374.破壊兵器の襲撃 大陸外戦(翼人・亜人種・巨人)
ガイアール王国がある大陸で蜘蛛ロボットが次々と撃破されている頃、大陸から離れた場所でも蜘蛛ロボットが現れた。
翼人の国───
イーウィムは翼人の国の中央にあるイーウィム父の館に戻ってきた。
館の執務室ではイーウィム父が上層部連中を纏めて国の法案などを考えている。
「父上、ただいま戻りました」
「イーウィム、無事に帰ってきたか。 4ヵ月以上も戻ってこなかったので少し心配したぞ」
「申し訳ございません。 初参加の国際会議終了後に『この手に自由を』と一悶着あり、そのあと獣人族の国である獣王国へ護衛として向かっておりましたので・・・」
「そうか、なんにせよ無事ならそれでいい」
イーウィム父も人の親、厳しく育てたとはいえ一人娘を心配してしまうのだ。
それからイーウィムは4ヵ月の出来事をイーウィム父に話した。
「なるほど・・・ご苦労だったな」
「私は明日城に向かい今の内容を王に報告する予定です」
「そうだな、今日はゆっくり休んで・・・」
そこで扉が急に開いた。
「旦那様、緊急事態です! 西の方角から怪しい物体がこちらに飛んできています!」
「なんだと? それは本当か?」
「イーウィムお嬢様! はい。 たった今城に入った情報です」
「父上、私が西に飛んで見て参ります」
「長旅で疲れているところ悪いな」
「大丈夫です。 それでは行ってきます」
イーウィムは館を出ると一路西へと飛んでいく。
その移動速度は以前の時速200キロの限界を大幅に超えて倍の400キロは軽く出ている。
なぜ早くなったかといえば、シフトがイーウィムの潜在能力を引き出したことで、ルマたち同様に【風魔法】が人類の壁であるレベル5:究極を超えたことによりレベル6:超越へと昇華していたからだ。
イーウィムの【風魔法】は威力が桁違いに上がっている。
その証拠に【風魔法】を発動して風の壁を展開するのと同時に自身の敏捷性も上げたことにより今までの飛行速度を遥かに凌駕したのだ。
3時間後、西の入り口に辿り着いたイーウィムは状況を確認する。
入り口から少し離れた上空ではイーウィムの部下である西の警備部隊と全身金属でできた蜘蛛が戦っていた。
否、警備部隊は足止めするのが精一杯だ。
「何だあれは? 蜘蛛が宙に浮いている? それに私の部下たちが押されているだと?」
イーウィムはシフトからもらった龍鱗の剣を鞘から抜くと蜘蛛ロボットに向けて突進する。
「はぁっ!!」
警備部隊に気を取られている隙をついて上から攻撃するも、蜘蛛ロボットは【空間魔法】でその場から転移した。
「!!」
イーウィムは素早く周りを見ると上空に蜘蛛ロボットを発見する。
「イーウィム将軍閣下!」
「助かりました」
「油断するな。 お前たちは西の入り口に戻り警備を固めろ」
「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」
警備部隊はすぐに西の入口へと戻っていく。
イーウィムは剣を構えると蜘蛛ロボットへ突進した。
危険と判断したのか蜘蛛ロボットは転移して逃げる。
「ちょこまかと」
イーウィムは【風魔法】を発動して広範囲に気流を作る。
そして、再度蜘蛛ロボットへ突進した。
案の定、蜘蛛ロボットは転移して逃げる。
気流の流れを検知したイーウィムが【風魔法】で風の刃で形成された竜巻を発生させて蜘蛛ロボットが出現した場所にぶつけた。
さすがの蜘蛛ロボットも連続転移はできず、竜巻に飲み込まれ風の刃により身体をずたずたに切り刻んでいく。
あまりの威力にイーウィム自身も驚いていた。
頭を砕かれ身体もバラバラになった蜘蛛ロボットの金属ボディは次々と海に落ちていく。
イーウィムが魔法を解くとそこには何も残っていなかった。
亜人種族がいる大陸───
シフトたちにより死の大地だった場所は今では見事に緑豊かな大地へと変貌を遂げていた。
痩せ細ってみるも無残だった木々は今では立派な大木に生まれ変わって熟した果実が実り、干乾びた窪地だった場所は栄養豊富な水が湧いている。
かつては食に飢えていたゴブリン、オーク、オーガ、トロールなどの亜人種族たちも今ではたくさん余るほどの食料に嬉しい悲鳴を上げていた。
そんな平和になった大陸に全身金属でできた蜘蛛がやってくる。
宴を開いていた亜人種族たちのちょうどど真ん中に蜘蛛ロボットが降り立った。
「ム? アレハナンダ?」
「キラキラシタクモ?」
「メズラシイナ」
亜人種族たちは蜘蛛ロボットを珍しそうに見ていると突然攻撃を仕掛けてきた。
「アブナイ!」
「ナニヲスル!」
「オンナコドモヲニガセ!」
突然のことに驚いたのか亜人種族たちは蜘蛛ロボットから女子供を逃がす。
蜘蛛ロボットはその場にいる者たちを殺そうと暴れ始めたが、その攻撃が有ろう事か立派に成長した木を切ってしまった。
ドサッ!!
せっかく成長した木を切られ亜人種族たちはキレた。
「ナニスンダコラ!」
「フザケンジャネエゾ!」
「ブッコロシテヤル!」
亜人種族たちの猛攻が蜘蛛ロボットを襲う。
正面をトロールキングが、右側面をオークキングが、左側面をゴブリンキングが、背面をオーガキングが、ほかにも各亜人種族の王や実力者たちが次々と攻撃に参加する。
「コノヤロウ!」
「コレデモクラエ!」
「シネヤコラ!」
トロールキングは蜘蛛ロボットの1000本の足による攻撃を真面に食らうも、その再生能力で受けた場所から傷を治していく。
その隙に側面にいる亜人種族たちが蜘蛛ロボットの基節、転節、膝節を攻撃する。
度重なる攻撃を受けて基節、転節、膝節を破壊すると蜘蛛ロボットはバランスを崩して倒れた。
地べたに這い蹲った蜘蛛ロボットはさらに追い打ちを食らう。
背面にのっているオーガキングは力任せに頭を何度も攻撃する。
それからキャメルクラッチで頭を思い切り仰け反らせた。
蜘蛛ロボットは逃れようとジタバタするががっちりホールドされているので逃げられない。
そして、ついに蜘蛛ロボットの頭と身体が泣き別れになった。
動かなくなったことを確認すると亜人種族たちは吠える。
「カッタゾ!!」
「「「「「「「「「「オオーッ!!」」」」」」」」」」
こうして亜人種族がいる大陸に再び平和が訪れた。
巨人たちの島───
「ぅぅぅ・・・んん・・・ぅん?」
ある家で女の子が目が覚ます。
「んん・・・もう朝?」
上体を起こすと伸びをする。
頭が覚醒すると周りを見た。
家には誰もいない。
「ぶぅ・・・」
女の子は途端に不機嫌になる。
父親も母親も兄も誰も起こしてくれなかった。
とりあえず女の子が起きる。
家を出るとそこに母親がいた。
「母ちゃん、おはよう」
「おはよう、ラムラ。 やっと起きたのね」
女の子の名はラムラ。
大人たちからは小さな島といわれる場所に住む巨人族の女の子。
かつて火の精霊によりシフトたちが転送されたときに出会ったのがこのラムラだ。
シフトたちと別れてから2年近くが経つ。
まだ、幼いとはいえ背は3メートル近くある。
「なんで起こしてくれなかったの?」
「何度か起こしたけど起きなかったのよ」
母親は呆れたようにラムラに話しかけた。
「お腹空いた」
「はいはいすぐに用意するわよ」
「ん?」
ラムラは上空に何か光るのを見つけた。
「母ちゃん、あれ何?」
ラムラが上空を指さすと母親はその方向を見る。
「あら何か光っているわね」
その光る何かがサイクロプスと巨人族の境界線である巨大な溝のところ辺りに下りた。
ラムラは御飯よりも先ほどの光っているものに好奇心を駆られる。
「母ちゃん、ちょっと見てくる」
それだけいうとラムラは駆け出した。
「え? ちょっとラムラ! どこ行くのよ! 戻ってきなさい!!」
母親は慌ててラムラを捕まえようとするが、すでに離れた場所に移動していた。
ラムラは走って光が下りた場所に到着する。
そこではとんでもないことが起きていた。
全身金属でできた蜘蛛がサイクロプスと巨人族を襲っていたのだ。
蜘蛛ロボットは標的をラムラの父親に定めて足で攻撃する。
父親は避けきれずに攻撃を受けてしまう。
「ぐわぁっ!!」
「父ちゃん!!」
父親は痛みを堪えながらも声のしたほうを見る。
そこには娘であるラムラがいた。
「ラムラ! 逃げろ!!」
蜘蛛ロボットは父親を無視してラムラのほうへと歩いていく。
「あああ・・・」
ラムラは突然のことに足が竦んで動けない。
蜘蛛ロボットはラムラのところまで行くと前足をゆっくり上げて狙いを定める。
「ラムラアアアアアァーーーーーッ!!」
ラムラは目をギュッと閉じてしまう。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
突然何かがぶつかった音がする。
ラムラは恐る恐る目を開ける。
そこには巨大な棍棒を持って立っているサイクロプスの長老ギガンティーがいた。
「やれやれ、間に合ったようだな。 大丈夫か?」
ギガンティーが誰を指していったのかわからなかったので、ラムラは自分を指さしてみる。
「ああ、お前だよ。 まったく、こんなところで子供1人で歩いてくるもんじゃねぇ」
言葉とは裏腹に優しい手つきでラムラの頭を撫でる。
「危ねぇから下がってな」
それからはサイクロプスと巨人族の男衆が巨大な棍棒で蜘蛛ロボットを徹底的に殴った。
先ほどの攻撃が効いているのか蜘蛛ロボットは成すがままにやられている。
しばらくすると腹や足が砕かれてボロボロになりそのまま倒れると二度と起き上がることはなかった。
「おい! 大丈夫か?」
ラムラは声をしたほうを見ると父親が傷を負ったところを抑えて青い顔をしていた。
「父ちゃん!」
我に返ったラムラは急いで父親のところに走っていく。
「・・・ラムラ、無事だったか」
父親の質問にラムラは頷く。
「・・・良かった」
「だれか【回復魔法】を使える者はいないか!」
ギガンティーが大声で叫ぶがこの中にはいなかった。
「おい! しっかりしろ! 今【回復魔法】を使える者を呼ぶからな!」
「父ちゃん! 死んじゃやだ!」
ラムラは無意識に魔力を籠めるといつものキラキラを発動した。
すると父親の傷が塞がっていく。
「これは! 【回復魔法】じゃねぇか!」
ラムラはユールから教わった【回復魔法】を使ったのだ。
父親の傷が塞がり顔色もよくなった。
「ラムラ! なんでこんな無茶なことを!」
「ごめんなさい・・・」
「本来なら叱るところだが、ラムラがいてくれて助かった。 ありがとう」
「うん!!」
父親に頭を撫でられるとラムラは笑顔で応えた。