39.魔法武器
王都スターリインを目指して首都ベルートを出発すること2週間───
人目を避けるためいつものように森路や獣道を移動していた。
人との接触は当然なく何年も人が立ち入った形跡すらない自然に満ち溢れた土地をただひたすら歩いていた。
森の中を歩いていると空を見上げることができる小さい空間を見つけた。
シフトは誰もいないことを確認すると【次元遮断】で外界と隔離してルマたちに話を切り出した。
「みんな聞いてくれ。 ここらで僕たちの武器や防具、アクセサリーなどを作成・強化しようと思う」
「ここでですか?」
「ああ、今までの鉄製ではなく鋼や銀を用いて装備品に魔法を付与した武器を新調する」
シフトは魔法武器を作ることをルマたちに提案したのだ。
「魔法武器を作成するのですか?」
「そうだ」
「聞いたことがない」
「【武具錬成】で修復したり切れ味や耐久力を上げることはできるが魔法を纏わせたり放てる武器は人の手では作ることができないのが常識だ」
「魔法が使える武器なんて出来たら大変なことになるよ」
「王都でも過去の出土品以外では見かけない代物と聞きますわ」
案の定、ルマたちも作成は無理であることを口にする。
魔法武器を作ろうと多くの有名な鍛冶師や錬成師が武器に魔法を付与しようとして必ず失敗する。
なぜなら彼らの魔法武器の作り方自体を間違えているからだ。
「作成については僕に考えがある。 ルマ、ベル、ローザ、頼まれてはくれないだろうか?」
「ご主人様が望むなら」
「ベル、頑張る」
「任せてほしい」
「まず、ルマには【土魔法】で炉を作ってくれないか? 強度は【火魔法】でも融解しないほど頑強にお願い」
「畏まりました」
ルマは精神を集中して【火魔法】では絶対に融解しないほどの炉をイメージすると【土魔法】を使った。
ミルバークの町の工房にある炉と同じものが目の前に現れた。
「はぁはぁはぁ・・・」
ルマがその場にしゃがみこむと息をしながら額に浮かんだ汗を拭っていた。
「ルマ、お疲れ。 少しの間休んでていいよ」
「いえ、大丈夫です」
「そうか? なら・・・」
シフトは【空間収納】を発動して鍛冶および錬金術に必要なアイテム一式、大量の鋼と銀のインゴット、1本の欅の丸太、大小様々な魔石を取り出すと空間を閉じた。
「この桶に水をお願いするよ」
「畏まりました」
ルマは【水魔法】で桶に溢れる寸前まで水を流した。
「お疲れ様、今は失った魔力を回復するのに専念して。 ユール、ルマをお願い」
「は、はい、畏まりました」
「任されましたわ」
シフトの労いの言葉にルマは笑顔で応えた。
「ローザはいつでも鍛冶ができるように準備をお願い」
「任せてくれ、ご主人様」
ローザはシフトが取り出したアイテム一式を所定の場所にセットし始めた。
「ベルはこの欅で武器の柄の作成をお願い」
「ご主人様、具体的にはどの武器の柄を作るの?」
「ナイフを6つ、剣、槍、斧、鎌を一通りお願い」
「わかった」
「あ、欅は非常に硬いからフェイはベルの加工の手伝いをお願い」
「まかせて! ご主人様!!」
ベルが指示するとフェイが【風魔法】を使って欅をそれぞれの武器の柄に合う大きさに切断していく。
それぞれが役割分担して武器作りを始めた。
シフトたちは無理をせずに1日1つのペースで装備品を作ることにした。
初日は試しに【火魔法】を付与した鋼のナイフを作成する。
出来上がったナイフを使ってみたが、普通に使う分には申し分ない。
そして刃にはめ込まれた魔石に直接魔力を流すと刃に火を纏わせたり火の玉を飛ばすことができた。
ルマたちも試しに使ってみたがお手軽に魔法が使えることにみんなびっくりしていた。
「こんな簡単に魔法が使えるんですか?!」
「この発想はなかった!!」
「これは驚いたな!!」
「組み合わせ次第では驚異的な武器になるね!!」
「これなら魔力さえあれば誰でも戦えますわ!!」
シフトと過去挑戦した鍛冶師や錬成師たちの違い・・・それは魔法の付与する方法である。
刃に魔法を付与しても柄からの魔力経路がなければ意味がない。
その逆も然り。
そして最大の間違いは魔力経路は柄から刃先へと一方通行でなければならないことだ。
循環型にしてしまうと一見問題なさそうに見えるが魔力の逃げ場がなく暴発するからだ。
例えば【火魔法】を付与した剣身に魔力を流すと刃全体どころか持ち手である柄まで火に包まれ持つことすらできないのである。
【風魔法】なら周りに暴風または烈風を放ち続ける。
【水魔法】と【土魔法】はその重量に持つことすらできない。
【光魔法】は光の乱反射と同時に視界を奪い、熱を放ち続ける。
【闇魔法】は周囲を闇に染めると同時に視界と熱を奪い、恐怖心を植え付ける。
こうなると壊れるまで待つしかない。
また、本来木材で作られる柄が魔法に耐えられないのも理由の1つだ。
剣身が重い分、柄は丈夫でなるべく固い木を選ぶのが鉄則だ。
なら柄まで金属にすれば解決するだろうが逆に重くて使い物にならない。
出土品の魔法武器は刃と柄に特殊な金属を使い魔力経路も柄から刃先へと一方通行にちゃんと繋がっているため、柄に魔力を流すと付与した魔法が発動するのだ。
今回シフトが考えた魔法武器の作り方だが、最初にローザは【鍛冶】で刃を作り、ベルはローザが作成した物の柄を作成した。
次に、ルマの【魔法師】による属性魔法とベルの【錬成術】で直径1センチの魔石に魔法効果を付与し、ローザには刃に魔石をはめ込める穴を空けさせた。
最後にローザが【武具錬成】で魔石のはめ込み穴から刃先までを一方通行にするように魔力経路を通して、魔石をはめ込んで完成した。
この武器の凄いところは魔石は取り外し可能で自由に魔石を交換できるところと魔力が続く限り魔法を使うことができるところだ。
ただ、弱点もある。
「普通に使う分には問題なさそうだな」
「? 普通? 何か問題でもあるのかい?」
「ああ、例えばこの【火魔法】を付与された魔石の威力が強すぎると剣身自体が耐えられないんだ」
「! 鋼が熱に耐えられる温度はおよそ1400度!! それを超えれば融解する!!!」
「そういうこと。 あまりにも高威力の魔法に武器自体が耐えられないんだ。 素材がミスリルあるいはオリハルコンなら問題ないだろうけど・・・でも今はこれで十分だよ」
本来なら【武具錬成】で刃に耐久力上昇を付与したかったがローザのスキルレベルが低いため1つしか付与できなかった。
翌日からベルとローザは鋼のナイフを5本、鋼の籠手、鋼の片手剣、鋼の槍、鋼の斧、鋼の鎌、鋼の弓、欅の杖を2本、鋼の胸当てを4枚の順に1日1つずつ作成する。
それとは別にベルはルマ、フェイ、ユールと連携して魔石に魔法効果を付与していく。
作成予定のすべての武器と防具が出来上がる頃にベルの【錬成術】とローザの【武具錬成】のスキルレベルが上がった。
これにより付与できる数が1→2へと増えた。
「むう、もっと早くに上がってほしかった」
「このタイミングで上がるのはねぇ・・・」
2人はもう少し早ければ付与できる効果をもう1つ付けられたと悔しがっていた。
「2人共落ち着いて。 まだ銀を使ってアクセサリーを作ってもらうからそちらに力を注いで」
「わかった」
「ま、仕方ないか」
「ご主人様、質問ですわ。 アクセサリーは何を作らせるのかしら? できれば可愛いのがいいですわ」
ユールがアクセサリーと聞いてどんなものを作らせるのか興味があるらしい。
「一応考えているのは指輪、腕輪、ネックレス、イヤリングあたりかな・・・付与する魔法は回復魔法、防御魔法、【火魔法】か【風魔法】あたりの耐性あるいは無効化のいずれかを付与できればと思っている」
「身を守るのに適していますわね・・・!」
ユールはここで何かに気づいてルマに声をかける。
「ルマさん、質問がありますわ」
「どうしたの? ユール」
「ルマさんの【魔法師】ですけど魔法は1系統しか発動できないんですか?」
「・・・やったことがないわね・・・」
「今ここで試してみてもらえませんか?」
「・・・やってみます」
ルマは【魔法師】で【火魔法】と【水魔法】を同時に発動させた。
そこには火の玉と水の球が1個ずつ浮かんでいた。
「これ結構難しいです」
「ルマ、凄い!!」
「ああ、魔法の同時発動なんて高位の魔法使いでもほぼ不可能な高等技術だ」
「ぼくも試しに【風魔法】と【闇魔法】で・・・って、無理! これ難しすぎる!! 両方のイメージを均等に浮かべるなんてぼくには無理だよ・・・orz」
「本当に難しいですわね。 わたくしも【治癒術】で試しましたが【生命力回復魔法】と【状態異常回復魔法】を片方ずつ使うよりもイメージ力を維持し続けるのが困難ですわ」
ルマは額に汗を浮かべて魔法を維持していた。
フェイとユールも魔法を同時に発動しようとするが一瞬しか発動できなかった。
シフトも大陸最大のダンジョン『デスホール』で行ったスキルの同時発動実験を思い出す。
【次元遮断】の多重発動、【次元干渉】を使いつつ【空間転移】で次元の壁を超えられるか、【次元干渉】と【念動力】で物質の動きがどうなるのかなど・・・
(1つ1つバラバラに発動させて維持するのは問題ないんだけど、同時に発動すると脳への負担が半端ないからな・・・)
そんなことを考えているとルマの魔法が突然解除された。
「はぁはぁはぁ・・・これは難しいです・・・」
ルマが疲れたのかその場に座って休み始めた。
「ご主人様、この魔石使ってもよろしいでしょうか?」
ユールがシフトに魔石の使用許可を求める。
「別にいいが・・・ああ、なるほど」
シフトはユールが何をしたいのかを理解した。
ルマの【魔法師】による異なる属性の魔法を同時に発動して、ベルの【錬成術】で魔石に付与した場合はどうなるのか?
考えられるパターンは3つ、
1.1つの付与に2つの魔法が同時インプットされて、空きができるのでもう1つ魔法を付与できる
2.1つの付与に1つずつ魔法がインプットされて、空きがなくなる
3.そもそもインプットできなくて失敗する
「・・・これはやってみないとわからないな・・・」
「ルマさんには悪いんですけど実験に付き合ってもらえれば・・・」
「そうだな・・・ルマ、ベル、そのままでいい、聞いてくれ」
シフトはルマとベルのほうを向いて声をかける。
「ご主人様、なんでしょうか?」
「今すぐではないがベルの【錬成術】で魔石に付与するときに、ルマが先ほど見せた魔法の同時発動をやってほしい」
「・・・! ああ、なるほど、畏まりました」
ルマもシフトの考えていることを瞬時に理解した。
シフトは魔石にどの魔法を付与するか考え始めた。




