370.新たなる脅威
シフトは吹っ飛ばされたフライハイトのところまで歩いていく。
「勝負ありだな」
「・・・ま、まだだ・・・まだ負けていない!!」
フライハイトは自らに鼓舞すると立ち上がろうとしていた。
だが、身体は悲鳴を上げてそれを拒否する。
「止せ。 それ以上無理をすれば本当に死に繋がるぞ」
「元々死んだ身だ。 命など惜しくもない」
「・・・そうか・・・ならば」
シフトは右手で拳を作ると殴る体勢に入る。
(ブリヘイド・・・リベルタ・・・シアーシャ・・・エレフセリア・・・みんな、今そっちに行くよ)
フライハイトは目を閉じてシフトの拳を無防備に受ける覚悟をする。
シフトは拳を放った。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
放たれた拳はフライハイトの顔面から少し左に離れたところを突いた。
フライハイトは目を開けて質問する。
「何のつもりだ?」
シフトはフライハイトから離れる。
「・・・ん? 何か幻聴が聞こえたかな? これで『この手に自由を』との関係も今ので終わりだ。 あとはライサンダーたちとの因縁を絶つだけだ」
まるで独り言のようにわざと声を出す。
フライハイトを一瞥するとシフトはルマたちのほうへと歩いていく。
「みんな、ただいま」
「ご主人様、ご無事で何よりです」
「勝った」
「ああ、見事な勝利だ」
「さすごしゅ~♪」
「戦勝祝いをしませんとね」
戻ってきたシフトにルマたちが抱き着く。
それを遠目で見ていたフライハイトはその光景を昔の自分たちに投影していた。
外の世界など知らない無邪気に遊んでいた時の頃を。
(・・・死にそびれたか・・・ブリヘイド、リベルタ、シアーシャ、エレフセリア・・・まだ、そっちに行けないようだ)
フライハイトは負けたのに心の中は妙に清々しい気持ちになっていた。
この場にいる誰もが気持ちが良い気分をしていたその時、突然何もない空間から全身金属でできた蜘蛛型のロボットが転移してきた。
「何だあれは?!」
逸早く気付いたシフトと蜘蛛ロボットが光弾により攻撃してきたのは同時だった。
「「「「「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」」」」」
迫りくる光弾にルマたちは悲鳴を上げた。
シフトは【次元遮断】を発動するとルマたちを守るように外界から隔離する。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
光弾はシフトの張った結界に触れると爆発した。
「みんな、大丈夫か?」
「ええ、問題ありません」
蜘蛛ロボットは続けざまに光弾を何発も放ってきた。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!! ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!! ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!! ・・・
その度に結界にぶつかるごとに爆発で視界が遮られる。
「ご主人様、あれは一体何でしょう?」
「わからない。 あんなの見たことがない」
蜘蛛ロボットは光弾を放つのを止める。
視界が晴れるとシフトたちが健在であることを確認した。
光弾が効かないと判断した蜘蛛ロボットはシフトたちのほうへと歩いて近づいてくる。
「なんだか知らないがあれは危険だ。 僕があれをやっつけるからルマたちは自分の身を守れ」
「「「「「畏まりました、ご主人様!!」」」」」
シフトは結界を解いて龍鱗のナイフを構えると蜘蛛ロボットへと突進する。
蜘蛛ロボットはシフトの突進に合わせて最前にある足2本を高く持ち上げると振り下ろしてきた。
ガキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
片方の足をナイフで受け取めるが、もう1本の足がシフトに迫る。
ガンッ!!
シフトは空いている手で力任せに殴って足の軌道を変えた。
ザクッ!!
もう1本の足は地面深くに刺さる。
シフトは近くで蜘蛛ロボットを見て驚いた。
(こいつ・・・全身がオリハルコンだと? どうりで殴っても折れないわけだ)
先ほど足を殴ったときは加減していた。
シフトの常人離れした腕力だと全力で殴った場合、吹っ飛んでやりすぎるからだ。
蜘蛛ロボットから声が聞こえてきた。
『ニンゲン・・・コロセ・・・』
「なんだ? 人間? 殺せ? こいつもしかして人を根絶やしに来たのか?」
シフトが蜘蛛ロボットから離れる。
すると蜘蛛ロボットが急に殺意がある言葉を口にした。
『オレンジガミ・・・ニンゲン・・・コロス・・・』
「ん? オレンジ髪?」
蜘蛛ロボットの言葉にシフトは自分の髪の色を思い出す。
シフトは【偽装】で髪の色をオレンジ色に変えている。
「オレンジ髪って・・・僕のこと? 悪いけど初対面で恨まれるようなことはしてないんだけど・・・」
蜘蛛ロボットはその足を1000本にして襲ってきた。
「!!」
シフトは襲いくる蜘蛛ロボットの足を全力で殴って捌く。
ザクッ!! ザクッ!! ザクッ!! ザクッ!! ザクッ!! ザクッ!! ザクッ!! ・・・
シフトの周りの地面に次々と穴ができる。
それを見たルマたちの顔が蒼褪めた。
「ご主人様!!」
ルマたちはシフトを助けようと動き出す。
「来るな! 巻き込まれるぞ!!」
半分ほど捌いたところで急に身体が重くなる。
「ぐぅ! 重いっ!!」
加重された空間でシフトは残りの攻撃をすべて捌いた。
その場を一旦引くとシフトは改めて蜘蛛ロボットを見る。
「1000の攻撃、金属ボディ、空間転移、それに重力を使うだと? こいつ・・・まさか?!」
シフトは1ヵ月前の王都襲撃を思い出す。
キウンの【一騎当千】、メタムの【金属魔法】、スパッジャの【空間魔法】、グラッビィの【重力魔法】。
シフトに戦いを挑んだ魔族たちの能力だ。
「まさかレザクが生きていてあの5人の魂をこの蜘蛛に宿したのか?」
クロイスの魂が含まれていないことを除けばほぼ正解だ。
「厄介なものを作ってくれたな」
生半可な攻撃では倒せないと直感したシフトは全速力で蜘蛛ロボットに突進する。
あまりの速さに回避不可能と判断した蜘蛛ロボットが【空間魔法】で転移した。
目の前から突然姿を消えたことによりシフトはすぐに周りを確認する。
空を見上げると遥か上空に転移した蜘蛛ロボットを発見した。
「逃がすか!!」
シフトは【念動力】を発動すると近くに放置してあった氷の塊を蜘蛛ロボットに向けて飛ばした。
蜘蛛ロボットは【重力魔法】を発動して氷の塊を落下させようとする。
空中に浮かんだ氷の塊がシフトの【念動力】と蜘蛛ロボットの【重力魔法】のぶつかり合いにより上昇・下降を繰り返す。
「んんん・・・」
『・・・』
このまま永遠に続くかにみえたが、以外にも早く決着がついた。
蜘蛛ロボットの魔力が先に尽きたのだ。
『!!』
出力に撃ち負けた蜘蛛ロボットは氷の塊をまともに食らい落下する。
ドオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
『・・・』
オリハルコンでできたボディだけありそう簡単には壊れない。
立ち上がろうとする蜘蛛ロボットだが・・・
バキッ!!
蜘蛛ロボットの足が何本か折れてバランスを崩した。
どうやら地面に激突した際に関節部分である基節、転節、膝節辺りに負荷がかかったのだろう。
いくら頑強なボディでも関節部分は脆かったようだ。
「これで終わりだ!!」
シフトは蜘蛛ロボットの頭や身体を龍鱗のナイフで斬っていく。
蜘蛛ロボットはその姿を鉄塊、もといオリハルコンの塊へと変えていった。
「ふぅ・・・これだけ派手に壊せば問題ないだろう」
バラバラになった蜘蛛ロボットを見てシフトは問題ないと判断するとルマたちのほうへと歩いていく。
『・・・』
だが、蜘蛛ロボットは最後の力でシフトに向けて光弾を放とうとした。
「ご主人様! 危ない!!」
ルマの声にシフトが振り向くのと蜘蛛ロボットが光弾を放ったのは同時だった。
しかし、蜘蛛ロボットがバランスを崩したことでその光弾は明後日の方向に放たれる。
光弾の先にいたのは未だに倒れているフライハイトだ。
「!!」
「フライハイト!!」
シフトが【時間操作】で時を止めようとするよりも早く光弾がフライハイトの手前に着弾する。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
爆発とともに大量の砂煙が舞い爆風がシフトたちを襲う。
「「「「「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」」」」」
少し離れたところからルマたちの悲鳴が聞こえてくる。
「くぅっ、みんなっ!!」
シフトはすぐにルマたちを見るが爆心地よりかなり離れているので皆無事である。
やがて爆風が収まり、砂煙が消えると地面には小さいクレーターができていた。
その近くにはフライハイトが使っていたオリハルコンのナイフがあるだけだ。
「フライハイト! どこにいる! フライハイト!!」
シフトは周りにフライハイトがいないか確認するが姿どころか肉片すら見つからない。
「・・・フライハイト」
何度も迷惑をかけられて決して仲が良かったわけではない。
それでもほかの『この手に自由を』の構成員たちとは違うものをシフトは感じていた。
感傷に浸りたいところだが蜘蛛ロボットがまた何かしてくるのではないかとそちらを見る。
蜘蛛ロボットは先ほどの光弾を放ったのを最後に動きを止めていた。