうする?」
「その時になってみないとわかりませんわ」
「そっか・・・」
ユールは複雑な顔をしていた。
パンフレットに掲載されている美味しい料理店から隠れた名店、流行のスウィーツまで食を堪能した。
王都でも有名なレストランで食事をしたあとに王宮御用達のスウィーツ専門店を回ったとき・・・
「みんなさっきのレストランでデザートまで食べたのによくスウィーツも食べられるよね」
「ご主人様、女の子にとって甘いものは別腹なんですよ」
「たしかに流行っているだけあって美味しいな。 もう1つ食べようかな」
シフトがもう1つ頼もうか検討しているとベルとフェイがパンフレットを見ていろいろと指さした。
「ご主人様、ほかも食べに行きたい」
「ここにいる間に全制覇するんだから」
「ぜ、全制覇?」
女の子の甘いもの好きには頭が下がるシフトだった。
流行りのファッションやアクセサリーなどショッピングもした。
服飾屋ではベルがお気に入りだった服がないか王都中探す羽目に・・・
「ベル、これかしら?」
「デザインが少し違う」
「なら、これか?」
「色が違う」
「これじゃないの?」
「サイズが違う」
「これですわよ」
「ユール! それ!!」
ベルのためにルマたちが協力したおかげで同じ服を探すのに成功した。
思い返せば最初の4日を除けば王都巡りを楽しんでいた。
「結構楽しんだな」
「そうですね」
「また来たい」
「今度は料理を制覇したいな」
「良いところだったなぁ」
「いつかまた訪れたいですわ」
「それじゃ行こうか」
シフトたちは王都を後にした。
目指すは西、どこにいるかもわからない実父を探しに。
(実父『ヤーグ』・・・必ず見つけてやる! そして僕を売り飛ばしたことを後悔させてやる!!)
国歴1853年、季節は太陽の日差しが照りつける時期。
王都スターリインを出発して4ヵ月───
シフトたちは極西パーナップ辺境伯領に予定よりも早く到着した。
いつもなら人目を避けて森路や獣道を行く予定だったが、実父『ヤーグ』がどこにいるのかわからないのだ。
それに武器を新調しルマたちも十分強くなったので進む道は町や村につながる街道や林道にした。
途中通ってきた領では実父『ヤーグ』の足取りが掴めず、最終的には極西まで来る羽目になった。
パーナップ辺境伯領内の東にある比較的小さな町についたシフトたちはいつものように宿をとるとルマたちに自由行動を与えてから酒場に向かった。
扉を開けると昼なのに店は賑わっていた。
シフトが入店しても王都みたいに絡んでくる輩はいないようだ。
カウンターまで行くとバーテンダーに話しかける。
「いらっしゃい。 何のようかな?」
「情報屋を探している」
「あそこの丸いテーブル席で1人で飲んでいるのがそうだよ」
バーテンダーは指でテーブル席を指すと丁寧に教えてくれた。
「ありがとう」
バーテンダーに銀貨1枚渡すと笑顔で受け取った。
そこには1人で難しい顔をしている中年男性がいた。
「失礼、情報が欲しい」
「ん? お客さんか。 何の情報が欲しいんだ?」
男は先ほどの顔から一変営業スマイルに切り替わる。
そしてシフトを外見で判断せず客として接してきた。
「『ヤーグ』という男を探してる」
「『ヤーグ』? ああ、あの『金の種馬 ヤーグ』か」
「『金の種馬』?」
金の種馬・・・きんのたねうま? なにそれ? 実父はそんな二つ名を持っているの?
「そうだな・・・情報料は銀貨10枚だ」
「あ、ああ・・・」
シフトは男に銀貨10枚を渡す。
「まいどあり。 それで『金の種馬 ヤーグ』だが6年以上前にここパーナップ辺境伯領に来て首都インフールに豪邸を買って住んでいる」
「豪邸ね・・・」
シフトはいかにも金にしか興味がない『ヤーグ』らしいと思った。
「ところで『金の種馬』って何?」
「おお、ここだけの話だが『ヤーグ』は金に物を言わせて女共を囲んで何人も孕ませては産ませたんだ」
「・・・金・・・ね・・・」
シフトは実父の行動に正直呆れていた。
「それだけならただの『種馬』さ。 あいつの凄いところはその子供なんだよ」
「子供?」
子供と聞いて嫌な予感がした。
「あいつの子供たちな、聖教会で行われるスキル授与で全員金色だったんだよ」
「ぜ、全員金色ですか?」
「ああ、全員だ。 それも去年だけでなく今年に入ってからもスキル授与を受けた子供たちは全員金色なんだよ。 それから『金の種馬』と言われるようになったんだ」
(やっぱりな・・・)
その嫌な予感が的中した。
シフトの異母兄弟姉妹にあたる者たちは全員優秀なスキルを授与されたらしい。
「だけど、ここで話は終わらないんだよ」
(ああ・・・この流れはどこかで見たことがある)
それはきっと・・・
「なんとその子供たちを領主に売っちまったんだよ」
予想通り過ぎる。
「・・・う、売ったんですか?」
「ああ、1人あたり金貨100枚前後って法外な値段を吹っ掛けてな」
「・・・」
聞いといてなんだがシフトはウンザリしていた。
「これで『金の種馬』については以上だ。 どうだ? 凄いだろう?」
「・・・ええ、とても凄いですね・・・情報ありがとうございます」
「おお、いいってことよ」
シフトは男に礼を言うと酒場を出た。
その帰り道に先ほどの実父『ヤーグ』の話を思い出す。
実父のあまりの恥ずかしい行動に頭を抱える。
(『金の種馬』って恥ずかしすぎるだろ? ・・・うん、僕の精神を安定させるためにも殺そう)
シフトは実父『ヤーグ』を見つけ次第必ず殺すと誓うのだった。




