371.破壊兵器の襲撃 王国内・辺境伯戦
シフトが蜘蛛ロボットを撃破した頃、世界中に散らばった蜘蛛ロボットが多くの人々を襲った。
ヘルザード辺境伯領───
「みんな、今日も1日頑張りましょう」
「「「「「「「「「おおー!!」」」」」」」」」
リーダーの女性が声をかけると残りの女性たちが気合を入れるように声を出す。
彼女たちはシフトたちの手によって盗賊から助けられた者たちだ。
当時は厳しい生活を送っていたが、堅実に実績を積み重ねた結果今ではBランク冒険者まで成長した。
今ではそれぞれ立派な武器を携え、首都ベルートでは有名な冒険者パーティーとして活躍している。
今日もいつも通り冒険者ギルドで依頼を受けようとすると都市の外が騒がしかった。
「外が騒がしいわね。 何かしら?」
「モンスターだ!!」
「みんな! 逃げろ!!」
それを聞いた彼女たちは急いで都市の外に向かう。
そこには全身金属でできた蜘蛛型のロボットがドラゴン2匹と戦っていた。
「何あれ?」
「金属の蜘蛛?」
「気持ち悪い」
彼女たちは武器を構えるとドラゴンを加勢しに行く。
到着すると蜘蛛ロボットへ攻撃を開始する。
有名な彼女たちが戦い始めると周りでは応援する声が聞こえてきた。
いつも通り連携して攻撃するもその金属ボディには傷一つついていない。
「リーダー! あの蜘蛛めちゃくちゃ硬いわよ!!」
「どうする?」
「どうしようか・・・」
そこに1匹のドラゴンが蜘蛛ロボットを頭から押さえつけた。
メキメキメキ・・・
蜘蛛ロボットからはドラゴンの重量に耐え切れずに身体が軋む音がする。
このまま圧し潰そうとするがそこでドラゴンが浮いた。
「え?!」
「嘘?!」
「浮いてる?!」
そのままドラゴンは上空へ浮き続けた。
蜘蛛ロボットが追い打ちをかけようと光弾を放とうとする。
その直後に火が飛んできて、発射直後の光弾にぶつかるとその場で大爆発が起きた。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
彼女たちの1人が牽制しようと【火魔法】で火を放ったのが偶然にも発射直後の光弾にぶつかったのだ。
「あ、当たっちゃった・・・」
爆風が収まると蜘蛛ロボットは立っていたが、しばらくすると倒れて動かなくなった。
蜘蛛ロボットは自分が放ったあまりにも強力な攻撃を自分で受けてしまい、ボディが耐えきれなかったようだ。
とりあえず確認するとオリハルコンでできた頭や身体全体にたくさんの罅が入っている。
試しに突いてみると罅が全身に一挙に広がり粉々に砕け散った。
運良く倒してしまったようだ。
「あ! レベルが上がった!!」
「私も」
「わたしも」
彼女たちはレベルが上がったことを喜んでいる。
それから蜘蛛ロボットの金属を見た。
「ねぇねぇ、この金属売れるわよね?」
「そうね。 珍しい金属だし買い取ってもらえるはずよ」
「みんな、これを持って冒険者ギルドへ行きましょう」
「「「「「「「「「おおー!!」」」」」」」」」
そして、蜘蛛ロボットの金属をすべて回収するとそのまま冒険者ギルドで買取してもらった。
モオウォーク辺境伯領───
首都モウスに突然鐘が鳴り響く。
「何事だ!」
ギューベとクーリアが何かあったのかと身構えるとそこに衛兵がやってきた。
「ギューベ様! 大変です! 全身金属でできた蜘蛛が都市を襲ってきています!!」
「なんだと!!」
「状況を教えてください」
「ただいま都市外にてドラゴン2匹と交戦中! 状況は芳しくありません!!」
状況が悪いと聞かされるとクーリアはすぐにシフトからもらった龍鱗の剣を携帯する。
「クーリア!!」
「すぐに向かいます」
クーリアはギューベに一礼すると場所を確認してすぐに都市外に向かった。
都市外に到着するとドラゴン2匹が蜘蛛ロボットに悪戦苦闘している。
「助太刀します!」
『助かる!』
『正直きつかった・・・』
クーリアは鞘から龍鱗の剣を抜刀すると蜘蛛ロボットに駆け寄る。
蜘蛛ロボットはクーリアの武器を見て警戒したのか、距離があるうちに光弾を放ってきた。
「!!」
クーリアは自らの能力で透明化した。
光弾はクーリアがいた位置を擦り抜けて明後日の方向へと飛んでいく。
『??』
蜘蛛ロボットは突然消えたクーリアに驚くと周りを警戒するように見て回る。
「どこを見ているのですか? 私はここですよ」
クーリアが姿を現した場所、それは蜘蛛ロボットの腹のところだった。
「せいっ!!」
クーリアは龍鱗の剣で蜘蛛ロボットの腹を勢いよく突く。
バキッ!!
龍鱗の剣は腹を貫通して背中に刃が出ていた。
「はぁっ!!」
クーリアはそのまま勢いに任せて上段切りのように腕を動かした。
バキンッ!!
蜘蛛ロボットの腹の8割ほど掻っ捌いた。
これによりバランスを維持できなくなったのかパキッテのように折れて崩れる。
クーリアは巻き込まれないように再び透明化してその場を離脱した。
蜘蛛ロボットは手足をバタバタ動かすが、体勢を立て直すにも身体の半分を失ったのでうまく動けない。
「止めです!!」
クーリアは龍鱗の剣で蜘蛛ロボットの頭を突いた。
バキンッ!!
『!!』
蜘蛛ロボットは頭部にいるクーリアを倒そうとその足を1000本にして襲ってきた。
「きゃぁっ!!」
クーリアは急いで透明化する。
その直後、蜘蛛ロボットは自らの身体を貫く攻撃を1000回食らった。
バキッ!! バキッ!! バキッ!! バキッ!! バキッ!! バキッ!! バキッ!! ・・・
これにより蜘蛛ロボットの頭は粉々に砕かれた。
少し離れたところにクーリアが姿を現す。
「ふぅ・・・危なかったです・・・もし、シフトさんに潜在能力を引き出してもらっていなければどうなっていたことやら・・・」
クーリアはシフトの助力により姿だけを透明にするから存在を一時的に消すことができるようになった。
今までは透明化していても物にぶつからないように行動しなければならなかったが、存在を一時的に消すことで先ほどの光弾や足の攻撃を回避することが可能だ。
クーリアは部下たちに蜘蛛ロボットの金属片を回収するように命じてギューベに報告しに行くのであった。
デューゼレル辺境伯領───
「!!」
モターの仕事を手伝っていたメーズサンが突然動きを止める。
「メーズサン? どうした?」
「モター様、敵が来ます!!」
「何?!」
メーズサンの予知が見せる光景、それは全身金属でできた蜘蛛が都市外に出現して暴れるものだった。
それを聞いたモターが驚きの声を上げる。
「モター様、私は敵を討ちに行ってきます」
「わかった。 気をつけろ」
メーズサンはシフトからもらった龍鱗の剣を手に持つと部屋を出て行った。
しばらくして首都テーレに鐘の音が鳴る。
「どうやらメーズサンの予知は当たっていたようだな」
モターは襲ってきた敵をメーズサンに任せることにした。
一方、都市外に到着したメーズサンは蜘蛛ロボットを見ると龍鱗の剣を鞘から抜いて構える。
「せっかく来てくれたところ悪いけどすぐに終わらせる」
メーズサンは蜘蛛ロボットに向かって走り始めた。
するとすぐに奇妙な動きをする。
そこに蜘蛛ロボットの光弾が飛んできて見事に躱す。
メーズサンは予知により蜘蛛ロボットが光弾を放つ未来を見ていた。
直前でとった奇妙な行動は光弾を躱すための動作だ。
メーズサンは蜘蛛ロボットのところまで一気に攻め込むと横薙ぎに斬ってその場を離脱する。
その直後に蜘蛛ロボットは1000本の足でメーズサンが先ほどいた場所を無意味に攻撃していた。
「無駄よ。 あなたの攻撃は手に取るようにわかる」
メーズサンは動きを止めた蜘蛛ロボットの側面から足を斬りおとしていく。
バキンッ!! バキンッ!! バキンッ!! ・・・
突然バランスを崩す蜘蛛ロボット。
メーズサンは今がチャンスとボディをどんどん斬り刻む。
蜘蛛ロボットは成すがままにやられるのであった。
オリハルコンの塊とかした蜘蛛ロボットをメーズサンは見つめる。
「うん、問題ない。 それにしても未来の私はすごく努力したようですね」
潜在能力を引き出されたメーズサンだが、ただ未来を見るだけでなくほんの少しだけ改変するができるようになった。
これにより即死を免れることも可能だ。
「さてと・・・このオリハルコンは売ればお金になります。 デューゼレルの発展に使わせていただきます」
メーズサンは懐から笛を取り出すと鳴らした。
しばらく待っていると衛兵たちがやってくる。
メーズサンは部下たちとともに蜘蛛ロボットの金属を回収すると領主の館に戻っていった。
パーナップ辺境伯領───
「おいおい、モーナちゃん。 そりゃないだろ?」
「ナンゴー様、ごめんなさい」
そういうとウェイトレスはその場を後にする。
「だあああああぁーーーーーっ!! 今日も盛大に振られたぜぇっ!!」
ナンゴーはテーブルの上に俯せになる。
「主、はしたないですよ」
「うるせぇっ! アルデーツ!! 今俺のガラスのハートは粉々に砕けているんだからほっといてくれっ!!」
ナンゴーを窘めるアルデーツ。
パーナップ名物の1つであり、ほぼ毎日のように見られるイベントだ。
「まったく・・・これだから主は・・・」
「あー、もうわかった。 さっさと館に戻るぞ」
アルデーツの愚痴を聞きたくないナンゴーは立ち上がる。
「仕事もたくさん残っていますからね」
「ぐぅっ! 余計なことを思い出させるなよっ!」
ナンゴーは支払いを済ませるとアルデーツを連れて喫茶店をあとにした。
「それにしても平和だな」
「平和が一番かと・・・ん?」
「どうした?」
「何か蜘蛛のようなものが突然この都市の外に現れました」
アルデーツの声のトーンを聞いてナンゴーは目を細める。
「敵か? なら潰せ」
「了解しました」
ナンゴーは冷徹に命令する。
アルデーツはその場で弓矢を構え、全身金属でできた蜘蛛に狙いをつけてから矢を放った。
ヒュン!!
視覚外からの一撃。
カン!!
しかし、その一撃は蜘蛛ロボットには当たりこそすれダメージを受けることはなかった。
「厄介ですね」
「どうした?」
「どうやら特殊な金属で覆われた蜘蛛型のモンスターです。 ならばあれを使うことにしましょう」
アルデーツはシフトからもらった鏃が龍鱗でできた矢を複数取り出すと構える。
狙いを澄まして一斉に矢を放つ。
ヒュン!! ヒュン!! ヒュン!! ヒュン!! ・・・
龍鱗の矢が蜘蛛ロボットに向けて飛んでいく。
バキンッ!! バキンッ!! バキンッ!! バキンッ!! ・・・
アルデーツの放った矢は見事に蜘蛛ロボットの基節、転節、膝節を破壊していった。
さらに龍鱗の矢を取り出して放つ。
放たれた矢は蜘蛛ロボットの頭部に全弾命中し破壊する。
「主、終わりました」
「おう、それなら見に行こうか」
アルデーツの案内でナンゴーは蜘蛛ロボットのところまで向かった。
ナンゴーは衛兵を何名か引き連れて都市外に辿り着くと蜘蛛ロボットだった残骸が見つかる。
「アルデーツ、こいつか?」
「はい」
「おうおう、見事に関節を破壊して頭まで射貫くとはな」
「これもシフトが私の潜在的能力を引き出してくれたおかげだな」
潜在能力を引き出されたアルデーツの鷹の眼は今まで以上に広範囲で細かい部分まで把握できるようになった。
ナンゴーは蜘蛛ロボットを観察すると材質に気付く。
「ふーん、よく見りゃこれオリハルコンじゃねぇか? おいおい、こんな頑強なものよく作ったな・・・」
「どうりで鉄でできた鏃が通らないわけです」
「それにしてもオリハルコンか・・・財政の資金にはちょうどいいな」
「では持ち帰りましょう」
アルデーツは龍鱗の矢を回収し、ナンゴーは衛兵たちに蜘蛛ロボットの残骸を回収するように命令した。