45.王都観光
王都滞在2日目───。
シフトたちは今日から観光を楽しむことにした。
王都スターリインには東西南北で観光名所が存在する。
北門側の観光名所は北門から王城まで続く商店街だろう。
また王城や貴族街に行く道はここだけだ。
貴族街と平民街の間には門があり、平民が通行する際には通行税として1人銀貨1枚を支払う必要がある。(ただし、王が許可した者、王令で招待された者は別である。)
王都だけあっていろいろな店が並んでいる。
宿屋、武器屋、防具屋、鍛冶屋、魔法店、錬金術店、薬店、本屋、飲食店、喫茶店、出店、移動販売店、肉屋、魚屋、八百屋、衣料品店、宝飾店、小物店、靴屋、花屋、雑貨店などなど。
じっくり見たら1日2日ではとても回り切れないほどの店が並んでいた。
貴族街にある店なんかは一見さんお断りな店が多い。
食料品の物価なんかも地方に比べて高いがその分品揃えは豊富だ。
東門側の観光名所は滝と庭園である。
国が人工的に作ったいくつもの滝を見ることができる。
また薔薇園を始めとした各種庭園や葡萄や桃などの果樹園もあり、見頃には多くの購入者が訪れるほど。
特に朝焼けと夕焼けの時間帯が人気であり、その光景見たさに何度も来る人がいるくらいだ。
西門側の観光名所は聖教会や大聖堂がある。
王国には神光教と緑恵教と水豊教など数種類の宗教がある。
神光教は神の教えを説く、緑恵教は大地の恵みの大切さを説く、水豊教は命の源である水の大切さを説くなど宗教により異なる。
教えの違いから宗教として対立するも教えを否定したり貶めたりはしない。
なぜなら求めるものは人それぞれだからだ。
この区画ではそれぞれの宗教が立ち並び神への巡礼者が後を絶たない。
最後に南にある観光名所と言えば王城である。
国王を始めとした王族の住居であり、文官、騎士団、魔法兵団などの国政・国力に関わる者、執事、侍女、料理人などの身の回りを担当する者が住んでいる。
本来であれば王侯貴族や城で働く者しか入城できない。(ただし、食料配達者や各種修繕技術者、王が許可した者、王令で招待された者などは別)
年に一度の王の抱負を述べるときのみ中庭を一般開放するくらいだろう。
残念ながら今年の一般開放日はすでに終了したので王城内の中庭を見ることはできない。
シフトたちはいつもの戦闘服ではなく普段着で宿から出てきた。
シフトは普段は使用しない鞄を持っていた。
ルマたちも観光を楽しむために御粧ししていた。
「どこか行きたいところはあるか?」
「「服!」」
「料理!」
「「お菓子!」」
ルマとユールが服、ローザが料理、ベルとフェイがお菓子だ。
「それじゃ、観光初日は大通りでショッピングにしよう」
「「「「「畏まりました」」」」」
「まず最初は衣料品店に行こうか」
「楽しみです」
「わたくしに似合う服があればよいのですが」
「むー」
「服・・・ね・・・」
「まぁ、見るだけならね・・・」
喜んでいるルマとユールに対してベル、ローザ、フェイはあまり乗り気ではなかった。
シフトたちは比較的大きな衣料品店に入った。
・・・2時間経過───
シフトは店を出て近くの出店のテーブルで1人軽食を食べながら待っていた。
店内では・・・
「迷ってしまいますね」
「これもいい」
「く、これも可愛い・・・あ、あれも可愛い」
「なんでこんなに良いのがあるの?」
「これなんか似合うかしら」
ルマとユールはもちろんのこと乗り気でないベル、ローザ、フェイも服を見てはどれにしようか選んでいた。
・・・さらに1時間経過───
シフトがこの都市のパンフレットを読んでいるとルマたちが店を出てきた。
出かける時とは違う服を着ていた。
「お待たせ・・・って、何美味しそうな物食べてるの?!」
「ん? お帰り。 新しい服を買ったんだね。 みんな似合っているよ」
「ありがとう。 だけど、ぼくたちが服を選んでいるのにご主人様だけずーるーいー!」
「仕方ないじゃないか。 服に夢中になってるのに現実に戻すなんてそんな残酷なこと僕にはできないよ」
「最初は気乗りしなかったけど途中から選ぶのが楽しくなったのも事実だけど・・・」
フェイは自分の行動について感想を述べていたがそこは女の子、やっぱり可愛い服や綺麗な服に興味が出てしまうのだ。
「まぁ、落ち着いて。 これから食事にしよう。 このパンフレットに美味しい料理の店がたくさん載っているから、みんなが食べたい店へ行こう」
「ちょっと見せて・・・どれどれ・・・いろいろあるけどやっぱり肉かな? けど魚も捨てがたいよね・・・ルマちゃんたちは何食べたい?」
「「魚が食べたいです(わ)」」
「「肉(が食べたいな)」」
見事に肉と魚に意見が分かれた。
前者はルマとユール、後者はベルとローザだ。
「なるほど2対2ね・・・ご主人様はどっち?」
「僕はどちらでもいいよ」
「はぁ、ご主人様・・・どちらでもいいはこの場合悪い答えですよ」
「たしかにな・・・なら僕は魚かな・・・このカニクリームコロッケやイカフライ、白身魚のフライが美味しそうだ」
「油っぽいものばかりだね」
「その店は油っぽい料理だけでなくサッパリとした料理もあるし、なにより魚料理だけでなく肉料理も豊富だからね」
「そうなの・・・どれどれ・・・あ、本当だ。 この店肉料理も魚料理もある」
「ならそこに行きましょう」
「肉が食べられる」
「今から楽しみだな」
「サッパリした料理ってどんなモノかしら」
「とりあえず行ってみよう」
シフトたちはパンフレットにある店に行くとそこは繁盛しているのか店は大いに賑わっていた。
店に入るとウェイトレスの女の子が明るい声で話しかけてくる。
「いらっしゃいませ。 6名様ですか・・・えっと・・・あそこの席が空いてますのでどうぞ」
「混む前にこれてラッキーだったね」
シフトたちは席に着くとみんなはメニューを見始めた。
「料理名が多いです」
「肉も魚もある」
「どれも美味しそうな見た目だ」
「これは迷っちゃうね」
「サッパリした料理・・・サッパリした料理・・・」
ルマたちは何にしようか決めかねていた。
とりあえず助け舟を出してみるか・・・
「ルマは何食べたいの?」
「魚料理で油が適度にあるものを食べたいです」
「それならこのムニエルなんてどうかな?」
「魚にバターを使って焼いた料理ですか・・・これにします」
ルマは決まったようだし、次はベルだ。
「ベルは何を食べたい?」
「ボリュームがあるもの」
「えっと・・・それならこのハンバーグなんてどうかな?」
「! ハンバーグ! ・・・これにする!!」
ベルも決まったし、次はローザ。
「ローザは何を食べたい?」
「肉だができれば油っぽくないものがいいかな」
「それならローストビーフだろうな」
「やっぱりそれになるかな」
ローザは候補を絞っていたから問題なさそうだな。
「フェイは・・・」
「もう決まったよ」
フェイはもう決めていたようなので最後にユールだ。
「ユールは何食べたいの?」
「サッパリした魚料理ですわ」
「それならこの蒸し料理がいいだろう」
「油を落として魚と野菜を食べる・・・なるほど」
どうやら全員決まったようだ。
「あ、すみません!!」
ウェイトレスがすぐにやってくる。
「お待たせしました、ご注文は?」
「僕はカニクリームコロッケとイカフライと白身魚のフライのセット」
「ムニエルをお願いします」
「ハンバーグ」
「ローストビーフをお願い」
「この肉と魚のミックスフライね」
「魚の蒸し料理をお願いしますわ」
「あと果実水を6人分」
「畏まりました! 少々お待ちください!! 注文入りまーす!!! ・・・」
ウェイトレスは立ち去りながら料理名をすらすらいいながら厨房のほうに向かった。
しばらくすると注文した料理が次々と運ばれてくる。
「おまたせしました。 ごゆっくりどうぞ」
シフトたちは料理を食べるとうま味が口いっぱいに広がってとても美味しい。
「カニの味が口いっぱいに広がる」
「白身とバターの味が相まって実に良い感じです」
「肉がとろけておいしい」
「噛めば噛むほど肉汁がじわって広がるのがいいね」
「衣のサクサク感と中身のしっとり感が絶妙だね」
「余分な脂が落ちるしこの果実調味料につけて食べるとよりサッパリしますわ」
それぞれ味の感想を言い合いながら食事を楽しんだ。
食事も済むと次は宝飾店に向かった。
衣料品店と違い、今回はシフトも店内に入る。
「うわーーーすごい」
「キラキラしてる」
「これは見事だね」
「大きい・・・そして高い!」
「1度でいいから着けてみたいですわ」
ルマたちは案の定宝石に見入っている。
シフトは何か買ってあげたいがまずは各種インゴットを見ることにする。
(んん・・・ミスリルかオリハルコン・・・どちらにしようか・・・)
隠し持っている[鑑定石]でミスリルとオリハルコンを確認する。
ミスリルのインゴット
品質:Bランク。
効果:鉱山で発掘された希少な金属。 鉄、鋼よりも高い強度と熱耐性を持つ。 製造者が未熟なため、製造工程で不純物の混入が一部あり。
オリハルコンのインゴット
品質:Bランク。
効果:ダンジョンで見つかった特殊な金属。 ミスリルよりも高い強度と熱耐性を持つ。 製造者が未熟なため、製造工程で不純物の混入が一部あり。
悩んでいるとベルがやってきた。
「ご主人様、何を悩んでいるの?」
「ベル・・・実はミスリルかオリハルコンのどちらを買おうか迷っていてね」
「ミスリルとオリハルコン? 何に使うの?」
「新しい武器かな。 今は作ったばかりの武器があるけど、鋼ではいずれ限界がくるだろうから」
シフトは大陸最大のダンジョン『デスホール』で見かけて今は【空間収納】に遺体ごと収納されているドラゴンを思い出す。
あの龍鱗は鉄では傷一つつけられなかった。
最低でもミスリル以上の武器でなければとてもじゃないがダメージを与えられないだろう。
「加工が難しいからベルの【錬金術】とローザの【鍛冶】のスキルレベルを上げるのに丁度いいだろう」
「ご主人様、ベル頑張る」
「その時は頼むよ。 さて、どちらを買おうか・・・」
「オリハルコン」
「ベル?」
「オリハルコンを買うべき。 ミスリルは鉱山で採掘されることがあり市場にも出ることは多いがオリハルコンは出土されないし貴重な金属」
「なるほど」
「それにオリハルコンは加工にとんでもない技術が必要。 熟練した技術者でも加工が難しい。 未熟者からは『役立たずの金属』とよく言われる。 だからオリハルコンを買うべき」
「未熟な技術者が大枚はたいて買うも加工すらできずに二束三文で買い叩かれる訳か・・・」
シフトの見解にベルが頷く。
ローザの【鍛冶】レベルではまだ加工は無理だろうがここで材料だけでもキープしろというのがベルの意見なのだろう。
「アドバイスありがとう、ベル」
シフトはベルの頭を撫でるとベルは頬を赤く染めて嬉しい顔をした。
金属の相場は銅がキロ銅貨10枚、鉄がキロ銅貨20枚、銀がキロ銀貨10枚、ミスリルがキロ金貨5枚、金がキロ金貨10枚、白金がキロ金貨10枚、オリハルコンがキロ金貨20枚くらいである。
シフトは女性店員に話しかける。
「すみません、オリハルコンの未加工を見せてもらえませんか」
「オリハルコンですか? こちらです」
案内されたところは雑に積まれたオリハルコンの塊たちだ。
鑑定すると・・・
オリハルコン
品質:Sランク。
効果:ダンジョンで見つかった特殊な金属。 ミスリルよりも高い強度と熱耐性を持つ。
(大当たりだ!)
シフトが内心ほくそ笑むとベルが袖を掴んだ。
「(ご主人様、このオリハルコン、品質がAランク)」
ベルがシフトにこっそり告げる。
ベルの【鑑定】は未だにスキルレベル3である。
極めればシフトが持っている[鑑定石]と同等の力を発揮するはずだ。
それがいつになるのかは本人を含めてわからないが・・・
「これ何キロありますか?」
「5キロです。 実は現在買い手がつかなくて困っています」
女性店員は営業スマイルか本当に困っているかわからない表情をしていた。
「これで全部ですか?」
「はい、あとはあそこに飾られている見本のインゴットだけです」
「・・・わかりました。 ここにある未加工のオリハルコン全部ください」
「ありがとうございます」
「あとミスリルも買っていきたいんだけど、できれば値引きしてくれると助かるかな・・・」
シフトは希望的観測を述べると女性店員も苦笑いをしていた。
「そうですね・・・まぁいいでしょう。 在庫処分してくれるのです。 ミスリルの値段は勉強させていただきます。 何キロご所望ですか?」
「5キロくらいかな」
「それでしたらオリハルコンと合わせて金貨120枚いや金貨115枚でどうでしょうか?」
「買います」
シフトは鞄から金貨を取り出すと115枚をその場で数え女性店員に渡す。
(ふぅ、良かった。 冒険者ギルドで大量に魔物の素材や魔石を売ったお金がなければ危なかったよ)
内心冷や汗をかいていた。
「それではこれで」
「・・・たしかに、ありがとうございます」
今度は女性店員がその場でミスリルとオリハルコンの未加工品を頑丈な袋に入れていく。
ベルに現物を鑑定をさせている。
女性店員もベルに気づいたのか不正は行わないようだ。
こういう高額なものほど不正が行われる可能性が高いのだ。
それに不正を行わなくても買取にオリハルコンがキロ金貨10枚、ミスリルがキロ金貨2~3枚くらいだろう。
店側としても差額で金貨50枚以上は儲けているのだから文句は言わないだろう。
シフトは女性店員から袋を受け取りルマたちのところに戻ると未だに宝石に魅了されていた。
宝飾店を出ると太陽は傾き白光から徐々に赤みを帯びていた。
「次はお菓子でも食べようか」
「「お菓子!」」
その単語を聞いた途端ベルとフェイが大喜びした。
「ご主人様、何食べるの?」
「あ、このクレープっていうのおいしそう・・・このアイスクリームっていうのも捨てがたいな・・・」
ベルは興奮したようにシフトに尋ね、フェイはパンフレットからお菓子に関するページを次々と調べていた。
「ベルとフェイに任せるよ。 だけど早くしないと食べ損ねるよ?」
「フェイ! 早く決めて!!」
「待ってよ、ベルちゃん! 今決めるから・・・ケーキにクッキーにアップルパイにチョコにゼリーにプリン・・・わーーーん、多すぎて決められないよ」
「ご主人様!! どうしよう!!!」
ベルとフェイが困ったようにシフトを見た。
「はぁ、仕方ないな・・・それじゃ何を食べたいのか多数決で決めよう」
シフトは菓子名を1つずつ列挙する。
結果、ケーキが2票で多かったのでパンフレットに掲載されている喫茶店へ行くことになった。
店に到着すると男性2:女性8で賑わっていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様方」
侍女の恰好をしたウェイトレスの女の子がやってきてカーテシーをする。
変わった接客の仕方だ。
「6名様ですね。 こちらへどうぞ」
通されたのは8人席だった。
「ご注文が決まりましたらこちらのベルを鳴らしてください」
ウェイトレスは備え付けの鐘を指差してから他の客の対応へ向かった。
「それじゃ、何にしようかな・・・」
「「「「「・・・」」」」」
シフトがルマたちを見るとみんな不機嫌そうな顔をしていた。
「ん? どうしたんだい?」
「ご主人様はあのような恰好の娘が好きなんですか?」
「ちょっ?! ルマ、何を言ってるんだ?!」
「だって鼻の下を伸ばして・・・」
「むー」
「まぁ嫉妬してしまうね」
「ぼくだって・・・ぼくだって・・・」
「わたくしたちに謝るべきですわ」
ルマたちは不平不満を次々に漏らす。
「みんな、ごめんなさい」
なにか解からないうちにシフトは謝らされた。
そのあと、メニューから食べたいものをチョイスし注文した。
しばらくして全員分のお茶とお菓子が運ばれてくる。
「それではいただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
お菓子を食べようとしたとき、
「あれ? シフト君じゃないか」
声をかけられたほうを見るとそこにはミルバークのギルドマスターであるギルバートが立っていた。




