42.王都を目指して
魔法武器の製造から2ヵ月後───
国歴1853年、季節は雪が降る時期。
新しい武器防具にアクセサリーとそれぞれ必要な物はすべて揃った。
さて、王都を目指して南下しようとするも結界の外は吹雪で何も見えないという最悪な状況だ。
下手に結界を解いて進もうものなら道に迷い、最悪凍死も考えられる。
「はぁ・・・王都に向かいたいけど、この状態じゃあね・・・」
「ご主人様、この天候で進むのは自殺行為に等しいです」
「吹雪、何時止む?」
「正直わからないな・・・明日かもしれないし1ヵ月以上先かもしれないし」
「仕方ないよ。 今は冬。 ここはガイアール王国の極北ヘルザード辺境伯領だよ」
「早く王都に行きたいですわ」
食料に関しては大量に購入して【空間収納】に入れてあるから問題ない。
結界に関してはシフトの魔力が尽きない限りは解かれることはないのでこれも問題ない。
シフトたちは吹雪が止むまで各々がやりたいことを満喫していた。
戦闘訓練したり、魔法の練習したり、新作料理を堪能したり、お風呂に入ったりして時は過ぎていった。
吹雪に足止めされてから1週間後───
ついにその日がやってくる。
水平線から日が昇り始めるころ。
吹雪いていなく、雪はしとしとと降っているものの分厚い雲には日の光が微かに見えた。
「みんな、天候が回復したら王都に向かう予定だけど問題ないよね?」
「そうですね・・・もう少し日が昇って天候が崩れなければ出発しましょう」
それから1時間経過して天候に変わりはないので出発することに決めた。
出発前に炉を破壊し、風呂を埋めた。
ベルはシフトたちに防寒着と靴を渡した。
この防寒着と靴だけど、フェイとユールが魔法の特訓をしているときにベルが作りたいといったのでダーク・ベアーとダーク・ウルフの毛皮を渡しておいた。
ベルは【錬金術】でダーク・ベアーの毛皮から作ったコートとダーク・ウルフの毛皮で作った靴を人数分作成した。
このコートと靴にはルマの【風魔法】とユールの【光魔法】を付与しており魔力を流すと風の壁を作り発熱して寒さから身を守ってくれるのだ。
これらの防寒対策をしてくれたルマ、ベル、ユールには感謝だな。
結界の一番南に移動するとシフトたちはコートと靴を身に着けて、ルマたちに声をかける。
「それじゃ、結界を解くよ」
結界を解いた途端、秋の涼しい気候から一変外部から強烈な冷気が襲ってきて真冬の寒さの洗礼を受ける。
シフトたちは慌ててコートと靴に魔力を流し込む。
すると風が遮られ、コートと靴がじんわりと熱くなった。
「あ、危なかった・・・」
「ベルが気を利かせてくれなければ大変なことになってたな」
「ありがとう、ベルちゃん」
シフトたちはベルに感謝の気持ちを伝えると珍しく照れていた。
「ご主人様、早速南へ向かいましょう」
「何時天候が崩れてもおかしくないでしょうから」
「あ、待って、ご主人様、これ」
ベルから先端に球体が付いた杖を1つ受け取る。
「これは?」
「球体に魔力を流すと【光魔法】の熱で半径5メートル以内の雪を融かすように作った魔道具。 魔力を流す量に比例して発熱も上がるから流しすぎには気を付けて」
「なるほど、便利そうだ。 早速使おう。 それじゃ、みんな行くよ」
シフトたちは改めて王都を目指して南へ移動を開始した。
最初は雪を融かしつつ順調に進んでいたが冬の天候は変わりやすいもの。
南下すること3時間後、吹雪始めたのでシフトは【次元遮断】で外界と隔離した。
「この天候では今日は無理ですね」
「仕方ない。 今日はここで野宿をして明日天候が良くなったら出発しよう」
シフトたちは天候に阻まれ足止めされてしまった。
その後も天候が穏やかになったところで南下し、吹雪で立ち往生を繰り返していた。
そして豪雪地帯からやっとのことで抜け出すことができたシフトたち。
本来であれば1週間あれば抜けられる場所だが天候にあまり恵まれずに3週間が経っていた。
吹雪が止まず1日以上足止めをくらったこともあった。
豪雪地帯を抜けてからは今までの鈍行とは打って変わって激的な速さで南下していた。
途中、オークやホーンラビット、ビッグスネークなどが襲ってきたが難なく倒すことができた。
なかには珍しい魔物であるスノウ・ベアーとスノウ・ウルフがいた。
(ああ・・・熊と狼かぁ・・・懐かしいなぁ・・・)
シフトは感傷に浸りながらスノウ・ベアーとスノウ・ウルフの群れを瞬殺した。
それどころかスノウ・ベアーとスノウ・ウルフの解体を凄い速さで行ったのだ。
(うん、上質な肉だ。 焼いて食べたら美味しいだろうなぁ・・・)
シフトの頭の中は既に焼肉しか思い浮かばなかった。
「あの・・・ご主人様?」
「ん? どうした?」
ルマが遠慮がちに声をかけてくるのでベルたちを見ると怪訝そうな顔をしていた。
「ご主人様、こわい」
「スノウ・ベアーとスノウ・ウルフはかなり凶悪な魔物で討伐ランクも高かったはずだが・・・」
「なんで笑顔で殺して解体作業してるの?!」
「正直、近寄りがたいものを感じましたわ」
ベルたちはシフトの突拍子もない行動にドン引きしていた。
「な、なんか変だったかな??」
「かなり・・・いや、異常だと思います」
「うっ!」
ルマの一言にショックを受けるシフト。
凹んだシフトを慰めるのに苦労をしたルマたちであった。
その後の夕食ではシフトの要望でベルがスノウ・ベアーの焼肉を作ってくれた。
意外にもルマたちにも大好評だった。
やっぱり肉料理は最高だ!!
ヘルザード辺境伯領の領境をようやく越えて別の領地を経由し旅自体は順調に進んでいた。
首都ベルートを出発して5ヵ月、遠方を見るとついに王都スターリインの城壁が現れたのだ。
本来なら3ヵ月もあれば着く道のりだが、森路や獣道だけでなく魔法武器の製造と猛吹雪の足止めがあり通常よりも2ヵ月以上かかってしまった。
城壁までの距離はまだ2~3日はかかりそうだが、この分なら無事に王都まで辿り着けそうだ。
今までの道のりだと魔物の群れや盗賊たちが跋扈していたからなぁ・・・
平原を見渡しながら久しぶりに整備された道を歩いていく。
「へえぇ~~~、あれが王都かぁ~~~」
フェイが珍しく燥いだ声を上げた。
「フェイは王都は初めてか?」
「王都なんて初めてだよ。 ぼくは元は遊牧民だからね。 王都の南東から南西を行ったり来たりするのがぼくの部族のスタイルなんだ。 だからあそこには何があるのか今から楽しみだよ~♪」
「なるほどな・・・ルマ、ベル、ローザ、ユールは?」
「わたしは仕事で何度か訪れたことがあるな」
「わたくしも王都の聖教会に巡礼するために訪れたことがありますわ」
「・・・私は王都の孤児院で生活していたので・・・」
「・・・お父様とお母様に連れられてきたことがある・・・」
ローザとユールは何度かあるのかそこまで珍しいことではないらしい。
ルマとベルは、過去の苦い経験からか踏み込んでほしくない気配を漂わせた。
今度はフェイがシフトに聞いてみる。
「ご主人様は王都には行ったことはあるんですか?」
「ああ、あるよ。 物珍しい置物として1回、あとはザールの使いと荷物持ちで何回かあるよ」
「王都ってどういうところですか?」
シフトは2年近く前の王都を思い出して語り始める。
「そうだな・・・王都の入り口は北東西の3ヵ所で南には王城があるのと貴族街、平民街、貧民街の3つに分かれていること。 あと王都内にいくつか名所があるかな・・・」
「凄いところですね。 ああぁ~~~見て回りたいなぁ~~~」
「それと王侯貴族御用達の店や貴族のご令嬢たちのあいだで流行りの宝飾品や服飾品や化粧品、料理やお菓子も多数見かけたかな」
「「服!!!」」
「料理!!!」
「「お菓子!!!」」
シフトの言葉で服に反応したのがルマとユール、料理に反応したのがローザ、お菓子に反応したのがベルとフェイである。
「あははははは・・・向こうについたら10日くらいはみんなで観光しようか?」
「本当ですか!!」
「やったぁ!!」
「楽しみだな!!」
「目一杯楽しむぞぉ!!」
「喜んでお付き合いしますわ!!」
ルマたちは王都でどこを巡るのか早速話し始めた。
ここに行きたい、あそこに行きたいと明るい声が飛び交う。
道中で魔物を相当数狩っているから冒険者ギルドで素材を売ればお金には困らないだろう。
仮に安く買いたたかれてもお金のほうはまだまだ余裕があるし、ルマたちの我儘に使うのも吝かではない。
そして3日後、シフトたちは無事に王都スターリインに着いた。




