47.王都襲撃
報告に来た騎士数人が余の前に膝をつき、最敬礼をした。
「状況は?!」
「王城前に3匹、北東西の各門に1匹、貴族街、平民街、貧民街の東地区と西地区に各1匹、聖教会前に2匹、大通りは商店街に4匹、滝と庭園のあるここに2匹、計20匹の謎の巨大モンスターが暴れているとのことです!!」
「伝令!! 第一騎士団、第一魔法兵団は巨大モンスターを討伐!! 討伐にあたり騎士5名と魔法士5名の10人1組で対応すること!! 残りは王城の守護を継続すること!!」
「はっ!」
「次に第三騎士団、第三魔法兵団は裏で暗躍している者共の掃討しろ!! 掃討にあたり相手が多数で攻めてくることも考慮し騎士10名と魔法士10名の20人1組で対応すること!!」
「はっ!」
「次に第二騎士団、第二魔法兵団は王城に戻り第一騎士団、第一魔法兵団と共同で守りを強化しろ!! 国王直属聖騎士団、王宮魔導師団はここで待機!!」
「はっ!」
「余は王城に戻らずここから指揮をとる以上だ!! いけ!!!」
「はっ!」
命令を受けた騎士たちは立ち上がり出ていく。
「シフト、緊急事態が発生した。 本当はそなたともう少し話をしたかったが・・・」
「僕のことは気にしなくていい。 どうせ話は終わったのだから」
シフトはルマ嬢たちに向き直ると話し始めた。
「みんな武器は持っているか?」
「護身用のナイフだけです」
代表してルマ嬢が答えた。
シフトは今の戦力を考えるとルマ嬢たちに命令する。
「ルマとローザ、ベルとフェイとユールに分かれて街中にいるモンスターや暗躍している者たちを倒しに行ってくれ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
ルマ嬢たちは命令を受けると出ていく。
「国王、悪いが遊んでいる場合ではなくなった。 これで失礼する」
「どこへ行く気かな?」
「決まっている。 この騒動を鎮圧する。 僕たちはまだここに来て3日しか経っていないんだ。 この王都はとても良いところだ。 まだまだ観光したいところもたくさんある。 王都を満喫してないのに誰の野望か知らないが潰されてたまるか」
「・・・ふ・・・ふふふ・・・ははははは・・・まさかそんな理由で手を貸してくれるとは・・・」
シフトのあまりにもくだらない理由に余は大いに笑った。
「勘違いするな、国王。 あなたのためじゃない」
「ふふ、わかっておる。 好きにすればいいさ」
「ああ、勝手にやらせてもらう」
シフトは店を出て行った。
「ふふ、面白い少年だ。 ギルバートには悪いが余も彼を欲しくなってしまった」
余は店の扉を見ながら愉悦を堪えきれず笑みを浮かべていた。
「ベル様・・・」
私、マーリィアはギルバート様に連れられ馬車に乗って今王城へ帰還している最中です。
ギルバート様はまだ用があると一緒には来てくれませんでした。
「なぜ・・・どうして・・・」
先ほどの出来事が頭の中でループしている。
聞こえてくる言葉は拒絶のみ。
「なんで・・・私はただ・・・」
あなたはどうして拒もうとするのですか?
私の目には再び涙が溢れでていた。
ガタンッ!!!
突然馬車が止まった。
私は涙を拭い、窓から顔を出して確認する。
「何事ですか?!」
「マーリィア王女殿下! 王城に向かう道に巨大なモンスターが・・・」
「敵襲!! 賊が襲ってきたわ!! 皆抜刀して応戦しなさい!!!」
賊は私の直属騎士団より少し多いくらいだが1対1に持ち込み無理に攻め勝とうとせず時間稼ぎを第一にした戦い方をしてます。
騎士たちも無理に攻め込んで危険を冒すのではなく背中合わせになって相手の疲弊を待ちながら機会をうかがっています。
「殿下!! 馬車の中は危険です!! お逃げください!!!」
私は隙を見て馬車から降りると裏路地に走り始めました。
気づいた男たちが私を追いかけ始めました。
「待てこら!!」
後ろから男たちの声と追いかけてくる複数の靴音が鳴り響きます。
私は必死になって逃げた。
逃げて逃げて逃げ延びようとした。
しかし逃げた先は袋小路になっていました。
引き返そうと後ろを向くと男たちに追いつかれ、男たちは逃がさないように通路を塞ぎます。
「ほう、こいつがマーリィア王女か・・・想像以上に可愛いじゃねぇか」
「依頼じゃ殺せって言われてたけど勿体ねぇから殺したことにして俺たちの玩具にしねぇか?」
「お、いいねぇ」
私は男たちに押し倒されました。
二人の男に両手をそれぞれ押さえつけられた私は抵抗することすらできない状態です。
目の前の男はナイフを取り出すとあろうことか私のワンピースを胸元からスカートにかけて引き裂いたのです。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」
私の両手は男たちに拘束されて身体を隠すこともできません。
男は邪魔と感じたのか下着も引きちぎったのです。
私の肌が見知らぬ男たちの目に晒される。
「いやあぁ!!! やめてえええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!!!」
男は無遠慮に私の胸を揉みしだく。
「ああ・・・やだ・・・」
「いい肌してるじゃねぇか。 やっぱりお嬢様育ちはそこらの女と違うなぁ」
そして私の大事なところにも脂ぎった指で触られる。
「やめて・・・」
「そろそろいただくとするか」
男はズボンから物を取り出すと私の大事な部分に触れた。
「ベル・・・」
「すぐに気持ちよくしてやるよ」
男が狙いを定める。
「助けて・・・ベル・・・」
「へへへぇ、いただきます」
男は下卑た顔で私を見た。
「ベル!!!!! 助けてぇっ!!!!! 助けてよおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっーーーーーーー!!!!!!!」
「五月蠅い」
「がはぁ」
私に圧し掛かっていた男が突然血を吐いて私の右横に倒れてきたのです。
私は正面を見るとそこには・・・
「ベル!!」
私を助けてくれたのはベルだった。
「なんだ! この小娘は!!」
「てめぇ!! 邪魔すんじゃねぇ!!!」
私の拘束を解き、男たちはベルに襲い掛かる。
「邪魔」
ベルは男たちの攻撃を躱すと持っているナイフで刺したのです。
「ぐはぁ」
「て・・・めぇ・・・」
男たちは倒れると血溜まりが広がり二度と立つことはありませんでした。
「ベル・・・どうして・・・」
「ここを通ったのは偶然。 たまたま暗躍者がいたので倒しただけ」
ベルは明後日の方向を向いて答えた。
「ベル・・・ベルッ!!!!!!!」
「わっ!!」
私はいつの間にかベルにしがみついて泣いてました。
私の鳴き声がここら辺一帯に響き渡ってます。
『マーリィア様!!』
『姫様!!』
『殿下!! どこですか!!!』
しばらくすると女騎士たちが私を見つけると駆け寄ってきます。
「こちらにいましたか! マーリィア王女殿下!!」
「よかった。 無事で・・・」
「え・・・っと、お嬢さん。 もしかしてマーリィア王女殿下を助けてくれたのかな?」
ベルは首を横に振る。
「ご主人様から暗躍者を倒せと命令を受けた。 助けたつもりはない」
女騎士たちはお互いの顔を見ると困ったような顔をしていました。
すると女騎士たちが来た方向から1人の女性がひょっこり現れた。
「ベルちゃん、こんなところにいたの?」
「フェイ、暗躍者がいたから倒した」
「あ、そうなの。 ユールちゃんも心配してるし次行こうか?」
「わかった」
ベルはフェイのほうに一歩歩いた。
「あ、ベル・・・その・・・」
「・・・」
ベルは私を見ると黙って次の言葉を待っていた。
「ありがとう、助けてくれて。 本当にありがとう」
ベルはそれだけ聞くとフェイのほうを振り向いた。
「!! フェイ!! 後ろ!!!」
「!!」
巨大な火球が私たち目がけて飛んできたのです。
フェイ様はベルの一言で反射的に回避しましたが、ベルは火球の直撃を受けてしまったのです。
「ベルちゃん!!」
「ベル!!」
近くにいた女騎士が急いで【水魔法】を火にかけると消火され大量の煙が周りを包みました。
しばらくすると煙が消えていき、目の前にはベルが立っていました。
「ベル!! 無事で良かっ・・・」
ベルの身体がぐらつくと前のめりに倒れた。
「ベルちゃん!!」
フェイ様が近づきベルを仰向けにすると容態を見る。
ベルは服を焼失し、前面は大火傷を負っていた。
「脈はあるけど呼吸はしてない!! このままだと!! ユールちゃん!! こっちに来て!! ユールちゃん!!!」
フェイ様はユールという女性を大声で呼んだ。
女騎士が【水魔法】で生命力回復魔法をベルにかける。
「回復魔法?! ありがとう、ベルちゃんしっかりして!!」
(ベル、死なないで!!)
私は心の中で神にお祈りした。
(神様お願い!! どうか・・・どうかベルを助けて!!!)
しばらくすると1人の女性がやってきました。
彼女がユール様で間違いないでしょう。
「フェイさん、どうし・・・ベルさん?! 今すぐ治しますわ」
ユール様は状態異常回復魔法をかけて火傷を治しつつフェイ様に声をかけました。
「フェイさん、いったい何があったんですの?」
「実はここに暗躍者がいてベルちゃんが倒したんだけど、この一方通行のほうから【火魔法】を放たれたんだ」
「ここに来るまでの間に不審な人物は見かけませんでしたわ」
2人が会話しているうちに火傷のあとが綺麗さっぱりと無くなっていました。
ユール様は今度は生命力回復魔法をかけています。
「ベルちゃん、起きて。 朝だよ」
フェイ様がベルの頬っぺたをパシパシ叩く。
「・・・う・・・ん、フェイ、五月蠅い」
「ちょっ?! ベルちゃん、寝ないで起きてよ!!」
「・・・ん、フェイ? ・・・!」
ベルは突然起き上がりました。
「フェイ、さっきのは?」
「逃げられたらしいよ」
「そう」
ベルは立ち上がると服がないのに気づいた。
そして悲しい顔をした。
「ベルの服が・・・」
「ベルさん、とりあえずこれ来て」
ユール様がベルに替えの服を手渡していそいそと服を着る。
「ぶかぶかすぎる」
「わたくしそんなに太ってませんわ!!」
ユール様は頬を河豚みたいにプクッと膨らませて訂正を求めていました。
(なぜだろう・・・ユール様を見ていると他人事ではないように感じます)
私はユール様からは謎の近親感を感じました。
ユール様の抗議を無視してベルは地面に落ちている武器を拾って見ています。
「武器は・・・柄の部分がダメになっている。 魔石は・・・大丈夫」
「ベルさん。 わたくしのナイフを使ってください」
「ありがとう、ユール」
「わたくしやフェイさんは魔法があるから問題ありませんが、ベルさんは魔法が使えないし、武器は必要ですものね」
「助かる」
ベルとユール様はお互いのナイフを交換しました。
「それじゃ、別の襲われている場所に行こうか?」
フェイ様がベルとユール様に話しかけると2人も頷いて歩き始めました。
「あ、待って・・・」
ベルは肩越しに振り向くと少し笑顔になって、
(あ・・・)
「お礼はもうたくさん聞いたからいらない」
それだけ言うと今度こそ前を向いて歩いて行きました。
ベルたちの姿が見えなくなったころ、女騎士の1人が訊ねてきました。
「宜しかったのですか?」
「・・・本当はよくないけど・・・」
「あの娘、自分の身を挺してまで殿下をお守りするとは思いませんでした」
「?」
「あの娘が盾にならなければ今頃は私たちは炎に呑まれていたでしょう」
「!」
ベルは避けようと思えば避けられたのに、私たちがいたから避けなかったの?
どうして私を助けたの? 教えてよ、ベル・・・
しばらくして馬車のほうに戻ると女騎士たちが私の無事を祝ってくれました。
「マーリィア王女殿下!! よくぞご無事で!!!」
「殿下、お召し物が?! 今すぐ用意させます!!」
侍女が新しいドレスを用意している間、マントを羽織って待っています。
しばらくすると斥候をしている女騎士が私の前まで来て膝をつき、最敬礼をしました。
「殿下、ご報告します。 王城に向かう道にいた巨大モンスターは第一騎士団と第一魔法兵団の混合部隊が討伐に成功しました。 これにより王城への通行が可能となりました」
「そうですか・・・ご苦労様です。 引き続き警戒をお願いします」
「はっ!!」
女騎士は一礼すると立ち上がり再び仕事に戻りました。
その後、新しいドレスに着替えると私たちは王城への帰還を再開します。
馬車に揺られながらベルはなんで私を助けてくれたのか考えていた。
『王侯貴族の揉め事に関わりたくない』
(私が王族だから? 姫だから? その結果が今回の襲撃事件へと発展したの?)
そこで違う角度から私自身を見直してみた。
よく考えてみると王族として姫として礼をするのは当然と思っていた。
私はお父様の力を借りて謝礼の場を設けようとした・・・
だけどベルはそんなものはいらないと・・・
(! そうか私はなんて愚かなんでしょう・・・)
ベルが拒否する理由がようやくわかりました。
(王族という肩書ではなく1人の人間であるマーリィアとして今度こそお礼をしたい。 そして、できれば友達になりたい)
私は次こそはベルと分かり合えたらと願うのでした。
余談ですが、後で騎士たちに聞いたけどベルは私が泣きながら抱き着かれてどうしたものかと困った顔をしていたらしいです。




