380.緊張する夜 〔無双劇73〕
魔動車で飛んでいくこと2時間、大陸最大のダンジョンである『デスホール』近くの草原に降り立つ。
シフトは【空間収納】を発動して魔動車をしまうと閉じる。
「さてと、それじゃ『デスホール』に向けて行くよ」
「「「「「はい、ご主人様!!」」」」」
シフトたちは『デスホール』に向けて歩き出した。
険しい道のりを進むこと2時間後、1つの村だったところに到着する。
村の中では多くの人々が苦悶の表情をし、地面に倒れ血を流して死んでいた。
「酷い・・・」
「予想外な展開」
「一体何があったんだ?」
「みんな死んでる」
「なんとも遣る瀬無い気持ちですわ」
ルマたちも沈痛な面持ちで村人たちを見ていた。
「このままではさすがに可哀想だな。 せめて供養だけでもしておくか」
シフトたちは村の隅に村人や冒険者たちの遺体を集めて土葬した。
「これでよし。 では、行こうか」
供養も終わり『デスホール』に向けて村から出ようと歩き出したとき、行く手を遮るように全身金属でできた蜘蛛が現れた。
「また、この蜘蛛か・・・」
前方から出てきた蜘蛛ロボットを合図に側面や後方からも続々と現れて退路を塞ぐ。
「囲まれたか・・・」
冷静に分析するシフト。
「この蜘蛛たちがこの村を・・・!!」
「許せない!!」
「叩き潰す!!」
「徹底的に破壊してやるよ!!」
「覚悟しなさい!!」
ルマたちは蜘蛛ロボットたちに激高していた。
「みんな、落ち着いて。 それじゃ勝てるものも勝てなくなるよ」
「ご主人様・・・わかりました」
シフトの言葉にルマたちは冷静になる。
「僕、ベル、ローザ、フェイは前衛を、ルマとユールは後衛で支援をお願い」
「「「「「畏まりました、ご主人様!!」」」」」
「行動開始!!」
シフト、ベル、ローザ、フェイはそれぞれ龍鱗の武器を抜くと四方に分かれて蜘蛛ロボットたちに向けて突進する。
1度対峙していることもあり、シフトは蜘蛛ロボットが本来の力を出す前に一気に近づいて龍鱗のナイフで首を刎ねたあとに頭を破壊した。
近くにいた蜘蛛ロボットがシフトを脅威だと認識すると襲い掛かってくる。
蜘蛛ロボットたちが光弾を発射する前に、シフトは全速力で近づいては首を刎ねたり頭を破壊した。
シフトが減らしている中、ベル、ローザ、フェイも以前シフトと蜘蛛ロボットとの戦闘を参考に攻撃する。
ベルは【鑑定】で弱点を狙った攻撃を、ローザは【武器術】による装甲を貫く攻撃で、フェイは【武闘術】と【暗殺術】を駆使した攻撃で蜘蛛ロボットたちを1匹1匹確実に倒していく。
ルマは【氷魔法】で蜘蛛ロボットたちの足元を凍らせて足止めし、そこに【爆裂魔法】で頭の付近を爆発して吹っ飛ばす。
ユールはルマが足止めした蜘蛛ロボットたちに対して【光魔法】で光の矢を放つと頭に命中して動きを止める。
ある程度倒すとダンジョンのほうから蜘蛛ロボットが援軍でやってきた。
「まだ、出てくるか!」
シフトは倒れている蜘蛛ロボットの足を斬り落とすと【念動力】を発動して斬り落とした足を攻めてきた蜘蛛ロボットたちにぶつけた。
ガキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!! ガキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!! ガキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!! ・・・
ぶつけた足は見事に蜘蛛ロボットたちのボディを貫いていく。
蜘蛛ロボットたちはその場で崩れ倒れる。
シフトはそこから目を離さない。
なぜなら前回はそれで不意を突いて光弾が飛んできたからだ。
足元から手頃なオリハルコンの塊を手に取ると、倒れている蜘蛛ロボットたちに向けて【念動力】で飛ばした。
頭にぶつけるとポキリと折れる。
シフトは【念動力】で次々とオリハルコンの塊を蜘蛛ロボットたちに投げて頭にぶつけていった。
蜘蛛ロボットたちの頭が破壊されたり吹っ飛んだりしていく。
襲われて1時間が経つ頃には蜘蛛ロボットたちは全滅した。
「みんな、無事か?」
「大丈夫です」
「平気」
「余裕だな」
「無問題」
「怪我はないですわ」
ルマたちは無事であることをアピールする。
「蜘蛛の残骸を回収するからみんな持ってきて」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
ルマたちは蜘蛛ロボットたちの残骸を次々と持ってくる。
シフトは蜘蛛ロボットたちの基節部分を斬り落としていく。
すべての残骸を持ってきてボディから足を斬り落とす。
「蜘蛛ロボットの足は武器として重宝したのでルマたちにも持たせるとして、頭とボディは僕の空間に収納することで問題ないかな?」
「私は【金属魔法】があるのでどちらでも構いません。 いざとなればオリハルコンを生成できますので」
「これだと扱うのは難しいからナイフくらいの大きさにしてほしいかな」
「ベルもフェイと同じがいい」
「わたくしもベルさんやフェイさんと同じ使い捨てナイフみたいに使える大きさがいいですわ」
「わたしの場合は槍の代わりになるからこのままでも問題ないかな」
ローザに足の原型を2本、ナイフの大きさにカットしたのを各人10本ずつ、残りのオリハルコン全部をシフトの【空間収納】にしまう。
「これでよし。 みんな、出発するよ」
「「「「「はい、ご主人様!!」」」」」
シフトたちは滅びた村を後にする。
太陽が西の地平線に触れる頃、シフトたちはようやく『デスホール』の入り口付近に辿り着いた。
「着いた。 あそこに見えるのが『デスホール』の入り口だ」
「あれが『デスホール』ですか・・・」
「ダンジョン」
「中から夥しい数の気配を感じるな」
「今までと違うね」
「緊張しますわ」
ルマたちも大陸最大のダンジョンである『デスホール』を前に少し怯んでいる。
シフトは【次元遮断】で半径10メートル以内を外界から隔離した。
これで魔物や魔獣に襲われることはないだろう。
「さて、今日はもう日が暮れるのでここで野宿して明日突入する。 みんな、野営の準備だ。 ベル、料理を頼む」
「任された」
「「「「はい、ご主人様!!」」」」
シフトの号令でルマたちは動き出す。
ベルはシフトから受け取った食材を慣れた手つきで捌いていく。
それを鍋に入れ軽く火を入れてから水を入れて調味料で味付けする。
できあがったのはごった煮だ。
それにパンと果物を加えたのが今日の食事である。
「「「「「「いただきます」」」」」」
シフトたちがごった煮を口にすると皆目を大きく開く。
「「「「「美味しい!!」」」」」
「うん」
ベルの【料理】が最大まで上がっているだけあり、今までよりもさらに美味な料理へと昇華している。
「ベルの【料理】レベルが最大になってから初めて食べたけど、こんなにも美味い物が食べられるとは思わなかったよ」
「本当ですね」
「ベルがいてくれてこれほど嬉しいことはないよ」
「ベルちゃん、ぼくのお嫁さんになって!」
「フェイさん、そんなことを言わなくてもわたくしたちはもう一心同体な関係ですわよ」
「ユールの言う通り。 ベルたちはいつも一緒」
ベルは照れたようにいうとごった煮を口にする。
シフトたちはベルの料理を堪能したあとそれぞれのんびりと時間を過ごす。
明日からは『デスホール』に突入して緊張した時間が続くはずだ。
今この時間だけでもリラックスして緊張を解しておく必要がある。
シフトが何気に『デスホール』の入り口を見ているとルマが声をかけてきた。
「ご主人様・・・緊張してますか?」
「ルマ・・・ちょっとね」
主人であるシフトが緊張していると聞いてルマは少し驚いていた。
「ご主人様でも緊張することはあるのですね」
「1度ライサンダーたちに殺されそうになるし、ダーク・ウルフやダーク・ベアーにも何度殺されそうになったことか・・・」
「そ、そうですか・・・」
シフトは言葉にするとあの時の記憶がまざまざと蘇ってくる。
もし、スキルが覚醒しなかったら今生きてはいないだろう。
ルマが心配そうにシフトを見る。
「心配しなくてもいいよ。 僕はもう無力ではないんだから」
そういうとルマの頭を撫でる。
「あ、ご主人様♡」
ルマが嬉しそうに目を細める。
「ルマ、ずるい」
「そうだぞ」
「1人締めはよくないよね」
「わたくしたちにもしてほしいですわ」
それを見たベルたちが抗議した。
「あははははは・・・みんな、順番に撫でてあげるから」
シフトはそのあと、ベル、ローザ、フェイ、ユールの順番に頭を撫でていった。
「みんな、今日はゆっくり休んで明日に備えてくれ」
「「「「「はい、ご主人様!!」」」」」
ルマたちは命令通り無駄に夜更かしせずに眠りにつくことにした。
シフトは改めて『デスホール』の入り口を見る。
(いよいよ明日か・・・)
シフトも無理せずに眠りにつくのであった。
翌日───
ベルが用意した食事を食べたあとシフトたちは入念に準備する。
「みんな、準備はいいか?」
「「「「「はい、ご主人様!!」」」」」
「それじゃ、ダンジョンに入るぞ」
シフトは結界を解くと大陸最大のダンジョンである『デスホール』にルマたちを引き連れて入っていった。