50.情報
王都滞在4日目───。
王都は貴族街も平民街も貧民街も商店街も観光地も復旧作業で忙しい。
原因は昨日の巨大モンスターの被害が想像以上に大きかった。
そういう理由で観光できる状態ではなくなった。
ご主人様を見るとずっと何かを考えている。
(ご主人様、これからどうするのだろう?)
ベルはご主人様のお役に立ちたいけどルマと違って頭は悪い。
なんとかしたいと考えていると、
「ご主人様、本日はいかがなさいますか?」
「んんんんん・・・とりあえずみんなで食事に行くか?」
「「「「「畏まりました」」」」」
ルマはベルたちのまとめ役みたいな感じで率先して聞くことが多い。
ベルもあれくらいできればなぁ・・・
ベルたちはご主人様の提案で食事をしに外に出ることにした。
外では被害を受けた建物、車道や歩道の復旧工事が行われている。
宿を出るとそこには1人の少女が立っていた。
彼女はベルを見かけると声をかけてきた。
「ベル」
「マーリィア?!」
ベルは驚いた。
王女殿下である彼女が1人でいるのだから。
本人は1人で来たつもりだが、周りには彼女の護衛がそこかしこにいる。
知らないのは王女殿下だけである。
「1人?」
「うん。 ベル、これ」
マーリィアはベルに煤けたカードを渡した。
それはベルが昨日どこかで落とした冒険者登録証だった。
「これ・・・ベルの冒険者登録証」
「火球から私を庇ってくれた時に服が破れたでしょ。 そのときに落としていったのを私の護衛騎士が拾ったの」
「・・・ありがとう」
ベルはマーリィアにお礼を言った。
「そ、それだけだから・・・それじゃ・・・」
「待って」
マーリィアは立ち去ろうと背を向けるとベルが止めたのだ。
「ベル?」
「ごめんなさい、酷いこと言った」
マーリィアが振り向くとベルは頭を下げた。
「いいの、わかってるから」
「?」
「ただ私の我儘を1つ聞いて」
「我儘?」
ベルは不思議そうな顔でマーリィアを見る。
「ベル、私の友達になって」
「・・・」
「私、3度もあなたに助けられて・・・それなのに王族としてしかあなたを見てなかった」
「マーリィア」
「1人の女の子として友達になりたい」
「・・・ご主人様・・・」
ベルは困ったようにご主人様を見る。
「ベル、これは僕がどうこう言う問題ではない。 悔いが残らないよう自分で決めよう」
「・・・マーリィア、友達にはなれない」
「?!」
「ベルの手は既に血塗られている。 それはこれからも続く。 だからマーリィアと友達になることはできない」
「そう・・・ですか・・・」
マーリィアは悲しい顔をしたがすぐに笑顔に戻る。
「ベル、我儘なことを言ってごめんなさい・・・それじゃ」
マーリィアは背を向けると今度こそ立ち去っていった。
「ベル、これで良かったのか?」
「うん、これでよかった」
もし、普通に出会っていたらマーリィアと友達になれたと思う。
だけどベルはご主人様に買われ、ご主人様の『目的』を手伝うと誓った。
賊とはいえ数えきれないほどの多くの人命を奪ってきた。
だから今更引き返すことなんてできない。
ベルの目にはいつの間にか涙が溢れ頬を伝っていた。
「・・・そうか」
「ベルにはご主人様、ルマ、ローザ、フェイ、ユールがいるから」
そう、ベルの横には常にご主人様とルマたちがいるから。
「ご主人様、お腹空いた」
ベルは涙を拭くといつも通りに振舞った。
シフトはルマたちと食事をしたあとどうするか考えた。
当初の予定だと観光に10日、情報収集や冒険者ギルドでの依頼に5日の予定だった。
「はあぁ・・・」
「ご主人様、どうかしたのかな?」
「ローザ・・・なんで僕は『兎の癒し亭』に15日滞在するっていったんだろう?」
「さぁ? ご主人様が決めた日程だからわたしじゃわからないかな」
ローザは肩を竦めて答えた。
シフトの予定ではあと6日は観光で楽しむはずだった。
なのに昨日の巨大モンスターやドラゴンのせいで王都が滅茶苦茶に破壊された。
現在王都では商店街も観光地も復旧作業中だ。
「仕方ない・・・ルマ、悪いが僕はこれから情報収集をしてくるよ」
「今からですか?」
「ああ、本当は観光を十分楽しんでからやりたかったんだが、この状況じゃ無理だからね。 前後してしまうが先に情報屋に行ってくるよ」
「・・・畏まりました」
ルマが頭を下げるとベルたちも続いて頭を下げた。
ルマの内心はシフトに危険を冒してほしくないと思っているだろう。
(だけどこれは僕の問題だ)
首都ベルートでもルマたちに矛先がいかないように1人で情報収取をしていた。
ルマたちにはシフトの『復讐』を手伝えと言っておきながら危険なことには巻き込みたくないという矛盾した言動だ。
(これは僕の我儘・・・エゴだ)
本当ならこんな下らないこと今すぐやめてしまえばいいのだろう。
だけどそれでは今まで何のために生きてきたのか存在意義を自ら消すようなものだ。
(今は自分の成すべきことをやればいい)
シフトは負の感情を隠すとルマたちに悟られないように明るく振舞った。
「そういう訳で今日は王都内を自由に廻ってていいから。 それじゃ行ってくるよ」
「「「「「いってらっしゃいませ、ご主人様」」」」」
シフトはルマたちと別れると裏路地に入りマントを身に着けフードを深くかぶり【偽装】を発動した。
(さて、これで準備完了と・・・)
改めて手に入れたい情報は2つ。
1.実親ヤーグとヨーディに関する情報集め
2.『勇者』ライサンダーたちに関する情報集め
「まずは酒場に行ってみるか・・・」
情報屋といえば酒場だ。
シフトはさっそく酒場へ直行した。
酒場に行くと昼間から酒を浴びている大人が何人もいた。
カウンターへ行こうとするといつも通り男性客に絡まれる。
「おい、坊主!! ここはお前みたいなところが来るところじゃねぇ!! 帰んな!!!」
シフトはその申し出を無視してカウンターのほうへと歩き出す。
「てめぇ!! 無視してんじゃねぇ!!!」
男は殴りかかってきたが、シフトは【五感操作】で距離感や平衡感覚をずらしているので当たらない。
勢い余ってカウンターにいるマッチョなバーテンダーに突っ込んでいってしまった。
しかしバーテンダーは男の拳を受け止めるとそのまま前に突き飛ばす。
「ぐへぇっ!!」
バーテンダーは倒れた男を見ると野太い声をかける。
「お客さん、迷惑かけるなら潰すよ。 それと・・・」
バーテンダーは冷や汗をかきながらシフトを見る。
「・・・何のようだい?」
「王都一の情報屋を探している」
バーテンダーは指で奥のカウンターを指す。
そこには1人で酒を嗜む青年がいた。
シフトは青年のところまで歩くと、
「兄さん、一杯奢らせてほしい」
「おう、さっきの見てたぜ。 あんた只者じゃないな」
「実は情報が欲しくてな」
「聞こうか」
「知りたい情報は2つ。 1つ目、『勇者』ライサンダー一行が今どこで何をしているか。 2つ目、『ヤーグ』という男と『ヨーディ』という女を探してる」
青年はシフトを値踏みしてから法外な値段を吹っ掛けた。
「・・・金貨3枚・・・」
シフトは間髪入れず革袋から金貨3枚を取り出すと青年の前に置いた。
「・・・たしかに。 『勇者』ライサンダーたちは王命で東南東にある隣国との国境付近で魔物退治をしている。 いつまでそこにいるかわからない」
シフトは話の続きを促す。
「『ヤーグ』と『ヨーディ』だがかなり昔の情報だから鵜呑みにしないで聞いてほしい」
青年は前置きをしてから話始める。
「6年以上前だったかな? ここ(王都)で揉めてな『ヤーグ』は西に、『ヨーディ』は南に行ったようだ」
「・・・そうか・・・とりあえず西か南にでも行ってみるよ」
シフトはカウンターまで戻ると金貨1枚を出してバーテンダーのほうに投げて渡した。
バーテンダーが金貨を受け取ると驚いてシフトを見た。
「情報屋を紹介してくれた礼とこの店にいる連中に1杯ずつ奢ってやるのと・・・これから行う迷惑料だ」
失神している男に近づくと襟を片手で掴み高く持ち上げると死なない程度の力で無造作に投げ飛ばした。
「がはぁっ!!」
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
男は青年の横の壁に激突して、その場で蹲りピクピクと動いていた。
青年やバーテンダーだけでなくその場にいた客全員が呆気にとられていた。
そんな中シフトは青年を見る。
それは言外に『もし、虚言ならお前もこうなる』と示唆した。
青年はシフトの意味を正確に理解し身体中から汗が止め処なく流れ蒼褪めていた。
「邪魔したな」
シフトはそれだけ言うと酒場を後にした。
(情報は得た。 これからどうするかだな)
酒場で手に入れた情報を吟味していた。
『ヤーグ』を追うなら極西パーナップ辺境伯領、『ヨーディ』を追うなら極南デューゼレル辺境伯領と目星をつけた。
『勇者』ライサンダーたちを追うなら東南東の国境付近を目指す必要がある。
(さて、どこから行くか・・・ん?)
酒場を出てから誰かが後をつけてくる。
(何者だ? 僕の後をつけてくるのは・・・)
シフトは裏路地に入り暗い場所まで行くとマントに魔力を流し闇に紛れた。
しばらくすると裏路地に3人の男が現れて辺りをキョロキョロしている。
「おい、どこ行った?」
「急に消えたぞ?」
「悟られたか?」
男たちはしばらくは辺りを隈なく探したがいないと解かると別の場所に消えていった。
(夜まで待つか・・・)
シフトはその場で日が暮れるのを待った。
太陽は西の地平線に触れるころ。
(そろそろかな・・・)
シフトはいつもの顔に戻し、マントを脱ぐと『兎の癒し亭』に戻った。
部屋に入るとルマたちが戸惑いながらも声をかけてきた。
「「「「「おかえりなさいませ、ご主人様」」」」」
「ただいま・・・」
「随分遅かったのぅ」
部屋の中にはルマたちだけでなくギルバートとスーツ姿のグラントがいた。
「・・・お二人とも何故ここに?」
「昨日は逃げられたからのぅ。 今日は直接問い質しに来た」
「僕は陛下の護衛だね」
「それで僕に何の用でしょう?」
シフトはわざと警戒心を露わにする。
「そう、警戒するな。 そなたが『勇者』ライサンダーたちや『ヤーグ』、『ヨーディ』とやらを探していると聞いてな・・・」
その言を聞いた瞬間、シフトは殺気を放っていた。
ギルバートは慌てて武器を抜くとグラントを守るためにシフトの前に出た。
「・・・どうやら虎の尾を踏んでしまったようじゃのぅ。 そういうつもりではなかったんじゃが・・・」
「なるほどね。 昼間のあれは全て国王の部下だったわけだ」
酒場の青年も後をつけてきた3人の男もグラントが放った影たちだ。
「済まなかったな。 だが、そなたの目的が今のでわかった」
「邪魔をするなら殺す」
シフトは隠すことなく明確な殺意をグラントに向けた。
ギルバートとグラントだけでなくルマたちも緊張感からか額から汗が流れている。
「シフト君、陛下に対してその口の利き方は・・・」
「よい・・・そなたと事を構えるのは得策ではない。 この件は余の心の内に閉まっておく」
「そうですか」
殺気が霧散するとみんなその場に座り込んだ。
シフトの意思が固いことを悟るとグラントは諦めの表情を浮かべていた。
「シフトよ、そんなことをして何になる」
「あなたには関係ない。 これは僕自身の問題だ」
「・・・そうか・・・」
グラントはこれ以上の追及は不可能と考えた。
「要件はそれだけか?」
「もう1つある」
グラントは立ち上がるとフェイを指さした。
「そこの娘が持っている魔法武器だ」
「ぼ、ぼく?!」
「騎士たちが言っておったことだが巨大モンスターと対峙したときに短剣から炎が出ていたと」
「う゛・・・」
フェイは巨大モンスターと戦っているときにナイフの魔石を使ったらしい。
(あの事態では仕方ないか・・・)
「その武器を見せてもらえないかな?」
「断る」
シフトは即断した。
「なぜかな?」
「悪用されては困るからだ」
グラントの問いに至極真っ当な答えをする。
「王宮にもあるだろ?」
「ふむ、たしかにあるがそれは国宝級の武器で過去の王が出土品を集めたものだ。 だが、今回はそこの娘が使っていたのを多数の騎士が見たのでのぅ。 余も興味があるのでな、見てみたくなったのだ」
「宝物庫の偉品で我慢してくれ」
「そこをなんとか」
グラントはなおも食い下がる。
「はぁ・・・王宮の鍛冶師や錬成師にでも作らせればいいだろ?」
「過去に何度も試したが剣に宿った魔法が暴発して、とてもではないが使い物にはならなかった」
「それはそうだろう。 今までの理論で作ろうとするのがそもそも間違っている。 根底から考え方を変えないと過去の失敗を繰り返すだけだ。 僕が言えるのはそこまでだな」
「・・・」
「固定概念を捨てて作ればそのうちできるだろう」
「固定概念か・・・」
グラントとギルバートは剣の製造工程を思い浮かべるがどこを変えれば作れるのか見当もつかなかった。
「話は以上だ。 悪いがもう帰ってくれないか?」
「そうだのぅ。 突然押しかけてすまなかった。 ギルバート行くぞ」
「はっ!! それじゃあね、シフト君」
グラントとギルバートは部屋を出て行った。
「よろしかったのでしょうか?」
ルマが心配そうに聞いてくる。
「よくはないが国王も僕を怒らすのは得策ではないと判断していただろう」
「どういう意味?」
「ご主人様の力と知識、魔法武器、持っているアイテム・・・どれも普通では手に入らないものばかりですわ」
「もし他国に亡命したらこれほどの脅威はないかな」
「あ、なるほどね」
「国王陛下としてもご主人様を手元に置いておきたいというわけですね」
「そういうこと。 ちょっかいは出しても僕をなんとかしようとは思わないだろう。 いざとなれば『復讐』は諦めてみんなを連れて隣国に亡命するだけだから」
シフトはルマたちを見ながら本心を語ったのだ。




