48.Vs巨大モンスター軍団 〔無双劇5〕
ギルバートはマーリィア王女殿下を彼女付きの侍女のところに連れていき事情を話して馬車で王城に帰還してもらうことにした。
(やれやれ、シフト君もだがベル君にも困ったものだ・・・)
ギルバートは陛下の御前での彼らの挙動を見て苦笑いするしかなかった。
陛下のところに戻ろうとしたそのとき、西の聖教会方面に巨大モンスターが現れたのだ。
「なっ?! モンスターだと?!」
近くにいた一般人に偽装した女騎士に声をかける。
「そこの君!! 陛下に伝言を頼む!!」
「ギルバート様?!」
「僕はあのモンスターを倒しに西に向かうと伝えてくれ」
「し、承知しました」
僕は言うが早いか急いで西へ走り出した。
シフト君たちと待ち合わせをした門まで来ると四方八方から巨大モンスターが次々と現れた。
「しまった!! 陛下やマーリィア王女殿下が危ない!!」
そうは言っても戻っては今向かっている地区が人的被害を受けるだけだ。
ギルバートは冷静に考える。
まずは国王陛下がいる東地区だが、国王直属聖騎士団、王宮魔導師団および第二騎士団、第二魔法兵団がいるので問題ないだろう。
次にマーリィア王女殿下は現在王城に帰還中の南方面だが王女殿下直属騎士団が護衛についているし、いざとなれば王城から第一・第三騎士団、第一・第三魔法兵団が動くはず。
最後に北門方面は冒険者が多いから彼らが動いてくれれば時間が稼げるはずだ。
なら僕は当初の予定通り西に向かうことにした。
王都スターリイン西地区。
聖教会前で2匹、平民街、貧民街で各1匹、計4匹の巨大モンスターが暴れていた。
ギルバートは剣を抜刀するとモンスターに切りかかる。
モンスターもギルバートに気づいて攻撃を避けようとするもそれよりも速く懐に入られて一撃を受けてしまう。
本来であれば今の一撃で終わっていたが巨大化したことで生命力・耐久力が並のそれとは桁違いに上がっていて仕留められなかった。
ギルバートは1年と2ヵ月前にミルバーク西の森で起きたゴブリン大軍団を思い出す。
(あの時もゴブリンの大群が襲ってきたな。 まったく・・・シフト君がいるところには必ずトラブルが発生するな)
やれやれと首を振りながらもどこか楽しそうなギルバートだった。
東地区の平民街、貧民街では私とローザが襲ってくるモンスターや暗躍者を次々と倒していた。
「ルマ、ここら辺のモンスターや暗躍者はだいたい倒したよ」
「あとはあの巨大モンスターだけです」
周りはモンスターと暗躍者、周辺住民の遺体がそこかしこにありました。
「モンスターの魔石を回収したいところだけど・・・」
「そうも言ってられないでしょうね」
私とローザの前に巨大モンスターが現れた。
「ルマ、援護頼む」
「任せて」
ローザがナイフを持って突っ込んでいくのと同時に私は牽制に【火魔法】を放った。
巨大モンスターは火球を回避するがローザの攻撃を躱せず左足に切り傷を受ける。
そして私は本命の【風魔法】を放って顔面に直撃して倒れる・・・はずだった。
しかし巨大モンスターは傷を受けた先から回復していく。
この光景だけどご主人様が倒したゴブリンナイトメアにそっくりだ。
「ローザ! 気を付けて!! このモンスター・・・」
「言わなくても解かる! 以前ご主人様が倒したゴブリンにそっくりだ!!」
ローザも巨大モンスターの異常に気付いた。
(さて、どうやって倒したものか・・・)
私は巨大モンスターの攻略法を考え始めた。
(ご主人様がゴブリンナイトメアを倒したときはたしか・・・そうだ、脳と心臓を重点的に滅多刺して魔力切れを狙っていましたね・・・)
私は巨大モンスターをチラッと見る。
(魔法を使った形式がないところを見ると自然回復するようね。 脳と心臓を重点的に狙ってもあの回復力では意味ないわ)
魔力切れ、急所狙いは攻略からは除外する。
どうしたものかと考えているとローザがナイフの魔石に魔力を流し込み火を纏わせたナイフで先ほど攻撃した左足に突き刺した。
巨大モンスターは痛みに耐えかねてその場で無茶苦茶暴れるとローザがその一撃をくらって私のほうに吹っ飛んできた。
私はなんとかローザを受け止めるも少し後方に踏鞴を踏んでから尻餅をついた。
「う・・・痛い・・・大丈夫? ローザ?」
「うう・・・ああ・・・なんとかな・・・」
私は【水魔法】の生命力回復魔法を使ってローザの生命力を回復させた。
「助かったよ、ルマ」
「礼はあのモンスターを倒してから・・・」
巨大モンスターを見ると左足に刺さったままのナイフは燃え続けてモンスターを苦しめていた。
「どうやら攻略法が見つかったな」
「そうね、ローザ」
私は自分の護身用のナイフを取り出すとローザに渡した。
「助かるよ、ルマ」
「さっさとこのモンスターを倒して次に行くわよ」
私とローザは再び巨大モンスターを攻撃するのだった。
ヤッホ~♪ みんな元気? ご主人様から一番の寵愛を受けているフェイちゃんだよ~♪
今ぼくはなんと王都の貴族街に来てます。
目の前には王城、貴族向けの商店街、立派な貴族たちの屋敷・・・どこを見ても凄いよね~。
ああ、ぼくもいつかはこんなところに住んでみたいものだ。
ここに来る途中、この国の王女であるマーリィアちゃんを助けたんだ~・・・本当だよ。
さて、王城前には3匹の巨大モンスターが暴れているんだ。
その周りには騎士や魔法士たちが男女合わせて30名くらいで囲んで攻撃を仕掛けていたんだよ。
よく見ると攻撃を受けたところから傷が治っていってるんだけど・・・
あれって前ご主人様が倒したゴブリンの能力にそっくりだな・・・
「ねぇ、ユールちゃん。 あれって・・・」
「ええ、ゴブリンナイトメアと同じですが違う点は魔法での回復ではなく自己治癒力であることですね」
「邪魔だから倒す」
「ちょっ?! ベルちゃん?! 仕方ない・・・ぼくも攻撃に参加してくるよ」
「気を付けてくださいね」
ベルちゃんは一番梃子摺っている騎士たちのところに加勢に行っちゃった。
ぼくも違うモンスターの腹に滑り込むと【風魔法】を放ってから傷が開けた場所にナイフで追撃した。
ぼくが攻撃したモンスターはその場で暴れまわった。
「わっ?! ちょ、ちょっとぉっーーー!!」
ナイフを引き抜くと慌ててその場を離れた。
ナイスガイな騎士が近づいてきて質問してきた。
「君、今の攻撃は通じていたけどなにをしたんだ?」
「あのモンスターの死角の1つである腹に【風魔法】をぶっ放して傷口にナイフをグサッと刺したんだよ」
腹を見てみるとみるみるうちに腹の傷が治っていく。
「えええええぇぇぇぇぇっーーーーー!!!!! ぼくが折角ダメージを与えたのにいいいいいぃぃぃぃぃーーーーー!!!!!」
ぼくの努力を無駄にして・・・激おこぷんぷん丸だよ!!
どうしたものかとベルちゃんのほうを見るとモンスターはベルちゃんのナイフの斬撃の後、魔法士が放った【火魔法】が偶然同じ場所に着弾した。
そして、火が消えにくく傷口の治りが遅かった。
(なるほど!! 試してみるか!!)
ぼくは再びモンスターの懐に飛び込むと【風魔法】を放った。
モンスターの腹に裂傷を与えるとぼくはナイフの魔石に魔力を流し込み火を纏わせて傷口を攻撃した。
その瞬間、モンスターの悲鳴が今までのそれとは明らかに違って、苦悶の雄叫びだった。
ここで離すと厄介だったのでモンスターにくっついて魔石に魔力を流し続けた。
するとモンスターの身体中からあちこちに火が噴き出してきた。
(あ、まずい!!)
ぼくは慌ててナイフを抜き距離をとった。
するとモンスターは悲鳴を上げながらゴロゴロ転げまわり鎮火した時にはすでに虫の息だった。
残りは騎士と魔法士が攻撃してぼくが相手にしていたモンスターは絶命した。
で、ぼくが加勢した騎士と魔法士たちはぼくの右手を見て響動めいた。
(あ、やっちゃった・・・)
彼らが見ているのは火を纏ったナイフだ。
魔力を込め過ぎてしばらくは火が消えそうになかった。
「君!! そのナイフは!!」
「え? こ、これ? これは・・・」
ぼくが狼狽えているとぼくの倒し方を見ていたベルも同じ方法でモンスターにダメージを与えて倒した。
そして同じくベルのナイフを見て響動めいていた。
「おい! そっちが終わっているならこっちも手伝ってくれ!!」
未だに倒せていない騎士が助勢を求めてきた。
ぼくはすばやくベルちゃんに近づくと、
「ベルちゃん、倒したらさっさとここから立ち去るよ」
ベルちゃんもぼくと同じなのかすぐに納得してくれた。
シフトは大通りに来ると巨大モンスターが4匹暴れていた。
状況をよく見ると冒険者がモンスターを攻撃しているが、その冒険者を後ろから攻撃している暗躍者がいた。
彼らは如何にも怪しいのから冒険者と間違うほどまでさまざまな恰好をしていた。
(まずは暗躍者から始末するか)
シフトはマントを身に着けてフードで顔を隠した。
怪しい行動をする者を裏路地に引きずり込んでは始末していった。
共通しているのは彼らの右手には何か紋様が刻まれていた。
(邪教徒なのか操られているのかわからないが・・・)
前者は面倒臭い連中、後者は運が悪かったと諦めてさっさと成仏してほしい。
それから5分もしないうちに暗躍者たちを全滅させた。
(さて、次はモンスターを・・・)
細い路地からシフト目がけて火球が飛んできた。
シフトは火球を躱すと飛んできたほうを睨んだ。
やがて黒いローブに身を包みフードで顔を隠した男がシフトの前まで歩いてきた。
「随分と我らの邪魔をしてくれるな」
「邪魔をしたつもりはないんだけどな」
「まぁ良い、どうせお前はここで死ぬんだからな」
言うが早いか男は【火魔法】を放ったがシフトは難なく避けた。
「ほぅ、やるではないか。 これならどうだ!」
男は上空に【火魔法】を放った。
「これで終わりだ!!」
男が上空に魔力を流し込むと男の周りが大炎上した。
「ぐわあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」
やがて鎮火して視界が戻ると男がうつ伏せで倒れていた。
「・・・な・・・なん・・・で・・・お・・・おれが・・・じ・・・じぶんの・・・」
「なかなかにしぶといな」
シフトは【五感操作】で男の感覚を鈍らせていた。
男はシフトの上ではなく自分自身の上に【火魔法】と魔力を流したのだ。
結果自分の魔法で自分が吹っ飛んだ。
「まぁ、好都合か・・・お前に聞きたいことがある」
「・・・こ・・・ろ・・・せ・・・」
(これは聞けそうにないな・・・)
シフトは逃げられないように服をはぎ取って裸にすると両手を拘束した。
全裸の男を担ぐと国王のところに持っていく。
5分後、シフトは滝と庭園のある国王がいた店に到着する。
「な、何者だ」
「国王はまだいるか?」
「な?! ぶ、無礼者!! 貴様口の訊き方に・・・」
「騒々しい、何があった?」
見張りの騎士が騒ぐとそれを聞きつけたグラントが店から出てきた。
シフトはフードをとって顔を晒した。
「シフトか? どうした?」
「土産だ」
シフトは担いでいた全裸の男を国王の前に下ろす。
「この男は?」
「街で暗躍していたそれなりに身分が高い男・・・かな?」
「なぜ疑問形なんだ?」
「ああ、街で地元民や冒険者を襲っていた連中を始末してたら襲われてな。 口調から推察して幹部クラスだと思ったから生かして持ってきた」
「なるほど・・・誰かこの男から情報を聞き出せ」
「はっ!!」
国王の後ろで控えていた騎士2人が全裸の男を連れて行った。
「要件はそれだけだ。 こいつらのおかげでまだあれを1匹も倒せてないからな。 早く対処しないと犠牲者が増える一方だ」
指さしたほうには巨大モンスターが4匹見える。
「すまぬのぅ」
「気にするな、僕自身のためさ」
シフトは用が済んだと背を向けると再び大通りへ向かった。
大通りに着くと未だに巨大モンスターが4匹暴れていた。
「それじゃ、さっさとやっつけてもらうか」
シフトは再びフードで顔を隠した。
今回は目立ちたくないのでシフトは手加減してモンスターを弱らせたらその場にいる冒険者に丸投げするつもりだ。
まずモンスターの後ろをとるとナイフで軽く攻撃する。
しかし傷を与えたところが回復していくのだった。
(厄介な・・・)
シフトはモンスターの背中に移動すると思い切り肘を打ち込んだ。
モンスターが絶叫を上げるとそのまま倒れて動かなくなった。
シフトは次のモンスターに走り出した。
その光景を見ていた冒険者たちはざわついていた。
「おい、あのフード何者だ?!」
「あたしたちが苦労したこいつを2~3回攻撃しただけで潰すなんて」
「こいつ!! もう息してないぞ!!」
シフト本人はわざと倒さず残しているつもりだったが、実際にはモンスターは絶命していた。
このあと残り3匹の巨大モンスターも同じような手順で倒してしまった。
シフトは気付かれないように素早く屋根に上り王都を見渡した。
どうやら他の巨大モンスターも全部倒されたようだ。
(これで問題は解決しただろう)
屋根から降りてルマたちと合流しようとしたとき、街の中心に今までのモンスターより一回り大きい巨大なドラゴンが現れた。
突然のドラゴンの出現に見ている人間たちは言葉を失っていた。
「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
ドラゴンは周りを見回すと大きな咆哮をあげた。
「ド・・・ドラゴンだあぁーーーーーっ!!!!!」
「みんな逃げろおぉーーーーーっ!!!!!」
ドラゴンを見ると地元民だけでなく冒険者も顔を青くしてパニックを起こしていた。
(ドラゴンだと?! 誰だあんなものを召喚したのは!!)
ここで戦っては人的被害が出てしまう。
(く、仕方ない!! 僕の能力は極力見せたくなかったが・・・)
シフトはドラゴンに向かって走っていく。
「! おい、そこのフード! いくらあんたが強くてもあいつには勝てない!! 逃げろ!!」
先ほどモンスターを殺したところを見ていた冒険者たちがシフトを止める言葉を発するが全て無視してドラゴンの目の前に立ち塞がる。
ドラゴンは矮小な人間を見るとにやけていた。
シフトは【空間転移】を使ってドラゴンの背中に移動すると急いで王都外を見回す。
(南は城が邪魔、北、東、西は緑地が多すぎる・・・どこに転移すれば・・・)
シフトはある方角を見るとそこには・・・
(あの場所なら人的被害は皆無だろう)
そう考えているとドラゴンが背中のシフトに気づいて振り落とそうと暴れだした。
「く、こいつ!!」
ドラゴンの背中に1撃入れると苦悶の咆哮をあげる。
「いまだ!!」
シフトはドラゴンに触れつつ【空間転移】である方角に転移したのだ。




