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43.王都は危険がいっぱい?

わたしの名はローザ。

ご主人様に使える奴隷の1人だ。

わたしは過去に傭兵を生業としていた。

ある護衛の依頼を受けている最中に強力な魔物と遭遇。

勝てないと判断したわたしたちは退散するが、殿を務めたわたしは魔物の斬撃を受け右腕を失った。

失敗した依頼に対する賠償金が発生したがわたしたちには払える額ではなかった。

そして戦えないわたしは奴隷商に売られたのだ。

それから1年以上わたしは奴隷商にいた。

理由は胸が小さくて身体のあちこちに切り傷があることらしい。

客が来る度に顔が綺麗だからという理由だけで服を脱がされて恥ずかしい思いをさせられるのに胸や傷を見るといらないと言われた。

拒否される度に女としての自信を無くしていった。

そんなある日、わたしを買ったのが今のご主人様であるシフト様だ。

あとでルマから聞いたがご主人様はわたしとルマの傷など何も見ずに即決で買ったらしい。

その証拠にわたしの自我が少し戻った時にはいつもの暗い部屋でなくご主人様が借りた部屋にいたからだ。

「・・・ザ・・・ーザ・・・ローザ・・・」

「・・・ここは・・・」

「少しは正気に戻ったのね。 ローザ」

「・・・たしか・・・ルマ・・・だっけ?」

「そうよ。 私よ、ルマよ」

ルマはフード付きのマントで全身だけでなく顔も布で隠していた。

(そうだ・・・ルマも全身火傷を負っていたな・・・)

「わたしたちはどうなったんだ?」

「奴隷として買われたわ」

「買われた? 本当に?」

ルマは一つ頷く。

わたしは辺りを見回すと目を閉じた少女がいた。

「あの娘は?」

「彼女はベル。 私たちと同じご主人様が購入した奴隷よ」

「・・・それでわたしたちのご主人様は?」

「もう一度奴隷商に行くと出て行かれたわ」

「それなら今が逃げるチャンスということか?」

ルマは首を横に振ると自分の首輪を見せた。

(その首輪は?!)

それは奴隷である証の隷属の首輪だった。

ベルの首を見ると彼女にも首輪が付けられていた。

そしてその首輪には奴隷の持ち主である『シフト』と刻まれていた。

わたしは左手で首を触る。

そこには冷たい金属が付けられていた。

隷属の首輪は主人を裏切る行為をすると自動的に着用者に痛みを与え、最悪は死ぬこともあるらしい。

わたしは諦めてルマに別の話題を振った。

「わたしたちのご主人様はどういう人なんだい?」

「背恰好は私と同じくらいでオレンジ色をした髪と目で顔に大きな傷がある少年よ。 性格まではまだ解からないけどね」

ルマの説明にわたしは驚いた。

そう、わたしを買ったのが男であるからだ。

火傷はしているが発育の良いルマと幼児体系なベル、そして中途半端なわたし・・・

(あまり良い趣味とはいえないな・・・)

わたしが1人で感傷に浸っていると突然扉が開いた。

扉のほうを見るとそこにはルマが話していた少年が何かを抱えて入ってきた。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

ルマは少年に対して丁寧に挨拶をした。

「ただいま、ルマ。 悪いけどこの娘を頼んでいいかい? あともう一軒奴隷商に行かないといけないから」

「畏まりました。 ご主人様」

「それじゃ、頼むよ」

少年はベッドに何かを置くと部屋から出て行った。

すると置かれた布から女性の声が聞こえた。

「はぁ・・・ぼく、お姫様抱っこなんて初めて体験したよ」

上半身を起こすとフードを外す。

緑色の髪と目でショートヘア、ベルを少し大人にしたような感じの娘だった。

「えっ・・・と、君たちは先ほど出ていかれたご主人様の・・・何?」

「あなたと同じ奴隷です」

ルマが自分の首を見せると彼女も納得したようだ。

「ああ、なるほど。 ぼくの名前はフェイ。 よろしく。 えっと・・・」

「ルマよ」

「ベル」

「・・・」

「・・・ローザ、しっかりして」

ルマがわたしの肩を掴むとゆする。

「・・・ローザ」

フェイの自己紹介にわたしたちも名乗った。

「ルマちゃんに・・・ベルちゃんに・・・ローザちゃん! みんなよろしくね!!」

「ところであなたはなぜ抱えてもらってきたのですか?」

ルマの声に怒りを感じる部分を感じた。

「ぼく? ぼくはね右足がないんだ」

そう言って布の下を曝け出すと確かに右足が無かった。

「あ・・・」

「あははははは・・・ぼくは気にしてないよ。 命あっての物種だからね。 ルマちゃんだってその顔を曝せって言われたくないでしょ?」

ルマはその言葉で自分の顔を手で隠した。

「ごめんごめん。 別に意地悪を言うつもりはないんだ。 それに仲良くやっていきたいしね」

フェイのその笑顔はまるで向日葵のように明るい笑顔だった。

それからは他愛のない会話が続いた。

しばらくするとご主人様がまた何かを抱えて戻ってきた。

「ただいま、ルマ」

「お帰りなさいませ、ご主人様」

ご主人様は近くの椅子にその何かを座らせると布をとる。

そこには生気がほとんど通ってないような顔をした娘がいた。

案の定その娘の首にも隷属の首輪が付けられていた。

ご主人様はわたしたちに向き直ると命令してきた。

「これから僕が行うことは他言無用。 これは命令だ」

わたしたちは首を縦に振る。

突然目の前の何もない空間がミシミシバリバリと裂けていく。

「「「な!!」」」

わたし、ルマ、フェイはあまりの出来事に驚きの声を出していた。

亀裂はある程度広がるとそれ以上裂けることはなかった。

ご主人様はポーションを5本取り出したら空間が逆再生するように亀裂が修復していき元の空間に戻った。

「「「・・・」」」

わたしたちはあまりの出来事に驚いて声も出なかった。

唖然とする中、いつの間にかご主人様よりポーションを受け取っていた。

「みんな今渡したポーションを飲んでくれ」

わたしは戸惑いながらも主人の命令だから逆らえず渋々飲むことに決めた。

口に少し含むと・・・

(え、なにこれ美味しい!! いろんな果実の味がして飲みやすい!!)

わたしは知らず知らずのうちにポーションを飲み干していた。

(こんなに美味しいならもうちょっと味わって飲めばよかった・・・)

しかし、驚くのはこれからだった。

右腕を見ると一瞬光り、それは骨、血管、神経、筋、皮膚と次々に形成していき最後には腕ができていた。

わたしは自分の右腕をそして右手を動かした。

自分の意志で動かせる!!

わたしは堪らず歓喜の声を上げていた。

「腕が・・・わたしの切り落とされた腕が元に戻った!!!」

あとで確認したが身体中の切り傷も綺麗さっぱり無くなっていた。

(この人がわたしを救ってくれた!!)

この時、わたしの心には初めて恋愛感情が芽生えた。


・・・おっと回想が長くなってすまないね。

ようするにルマたちと同じくわたしもご主人様が好きで愛してるってことさ。

それだけ解ってくれれば良いのさ。

わたしたちは王都スターリインの北門に到着した。

身分証を提示していざ王都内へ、わたしたちの位置からだと城が目の前に見える。

北門から王城に向けての大通りは商店街になっていた。

ご主人様はまず宿探しから始めるがどこの宿も大きな外見だ。

何軒か宿をとろうとするが満室や2~3人部屋しか空いてないところがほとんどだった。

7軒目、看板には『INN』の文字と可愛い兎が描かれている5階建ての宿に訪れると受付嬢が元気よく声をかけてきた。

「いらっしゃいませ、兎の癒し亭へようこそ。 宿をお探しですか?」

「ああ、6人だけど1部屋あるかな?」

「ええ、ありますよ。 一泊銀貨10枚です」

「12・・・いや15日滞在したい」

「わかりました。 金貨1枚と銀貨50枚になります」

ご主人様は懐から金貨1枚と銀貨50枚を受付嬢に渡す。

「ありがとうございます。 部屋はこちらになります」

受付嬢は部屋の鍵をご主人様に渡した。

「それじゃ部屋に行こうか」

「おおーーー」

ご主人様の後に続くと3階の中央部屋についた。

鍵を開けて中に入るとそれなりの大きな部屋に中央にはテーブルが1つと椅子が4脚、あと1人用ベッドが6つあった。

「なかなかに良い部屋だな。 これならゆっくり寛げる」

「ぼくはご主人様とならどこでも良いかな」

「ベルも」

フェイの言葉にベルがくいつき、続いてわたしたち3人も頷いた。

「ありがとう、だけど寛ぐ前に冒険者ギルドで魔物から手に入れた大量の素材を売りに行ってくるよ」

「長旅で疲れているので私はここに残ります」

「わたくしもルマさんと同じくここに残りますわ」

「ベルは外で何か見たい」

「ベル、わたしも一緒でもいいか?」

「うん、ならローザと外を見てくる」

「じゃあ、ぼくは1人で散策しようかな」

みんなの方針が決まったところでご主人様が話し出す。

「夕方まで自由行動で、一旦集まって夜はみんなで外に食べに行こう」

「「「「「畏まりました。 ご主人様」」」」」

宿を出るとご主人様は冒険者ギルドへ、フェイの姿は既になく、わたしとベルは商店街を見て回ることにした。

「いろいろある」

「流石王都スターリイン。 地方では手に入らない物が売られているな」

ベルと2人で回っていると裏路地に入る通路があった。

「こっちにも何かあるかな?」

「さすがに行ってみないとわからないな」

ベルは躊躇いもなく裏路地に入る通路を歩きだした。

(はぁ・・・まったく・・・)

わたしもベルの後を追うのだった。

しばらく歩くと王都の闇って言葉にぴったりな場所を歩いていた。

前方と後方から男たちがわたしたちを囲む。

「よぉ、ねぇちゃんたち。 俺たちと遊ばない?」

「邪魔」

「悪いが君じゃわたしの相手には役不足だな」

わたしとベルはさっさと抜け出そうとするが男たちは行く手を邪魔をする。

「つれねぇことをいうなよ・・・なぁ」

男が手を出してきたので反射的にナイフで切りつけた。

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!! 手があぁっ!!!!!!! 手があああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」

「五月蠅い」

ベルは男に腹パンすると凄まじい勢いで吹っ飛ばされた。

その場にいた男たちが凍り付いた。

「わたしたちを拉致したいなら最低でもゴブリンジェネラル並みの強さがないと無理だな」

「この場で殲滅させる」

ベルが前方の男たち、わたしが後方の男たちを相手取るが手応えがなさ過ぎて全員が流血して倒れるまで1分もかからなかった。

「つ・・・つよすぎる・・・」

「な・・・なんなんだこいつら・・・」

「弱すぎる」

「仕方ないよ。 ご主人様のスパルタ教育に比べればあまりにもお粗末だからね」

ベルは気を取り直して歩き出すとわたしも後を追った。

その後も何度か同じ展開に合うも最初の男たち同様の結果が待ち受けていた。

しばらく歩いていたが何も興味がそそるものがなかった。

「帰る」

「そうだな。 戻るとしますか・・・?」

戻ろうとしたとき、前方から白いワンピースの女の子がこちらに向かって走ってきた。

後ろにはフードで顔を隠した男たちが追いかけていた。

「はぁはぁはぁ・・・あっ!」

女の子は路肩の石に躓いて盛大に転んだ。

立ち上がろうとするがそれよりも速く男たちが女の子に追いつくとナイフで刺そうとした。

が、その腕をわたしは捕まえた。

「無粋だな。 たかが女の子1人に殺気立ってやることではないと思うけどね」

男たちは無言でわたしたちを攻撃してきた。

「少しは骨がある」

「さっきの男たちと比べたらなかなかやる。 だけどたいしたことはないな」

貧民街の男たちとは明らかに動きが違い無駄がなく統制されていたが、わたしたちの敵ではなかった。

全員を倒して女の子のほうを見た時だった。

「「!!」」

女の子が走ってきた方向からわたしたちめがけて巨大な火球が飛んできた。

「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」

ワンテンポ遅れて女の子が叫んだ。

わたしは女の子を胸に抱きしめると後方に飛びつつ胸当てに埋め込まれた魔石に魔力を流した。

ベルも同じように魔石に魔力を流していた。

わたしたちの前に水と土の壁が出現した。

その直後火球が壁に衝突し霧散した。

しばらくすると壁は音もなく崩れていく。

目の前には焼けた地面と焼け焦げた男たちの死体があった。

「ちょっと前までの装備なら危なかった」

「仲間諸共証拠を消そうとは随分と思い切りがいいな」

わたしとベルはどうしたものかと顔を合わせると火球が放たれた方向から人が吹っ飛んできて目の前で倒れた。

「がはっ!!!!!」

よく見ると不細工な男でさきほどの衝撃で気を失っていた。

ベルが倒れて気絶している男をじっと見る。

「ん! 絶妙な手加減!!」

ベルは明らかな戦闘態勢をとった。

どうやら今度の敵はわたしたちに匹敵するかそれ以上の強さの持ち主らしい。

わたしもナイフを構えると前方から凄まじいスピードでくる人物がいた。

「・・・っと発見!! ・・・って、ベルちゃんにローザちゃん?!」

前方からやってきた人物・・・それはフェイだった。

「フェイ、どうしてここに?」

「フェイ、ここで何やっている?」

「えっと・・・フラフラっと王都を散策していたらさぁ、そこに倒れてるのが丁度ベルちゃんとローザちゃんがいる方向に【火魔法】ぶっ放して逃げようとしたから正面に回り込んで正拳突きを一発ぶっ放したんだぁ」

フェイは簡潔に説明してくれた。

「それよりもベルちゃんとローザちゃんはなんでここにいるの?」

「何かないか探してた」

「ベルが裏路地入ったのでそのまま歩いていたんだ」

「なるほどね」

「あ、あの・・・」

わたしたちが情報を交換していると胸の辺りから声が聞こえた。

「ん? ああ、すまないね、お嬢さん。 怪我はないかい?」

女の子を開放するとわたしたちにお辞儀をした。

「い、いえ、大丈夫です。 助けていただいてありがとうございます」

「降り懸かる火の粉を払っただけさ」

「無事でなにより」

「何?! このお人形さんみたいに可愛い娘!!」

「どこかの貴族のお嬢さんだろう。 そこで倒れている男たちに命を狙われたところを見ると訳ありだろうな」

「貴族の揉め事には関わらないほうがいい」

「「・・・」」

元貴族とはいえベルにしては辛辣な言葉だった。

「あの・・・できれば安全なところまで連れて行ってくれませんか?」

ベルの発言の後なのか女の子は申し訳なさそうに声をかける。

ベルとフェイがわたしを見て『どうする?』って視線で訴えてきた。

「はぁ・・・それなら貴族街の入り口まで護衛しましょう。 2人共それでいいか?」

2人は無言で頷いた。

「ありがとうございます」

わたしたちは貧民街の入り口へ移動しようとしたその時、

「「「!!!」」」

背中から凄まじい闘気を感じて振り返った。

そこには女騎士がこちらに歩いてきて5メートル手前で止まった。

(なんという覇気!! この強さは本物だ!! Sランク冒険者のギルバートと同等・・・いやそれ以上だ!!!)

桁違いの実力者の前にいつの間にか額から汗が流れていた。

「そこのお前たち!! おう・・・お嬢様から離れろ!! さもなくば・・・」

「おやめなさい!! この者たちは賊から私を助けてくれたのです!!」

「しかし、おぅ・・・お嬢様!!」

「これは命令です!! この者たちを傷つけるのなら如何にあなたでも許しません!!!」

「・・・畏まりました」

(話も纏まったみたいだし強力な護衛がいるんだ、問題ないだろう)

「護衛の人も来たことですし、わたしたちはこれで・・・」

わたしが女の子に頭を下げるとベルとフェイも同じく頭を下げて、女騎士のほうに歩き出す。

「待ってください! 何かお礼を・・・」

「いらない」

ベルは女の子の発言を遮った。

「無礼者!!」

女騎士は手を出さない代わりに闘気が怒気へと変わった。

「私は命を救われました。 恩人に報いたいのです」

「なら、褒賞は二度とあなたとは関わらないこと。 王侯貴族の揉め事に関わりたくない」

「貴様!!!」

女騎士はベルを睨みながら怒気が殺気へと変わった。

「・・・そうですか、残念です・・・」

「「「・・・」」」

女騎士の横を通り過ぎ、見えなくなるとベルはわたしたちに謝った。

「ローザ、フェイ、ごめんなさい」

「謝ることはないよ、ベルちゃん」

「フェイの言う通りだ。 いざとなったらご主人様もベルを守ってくれるさ」

「・・・うん・・・」

わたしたちは『兎の癒し亭』へ戻るのだった。


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