383.大陸最大のダンジョン『デスホール』 下層 〔無双劇76〕
ダンジョン5日目───
シフトたちは地下31階に到達した。
降りて早々出迎えたのはゴブリンキングと上位種であるゴブリンジェネラル、ゴブリンプリースト、ゴブリンウィザード、ゴブリンアーティラリー。
その数50以上。
皆目をギラギラさせて武器をシフトたちに向けていた。
「「「「「「・・・」」」」」」
「ギエエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーッ!!!!!!!」
ゴブリンキングが合図を出すとゴブリンジェネラルたちが一斉に襲い掛かってきた。
「ちょっ?! 冗談じゃないよ!!」
シフトたちは慌てて龍鱗の武器を構えるとすぐに交戦を始める。
あまりにも突然のことでシフトは【五感操作】を使う暇がなかった。
だが、それでもシフトたちは地力の強さで押し返す。
ルマたちにとってはかつて格上であるゴブリンジェネラルたちも今では脅威とはならないほどに強くなった。
シフトたちは連携してゴブリンジェネラルたちを次々と倒していく。
あれほどの数を相手にシフトたちは圧倒した。
ゴブリンジェネラルたちを一掃するとシフトたちはゴブリンキングと相対する。
「ご主人様、ここは私たちに任せてもらえませんか?」
「ルマ?」
ルマの言葉に足並みを揃えるようにベルたちが前に出る。
「かつての私たちは弱かった。 だけど、今は違います。 私たちは戦うための力を手に入れた。 それを証明したいのです」
「あの時とは違う」
「ああ、ただ恐怖に震えていた時のわたしたちではない」
「強くなったぼくたちを見せてあげる」
「余裕で勝ってみせますわ」
ルマたちは最初にゴブリンキングを見た時のことを思い出しているのだろう。
あの時は恐怖で震えていたが、成長して強くなった自分たちをシフトに見せたいのだ。
「わかった。 無理はするなよ」
「「「「「はい! ご主人様!!」」」」」
ゴブリンキングがルマたちを襲う。
キイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
繰り出される大剣からの一撃をローザは龍鱗の剣で余裕で受け止める。
「かつてのわたしなら今の一撃で吹っ飛ばされていたな」
そこに横からベルとフェイが龍鱗のナイフでゴブリンキングの両脇を攻撃する。
斬撃はゴブリンキングの強靭な皮膚を斬り裂いた。
「攻撃を通す」
「圧倒的な肉体強度でも今のぼくたちには通用しないよ」
さらにルマが【氷魔法】の氷弾で、ユールが【光魔法】の光の矢で追撃する。
着弾するとゴブリンキングは2歩3歩と後退る。
「あの時の情けない私はもういない」
「今のわたくしたちは守られるほど弱くはありませんわ」
現に5対1でルマたちがゴブリンキングに圧倒している。
否、1対1でも互角以上に戦えるほどルマたちが成長したのだ。
ルマ、ユールなら距離をとってから魔法の乱れ撃ちで相手を倒すだろう。
ベル、ローザ、フェイなら接近戦で攻撃を捌いたり回避したりしてから反撃で仕留めるだろう。
「悪いな。 今ここでお前を超える!!」
ローザが【武器術】でゴブリンキングの剣を弾くとそのまま強靭な肉体を龍鱗の剣で斬っていく。
袈裟斬り、右薙、左切り上げと斬りつける。
「止めだ!!」
最後は喉元を突いた。
ゴブリンキングは手に持っていた剣を落とすと痙攣する。
ローザは剣を引き抜くとその場から離れた。
しばらくしてゴブリンキングは前のめりに倒れてそのまま消える。
あとに残されたのはゴブリンキングの魔石だけだ。
「終わったな」
「あああああぁーーーーーっ!! ローザちゃん、ずるい! 止めはぼくが刺したかったのに!!」
「ベルが倒したかった」
「最後の1撃は私に譲ってもよかったじゃないですか!」
「わたくしにも倒す権限はあるはずですわ」
「あははははは・・・ごめんごめん・・・身体がつい動いてしまってな」
ローザは苦笑しながらもルマたちに謝った。
「みんな、よく頑張ったな。 しっかりと成長した姿を見せてもらったよ」
シフトの言葉にルマたちは照れている。
かつてのトラウマともとれる相手・・・ゴブリンキングを克服したルマたち。
今なら胸を張ってシフトの隣に並んで歩いていけるだろう。
ダンジョン9日目───
シフトたちは現在地下49階を彷徨っている。
ここまでの階に来るまでにゴブリン、オーク、オーガを始めとしたキングの名を冠する魔物や魔獣たちが己の配下である上位種を引き連れてシフトたちを襲ってきた。
その度にシフトたちは返り討ちにしていく。
また、地下31階より下は罠もこれまで以上に多い。
特に落とし穴+刃物系やガス系の即死トラップが危険すぎる。
フェイが【斥候】で確認してくれることで落とし穴は回避できるが、ガス系は真面目に危険だ。
毒ガスや麻痺ガスならともかく石化ガスは洒落にならない。
1度地下42階で石化ガスの罠に嵌ったときなんかはシフトは身体の一部を、ルマたちは全員石化したので急いで状態異常を回復するポーションで治した。
これによりシフトは石化耐性(弱)から石化耐性(中)へ、ルマたちも新たに石化耐性(弱)を手に入れる。
敵にコカトリスなどの石化攻撃を使ってくる魔物や魔獣たちがいるので、耐性が手に入ったり強化されるのは嬉しいのだが、できれば喰らいたくない。
これで終わりならよかったが、フェイがシフトに提案する。
「ねぇねぇ、ご主人様」
「フェイ、どうした?」
「ここで各種耐性を上げてかない? 今でも色々な特殊攻撃をしてくる敵が多いから耐性はあったほうがこの先少しは楽になるかも知れないよ?」
「わざわざ好き好んで罠を発動するバカがどこにいるんだ?」
「いいからいいから~♪」
フェイの思い付きによりルマたちは毒耐性(強)と麻痺耐性(強)を、さらにシフトを含めた全員が石化耐性(強)を獲得した。
結果としては特殊攻撃に強くなったことはありがたいことであるが・・・
紆余曲折はあったが今の階層までシフトたちは辿り着いた。
シフトたちが通路を歩いていると突然足元に巨大な魔法陣が展開される。
「なっ?!」
さすがのフェイでも完璧に隠蔽された魔法陣には気づかなかったようでシフトたちは転移させられた。
転移した先・・・それはモンスターハウスだ! 周りには大量の魔物と魔獣たちが一斉にシフトたちを見る。
「囲まれたっ?!」
「この数はさすがにまずいな・・・」
「こうなったらやるしかない」
「覚悟を決めるしかないようですわね・・・」
「ご主人様、どうしますか?」
「ベル、ローザ、フェイ! ルマとユールを中心に円陣を組んで守るぞ! ルマとユールは魔法や銃などの遠距離武器で攻撃しろ!!」
「「「「「畏まりました、ご主人様!!」」」」」
シフトたちはすぐにルマとユールを中心に円陣を組む。
それと同時に魔物と魔獣たちが一斉に襲い掛かってきた。
シフトは【五感操作】を発動して正面にいる魔物や魔獣たちの触覚を剥奪する。
ルマは【溶岩魔法】を発動してシフトとは反対のほうに巨大な溶岩溜まりを魔物や魔獣たちの中心に作った。
ユールは【光魔法】を発動して光の矢を大量に作ると魔物や魔獣たちに放つ。
フェイは【風魔法】を発動して風の刃を放って魔物や魔獣たちを牽制する。
ローザも普段使わない【火魔法】を発動して火球を作ると魔物や魔獣たちを牽制した。
ベルは腰から二丁拳銃を抜くと手当たり次第に発砲して魔物や魔獣たちに当てていく。
これによりシフトたちに近づく魔物や魔獣たちが減少する。
だが、魔物や魔獣たちは相手が格上だろうと気にせず特攻してきた。
「くるぞ!!」
襲ってきた魔物や魔獣たちの攻撃をシフトたちは受け止めたり躱したりして防御する。
その隙をついてベル、ローザ、フェイ、ユールは反撃した。
それとは別にシフトは【五感操作】で魔物や魔獣たちの触覚を剥奪し、ルマは【氷魔法】で魔物や魔獣たちの足元を氷漬けにして自由を奪う。
攻め手が減らせば減らすほどシフトたちが有利になるからだ。
現に動きを封じた魔物や魔獣たちが邪魔で迂回してくる者が多数いる。
まどろこしいと押し退けて襲ってくる者もいるが、シフトとルマはさらに自由を奪って拘束した。
攻め込ませる場所を限定したことで、圧倒的有利であった魔物や魔獣たちもシフトたちの刃にかかり数を減らしていく。
このままシフトたちの圧勝で終わるかに見えたが、後方に控えていたキングの名を冠する魔物たちが痺れを切らせて襲い掛かってきた。
「みんな! 気をつけろ! キングたちが動き出したぞ!!」
シフトの言葉にルマたちも気を引き締める。
キングたちは役立たずな魔物や魔獣たちを吹っ飛ばしてシフトたちに突進した。
「強気なところ悪いが動きを封じさせてもらうぞ」
シフトとルマは動きを封じることに徹する。
隙をついて襲ってきたキングたちをベル、ローザ、フェイ、ユールがそれぞれ迎え撃つ。
「遊んでる暇はない」
「さっさと終わらそう」
「ぼくに勝てると思わないことだね」
「負けませんわよ」
ベルたちはそれぞれ自分が得意な攻撃でキングたちを攻撃する。
ベルはナイフ二刀流で、ローザは剣で、フェイは暗殺術で、ユールは【光魔法】でキングたちを次々葬っていく。
そこにシフトのナイフによる攻撃とルマの【風魔法】による風の刃も加わることで、キングたちの数を減らす。
それから1時間が経つとシフトたちの周りには大量の魔物や魔獣たちの死骸と魔石やポーションなどの戦利品がゴロゴロ転がっていた。
「なんとか倒したな」
「ご主人様、やりましたね」
「勝った」
「よく耐えたものだ」
「さすがに疲れたよ」
「無事で何よりですわ」
シフトたちは戦利品を回収すると部屋を探索した。
どうやら下り階段はないらしい。
部屋を出て少し歩いたところに下り階段が見つかった。
「よし、ここで休んでから下りよう」
「「「「「はい、ご主人様!!」」」」」
シフトたちは休息をとったのちに下り階段を下りるのであった。