389.ダンジョン攻略
「ご主人様! 無事で良かったです!!」
「ベルたちのご主人様は誰にも負けない」
「ご主人様、ついに宿願を果たしたんだな」
「さすごしゅ~♪」
「わたくしたちのご主人様ですもの、当然の結果ですわ」
ルマたちはシフトを見るなり抱き着いてきた。
「みんな、今まで本当にありがとう。 今度こそすべて終わったよ」
「ご主人様、油断してはいけませんわ。 ルースたちの魂を浄化しない限り安心できませんもの」
「ユールの言う通りです。 リーゼたちの亡骸を粉砕して魂をこの世から完全消滅するまでは気を抜かないほうがよろしいかと」
「たしかに・・・油断してまたアーガスたちが襲ってくるとは限らない」
「とりあえずヴォーガスたちのところに行こうか」
「ベルもいい加減ギャンザーとの縁を切りたい」
「わ、わかったわかった・・・みんなでライサンダーたちのところに行こう」
シフトはルマたちを連れてライサンダーたちのところに向かった。
そこにはスクラップになったライサンダーたちの成れの果てがそこにある。
ベルは【鑑定】で、ルマたちは[鑑定石]でライサンダーたちを鑑定したり周りに魂がないか確認する。
「どうやら本当に消滅したみたいだね」
「うん」
「これで一件落着だな」
「ユール、念のためここら辺一帯を【光魔法】の浄化で清めてくれない?」
「任されましたわ」
ルマの言葉にユールは頷くと【光魔法】を発動してこの階層を浄化する。
光の力が全体に行き渡り、清められていく。
やがて浄化の光は階層全体を清めると光は消失した。
「ユール、すごい」
「まさかフロア全体を浄化するなんてね」
「これもご主人様の特訓のおかげですわ」
ユールとしても地下50階で限界まで上がった力が、ここまでの威力があるとは想像していなかったようだ。
「ご主人様、リーゼたちの亡骸はどうするのですか?」
「・・・ここに放置かな。 身体は粉砕しているし魂は浄化されている。 問題はないだろう」
「たしかにここまで徹底的にやれば復活はありえないでしょうが、念には念を押しておきましょう。 ご主人様、これらを空中に浮かせてください」
「わかった」
シフトは【念動力】を発動するとスクラップになったライサンダーたちと黒い球すべてを浮かせる。
ルマは【氷魔法】を発動して空中に浮いている物すべてを氷の中に閉じ込めた。
この氷自体が絶対零度に近い温度を保っている。
さらに【金属魔法】を発動して氷を覆い隠すようなオリハルコンでできた金属の箱に入れて閉じ込めた。
それも二重三重にオリハルコンの箱に入れておくことで絶対に外に出さないように封じ込める。
こうしてスクラップになったライサンダーたちと黒い球は蓋がない完全密閉のオリハルコンの箱に永久封印された。
「これくらいでいいかしら?」
ルマの言葉にベルたちは首を縦に振る。
「さて、それであれはどうするんだい、ご主人様?」
ローザが下り階段を指さす。
「せっかく来たんだ。 最後に何があるのか見に行きたい。 ルマたちもそれでいいかな?」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
シフトはルマたちを連れて下り階段を下りていく。
地下100階───
そこは今までの階層と違い、10×10メートルほどのこぢんまりとした空間だった。
中央に台座があり、その上には大きな水晶玉が置かれている。
シフトたちが中央に歩いていくと世界が急にセピア色に染まった。
シフトは驚愕して何事かと周りを見るとルマたちがその場で停止している。
「これは?! デューゼレルで起きた[神禎石]の時と同じ現象!!」
シフトが驚いているとどこからともなく声が聞こえてきた。
『よくここまで辿り着きました。 人の子よ』
シフトは水晶玉を見ると神々しく輝いている。
「あなたは神なのか?」
『是。 我はこの地を創造した神の1柱なり』
シフトは疑問をぶつけた。
「それで神であるあなたが僕に何の用ですか?」
『汝を新たな神として迎えにきた』
神の言葉にシフトは驚く。
「僕が神に? それじゃ、ルマたちも一緒なのか?」
『否。 新たな神になる資格を得たのは汝のみ』
シフトはその答えを聞いて新たな疑問が生まれる。
「仮に神なったとして、僕が神になったらルマたちはどうなるんだ?」
『汝と過ごした記憶は消滅し、代わりに汝を崇めた時間が植えつけられるであろう』
その答えにシフトは神に反発する。
「僕とルマたちの日々をなかったことにするだと? ふざけるな! 僕にとってかけがえのない時間を奪われてたまるものか!!」
『それを決めるのは我ではない。 汝だ』
「それなら答えは既に出ている! 僕は神になどならない! これが答えだ!!」
『了。 汝の意思を認める』
シフトは神なる道を蹴りルマたちと一緒に生きる道を選んだ。
『最後に汝の願いを1つだけ叶えよう』
「ルマたちと一緒に幸せに暮らすことだ。 もうライサンダーたちや過去の因縁に邪魔されたくはない」
『了。 その願いを叶えよう』
水晶玉が光を放ちシフトやルマたちに神々しい光が降り注ぐ。
『いずれ願いが叶うことを実感するであろう。 人の子よ、さらばだ』
神との会話を打ち切るとセピア色が段々と色鮮やかな世界に戻る。
まるで停止した時間が動き出したように。
「ご主人様?」
「どうしたの?」
「何かあったのかい?」
「ぼくのことを考えていたとか?」
「大丈夫ですか?」
「ん? なんでもないよ」
シフトたちは水晶玉のあるほうへと歩く。
近くまで来ると水晶玉が青く明滅して声が聞こえてきた。
『よくぞ、辿り着きました。 あなたがたはこの地の走破者です』
「これは・・・ダンジョンコアじゃないか?」
「え? ってことは、ぼくたち大陸最大のダンジョンって言われたこの『デスホール』をクリアしたってこと?」
「やった」
「わたくしたちが一番最初なんて嬉しいですわ」
「そうね。 ここまで頑張った甲斐があります」
蜘蛛ロボットであるレザクを止めるために入った『デスホール』だが、ライサンダーたちを倒しダンジョンをクリアすることになるとは夢にも思わなかった。
『喜んでいるところ申し訳ございませんが、これより1分後にダンジョンは崩壊します』
「「「「「「?!?!?!?!?!?!?!」」」」」」
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
突然の崩壊宣言とともに地揺れが発生し、シフトたちはパニックを起こす。
「ど、ど、ど、どうしよう?!」
「脱出する」
「1分でダンジョンを脱出するとか無理だろ」
「そんなぁ・・・」
「ご、ご主人様・・・」
「できなくはないけど・・・」
シフトたちがどうしようかと話していると声が聞こえてくる。
『水晶玉に手を触れてください。 ダンジョンの入り口へと転送します』
「みんな! 聞こえたか? 水晶玉に手を触れろ!!」
シフトたちは声の言う通り水晶玉に触れる。
『この部屋にいる走破者たち全員が水晶玉に手を触れたことを確認しました。 これよりダンジョンの入り口へ転送いたします』
シフトたちの身体が一瞬にして部屋から消えていなくなる。
そして、水晶玉の宣言通りに大陸最大のダンジョン『デスホール』が崩壊するのであった。
景色が変わりシフトたちは慌てて周りを見る。
そこは水晶玉の言う通り大陸最大のダンジョン『デスホール』の入口だ。
「ここは地上?! みんな! 無事か?!」
「私はここにいます」
「ベルも」
「わたしもいるぞ」
「ぼくはここだよ」
「わたくしはここですわ」
シフトの声にルマたちが全員応えた。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
安心した途端に大きな地鳴りが辺り一帯を響き渡る。
『デスホール』の入口を見ると崩落し、地中に埋まっていく。
それから3時間が経った頃、『デスホール』があった場所は何もない土地へと変貌を遂げた。
「「「「「「・・・」」」」」」
あまりのことにシフトたちは呆気にとられていた。
そこに何かが迫っているのをシフトとフェイが察知する。
上空を見上げると東西からドラゴンが1匹ずつ現れた。
よく見るとエルドとプラルタだ。
そのエルドとプラルタはシフトたちの目の前の土地に降り立つ。
『シフト殿、こんなところで何をしているのだ?』
『シフトさん、どうしてここにいるんですか?』
「エルドさんにプラルタさん? なぜここにいるのですか?」
エルドとプラルタが不思議に思っているに、シフトもまた不思議に感じていた。
「それはこちらの科白だ」
「シフト君、一体ここで何があったんだい?」
エルドの背中からギルバートとサリアが、プラルタの背中からグラントとその影たちが現れた。
「グラントにギルドマスターまで・・・」
「王国から東のほうで大規模な地響きが発生してな。 胸騒ぎがしてプラルタ殿にお願いして連れてきてもらったのだ」
「国王陛下と同じ理由だよ。 もっとも僕のほうはミルバークから西のほうで地響きが発生してこちらのドラゴンにお願いしてここに来てもらったんだけどね」
「それでシフト様はここで何をしているのですか? ここはたしか大陸最大のダンジョンである『デスホール』があった場所ではないでしょうか?」
サリアが正確にここが『デスホール』の場所であることを言い当てる。
「あー、それなんですけど・・・結論からいうとここは先ほどまで『デスホール』でした。 ダンジョンを攻略したことで『デスホール』自体が崩壊しました」
「なんと! 『デスホール』を攻略したのか!!」
「僕ですら行きたくない場所トップ3に入る場所をシフト君たちは攻略したのか!」
「それでその首にぶら下がっているクリスタルが『デスホール』を攻略した証ですね」
サリアの指摘にシフトたちは胸元を見る。
そこには『デスホール』を攻略の証であるクリスタルがあった。
「わ! いつの間に持ってたんだ」
シフトたちは今更ながらにそれに気付く。
クリスタルを見るとダンジョン名と『ダンジョン攻略 おめでとう』と彫られていた。
「今頃気付いたのかい?」
「何しろ『デスホール』の地下100階に辿り着いたら、1分後にダンジョンは崩壊するっていわれたんですよ? 命がかかっているときにこんなの持っていたなんて気付くわけないでしょ?」
「「「地下100階?!」」」
シフトの爆弾発言にギルバート、サリア、グラント、それに影たちはあまりの出来事に絶句する。
「シフト君、本当に・・・本当に『デスホール』の地下100階まで辿り着いたのかい?」
「ええ、まぁ辿り着きました」
胸元のクリスタルが攻略の証である何よりの証拠だろう。
「うむ、その話是非とも聞きたいな」
「陛下、ここではいつ魔物が襲ってくるかわかりません。 話を聞くにしても場所を変えるべきではないでしょうか?」
「そうだな。 では、王城で話を聞こうか。 ギルバート、サリア嬢も一緒にどうだ?」
「緊急事態でここに来たのですから1日2日帰るのが遅くなっても問題ないでしょう」
「そうですわ。 どちらかというとシフト様たちの行動そのものがもっとも緊急性が高いものですわ」
「決まりだな。 王都に戻るとしよう」
シフトたちの意見も聞かずに話が纏まり王都に向かうことになった。
「ご主人様、よろしいのですか?」
「どちらにしろこのことは報告はするつもりだったんだから別に構わないよ。 僕たちも行こうか」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
話し合った結果、シフトたちとギルバートとサリアはプラルタの背中に、グラントとその影たちはエルドの背中に乗って王都スターリインに移動することになった。